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ケビン・クレメンツ所長がIPRA 2025で基調講演

2025年11月06日 - ニュース

戸田記念国際平和研究所のケビン・P・クレメンツ所長は、2025年11月5日、ニュージーランドでパリハカ記念日とされる日に、国際平和研究学会(IPRA)総会に出席し基調講演を行いました。会議は、ニュージーランド・タラナキ地方のパリハカとニュープリマスで開催されました。以下に、基調講演の全文を紹介します。 「亀裂の入った世界で、平和を再構想する」 ケビン・P・クレメンツ IPRA 2025 (国際平和研究学会全体会議)での基調講演 2025年11月5日、パリハカ記念日  エ・ンガー・マナ、エ・ンガー・レオ、エ・ンガー・イウィ・オ・テ・アオ。テーナー・コウトウ、テーナー・コウトウ、テーナー・コウトウ・カトア(E ngā mana, e ngā reo, e ngā iwi o te ao . Tēnā koutou, tēnā koutou, tēnā koutou katoa)。全ての皆様、言葉と土地とともに生きてきた全ての人々に、ご挨拶申し上げます。  山と川に恵まれたこの土地へようこそ。非核政策とテ・ティリティ(ワイタンギ条約)のおかげで、ここには人々と土地との間に生きた平和の約束が存在しています。あるいは存在するはずです。過去40年にわたるワイタンギ条約再解釈の取り組みと、1980年代の非核政策のおかげで、ここでは平和は抽象的な概念ではありません。私たちの文化と存在そのものの中に体現されています。核兵器を持たず、軍事同盟を結ばないことを私たちは望み、テ・ティリティで保証されたパートナーシップが正しく評価されることを望んでいます。しかし、今、この平和の約束は脅威にさらされています。条約を尊重するこれまでの前向きな決定を、現政権が覆そうとしているからです。また、国防大臣と外務大臣が、米国との軍事関係をより密接にする方向にわが国を進めようとしており、ひいてはわが国の非核の地位を危うくし、脅威にさらされています。  今日は、タラナキ・イウィ(タラナキ部族)にとって非常に神聖な日です。144年前の1881年に、マオリの平和なパリハカ集落が植民地軍に侵攻された出来事を追悼する日だからです。この日は、集落のリーダー、テ・ウィティ・オ・ロンゴマイ(Te Whiti o Rongomai)とトフ・カーカヒ(Tohu Kākahi)が掲げた平和的抵抗の原則を思い出す日でもあります。パリハカの抵抗は、植民地支配に非暴力で立ち向かった最初の事例の一つといえるでしょう。また、私の古い友人であり、パリハカで暮らし、平和と非暴力の偉大な擁護者であったマアタ・ファレオカ(Maata Whareoka)を、今日この場で思い起こしたいと思います。  このような場面でマオリが祖先を称えるのと同じように、私も、IPRAの先人たちと彼らが平和研究分野の礎を築くために尽力した全てに敬意を表したいと思います。バート・ローリング(初代事務局長)、ヨハン・ガルトゥング、エリース・ボールディング(とそのWILPF=婦人国際平和自由連盟=の同僚たち)、ケネス・ボールディング、そしてジョン・バートン。この5人は、卓越した研究者であり、実践家であり、ネットワーク作りと組織作りの達人でした。彼らが最初のIPRA総会を立ち上げました。また、私にとっては身近な指導者でした。私たちは、彼らの理論と経験という蓄積の上に立っているのです。  後に、アダム・カール、アスビョルン・エイデ、ライモ・ヴァイリネン、チャドウィック・アルジャー、ベティ・リアドン、坂本義和など、多くの人が加わりました。  IPRAの先駆者たちは皆、冷戦を背景としてそれぞれの理論を構築しましたが、すぐに正義なくして平和はあり得ないことを悟りました。そこから、植民地主義、ポスト植民地主義、そして、あらゆる抑圧的関係からの解放としての開発へ強い関心が生まれました。こうした課題に応えるために、IPRAは世界のあらゆる地域を代表する一連の地域組織を設立しました。