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気候変動と紛争

気候変動、安全保障と平和構築:あらゆる次元に及ぶ課題と取り組み

2022年10月27日

ウェリントン(ニュージーランド)

 戸田記念国際平和研究所はテヘレンガワカ-ビクトリア大学ウェリントン校、国際移住機関(IOM)との共催により2022年10月27日~28日、ニュージーランド・ウェリントンで気候変動、安全保障、平和構築に関する国際ワークショップを共催しました。このワークショップは、気候変動は 「太平洋の人々の生活、安全、福祉に対する単独で最大の脅威である 」という太平洋諸島フォーラムの2018年ボエ宣言の声明を出発点として、あらゆる次元の様々なステークホルダーによるアプローチの力点と限界、長所と短所について、相互に理解を深めることを目的として開催されました。このワークショップの詳細な会議報告書はフォルカー・ベーゲ上級研究員が執筆しています。

 気候変動の影響はあらゆる次元で人々や社会の平和と安全に対する脅威を生み出します。これらの脅威は農村地域に暮らす人々の日常的な安全を脅かすだけではなく、地域・国際レベルにおける地政学的な安定保障への脅威になり得るのです。海面上昇による沿岸部の村の内陸部への移転や、北極海の温暖化によってもたらされる地政学的変化がその例として挙げることができます。さらにこれらの影響は多くの場合様々な次元において結びついており、ある場所の出来事がその地域や国内外に影響を及ぼすこともあります。また、遠く離れた大国の首都で下された決定が一地域の人々の日常生活に影響を及ぼすこともあります。気候変動は、人間の安全保障から国家の安全保障まで、そして国際秩序の安定から敬虔な宗教的コミュニティーの精神的ニーズまで、様々な次元で平和と安全保障に影響を与えています。

 こうした相互関連性を太平洋地域に焦点をあてて話し合うため、本ワークショップには研究者、実践者、政策立案者が集まり情報共有、交流、対話を行いました。一地域の事例やデータをどのように国や地域、国際的な政策に反映させることができるか、特定のケースの複雑性と標準化されている政策やプログラムの形式をどのように調和させていくか、時間軸や要件が異なる場合はどのように調和させることができるか、これまでの移住の経験から学べる教訓は何か、などの核となる質問を問いかけながら、あらゆる次元や問題領域を越えた協力に向けた課題が議論されました。

 気候変動の影響を受けた地域コミュニティーで活動するNGOの代表は活動の経験を発表。またニュージーランド政府、オーストラリア政府、多国籍組織の政策立案者はそれぞれの政策プログラムを紹介し、研究者は気候変動、安全保障、平和構築の分野における事例や問題点について報告しました。

 このワークショップの主要テーマは、気候変動、人間の移動(移住、移転、強制的移住など様々な形がある)、安全保障、平和構築の関連性でした。実践者からは、気候変動の影響により移住を余儀なくされているフィジーのコミュニティーとの協働について報告があり、研究者はニュージーランドに住む太平洋諸島出身の移住者(ディアスポラ)や、ツバルやソロモン諸島などの太平洋諸島の固有の状況に関する事例研究を発表しました。政策立案者からは、太平洋地域およびニュージーランド、ツバル、オーストラリアでの国内の施策と幅広い政治的背景について発表がありました。

 このワークショップは、ニュージーランド外務貿易省、戸田平和研究所のパートナー団体であるコンシリエーション・リソーシズ(拠点:ロンドン、メルボルン)、およびフィジーでのパートナー(トランセンド・オセアニア、太平洋平和構築センター(Pacific Centre for Peacebuilding)、太平洋教会会議(Pacific Conference of Churches)、太平洋神学大学(Pacific Theological College))が後援しました。

関連論文等

Peacebuilding Approaches to Climate Change in Fijian Communities

 伝統的な知識と文化的に適切な非暴力的アプローチに基づいた、公正で平和的、包摂的、参加型、持続可能で強靭なコミュニティーを作るための手引きです。トランセンド・オセアニアとコンシリエーション・リソースシズが行った「コミュニティー参加型アプローチ」は現在行われている取り組みで、この方法論は引き続き検証していく予定です。

Navigating Human Security and Climate Mobility in the Pacific Sea of Islands

 ティム・ウェストベリー(IOMコンサルタント)が執筆した政策提言です。サビラ・コエルホ(IOM PCCM-HSプロジェクトマネージャー)の助言とソロモン・カンタ(IOMフィジー代表部)の全体監修のもと執筆されました。

Pacific Migration Climate Change and Human Security Programme Regional Policy Dialogue Summary Report

 本報告書は、2020年9月~11月に行われた太平洋気候変動移住と人間の安全保障プログラム(PCCM-HS)の地域政策対話の中で明らかになった重要課題をまとめたものです。太平洋地域における気候に関連した移動についてどのような地域的アプローチができるのか、そのアプローチを発展させるための次のステップを提示しています。

Climate Change and Conflict Risks in the Pacific: Conciliation Resources

 この論文では、南西太平洋地域の気候変動に起因する紛争リスクが概説されています。この論文のもとになった研究は、コンシリエーション・リソーシズが行った南西太平洋における気候変動と紛争の関連性に注目した新たな研究です。気候変動の影響から生じる暴力的紛争を理解し防止するためにコミュニティーや政府と協力しようと考える市民社会組織、各国政府、国際機関、ドナーに対して、三つの提言を行っています。

In the Eye of the Storm: Reflections from the Second Pacific Climate Change Conference

 本書は2018年にウェリントンで開催された第二回太平洋気候変動会議の成果としてまとめられました。多様な専門家が太平洋の現状を取り上げ、気候変動における物理科学、影響と適応、緩和のための技術、政治と安全保障、国際的協力、国内外における法的課題、経済とビジネス、芸術やメディアを通したコミュニケーション、信仰と精神性などについて調査し、各章を執筆しています。

Who Defines Atoll 'Uninhabitability'?

 キャロル・ファルボトコおよびジョン・キャンベルは、ある特定の場所を居住可能な場所とする「質」は文化的、歴史的にそれぞれ異なり、その地域特有の知識、宇宙観、その場所への愛着が関係していると論じています。気候変動のリスクにさらされている環礁に住む人々は、居住可能性さらには居住不可能になる限界値についての自らの経験と知識が、海面上昇のリスクに対応しようとする科学、法律、政策、計画策定の中心に置かれる権利があります。

 戸田平和研究所が配信している「気候変動、紛争、平和に関する戸田太平洋宣言」と政策提言

1. 「気候変動、紛争、平和に関する戸田太平洋宣言」

2. ジョン・R・キャンベル著 Climate Change, Migration and Land in Oceania

 (要約版日本語訳:「気候変動により移住を余儀なくされる人々の土地と安心をいかに確保するか」

3. フォルカー・ベーゲ、柴田理愛著 Climate Change, Relocation and Peacebuilding in Fiji: Challenges, Debates and Ways Forward

(要約版日本語訳:「フィジーにおける気候変動、移住、平和構築:課題、議論、進むべき道」

4. ジョン・R・キャンベル著 Climate Change, Population Mobility and Relocation in Oceania

Part I: Background and Concepts

Part II: Origins, Destinations, and Community Relocation