政策提言

協調的安全保障、軍備管理と軍縮 北東アジアの平和と安全保障

(政策提言 No.115)

2021年09月27日配信

AUKUS(オーカス)のリスクと有益性の分析

ラメッシュ・タクール

 9月16日、オーストラリア・英・米の3カ国首脳らは、オンラインサミットの閉会にあたって、AUKUS(オーカス)というややぎこちない名前の安全保障の取り決めに合意したことを発表した。この取り決めは、英国(UK)と米国(US)がオーストラリア(AU)に対して原子力潜水艦8隻の取得を支援するため技術・物資支援を行うという、前例のないものである。この合意はデリケートかつ複雑なものであるために、3カ国の政府は18カ月に及ぶ日程を組んで、オーストラリアの潜水艦を原子力推進型とすることが可能かどうかを検討した。(それと同じぐらい奇妙だったのが、ジョー・バイデン大統領が[オーストラリアの]スコット・モリソン首相の名前を忘れ、「そちらに座っている方」と発言したことだ。)オーストラリアは、不変の地理的条件を急速に変化する戦略地政学上の環境と折り合わせるという、歴史に根差したパラドックスと取り組み続けてきた。

 国内では、ベテランのジャーナリスト、ポール・ケリーがこの取り決めを、「オーストラリアが1951年にアンザス条約を締結以来、最も重要な戦略的決定」と評した。今後数十年にわたってインド太平洋地域の地政学的な方程式において豪州国家戦略の大枠となるものだ。国産の原子力産業・核エネルギー・核兵器への道は固く閉ざされているとするモリソン首相の確約を受けて、労働党のアンソニー・アルバニーズ党首が新協定を原則的に支持すると述べたことを考えると、なおさらそう言えるだろう。世界的には、「エコノミスト」誌がこの協定を地政学的な地殻変動と評した。900億オーストラリアドルでフランスからディーゼル型潜水艦12隻を購入する契約を破棄したことでフランスとの関係は悪化し、対中関係にも新たな緊張を持ち込んでしまった。フランスは、誠実さに欠けるアングロサクソン圏の“同盟国”からの侮蔑と背信行為に激怒した。というのも、新協定がもたらした最初の具体的な帰結が、盛んに宣伝された豪州市場への長期大規模投資の終了であったからだ。中国はこの発表を聞いて、米国が主導する戦略的な封じ込めと、中国の息の根を止めるかのような行為に対する恐怖を確実に感じることになろう。アジアの指導者たちは、米英豪の3人の白人が、アジアの運命を握るのは自分たちだと宣言するのを見て、困惑することであろう。

 形成を一変させてしまうようなこの取り決めは、急ぎ秘密裏の交渉によって結ばれた。今後50年に及ぶインド太平洋地域の安全保障枠組みを再定義することを目指すものだ。しかし、主要な問題や原則、利益に関する広範な周知と議論なしにこれが決められてしまったことはリスクの種となる。例えば、この新枠組みがフランスの怒りの深さを読み違えていたとしたらどうか。欧州連合の中で、フランスが主導してより広い西側同盟からの離反が起きる可能性はどうか。AUKUSは、中国の恫喝外交の試みがかえって自国の不利益になることを、似たような形で実質的に再現することとなった。しかし、反対に、インド太平洋地域におけるアングロサクソン圏の孤立した前哨拠点としてのオーストラリアが、中国に対して自己満足的な敵意をぶつけることのリスクはどうなのだろうか。 この政策提言では、AUKUS誕生の衝撃的な発表が、オーストラリア国内、2国間、地域、グローバルの各レベルにおいて長期的にどのような反響を生み、どのような帰結をもたらすことになるのかを解明したい。

 トニー・アボット元首相は、「フランスの原子力潜水艦を取得し、現在入手できるものより劣った潜水艦としてその再設計と再建造に15年もの時を費やすのはばかげていることは、すでに分かっていた。」と述べている。アボット元首相は、オーストラリアの潜水艦を原潜にすることが最善の選択肢と考えられていたが、当時は次の三つの理由から導入が困難とみなされていたと説明する。「第1に、オーストラリアには原子力を維持する産業がない。第2に、米国がそれを認めないであろう。第3に、労働党はそうした装備を求めないであろう。」しかし、僅か5年でこの三つの中心的な想定がひっくり返ってしまったのである。

 オーストラリアが戦略的に関心を持つ海洋域は、南は南極から北はアジア大陸まで広がり、南極海・インド洋・太平洋をカバーしている。この広大な海洋を巡回するのに原子力潜水艦が多種多様な利点を有しているのは疑いようもない事実だ。ディーゼル型の潜水艦に比べて、原潜は、より航続距離が長く広範な海域をより迅速かつ静かに航続でき、秘匿性が高く、最新のミサイルやサイバー・人工知能(AI)技術によるステルス性や攻撃性を備えている。ほぼ無限の耐久性を持ち、オーストラリアが自前の民生原子力産業を持つ必要がないということが決定的であった。