また、多くの実質的な委員会も設置しました。  80年代と90年代には、グローバル・サウスとグローバル・ノースの間にいかに公正をもたらすかという難題に取り組みました。今回の総会で発表される論文の多くも、引き続きこの難問を取り上げています。なぜなら、それは持続可能な平和にとって極めて重要だからです。同時に、私たちは、直接的な暴力にどのように対処するかという視点も失っていません。  冷戦が終結したとき、旧ソ連圏の独立国家樹立、そして暴力的な内部紛争の多発にどのように対処するかに注目が集まりました。1990年代には、暴力的紛争を管理し変容させる理論やプロセスを構築し、多くの成功例が見られました。しかし、今や成功は暴力的政治への急進的な回帰に取って代わられています。ロシアのウクライナ侵攻は、イスラエルのパレスチナ人大虐殺と並んで最悪の事例となっています。  2024年から2025年にかけて、36カ国で61件の国家間の武力紛争が発生しています。これは、過去70年以上で最も多い数です。ウクライナ、ガザ地区での虐殺、スーダン紛争に注意が向いている間に、他にも多くの暴力的紛争が起こっており、何百万人もの難民、国内避難民、多数の民間人や軍人の犠牲者が生まれています。ミャンマー、エチオピア、コンゴ民主共和国などを考えてみてください。残念ながら、私たちの先人が残した理論的遺産は、2025年の極めて解決困難な紛争を解く力を持たないように見えます。  IPRAとその創設者たちが構築した理論は、過去に効果を発揮しました。なぜなら、(西側に有利な偏った秩序ではあったものの)ルールに基づいたリベラルな国際秩序が存在したからです。この秩序のもとで、その時代の問題に協調的で合理的な解決策を編み出すことが可能でした。地域制度や国際機関が、今日のような攻撃や中傷を受けることはありませんでした。5カ国の常任理事国(P5)が安全保障理事会を支配しているため、国連がその目標を達成することはできませんでしたが、国連は人権や人道に関する取り組みによって尊敬を受けていましたし、厄介な問題にはエビデンスに基づく合理的な解決策が推奨され、適用されていました。  平和研究の先人たちは誰も、トランプ2.0政権がもたらす混沌を想像できなかったでしょう。反社会的で、良心を欠いた傾向を持ち、自己中心性を極端なまでに肥大させた人物が、世界最強の国の支配権を握り、民主的な抑制と均衡を排除し、選挙で選ばれた独裁者になる。そのような事態を、私たちの理論のいかなる要素も予測し得ませんでした。狂気が理性に取って代わり、予測可能なものが予測不可能へと変わるとき、私たちの平和研究の理論と実践も、深刻な試練に直面することになります。  残念ながら、そのような例はトランプだけではなく、世界中の独裁的なポピュリズム運動を勢いづけてきました。彼はまた、強権的な独裁者たちに対して抗しがたい魅力を感じているのです。  2025年のV-Demレポートによれば、現在世界の民主主義国は88カ国、それに対して権威主義国は91カ国存在し、これは20年以上ぶりのことです。自由民主主義は世界で最も少数派の政治体制となり、2024年には全部で29カ国となりました。世界人口の4人に3人近くの72%が、今や権威主義国で暮らしているのです。これは1978年以降で最も高い水準です。  このような権威主義や独裁主義に向かう傾向は、世界中で表現の自由、市民社会組織、そして市民活動に対する容赦ない攻撃がなされていることに起因しています。これが、報道の自由、大学の自由、そして権力に対して真実を語ろうとする世界中の人々に、大きな負の影響を与えています。私は人生の中で、(トランプ自身を筆頭に)これほど多くの政治指導者たちが露骨な嘘をついて出世している時代を思い出すことができません。  これら全てが、世界に対する私たちの理想主義的で合理的な前提、そして非暴力的な問題解決方法に関する前提の多くが頓挫してしまったことを意味しています。私たちは今や、誤情報、偽情報、虚偽がはびこり、不幸にも牙と爪をもつ現実主義と地政学への回帰が進む世界に生きています。