政策提言

ソーシャルメディア、テクノロジーと平和構築 (政策提言 No.130)

2022年06月21日配信

脱植民地化による平和構築: 危機を脱する方途

リサ・シャーク

Image: Guitar photographer/Shutterstock.com

 本政策提言は、平和構築活動が、植民地支配に起因する統治、経済、社会のゆがみに対処することによって、今日の世界に漂う深刻な混沌と予測不能な事態にどのように対応できるかを検討する。

 脱植民地化とは、植民地的な世界観、制度、影響を取り消すプロセスを指す。本政策提言では初めに、関連する二つのカテゴリーにおける平和構築分野の発展を記述する。一つは社会正義の重視、もう一つは、その対極にある安定の重視である。本稿は、パンデミック、気候変動、兵器化技術がもたらした、比較的最近の差し迫る脅威について概要を説明する。そのうえで、これら三つの急性の脅威が、国家システム、市場、社会の中で問題となっている政治的周縁化、経済的不平等、構造的不正義、分極化、台頭する過激主義といった慢性的脅威をどのように増幅するかを説明する。そして最後のセクションでは、脱植民地化による平和構築の課題を検討する。

 平和構築分野は、二つの異なるパラダイムへと発展している。西側諸国のリベラルな消極的平和に主な重点を置いた安定による平和構築、そして、現地の行為主体と積極的平和の追求に重点を置いた社会正義による平和構築である。

 社会正義による平和構築は、権力を移行させ、社会的、経済的、政治的平等を構築することを目指す。社会正義による平和構築においては、紛争と不正義による影響をこうむった人々が、彼ら自身の変革的イニシアティブをデザインし、実行する。外部者は現地の人々を支援する役割を果たすかもしれないが、社会正義による平和構築においては、外部者はさまざまな層の内部者、特に最も脆弱で最も被害を受けた人々に対する説明責任がある。社会正義による平和構築においては、現地コミュニティーに根差した多様な集団が互いに緩やかに調整し合うが、単一のリーダーシップや統制の形態は存在しない。

 安定による平和構築は、国家の権威を拡大し、法の支配を強化することを主な関心事とする。多くの場合そこには、「援助」を提供するという西側諸国の植民地主義的な考え方が反映されており、資源豊富な国の人々を貧困状態に放置している経済・通商システムへの批判はない。安定による平和構築の計画と戦略は、外国政府や自国政府の会議から始まり、外部または現地からのインプットは最小限である。社会正義による平和構築と異なり、安定による平和構築はピープルパワー運動を「市民暴動」の一形態であり経済的利益への脅威であると見なす傾向がある。

 「社会正義による平和構築」と「安定による平和構築」は、今日、それぞれ個別のアプローチとしてではなく、スペクトラムの極として存在している。これらの二つのアプローチが完全に相反するわけではない。社会正義は安定に寄与し、安定は社会正義を可能にすることもある。あらゆる形態の平和構築が、取り巻く環境の重大な変化に直面しており、その立ち位置を急性および慢性的な危機の中に見いださざるを得なくなっている。

 継続中のパンデミックは、2020年に始まり、既存の政治的、経済的、社会的不平等を悪化させ、政府の正当性の危機を増幅している。また、パンデミックによって人道システムにも影響が及び、安定による平和構築と社会正義による平和構築のいずれも資金調達に影響が出ている。国家や基金が、より多くの資源を医療に充てているためだ。そのため、持続可能な資金源を持つ現地主導のイニシアチブがいっそう緊急に必要とされている。

 気候危機は、地球規模の緊急事態として明らかになりつつある。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によれば、人為的排出量を削減するために何の対策も行わなければ、気候危機に起因する死亡や被害が今後急激に増加する。気候危機に対処するには、安定のために必要な地域レベルの気候関連の予防・緩和戦略や、気候変動による大量移民に対応する社会的結束および社会正義について交渉するため、地域レベルの平和プロセスが必要である。

 人工知能や機械学習技術のような兵器化しうる技術は、第3の世界規模の災害を引き起こしつつある。パンデミックや気候危機と同様、兵器化技術が安定と社会正義の両方にもたらす深刻な脅威は、平和構築分野にとって差し迫った問題を引き起こす。

