「戸田記念国際平和研究所・
気候変動、紛争、平和に関する太平洋宣言」
2019年7月29日発表
説明
2018年、戸田記念国際平和研究所とニュージーランド・オタゴ大学国立平和紛争研究センターは、「太平洋における気候変動と紛争――予防・管理・地域レジリエンスの強化」をテーマにした研究会議をニュージーランドのオークランドで行った。1
「戸田記念国際平和研究所・気候変動、紛争、平和に関する太平洋宣言」は、この研究会議での議論や成果から生じたものである。
前文
太平洋は最も気候変動の著しい場所であり、太平洋島嶼国(Pacific Island Countries, PIC)は特に気候変動の影響に脆弱であると認識し、
地上および海洋の生態系、地域社会の生活は、文化、食糧、土地、水、健康に対する脅威等の気候変動に起因する脅威に晒されており、それらは差し迫った状況のもと悪化していると認識し、
太平洋全域で、地域社会全体の移住が以前よりも頻繁に発生していることに見られるように、気候変動の影響が国内や国外への移住という結果につながっていることを認識し、
気候変動による差し迫った状況が既存の脆弱性と重なった場合、紛争や暴力的な衝突行動の原因となることがあり、それが国および地域の平和、人間の安全保障、安定を脅かしていると認識し、
太平洋地域は紛争を招きやすい気候変動の影響に対して脆弱であるにも関わらず、気候変動と安全保障の関連性をめぐる国際的な議論の場において、太平洋島嶼国には世界の他の地域に比べて関心が払われてこなかったことを懸念し、
太平洋地域は、気候変動、紛争、平和に関する政策や戦略の策定ならびに実施を促すために、政策志向の研究と根拠にもとづく政策助言を至急に必要としていることを確信し、
我々は以下を宣言する。
研究結果、原則および指針
-
気候変動への適応緩和策は、最良の現代的手法と伝統的手法を組み合わせた画期的かつ柔軟な共同管理のアプローチにもとづく総合的な土台を必要とする。
これには以下の特質を含む。
様々な社会領域のステークホルダーが持つ知識や活動を統合する。この様々な社会領域には、地域社会、国や地方の公的機関、伝統的な慣習の代表(酋長、長老、その他の文化や知恵の保護者)、宗教のコミュニティ(教会等)、市民社会団体(NGO等)などが含まれる。
気候変動適応策には、太平洋の多種多様かつ重要な文化的・宗教的背景を取り入れる。
伝統的な生態系に対する知識と気候科学を合わせて用いる。
気候に関する国際法制度と、各国の法律や伝統的慣習にもとづく法律を関連付ける。
地域レベルから国際レベルまでのすべての気候変動統治の取り組みを連携させる。
異なる世界観を持った様々な統治レベル、社会領域、地域社会を代表するステークホルダーを結集することができる橋渡し機関を支援する。市民社会団体や、特に太平洋島嶼国においては教会等の宗教コミュニティや宗教団体、教育機関および・または現代社会と伝統的社会の両方に精通した指導者のネットワークがそのような橋渡し機関になり得る。
-
太平洋全域において気候変動に起因する紛争が激化するかもしれないという現実的なリスクがある。このリスクには、土地や希少な天然資源をめぐる紛争、気候変動によって移住を余儀なくされたことによる紛争、サイクロンや洪水といった極端な気候現象の後に起きる紛争、および不十分な環境管理または計画や実施が適切に行われていない気候変動政策や適応緩和策から生じる紛争が含まれる。気候変動の影響にその地域のもつ脆弱性や人口圧力、急速な都市化といったその他の要因が加わると、紛争および暴力的紛争の激化や日常における暴力(特に性に関連する暴力)の起きる可能性が高くなる。そのため気候変動への適応策には、紛争を予防し地域の事情や平和維持を優先する紛争に配慮したアプローチが必要となる。
これには以下が含まれる。
地域、国家、国際社会の主な脆弱性を特定し、軽減する。そのような脆弱性は、気候変動の影響と重なった場合、社会や地域社会の平和と安全を脅かすものとなる。この脅威には、国家の統治に対する脅威から日常生活における暴力(特に女性や子供に対する暴力)などが含まれる。
総合的な人間の経済、社会、政治、文化などの側面や自然体系の複雑性に留意した研究を優先する。
これまで広く無視され、あるいは過小評価されてきた気候変動と紛争の関連性に関わる様々な側面を取り入れる。例えば、文化・宗教的側面、ジェンダー、伝統的慣習法・知識、および現代における民族固有の知識や方法を使った、気候変動への適応や紛争転換・平和構築などである。