私たちは、深い世界的分断と二極化、そして深刻な崩壊の時代に、ここニュープリマスに集まっているのです。  私たちの世界は、戦争と避難民の発生、不平等、生態系の崩壊、周縁化、そして不信によって引き裂かれています。多様性、平等性、包摂性、配慮、思いやりを排除しようとするトランプの願望は、私たちの共通の人間性に対して非常に恐ろしい影響を及ぼしています。ネガティブな権威主義的意見が、対話、コミュニケーション、非暴力的な関係構築を求める声をかき消しています。権力を持つ者にとっても、権力を持たない者にとっても、冷笑主義が安易な逃げ場となっています。  2025年において、平和は手が届かないところにある蜃気楼のごとく揺らめいているようです。絶望を生み出す要因はたくさんあります。平和構築というパズルのさまざまなピースを認識することはできますが、全体像が欠けています。落胆して敗北感を抱くのは容易ですが、今こそ平和研究と平和の実践が最も重要な意味を持つときです。亀裂の入った時代こそ、新たな光が割れ目に差し込み、新たな思考を触発するのです。平和研究の先人たちは、彼らの時代に適した理論と実践を構築することによって時代の状況に対応しました。今、IPRAが立ち向かう課題は、私たちが直面している希望の見えない状況にどう前向きに応えるかということです。構造的で直接的な暴力に対する非暴力的解決を促す新たな方法を見いだすには、私たちの知力を総動員するだけでなく、平和的で倫理的な想像力を駆使することが求められています。  幻滅の時代にこそ、想像力そのものが抵抗の行為になると、私は主張したいと思います。IPRAに多大な貢献をしたエリース・ボールディングは、戦争のない世界を思い描き、想像することを強く信じていました。ですから私たちも、現在の恐怖に基づく政治に代わる現実の選択肢を想像することができると考えましょう。この考え方を一歩進めるなら、恐怖と暴力の時代にそれ以外の非暴力的な方法を思い描こうとする勇気こそ、革命的なものになるといえます。  第1に、平和を再構想するということは、絶望を拒絶することであり、世界的課題に直面しながらも希望と勇気を抱くことです。トランプと彼に連なる人々は、気候変動のような存亡にかかわる課題に直面したとき、人々を麻痺させようとします。私たちは、恐怖と絶望に立ち向かうために希望を必要としているのです。  第2に、平和を遠くにあるユートピアや不安定な停戦と見なすのではなく、私たちが今ここで、どこにいても、正義、共感、思いやり、そして帰属意識を積極的に創造するものと捉えることが極めて重要です。そのためには、思いやりの政治が求められ、また、ミクロ、メゾ、マクロというあらゆるレベルにおいて、平和的な関係構築にいっそう多くの注意を払う必要があります。  平和は、権力者(特に独裁者)によって与えられるものではありません。信頼、真実を語ること、そして個人と社会の変容を通じて、関係性と地域性に根差して育まれるものです。  第3に、平和を再構想するということは、あまりにも長い間無視されてきた全ての声を聞くということです。21世紀の弱肉強食の経済において、生活を成り立たせることすら難しい全ての人々の声に耳を傾ける必要があります。その一方で、女性の平和構築者(彼女たちは私たちの未来です)、土地を守る先住民、失望した若者たち、そして暴力や差し迫った気候災害によって避難を余儀なくされた全ての人々に、特に注意を払う必要があります。  私たちが提起すべき問いは、「彼らが発言権を持つなら、どのような平和が考えられるか?」です。  第4に、もし世界の安全保障が、現実主義者、軍隊、または同盟によってではなく、最も脆弱な人々のウェルビーイングによって定義されるとしたら、何を意味するでしょうか? アオテアロア(ニュージーランド)では、私たちは「テ・ティリティ・オ・ワイタンギ(ワイタンギ条約)」によって絶えず挑戦を受け、啓発されています。この条約は今もなお、この国がパートナーシップ、公正、そして権限の共有のもとに生きることを呼びかけ続けているのです。  第5に、私たちはマオリの考え方から、「ファナウンガタンガ」という深い関係性と帰属意識を学んでいます。