 しかし、オーストラリアの潜水艦を原子力艦にするというオプションを選ぶことに対してコンセンサスが必ずしもあるわけではない。国防大臣の元顧問であるマイク・スクラフトンは、原潜採用の決定は「端的に言って防衛政策として下策だ」と主張している。「原子力潜水艦の採用が戦略的に意味するものは、壊滅的な戦争が勃発する可能性の増大であり、米国に対する主権の譲り渡しであり、不可避的に起こる(中国からの)貿易・経済面での反撃である」。戸田記念国際平和研究所の刊行物の読者にはおなじみのジョセフ・カミレーリも同じ見方だ。「AUKUS安全保障協定は、血と涙を流す結果のみをもたらす挑発的な同盟取り決めだ」。カミレーリによれば、それは帝国主義的な権力に対するノスタルジックな執着に過ぎないという。

 緑の党のアダム・バント党首は「原潜はオーストラリアの都市のど真ん中に『水上のチェルノブイリ』を置くようなものだ。」と警告した。しかしこれは無責任に恐怖を煽っている。ロス・イーストゲイトによれば、1955年に米国が初めての原子力潜水艦「ノーチラス」を就航させてから、米海軍は、延べ原子炉稼働年数にして5400年以上、2億1000万キロメートル以上にわたり安全航行を行うという記録を有しているのである。

 世論は、核を巡るこの新しい現実を驚くほど受け入れている。3月の世論調査から、9月のAUKUS電撃発表に至るまでの半年間、原潜に対する支持は38%から73%まで倍増した。オーストラリアは世界の既知のウラン鉱の約3分の1を保有しているが、核エネルギー追求への支持は55%から70%まで増えた。労働党支持者の7割、緑の党支持者の5割までもが、この両方の方針を支持しているのである。

 国内レベルにおける最大の関心は、原潜が2040年までのどこかの時点で運用開始になるという見通しと、原潜取得を正当化する根拠となっている急速に増大する脅威の見通し、つまり、実際の時間軸と計画との間のずれである。既存の契約が破棄されたにも関わらず、新契約はまだ締結されていないという重大な法的空白の問題もある。フランス艦取得の交渉は2015年、契約は2016年になされた。わずか5年の間に、安全保障環境の急速な悪化に伴い、オーストラリアの海洋防衛政策の背景にあった想定を完全に見直し、国防能力を向上させる主要な兵器プラットフォームの取得が必要だとされるようになったのである。しかし、同時にオーストラリアは、急速に変化する軍事・技術環境の中で実際にその能力を取得するまでに、なお15~20年は待たねばならないというのだ。他方で、すでに老朽化しつつある既存の潜水艦隊がオーストラリアの三つの海洋防衛域を守る任務を担い続けねばならない。この方程式は成り立たない。

 一つの出口は、オーストラリアが原潜を数隻、暫定的にリースすることにあるかもしれない。これにより、専門の乗組員と整備要員を訓練し原潜に習熟させることが可能となる。しかし、原潜が有する真に唯一の点であるステルス性を損なうような探知技術が発達し、予定されたスケジュールの間に潜水艦そのものが時代遅れになってしまったらどうだろうか。 海洋科学・核科学・材料科学・AI・自立型ドローンのスキルと経験を持つオーストラリア国立大学の科学者らが、世間をにぎわす話題とは関わりない将来のシミュレーションとして、この問題を検証している。彼らが導き出した大まかな結論は、2050年代のどこかの時点で海洋は実際のところ「透明化」するということだった。潜水艦はステルス性を失い、結果として「潜水艦の時代は終わりを迎えることになろう」。

 国家財政――とりわけ、歳入と歳出のバランス――はすでに、繰り返されるロックダウンによる経済への打撃、労働者や企業への多額の補償、大規模なワクチン投与のための大型支出といった、複合的な圧力に晒されている。若い世代はすでに長年に及ぶ債務を負わされている。まだ公にされてはいないが、もし費用試算が済んでいるとすれば、潜水艦のコストによってオーストラリア防衛支出の対GDP比は2%から3~4%にまで上昇することだろう。オーストラリア政府は、さらなる外交的な問題に対処するために、この10年に及んだ外務省の空洞化から反転し、外務貿易省の再構築をせねばならないであろう。いずれにしても、追加の歳入を得るための大幅な増税か、社会福祉支出から防衛支出への移転という政治的に困難な問題に政府は直面することになる。