 国家システムの変化は、さまざまな形で平和構築に影響を及ぼしている。

尾を引く植民地主義、政府と統治への期待の変化

 国民の不満と国家制度への信頼低下は、一部の地域で反体制的な独裁的指導者への支持という形で表れつつある。安定による平和構築は、国家主導の統治に重点を置く。公共財の提供における政府の役割にいっそうの重点を置いているにもかかわらず、安定による平和構築の努力は、周縁化された集団に政治的にも経済的にも害を及ぼしている構造的暴力を変革するためには、ほとんど影響を及ぼしていないようだ。

権力のダイナミクスを転換する

 世界レベルの権力のダナミクスは、米国による超大国支配や欧州中心の政治から、ブラジル、ロシア、インド、中国、そして、アジア、アフリカ、中南米の地域大国へと向かう動きがある。パリ協定のような国際条約を通した大胆な気候行動を採用することに各国が及び腰の中、地方のリーダーシップがコンセンサスを存続させるために立ち上がっている。

平和プロセスと平和活動の未来を再考する

 武力内戦の数は、2000年以降、2倍以上に増えており、その3分の2は二つ以上の当事者間の紛争である。しかし、平和プロセスは、その適切性も成功の数も低下している。このような平和協定の減少やその実現に向けた直線的プロセスがみられないことを考慮すると、平和構築とは継続的なプロセスであり、それぞれ異なる目標、異なる変革理論、集団間紛争への対処方法に関して、異なる期待を持つ集団間の持続的な交渉であると見なすことができるだろう。

 国家システムの中におけるこれらの動向のそれぞれが、安定による平和構築と社会正義による平和構築のいずれの将来にも影響を及ぼす。平和構築分野に関連性のある市場動向は、同様の課題をもたらすが、脱植民地化による平和構築に向かう状況ももたらす。

 市場やグローバル経済の中において、資本主義が平和と民主主義に寄与するという前提に対する疑念が広がりつつある。

限界に達しつつある(際限ない)経済成長

 経済成長モデルは、世界を環境破壊、人道危機、そして、きれいな水や食料のような基本的資源をめぐる戦争への道を開いた。安定による平和構築も社会正義による平和構築も、資源不足に関連する紛争に直面しており、そのどちらの端においても、これらの紛争は今後数十年にわたって悪化することが不可避である。

自由市場と平和の関係を再考する

 自由市場の中で、軍産複合体は、兵器製造への経済的動機を駆り立て続けている。対テロ戦争は、軍需企業に何十億ドルもの利益をもたらしている。安定による平和構築は自由市場が平和に貢献すると主張するかもしれないが、社会正義による平和構築は構造的正義が市場にとって有益であると論証するだろう。

不平等と差別の増大

 援助モデルや貿易モデルを含む市場は、グローバル経済に勝者と敗者を生み出す。市場のルールは富める者に有利で、貧しい者と周縁化された者に不利である。市場は、安定による平和構築と社会正義による平和構築のいずれの活動にも影響を及ぼす。

移民の増加

 国連難民高等弁務官事務所によれば、2020年11月までに8千万人近い人々が迫害、紛争、暴力、人権侵害、または公共秩序が破壊されることで、避難を余儀なくされている。大量移民は、すでに紛争や暴力的過激主義の大きな要因となっている。安定による平和構築は、難民や国内避難民(IDP)のキャンプを設置するために役に立つかもしれない。しかし、気候危機、紛争、貧困の根本原因に対処するためには、社会正義による平和構築が必要である。

トラウマ、分極化、過激主義の増大

 分極化は、政治的敵対者が一般人への暴力を必要と見なすような、暴力的過激主義の主流化をもたらす。社会正義による平和構築も安定による平和構築も、分断された社会において社会的結束を構築することを重視している。分極化の規模が拡大する一方で、平和構築の手法は、まだこの問題に対処するために規模を拡大していない。

ジェンダーに基づく暴力の増加

 世界中のあらゆる経済水準と教育水準における女性のうち3人に1人が、親密なパートナーによる身体的および/または性的暴力、あるいはパートナー以外からの性的暴力を生涯の間に経験する。環境劣化や気候危機は、女性や少女に対するジェンダーに基づく暴力を増加させる。暴力に対する戦略的アプローチにより、公然の暴力と多くの場合はプライベートな場面で起こるジェンダーに基づく暴力の関係を認識する必要がある。

 脱植民地化は、平和構築戦略のグレートリセット(刷新)の核心である。脱植民地化による平和構築の中核をなす10の要素を以下に挙げる。

 紛争分析プロセスの立案、プログラムの開発、実施、監視、評価には、都市部のNGOとは別に、現地コミュニティーに根差した多様な組織の関与を得る必要がある。現地コミュニティーが自分の言葉で発言し、自らの分析に基づいて問題を定義し、現地の文化や能力、伝統に即していると考えられる戦略を実行できるようにしなければならない。