これは、平和とは単に戦争がない状態ではなく、人々の間に、土地との間に、未来との間に正しい関係が存在することなのだと思い出させてくれます。そのためには、帰属意識、相互義務、集団的責任の感覚を育む、強固で敬意のある相互的な関係を構築する必要があります。つまり、私たちのウェルビーイングは、ネガティブな関係ではなくポジティブな関係を通して存在するということです。南アフリカの「ウブントゥ」という概念も、同じような、極めて重要な意味を持っています。これは、私たちのウェルビーイングが他者のウェルビーイングと密接に結びついていることを意味します。そしてそれは、連帯、思いやり、敬意、尊厳、そして生き抜く力を意味します。  これこそが平和の本質です。支配ではなく、結び付きです。だからこそ、暴力の文化を平和の文化へと置き換えていかなければなりません。そしてそのために、学校、大学、地域社会において最初に平和を教え始めた頃と同じくらい、今も平和教育が重要なのです。  60年以上にわたり、IPRAは知識と共感が世界を変えると信じる人々の灯台となってきました。  アダム・カールのような創設者たちは、平和研究を変容のツール、すなわち暴力を持続させる構造を解体し、生命を持続させる関係を構築する手段として構想しました。今日、その使命はかつてないほどの緊急性を帯びています。私たちは、学問そのものの役割を、象牙の塔にこもった追求ではなく、心からの配慮と思いやりの行為として再構想しなければなりません。IPRAは常に、単なる学会以上のものであり続けてきました。それは良心の運動であり、暴力を不可避なものとして受け入れず、紛争が必ず支配で終わるとは考えず、平和が権力者の特権であるとは認めない、研究者と実践家による世界的なネットワークなのです。  私たちの取り組みは、脱植民地的であり、ジェンダー平等の視点をもち、包摂的であり、そして生態学的でなければなりません。教え諭すよりも耳を傾けなければならず、客体化や抽象的な経験主義に陥ることなく、困窮している人々に寄り添う必要があります。  私たちの任務は、知識が単に現実を説明するだけでなく、現実を作り変えるようにすることです。  今回の総会は、世界の歴史において非常に重大な局面で開催されています。それは、私たちが平和と権力について当たり前と思っている全てのことを疑い、再考するよう促す招待状でもあります。私たちに必要なのは、次のような視点です。 安全保障を、他者を支配する能力ではなく、私たちに依存する人々、そして私たちが脅威を感じるかもしれない人々にも配慮し、その利益のために尽くすことと捉えること。 権力を、他者に対する支配ではなく、他者と分かち合う力、意思決定に対する共同責任を育むものとして理解すること。 対立を失敗とみなすのではなく、困難や断絶に直面した関係性を、非暴力的に変容させるための機会として捉えること。  私たちは、ジョアンナ・メイシーが「アクティブ・ホープ」と呼ぶもの、自ら行動する希望を育てなければなりません。耳を傾け、癒し、粘り強く持続する希望、そして、悲嘆と決意の両方を、同じ手の中に抱きしめることのできる希望です。  共に過ごす時間を始めるにあたり思い起こしたいのは、平和とは到達点ではなく、愛と共感、勇気、そして想像力を日々実践するプロセスであるということです。  お互いの研究から学ぶだけでなく、お互いの人間性からも学びましょう。  そして、この総会を去る時には、より賢明になるだけでなく、より思いやり深く、より地に足をつけ、より大胆に、より行動する準備ができた私たちでありますように。  ニュージーランドのマオリ詩人、ホネ・トゥファーレは、かつてこう書きました。  「I can hear the sea breathing… I am the wave.(海の息づかいが聞こえる……私は波だ)」  私たちもまた、その波になりましょう。思いやりと創造性、そして勇気の波に。アオテアロアから、亀裂の入った世界のあらゆる片隅へと打ち寄せる、世界的なうねりとなれますように。 ケビン・P・クレメンツ 戸田記念国際平和研究所 所長