 オーストラリアとニュージーランドは、第二次世界大戦での一連の出来事を経て、母国英国が、既に大国としては衰退し徐々に欧州へと撤退しつつあり、もはや両国の周辺海域を支配し安全保障を提供することが不可能という認識を持たざるを得なくなった。そこで両国は米国と安全保障同盟(アンザス条約)を締結し、3国間の軍事的紐帯を深めた。しかし1980年代半ばになると、ニュージーランドが、国内で高まる反核世論と核抑止を基盤とする軍事同盟の二者択一を米国に迫られ、同盟から渋々袂を分かつことになった。これによってオーストラリアはますます米国の軍事的な圏域に緊密に組み込まれるようになり、近年では同国北部に米軍部隊をローテーション配備することを認めるなど、領内における米軍のプレゼンス強化につながってきた。AUKUSはこの2国間防衛関係を深化・強化するもので、オーストラリアはトマホークミサイルやサイバー戦争、水中ドローン、センサー技術など、世界で最も先端的な兵器システムへの特権的なアクセスを得ることになる。

 AUKUSには、オーストラリアを、モリソン首相が呼ぶところの米国との「永遠のパートナーシップ」に結びつける、幅広い安全保障、防衛産業、ハイテク、サイバーおよびデジタル戦争の問題が含まれる。これは、まだ不完全であるが新たな世界秩序として、米国の関心とリソースを北大西洋からインド太平洋へ根本的にシフトするという戦略的賭けである。また、この地域において遠隔操作される米英同盟国の軍事プレゼンスを増強する豪州軍事力の大胆な変革でもある。

 しかし、AUKUSの創設は、中国との友好関係を犠牲にして米国との同盟に傾斜することに対して一部の国内世論が不満を表明する中でなされている。中国からしてみれば、オーストラリアは米国による事実上の対中包囲戦略に参加したのも同然と見えているだろう。米国が「リバランス」と呼ぶものは、“バランスを失わせる”、或いはこの地域において存在感と影響力を増す中国に対する“カウンターバランス”の試みであり、オーストラリアをその封じ込め戦略の南側の弧に据えようとするものだと“(誤)認識”される可能性がある。米国が、オーストラリアと共謀しアジアに軸足を移すというレトリックのもとで、中国は望んでいないし、オーストラリアも必要としない形で中国を敵に変えようとしているのではないか――こう心配するのはマルコム・フレイザー元首相一人だけではない。フレイザー元首相は、2015年3月15日に亡くなる直前の2014年12月に、全体として見れば、米国の意思決定には重大な欠陥があり、その判断はますます疑わしいものとなり、その利益と価値観はオーストラリアのそれから著しく乖離しつつある、すなわち米国は危険な同盟国になりつつあると論じていた。しかもこれは、ドナルド・トランプ政権誕生以前の論評なのである。

 主要な政治家の中では、ポール・キーティング元首相がAUKUS反対の論陣を張っている。理由は二つ。第1に、この取り決めにより、オーストラリアが、いつ、何を大義名分に、どこの国に対して戦争を遂行するのかを決定するにあたり、行動の自由が著しく制限されるため、主権が損なわれることになると主張している。決定は本質的に米国によってなされ、オーストラリアはいや応なしに巻き込まれることとなる。発表から1週間後、この取り決めの意味するところが徐々に明らかになってくると、野党労働党のペニー・ウォン外務報道官は、アルバニーズ党首が当初与えた支持から労働党を引き離し始めた。ウォン報道官は、主権喪失という批判を取り上げ、モリソン政権に対して「この決定がオーストラリアの戦略・環境・経済・政治に与える影響と帰結を国民に対して明らかにすること」を要求した。2001年10月28日、当時のジョン・ハワード首相が、総選挙の開始にあたって、オーストラリアは移民を歓迎する国であり続けると宣言したことは有名な話だが、こうも述べている。「ただし、誰が、どのような状況でこの国にやってくるのかは、われわれが決める」。オーストラリアが必要としているのは、それと同様に「どの国に対して、どのような状況で戦争をするかは、われわれが決める」と宣言できる今日の指導者であろう。

 第2に、キーティング元首相は、近年よく聞かれるフレーズ、つまり、太平洋でのいかなる武力紛争において中国の強さは米国を凌駕しているとの見方を支持しており、従ってオーストラリアは負け組についていることになり、それは戦略的には常に愚かな判断だ、と述べている。振りかえれば2016年、キーティング元首相は、非アジア勢力としての米国はアジアの恒久的な「戦略的保証人」にはなれないと論じていた。米国は「東アジアの平和と秩序にとって重要であり続けるだろう…(しかし)それはバランスをとり、仲介をする勢力としてだ」。米国は依然として、単一の国としては最も強力かつ影響力のあるアクターではあるが、米国の軍事・経済・イデオロギー的な意味での優勢は衰退しつつある。グローバルな諸機関は米国の権力と目的のために奉仕することが少なくなり、結果として米国の秩序は衰退するであろう。自らが描いた利己的な対外イメージとは対照的に、ジョー・バイデン大統領は、デリケートな外交政策において、未だに地に足のついた熟練さを見せていない。