 交差性分析は、どのように複数の抑圧が交差して複合的抑圧を形成するかに着目する。人種、階級、ジェンダー、宗教、身体能力、その他の個人的特性が交差し、相互作用し、折り重なる。現地主導の分析や被害を予防し変容させる行動は、平和構築のリセットの中核をなす。

 実際問題として交差性に対処するには、周縁化された集団間の連帯を図る必要がある。社会運動の成功は、集団間の連帯を構築できるか否かにかかっている。アイデンティティー集団の間に戦略的連帯と連帯の利益を確保するために、対話、調停、交渉といった能力が用いられる。

 統治の分散化は、強固な平和構築に必要であり、社会正義による平和構築と国家の安定による平和構築努力を調和させる可能性が最も高くなる好例である。統治は平和にとって不可欠であるが、国家建設のミッションにおいて社会正義が優先されることはほとんどない。

 脱植民地化による平和構築では、経済モデルと経済対策における勝者と敗者を分析する必要がある。また、現地コミュニティーが求める社会正義を促進する活動資金を得るために、資金調達モデルも必要である。平和構築イニシアチブのために現地の持続可能な資金調達手段を開発することは、平和構築の脱植民地化に不可欠であり、危機の際のレジリエンス強化につながる。

 構造的暴力とパワーの不均衡という観点から見ると、パワーを移行し、変革に向けたより広範な連合を構築する必要がある。脱植民地化による平和構築のためには、国際的市民社会組織の影響力を拡大し、市民社会のネットワークならびに地域を超えた運動を展開する必要がある。

 多くの場合、現地の慣習は何世紀もの間に、精神的・身体的健康の問題に対処する伝統的治療へと発展した。これらの治療法は、西洋式の介入と同程度またはそれ以上に有効であるとことが、いまやエビデンスによって裏付けられている。

 脱植民地化による平和構築では、人々が生活の中で目にし、感じている問題に関する現地市民のジャーナリズムを組織化し、調整し、動員し、増幅するため、デジタル技術を利用する必要がある。市民社会に対するデジタル脅威に対処し、デジタル平和構築のポテンシャルを最大化するために、新たな能力や資源が必要である。

 脱植民地化による平和構築では、気候移民、適応、緩和、予防に関する包摂的な平和プロセスをデザインする能力が必要である。平和構築分野は、気候移民が社会的結束にもたらす課題に対処するために現地調停チームの規模を拡大し、気候変動に起因する山火事、干ばつ、嵐などの影響を緩和するため、現地の人道的リーダーシップの包摂性、現地の能力、レジリエンスに重点を置く必要がある。

 脱植民地化による平和構築では、暴力に利潤動機を持つ軍産複合体にいっそう注意を向ける必要がある。平和のための軍事戦略は、成功のエビデンスがなく、時には利益よりも多くの損害を引き起こすというエビデンスが存在する場合すらあるにもかかわらず、資金を得ている。

 今後数十年に地球が直面する問題の規模と範囲を考えると、かつてないほどの革新が必要である。平和構築のリーダーたちは、無秩序の霧の中を希望の光で照らすことができる説得力とカリスマ性を備えたコミュニケーターになる必要がある。平和構築グループは、社会運動と連携し、この分野を国際NGOモデルからいかに脱却させるかを考えることが必要になるだろう。恐らく無秩序と混乱を伴う不確実な未来へと向かっていくなか、脱植民地化による平和構築は、存続可能な未来へと舵を取る地図を示すものである。

本稿は、戸田記念国際平和研究所の英文ウェブサイト上に引用文献も含めて掲載した政策提言130の要約版である。

リサ・シャークは、戸田記念国際平和研究所の「ソーシャルメディア、テクノロジーと平和構築」プログラムを担当する上級研究員である。このプログラムでは、ソーシャルメディアが紛争のダイナミクスに与える影響に焦点をあてている。米国ノートルダム大学クロック国際平和研究所リチャード・G・スターマン シニア・チェア。フルブライト研究員として東西アフリカに滞在した経験を有し、Conflict Assessment and Peacebuilding Planning, Local Ownership in Security, The Ecology of Violent Extremism, Synergizing Nonviolent Action & PeacebuildingとSocial Media Impacts on Conflict and Democracyなど11冊の著作がある。