2024年ノーベル平和賞への賞賛

2024年10月14日 - ニュース

2024年ノーベル平和賞に関する所長声明 ケビン・P・クレメンツ  戸田記念国際平和研究所は、日本被団協(日本原水爆被害者団体協議会)の2024年ノーベル平和賞受賞をお祝い申し上げます。日本被団協は、広島と長崎の原爆被爆者の団体です。被爆者の方々は、長年にわたり自らの悲惨な体験と苦しみを通して核兵器のない世界を主張し、核兵器の製造、拡散、また使用の全面的な禁止を強く訴えてこられました。  この賞の発表は、およそ21万人もの命を奪った広島と長崎への原爆投下から明年で80年という節目に行われました。  戸田平和研究所は日本にある平和研究センターとして、日本の団体に対して送られたこの賞を歓迎するとともに、核戦争に勝者はなく、決して戦われてはならないという、私たちの共通の目標のために、日本被団協および被爆者の皆さまとともに力を合わせていきたいと思います。  日本被団協は、1954年の太平洋ビキニ環礁水爆実験によって第五福竜丸の乗組員が被爆したことをきかっけとし、原水爆の禁止を目的に1956年に結成されました。  ノルウェー・ノーベル委員会がこの団体に本年の平和賞の授与を決定したことは、誠に正当で適切なことです。広島と長崎で被害にあった被爆者の方々のように、核兵器が市民に対して無差別に使われたことを経験し目撃した個人的な証言を語れる人の存在がどれほど貴重か。それゆえに、核兵器廃絶のために証言を語り続けてこられた方々が表彰されることは、その証言を永遠に継承するためにも大きな価値があるのです。  ロシアなど核兵器保有国がウクライナなどで核兵器を使用すると威嚇し、「核のタブー」を侵し始めています。戸田平和研究所は、日本被団協の皆さまをはじめ、すべての被爆者・被害者の方々と連帯し、核兵器の使用は国際法上違法であり、二度と使われてはならないと常に喚起しながら、核兵器のない世界をめざしてまいります。   Photo credit: shutterstock.com

平和シンポジウム:激動の時代における平和への課題

2024年10月10日 - ニュース

対談 ヘレン・クラーク アオテアロア・ニュージーランド元首相 ケビン・P・クレメンツ 戸田記念国際平和研究所 所長 2024年10月4日    2024年10月4日、ニュージーランド議事堂のバンケット・ホールにおいて、「激動の時代における平和への課題」と題した重要な平和シンポジウムが開催されました。戸田記念国際平和研究所、ニュージーランドSGI他の著名な団体の共催で開かれたこのイベントでは、ヘレン・クラーク氏(ニュージーランド元首相)とケビン・P・クレメンツ教授(戸田記念国際平和研究所所長)による示唆に富む対談が行われました。このイベントは、世界が前例のない社会、経済、政治的な課題に直面し、ウクライナや中東からスーダンまで各地で紛争が勃発している中、これ以上ないほど重要な時期に開催されました。  対談では、最初にこの激動の時代における国連と多国間機構の役割について意見が交わされました。これらの機関はウクライナ、中東、台湾やその他の紛争地域において平和維持のための取り組みを行っています。ヘレン・クラーク氏とケビン・クレメンツ教授は、今日の国際機関の非効率性について深い懸念を共有しました。両氏は平和と安全保障体制を強化するために国連の抜本的な改革が必要だと強調する一方で、近ごろ行われた「未来サミット」で採択された「未来のための協定」のアクション・ポイントについて「漠然としすぎており、実施は非現実的」との意見が述べられました。   核心的な課題としての気候危機  両氏は気候変動の世界的な脅威について強調し、その影響は脆弱なコミュニティーに対してより強く現れることを指摘しました。気候変動が誘発する危機への対処は世代間の協力、とりわけ若者との協力が必要であり、人類が直面する最も差し迫った課題に対して効果的な解決策を見いだすために若者の関与は不可欠である、と両氏は主張しました。  両講演者が特に懸念を示したのは、ニュージーランドが米英豪3カ国の安全保障条約であるAUKUSに参加する可能性についてでした。両氏はニュージーランドの独立した外交政策を擁護し、特定の国々、特に中国を標的とする軍事的同盟に断固として反対しました。クラーク氏とクレメンツ氏は、「恐怖政治」の危険性を警告し、それが分極化を招き、建設的で平和的な未来ビジョンの追求を妨げると主張しました。   世界的な逆境に直面する中で、若者たちが希望を維持するにはどうすればよいかという質問に対し、クレメンツ教授は、故人となった戸田平和研究所の創設者、池田大作氏による力強いメッセージを世界の若者たちに捧げました。   「希望は悲観主義を楽観主義に変える。 希望は無敵である。希望はすべてを変える。 冬を夏に、闇を夜明けに、不毛を創造性に、 苦悩を歓喜に変える。 希望は太陽であり、光であり、情熱です。 希望は、人生が花開くための根源的な力なのです。」    クレメンツ教授は、誰もが希望の源となる潜在的な力を持っていることを強調し、良い変化をもたらす積極的な行動者となるよう参加者に呼びかけました。  このイベントの司会進行は、国会議員のイングリッド・リアリー氏(タイエリ選挙区)が務めました。対談の模様は、戸田平和研究所のYouTubeチャンネルでご覧いただけます。   Photo credit: SGI-NZ