 2010年ごろ、中国は地域外交に関して、従来の目立たず軍事的展開を抑えるアプローチを放棄した。あれから10年、中国の言動は徐々に目につくようになり、より挑発的になった。このような説明は、大陸の大国、すなわちかつて周辺諸国が朝貢していた中華帝国という歴史的アイデンティティーに根を持っているかもしれない。中国には、海洋勢力として、あるいは対等な大国が競合する国際関係の中で外交を展開した伝統がない。中国の習近平主席は戦狼外交を制度化し、南シナ海を軍事化し、周辺国や海を隔てた国々との紛争において益々自己主張を強めてきた。中国政府は、日本やインド、オーストラリアのような国々に対しては、中国の要求に従わせるべく脅迫し威嚇できると確信しているようだ。新型コロナウィルスの出所にまつわる独立調査への協力を、中国が曖昧にして拒絶したことで、国際的な評判は低下した。

 オーストラリアは、初期の段階で新型コロナウィルスの出所に関する独立調査を求め、中国の人権状況や香港での反政府派への弾圧、新疆でのウィグル人の扱いに対する懸念を表明してきたが、こうした行動が中国の怒りと不満を買い、近年様々な分野で報復に晒されてきた。中国政府はオーストラリアの国民性をひどく読み違え、中国からの嫌がらせに対して抵抗するオーストラリア政府の決意の程を測り損ね、地域の安全保障枠組みをリセットするオーストラリアの能力を過小評価してきた。オーストラリアの指導者らは、何十年にもわたって、欧州に歴史的起源をもつことと地理的にアジアに位置していることとの間で、安全保障上の第1の同盟国である米国と最大の貿易相手である中国との間で、どちらかを選択することを拒絶してきた。しかし、オーストラリアからの大麦・石炭・海産物・ワイン輸出と教育機関を標的とした中国の懲罰的な行動は、かえって、オーストラリアを米英の安全保障圏へと回帰させる事態を招いてしまった。

 中国の趙立堅外務報道官は、きわめて強い言葉で、AUKUSは「地域の平和と安定を著しく損ない、軍拡競争を激化させ、国際的な核不拡散の努力を損なう」と反発した。趙報道官は、3カ国に対して「冷戦期のゼロサム思考と、視野の狭い地政学的な観念を捨てる」よう求めた。「環球時報」は、毛沢東時代を彷彿とさせる表現で、「米国主導の対中包囲網」に参加することで、オーストラリアは自らが「依然として米国の猟犬にすぎないこと」を示した、と皮肉っている。

 中国の現在の潜水艦は、技術的に静粛性で劣っている。また、対潜水艦戦闘能力でも弱いとされている。しかし、他方で、米国は第二次世界大戦以来、海洋での実戦経験はない。一方で、中国経済のダイナミズムや工業力、技術的躍進は目覚ましく、その“右肩上がりの”軌跡は、今後の武力紛争における実効的な軍事能力を測るうえで、示唆するものがあるといえよう。外国からの供与、応用、或いは窃取すらした技術に基づく防衛生産は急速に国産化されている。超音速ミサイルや軍艦、サイバー兵器、宇宙・情報領域の能力は目覚ましく発展しており、米海軍力の優勢を切り崩しつつある。通信や補給、拡大する海外の輸入・輸出市場へのシーレーン(海上交通路)を確保するために、中国において近代的な海洋強国となる必要性は高まっている。

 防衛調達を加速する中国の実証済の能力は、AUKUSへの反撃として中国が大規模な海軍近代化を開始するには15~20年の準備期間があれば十分だということを示している。中国は長らく、米中間の核抑止の基礎として、両国間に相互脆弱性があることを米国が公式に認めるのを拒絶してきたことに不満を示してきた。中国の戦略を取り仕切る指導層は、今回の新同盟が、中国本土の核兵器関連施設に対する第1撃を成功させたのちに、潜水艦からの第2撃報復能力を標的とするのを可能にすることで、中国の安全を根本から脅かすと見ることになるかもしれない。その意味で、AUKUSの登場によって、中国が軍拡と軍の近代化で対抗するようになることで地域の緊張関係は高まることになろう。加えて、カムチャッカ半島ペトロパブロフスクを拠点とするロシア太平洋艦隊との関連においても、連鎖反応が起こる可能性がある。

 要するにAUKUSとは、部分的には、中国がオーストラリアに対して行った軍事的、経済的、外交的な圧迫がもたらした逆効果の帰結である。このアングロサクソンの同盟は、(念のために言っておけば)実際には米国の最も古い同盟国であったフランスについての計算違いを結果として引き起こしたのだろうか。2016年のフランスとの潜水艦建造契約は、当初からオーストラリアの多くの人々によって頻繁かつ激しく非難されていた。署名当初から疑問視されてきたこの契約は、年が経過するにつれて、戦略的にも財政的にもますます意味を失っていった。批判の要点は、原子力潜水艦の製造企業に対してディーゼルエンジン搭載への改修を求めるという愚行とコストの問題である。例えれば、ジェットエンジンを作っている企業に対して、代わりにプロペラ機を生産するよう依頼し、ダウングレードするためにわざわざ追加料金を支払うようなものだ。従って、戦略的、経済的、技術的利点があるとして原潜への転換決定を正当化することはむしろ容易だった。