(意図しないにもかかわらず)紛争を起こりやすくする緩和適応策に注意をする。(例えば、地域社会の立ち退きが必要となる森林再生プロジェクト)
特定の事情に合わせた紛争分析・研修ツールを開発し、交流を通じてお互いから学ぶ。
気候変動と関連した紛争事例を記録し、紛争予防および解決への教訓を得る。(例えば、気候変動によって誘発された強制移住の結果起きた紛争や、資源が不足した際に増加することもある女性に対する暴力等)
紛争に配慮した気候変動適応策の策定に不可欠である、地域での対話に力点を置く。
-
気候変動の影響により地域社会全体が再定住を必要とする場合もある(例えば、村落やインフラの高台への移転)。この過程には紛争に配慮した計画が必要となり、影響を受けた地域社会が最初の段階から関わる必要がある。
これには以下が含まれる。
太平洋の人々と土地との不可分な関係を理解する(太平洋では、「土地」は、ヴァヌア、フェヌア、ファヌア、アイナ、ウェヌア、エヌア、フォヌア、テ・アバなどの言葉で表される)。人々と土地のつながりは、根源的、文化的、精神的にアイデンティティと関連しており、土地を失うことは文化的アイデンティティを失うことを意味する。この世界観は気候変動問題の対策の中に組み込まれる必要がある。
人々が故郷の土地にとどまり、その土地を可能な限り気候変動の影響に適応させたいと望んでいることを尊重する。そして、他に選択肢がなくなった場合には移住を計画する必要があることについても尊重する。
再定住しなければならない人々と受け入れる地域社会ならびにその他の関係する社会団体やステークホルダーのニーズ、関心、希望を組み込む。
再定住しなければならない人々と受け入れる地域社会の双方が、すべての当事者との対話を基本とした再定住プロセスの各段階に有意義にまた十分に参加できるようにする。
-
気候変動に関する議論では通常扱われない、太平洋の人々の生活と文化に欠くことのできない特質がある。その特質とは、感情、精神的なつながり、伝統的な法律・知識・活動、信仰、ジェンダー、関係性、人間というものを超えた世界などであるが、こういった側面は紛争の予防や平和維持に著しく関係している。
このような特質に配慮したアプローチには以下が含まれる。
気候変動への対応には、様々な異なる世界観を取り入れる。
太平洋島嶼国全体の地域社会や自然に対する気候変動の影響には不公平が内在していることを強調し、また太平洋島嶼国による温室効果ガスの排出はごく少量であるにも関わらず、その国々は気候変動によるマイナスの影響の受けていることを認識する。
人間を自然から分離させる、人間中心のアプローチを克服する。
人間とその他の生物のつながりや有形と無形の世界のつながりを深める、関係性(relationality)という考え方を育む。
太平洋地域の世界観、知識体系、精神性への関与と共有、および西洋と太平洋の考え方の融合を通して異文化間対話を育む。
将来世代の存続可能かつ平和な惑星に住む権利を認める。
持続可能な生態系の保護を通して自然の権利を認める。それが存続可能かつ平和な惑星を支えることになる。
伝統的および地域固有の知識を含む教育が、紛争に配慮した適応策を行うためには不可欠であることを重視する。
教会や宗教的コミュニティには太平洋地域全体で影響力を持つ市民団体としての役割と責任があり、気候変動と紛争に関してはそれらに(実際のおよび潜在的な)指導的役割があることを認識する。
国際的な気候に関する法律を強化し、その法律の法的強制力と太平洋島嶼国のような脆弱国を保護する能力を確保する。
宗教団体などの市民社会アクターが、国や地方が行っている気候変動の負の影響に対処するための政治的努力を補強し実現に向けての支援をしている方法に注目する。
多大な問題を生じさせ太平洋島嶼国の人々に困難をもたらしている温室効果ガスの排出に責任を持つアクターの責任を問い、排出量の大幅な削減とそのような排出削減への意味のある目標の設定と達成を強く求める。
我々・私はこの宣言を支持する。
1 この研究会議では、学者、政策立案者、平和構築実践者、市民社会アクターが一堂に会し、太平洋における気候変動の不確実性がもたらす課題と潜在的な紛争の関係を話し合った。会議の中で、今後の活動の開始および連携のために「オークランド気候変動、紛争、平和研究および政策ネットワーク」が立ち上げられた。
宣言に賛同し、署名をする* お1人当たり1回のみの署名となるようメールアドレスを頂いております。
入力されたアドレスは他の目的には使用致しません。