公開政策対話:気候変動と安全保障――太平洋地域から学ぶ

2024年09月06日 - ニュース

戸田記念国際平和研究所とハンブルグ大学平和・安全保障政策研究所が共催 公開政策対話:気候変動と安全保障――太平洋地域から学ぶ 日時:2024年9月17日 午後6時15分~7時45分(現地時間) (日本時間では9月18日午前1時15分~2時45分) 会場:ドイツ・ハンブルク大学  気候変動と安全保障という複雑に関わり合う課題への対応について、われわれは太平洋から何を学ぶことができるでしょうか?この公開政策対話では、太平洋地域と北欧の専門家が一堂に会し、気候変動がさまざまな地域の平和と安全保障にどのような影響を与えているのかについて議論します。太平洋島嶼国を脅かす海面上昇から、北極圏のコミュニティーが経験する環境暴力まで、気候変動が安全保障に与える影響への対応策を検討する上で、現地の視点と先住民の知恵が重要である点に着目します。  地域の不安定性は、欧米の考えや利益を中心とした広範な議論に覆い隠されてしまうことがあまりにも多いのです。例えば、欧米の視点では気候変動の地政学的な影響に焦点が当てられるかもしれませんが、太平洋諸島では海面上昇による土地の消失で、文化遺産が失われることを深く懸念しています。同様に、北極圏では環境の変化により伝統的な生活様式が崩壊しつつあり、地元住民は新たな安全保障上の懸念に直面しています。  こうした状況にも関わらず、太平洋諸島民や地域の先住民コミュニティーは、気候危機の単なる犠牲者ではありません。彼らは気候緩和イニシアチブや気候変動適応の革新的な取り組みを先導する開拓者でもあります。これはライジング・ネイションズ・イニシアチブ(Rising Nations Initiative)やデジタル・ツバルといった取り組みにも表れています。パネルディスカッションではこれらの最近の先駆的取り組みを紹介し、相互の学びと交流の場としていきます。 進行: ハンブルグ大学平和・安全保障政策研究所(IFSH)所長 ウルスラ・シュローダー教授(博士) パネリスト: フィリップ・マウパイ:ドイツ外務省 気候変動地政学・気候・安全保障担当 ウポル・ルマ・バアイ:太平洋神学大学学長、神学・倫理学教授(フィジー) ジャナニ・ビベカーナンダ:Adelphi (ベルリン)気候外交・安全保障プログラム長 セドリック・H・ド・コニング:ノルウェー国際問題研究所(NUPI)研究教授 アンナ・ナウパ:オーストラリア国立大学文化歴史言語学部バヌアツ人博士候補生  この公開政策対話は、戸田記念国際平和研究所とハンブルグ大学平和・安全保障政策研究所(IFSH)が共催するワークショップ「気候変動による損失、紛争と平和:実存的危機への関係性的対応」の一部として行われます。ワークショップについてはこちらをご覧ください。