 しかし、フランスをぞんざいに扱い公に恥をかかせるような今回のやり方は、フランスの自尊心を損ない、その尊厳を侮辱するものであった。「オーストラリアン」紙によれば、今回の3カ国協定は、2年に及ぶ秘密裏の交渉が行われたのち、6月にコーンウォールで開催された先進7か国首脳会議(G7サミット)・アウトリーチ会合の機会を利用してジョー・バイデン大統領、ボリス・ジョンソン首相、スコット・モリソン首相が持った45分間の会談において原則合意されたという。エマニュエル・マクロン大統領もG7サミットに参加していたが、完全に外される形になった。国家の名誉が侮辱されたことに対してフランスほど敏感に反応する国もないし、これほど怒りを覚える(pique)国もないだろう。だから、piqueという単語には適切な英訳がないのだ。かつてフランスが、オーストラリアあるいは米国、ましてやその両国の大使を召還したことなどあっただろうか。あるいは、英国との国防相会談をキャンセルしたことがあっただろうか。 ロンドンの大使を召還しなかったことは、アングロサクソン圏の3カ国の中でフランスが英国に相対的に高い地位を与えていることの証左かもしれない。

 フランス外交筋はこう不満を述べている。「アフガニスタンの場合のように、この新たな『アメリカ第一主義』の作品はあまりよく考え抜かれたものではないし、さらにいえば、あまりうまく実行されているものでもない」。フランスは、AUKUSの構成国が「裏切った」と非難している。フランスのジャン=イヴ・ル・ドリアン外相は、あまり外交的ではない極めて強い語調で、3カ国は「嘘つきで、二枚舌で、信頼を激しく侵し、侮辱的」だと非難した。ピーター・ダットン豪国防相は、オーストラリアはフランスに対して「正直で、隠し立てせず、誠実だった」と主張した。しかし果たしてそうだろうか。それが友人や同盟国に対する扱い方だろうか、こんなやり方を避けることはできなかったのか、この3カ国は、短期的にどれだけフランスの感情を害するかということだけではなく、長期的な損害についてまともに考えなかったのだろうか。

 6年前にドイツ・日本との競争に打ち勝って契約を獲得したフランスは、文字通り、オーストラリアの潜水艦建造計画に既得権を持っていた。米国・英国と並んで、フランスはNATOで3番目、そして欧州大陸で唯一の核兵器国であり、太平洋地域に領土的な利害をもって活動する欧州唯一の核保有国である。召喚されたフランスのフィリップ・エティエンヌ駐米大使は、今回破棄された契約は単なるビジネス上の契約という範疇を「遥かに超えるもの」であり、「われわれのインド太平洋戦略と関与の本質的な一環」であったと述べた。ゾー・マッケンジーが指摘するように、フランスはこの50年契約の海軍パートナーシップを、より広範な「戦略的な活動」として捉えていた。「インド太平洋における成果を得るための投資であると同時に、オーストラリア市場をして、例えば、教育や科学、イノベーション、エネルギー、インフラ、交通へと広がる、欧州の国がかつて付与したことがないレベルにまで引き上げるもの」と見ていた。

 フランスの怒りと憤りは理解できる。フランスは既に、原潜を望まないとするオーストラリアからの要求に応じてバラクーダ級の原潜をディーゼルエンジン型に改修するために6年間を費やしてきた。今回の問題に至ったささいな検討事項どころか大きな要因は、一人の閣僚の選挙区の有権者の歓心を買うことが防衛上のニーズに優先されたことだ。その結果、造船産業が集積するアデレードで雇用創出する産業政策が、純粋にオーストラリアの次世代海軍にとって最善の選択をする安全保障上の考慮を上回ることになった。しかしオーストラリアは実質的に心変わりをし、フランスは見捨てられて、長期的な地域戦略は崩壊した。「オーストラリアン」紙でロバート・ゴトリーベンが2年にわたって行ってきた連載にあるように、フランスもまた、2016年の契約締結以来、違法ギリギリの行為をし信義則違反を犯してきた。しかし、ゴトリーベンが最近書いているように、「潜水艦に関するフランスの不誠実な行動について、オーストラリアのどの閣僚も官僚も真実を公にしてこなかった」ため、フランスは最終的に残念な結果につながった自らの落ち度については過小評価してきたのである。にもかかわらず、フランスを出し抜いて秘密裏に協議を進め交渉を妥結したことは、陰謀と重大な裏切りの印象を与えた。このことは、影響力を強める中国の挑戦に対して米国が構築してきた欧州との連携が損なわれる恐れがある。

 EUは、中国に次いでオーストラリア第2の貿易相手であり、米国に次いで第2の海外投資源である。フランスとドイツはEUの2大国であり、怒ったフランスが、EU加盟国に対するアングロサクソン圏の裏切りを理由にオーストラリアとの3年に及ぶ自由貿易協定協議を打ち切るようEUに求める可能性もある。例えば、EU諸国が、オーストラリアの気候変動関連の公約と行動に関して強硬な態度に出ることもありえよう。9月20日、欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長は、今回のAUKUSの潜水艦協定に関しては多くの疑問に答えてもらう必要があると述べている。「加盟国の一つが許されない扱いを受けている。通常のやりとりに戻る前に、なにが理由で、いったい何が起きたかを私たちは知る必要がある。」AUKUSの同盟国は、フランスの傷ついた感情を癒し、損なわれた利益を補うために相当の外交的努力を行う必要があろう。さもなくば、フランス国家の記憶に埋め込まれた不満が長年にわたってさまざまな波及効果を生み出してしまうリスクがある。

 AUKUSは、米国が戦略的優勢を喪失したことを認識している表れでもあり、そうした状況への一つの妥協でもある。ジョージ・W・ブッシュ政権下の政策目標は、どの国も自国の地域を支配することができないようにする、というものだった。これは今や完全に歴史の一部となっている。アフガニスタンから混乱の内に撤退することに関して、中国の戦略的脅威と貿易競争に本腰を入れるためとしたバイデン政権の説明は、ここにきて突然より信憑性のあるものになり、新たな意味を持つようになった。中国や、インド太平洋地域周辺に利害関係を持ち形勢を見守ってきた他の国々は、この地域の主要なアクターとして確固たるプレゼンスを維持し続けようとする米国の能力と意思を、改めて迅速に評価し直す必要を感じるようになるだろう。

 経済的ダイナミズム、国際貿易、外交の中心軸が北大西洋からインド太平洋地域に移行している中、AUKUSは、EU離脱後の「グローバル・ブリテン」を、こうして生まれつつあるグローバル秩序の心臓部であるこの地域に再定位するものだ。ウォルフガング・ミュンチャウはAUKUSについて、英国を「戦略的な敵手」としてきた「EUにとっての地政学的な失敗を内包するもの」とみている。英国が変化に富んだ新たな国際秩序におけるプレーヤーとして突破口を開いたのに対して、EUは依然として、拒否権によって麻痺してしまった加盟27カ国の外務理事会に捕らわれたままとなっている。アレクサンダー・ダウナー元外相は、オーストラリアが原子力潜水艦を建造する支援を英米が行う決定を下したことは、「均衡のとれたインド太平洋地域の安定に対する」多大な貢献だと記している。しかし、中国はAUKUSを「台湾視点」から眺めることになろう。挑発され、怒りに満ちた中国が、戦略的な平衡がさらに悪化してしまう前に台湾を再征服しようと決定したらどうするのだろうか。

 東南アジア諸国連合(ASEAN)は、米中対立の舞台になってしまうことを長年にわたって懸念してきたが、AUKUSはこの不安を助長することになろう。オーストラリアは早速ASEAN諸国内の懸念の打ち消しを図った。オーストラリアのウィル・ナンカービスASEAN大使は9月20日、オーストラリアは「引き続きASEANを中心に平和で安全な地域を強化していくとともに、ASEANが主導している既存の地域制度枠組みを補完し強化することに全力で取り組む」と述べた。モリソン首相は、日米豪印戦略対話(クアッド)サミットが開かれるワシントンに向かう途上でインドネシアのジョコ・ウィドド大統領に電話し、オーストラリアは地域の戦略バランスの維持と不拡散の実現に努力すると述べた。また、オーストラリアにはアジア太平洋地域の政治支配を志向する意図はないとのメッセージをもって、他の域内諸国に働きかけるチームも発足する。

 米豪両国は、反核的なスタンスのニュージーランドが1980年代半ばに離脱して以来事実上2カ国で機能してきたアンザス同盟(1951年締結)において距離を縮めた。AUKUSは、既にアングロサクソン圏の5カ国(米・英・豪・ニュージーランド・カナダ)を緊密な諜報共有ネットワークに結びつけているファイブ・アイズ(5つの眼)枠組みに新たなサブグループを創設する。オーストラリアは今や、カナダ・ニュージーランドを飛び越して、米国・英国に対する特権的な同盟国となった。

 オーストラリア・日本・米国は、安全保障上の計算にインドを組み込むために「インド太平洋」概念を便利な分析ツールとして用いてきた。これは、地理、「自由で開かれた」原則、民主主義的な価値を一つの戦略的な概念の下に組み込むものである。しかし、この「クアッド」4カ国それぞれが持つ、対中経済関係のレベルと質はかなり異なっている。同じく、中国との領土紛争や、他のクアッド加盟国の対立事項に巻き込まれることを懸念する程度もかなり異なっている。より重要なことは、日中間、中印間の領土紛争に起因する中国との武力紛争が起こった際に、自動的に軍事的支援に進むとの期待が存在しないことだ。こうした現実に、インド太平洋地域の海洋安全保障環境の悪化という状況が加わった結果、オーストラリアは再び、歴史的かつ1945年以降の強力な保護者に国の命運を賭けることになったのである。

 このことは、インドと日本(後者は米国の同盟国)が、インド太平洋地域の四つの主要な民主主義国として、オーストラリア・米国と4カ国対話枠組みを維持していることの意義と重要性を再評価する必要があることを意味する。2004年12月にインド洋で発生した大津波に対する人道緊急支援において4カ国の海軍が即席の協力態勢を組むという静かな形で始まったが、この非公式の海軍間協力は次第に、4カ国間の2国間及び合同軍事演習の強化と並んで、外務当局・閣僚・首脳間のフォーラムという地位にまで発展してきた。「クアッド」は近年、共同訓練と組織化された議論を伴って活性化し、「実質」を備えるようになった。AUKUSの誕生で、「クアッド」の中では日本だけが原潜を保有していない国という状況が生まれる。

 AUKUS締結の発表は、ワシントンでの初の対面形式によるクアッド首脳会談開催を前にしてなされた。あるレベルでは、米国がインド太平洋地域へのコミットメントを強化する具体的な確証が得られることは、インドや日本にとっても歓迎すべきことだろう。加えて、フランスが自らへの取り扱いに激怒しつつも、インド太平洋地域への戦略的関心を持ち続けていることを考えると、今回の取り決めによって、フランスがオーストラリアを通じてよりも、インドと日本を通じて戦略的関与を追求するように路線変更を図る機会となる。インド海軍・空軍による大規模な防衛調達など、フランスとの2国間関係をこの10年間着実に進化させてきたインドとすれば、このことは魅力的に映るかもしれない。歴史的なつながりはともかく、英国ではなくフランスがインドにとって欧州最大のパートナーであり、インドの対欧州関与の入り口となっている。従って、インド太平洋地域へのフランスの戦略的関与に対してインドが互恵的に架け橋となることには、ある種のシンメトリー効果もあるし、健全なロジックでもある。

 AUKUS協定が世界に及ぼす恐らく最も重要な影響は、米中の戦略的対立関係とその行方に及ぼす構造的なインパクトである。これについての重要な要素はこれまでに説明してきたので、これ以上触れる必要はないだろう。世界に影響を及ぼす二つ目のポイントは、この地域で新たな建艦競争の引き金となり、核兵器の拡散すら引き起こしかねないという点にある。例えば9月21日には、英国の原潜がオーストラリアを基地として利用し、重要な修理作業を行うことで、自らの基地であるスコットランドのファスレーンに戻らずとも長期にわたってインド太平洋地域にとどまれるようになることが明かされた。

 温室効果ガス排出を削減するために化石燃料からの転換を図りつつ、原子力艦を運用することには論理的な無理があり、無限に持続できるものではない。オーストラリア労働者組合のダニエル・ウォルトン事務局長は明らかな疑問を呈している。「原潜を建造あるいは運用する能力をもつ世界のあらゆる国が、原子力発電の能力を保有している。なぜオーストラリアだけが、世界で唯一の例外であり得ようか」。もしこの葛藤が、国内で原子力産業を発展させるという形で解消されるとするならば、それと同じ論理が核兵器にも適用されることになるだろうか。すなわち、オーストラリアは、原子炉を動力源とする軍艦を保有しながら、核武装はしない唯一の例外であり得ようか。

 たとえ核兵器を保有しなくても、オーストラリア海軍が原潜を取得すれば、近隣の東南アジア諸国の間に不安が広がり、原子力艦の入手を巡る地域競争が引き起こされるかもしれない。15~20年もあれば、インドネシアや日本、韓国、台湾といった国々が、オーストラリアのアップグレードした海軍防衛力を検討し、その期間に予想される脅威に対する自国の安全保障上のニーズを見極め、対処策を熟考する貴重な機会を得ることとなる。世宗研究所(韓国)の所長で、文寅在(ムン・ジェイン)大統領の特別顧問(安全保障・外交問題)を務めた文正仁(ムン・ジョンイン)は、韓国に高濃縮ウランと原子力潜水艦技術を提供して欲しいとの要求を、トランプ政権が拡散上の懸念を理由に断ったと指摘した。原子力艦の技術共有を伴うAUKUSは、米同盟国の間に事実上の序列をつけることとなった。このことが、今後日本や韓国の原子力潜水艦への関心を一層掻き立てることになろう。

 インドネシアのマルティ・ナタレガワ元外相は、AUKUSは、地域における「水中ステルス能力」競争を激化させるものであり、「インド太平洋は、核の安定性を欠き、高くつく誤算が起こりやすい海域という見方を助長することになる」と警告している。ナタレガワは、クアッドの再活性化と並んで、AUKUSは「複雑かつ急速に変化する地政学的環境に関して決断を引き延ばしていることの代償」をASEANに思い起こさせた、とした上で、ASEANに対して「自身の意義を改めて主張する」よう呼びかけた。

 日本と韓国はオーストラリアをまねて原潜の推進技術の取得に走るだろうか。クワッドとAUKUS、日米安全保障条約、米韓相互防衛条約は一体化して、EU・NATOパートナーシップのように、相互に補強しあう外交・軍事枠組みに発展していくだろうか。

 今回の発表に対する、核問題の専門家らの反応は割れている。今回が、NPT上の核兵器国が非核兵器国の原潜取得を支援する初めてのケースだからだ。米軍備管理軍縮局の元高官であるシャロン・スクワッソーニは「潜水艦の燃料として高濃縮ウランを用いる国のクラブを拡大することは、多くの面からみて誤りだ」と警告する。英米の提供する原潜と異なり、フランスの原潜は低濃縮ウラン(濃縮度20%以下)を燃料に用いている。もし仏原潜をリースしていれば、既存の契約を打ち切ることなく更新するという形になり、フランスを当惑させたりNATOをいらだたせたりすることもなかったし、拡散上の懸念も低減することができただろう。しかしその場合、米国が高度な艦船・ミサイル技術をオーストラリアに譲渡すことに合意することはほとんど考えられない。

 NPTは核物質を非爆発的軍事用途に利用することを認めている。ただし、当該核物質が軍事利用されている期間は適用が一時停止されるが、軍事利用が終了すると直ちに再開される標準的な保障措置に従わねばならない。その間、非爆発的利用の義務はなおその効力を有する。オーストラリアは、当該物質に関する最新情報を国際原子力機関(IAEA)に報告し、最終的な保障措置再開を保証する協定を求めることになろう。英国・米国の艦船は濃度95%の高濃縮ウランを用いている。これは兵器級である。しかし、兵器に関連しない艦船推進の手段とするために相当量の高濃縮ウランがIAEA保障措置の埒外に置かれることになり、オーストラリアの核物質が全て平和目的に利用されているのかを確認することは難しくなる。IAEAの元高官タリク・ラウフなどの識者は、オーストラリアそのものというよりも、その他の問題含みの国々に対して「核拡散というパンドラの箱」を開けるような前例が作られてしまうことを懸念している。9月20日には北朝鮮でさえ、オーストラリアの原潜は「アジア太平洋の戦略バランスを崩す」ことになり、「核軍拡競争」を引き起こしかねないとしてAUKUSを批判している。

 外相としてダウナーの前任者であったギャレス・エバンスは、AUKUSの発表では、核兵器能力はおろか、核分裂性物質の生産に関してすら、オーストラリアは全く排除していると強調した。今回の協定は、オーストラリア特有の地理的条件に対応して、「今後数十年間に及ぶオーストラリアの防衛能力をより確実にする」目的のものでしかない、とエバンスは言う。他方で、オーストラリアは、全ての軍用原子炉燃料に関して、国際的に認知された検証基準を確立する取り組みをリードするために、今後の10~15年を活用することが可能であろう。

 AUKUSは、出現しつつある地域およびグローバル秩序に地政学的に重要な三つの事実を刻んだ。第1に、AUKUSは、中国が、勢力が著しく後退したロシアに代わる、主要な戦略的競争相手として恐るべき総合国力を備えた国であるとする、アングロサクソン圏の主要民主主義国の固い信念を示している。第2に、AUKUSは、戦略的対立関係の軸が北大西洋からインド太平洋に移動しているとの認識を持っている。第3に、原潜の導入は、インド太平洋海域におけるオーストラリアの軍事力を突出させることを意味する。こうした動きがもたらす影響は今後数十年に及ぶことだろう。にもかかわらず、交渉を秘密裏に行う必要があったために、軍事的脅威とニーズを評価し防衛力を取得且つ構築するための戦略的枠組みを再定義する作業は、市民を巻き込んだ広範な協議プロセスなしに、そして、原子力潜水艦を正当化できる戦略的な有効期限や綿密な費用対効果分析に関する自由で透明性のある議論なしに行われたものだ。そのため、総合的な外交・軍事面の機会費用は、きわめて高いものになるかもしれない。

注1
 長年の友人で、世界や安全保障の問題に関してしばしば議論を交わすパートナーであるレイ・ファンネル空軍中将(退役)とマイク・スミス少将(退役)からの有益なコメントと提案に感謝を申し上げる。

ラメッシュ・タクールは、オーストラリア国立大学クロフォード公共政策大学院名誉教授、戸田記念国際平和研究所上級研究員である。元国連事務次長補。最新の著作には「The Nuclear Ban Treaty: A Transformational Reframing of the Global Nuclear Order」 (ルートレッジ社、2022年)がある。