Climate Change and Conflict フォルカー・ベーゲ | 2023年10月30日
COP28、平和、そして太平洋諸島
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本稿は、COP28に先立ってグローバル・アウトルックに発表する新たなシリーズの最初の記事である。シリーズでは、ドバイで開催される2023年COP会議への希望、期待、そして会議の実際の動向をお伝えする。
COP28(第28回国連気候変動枠組条約締約国会議)は、2023年11月30日~12月12日にドバイで開催される。COP28は、アントニオ・グテーレス国連事務総長が言う「地球沸騰の時代」のただなかで開催される。このコメントは、2023年7月が記録上最も暑い月であったことを裏付ける公式データについて述べたものだ(とはいえ、今やわれわれは、記録上最も暑い8月と最も暑い9月も迎えている)。
同時に、COP28は断固とした気候行動を取る機会でもあると、事務総長は指摘した。COP28ではパリ協定の第1回グローバル・ストックテイク(GST)が実施される予定であり、GSTは世界がパリ協定の目標達成から「大きく逸脱している」ことを示すものになると、会議事務局は認めざるを得ないだろう。世界第7位の産油国であるアラブ首長国連邦(UAE)でCOPを開催するというのも、いささか皮肉な話である。COP議長を務めるスルタン・アル・ジャーベルがUAEの国営石油会社ADNOCの最高経営責任者なのだから、なおさらである。ADNOCは石油産出能力の大幅拡大を計画しており、それも、気温上昇を1.5°C以内に抑えるというパリ協定の目標を達成するためには、2020年代中に世界の温室効果ガス(GHG)排出量を半減し、2050年までにネットゼロ排出を達成しなければならないという大方の合意があるこの時代においてである。
COP議長国は「かつてないほど包摂的なCOP」を約束しており、エネルギー転換の優先推進、気候資金の変革、そして、「自然、人、生活、生計を気候行動の中心に置くこと」を計画している。このような立派な言葉が具体的な成果につながるかどうかは、現時点で不明である。これまでのCOPの経験から、懸念と疑念を抱くのも当然のことだ。グローバルサウスからの批判的な意見は、COPを「(主に企業、大国の政府、エリート層が主導する)気候植民地主義の劇場」と呼んでおり、そこでは「目くらまし行為、遅延、懐柔、実質のない見せかけの成果がほぼ毎年繰り返される」としている。しかし、その一方で、COPは「(主に活動家、若者、先住民グループ、学識者、組合が主導する)脱植民地的、反植民地的、反人種差別的、フェミニスト的政治」の場ともなり、「体制に異議を唱え、より多くの人の耳に届ける必要がある言葉を口にし、老若の活動家を組織化し、さまざまな立場の考え方から学び、連帯の新たなきっかけや可能性を生み出す機会」をもたらすともいえる。
COP28をそのような形で生かすきっかけはあるかもしれない。というのも、2023年のCOPプログラムには、健康、最前線コミュニティー、「救済、回復、平和」といった新たな多分野横断テーマや新たな行動分野が含まれており、12月3日が「救済、回復、平和の日」と定められているからだ。これが、戸田記念国際平和研究所がCOP28に特に注意を払う理由である。当研究所は、COPに先立ってグローバル・アウトルックに一連の記事を掲載することによって、COP28に関与する。ドバイでの議論を綿密に追い、COP後の成果を吟味する。初めてCOPの議題として「平和」が登場したことは、歓迎すべきことである。過去数年にわたり、戸田平和研究所は気候変動、紛争、平和に関する研究分野を構築しており、地域的重点を太平洋地域に置き、同地域の学術組織や市民社会組織と協力を行ってきた。当研究所の目的は、気候変動への適応と平和構築を関連付けつつ、研究を進め、政策的助言を行い、気候変動の影響を受けたコミュニティーと気候変動が誘発する紛争について取り組む実践家を支援することである。
太平洋小島嶼国(または、大きな太平洋の国々)の政府や市民社会の代表者たちは、COPで常に非常に積極的であり、国力を大きく上回る働きを見せ、太平洋の人々の声を大きく、明確に届け、GHG排出大国に緩和策を強化するよう促し、適応のための大規模な支援を要求してきた。例えば、2022年のCOPではついに、損失と損害に対する新たな資金提供メカニズムに関する合意を取り付けることに成功した。2023年のCOPでは、この「損失と損害」基金が運用開始され、主なGHG排出国が多額の資金を拠出することが期待される。
損害と損失は、太平洋島嶼国(PICs)にとって重要な問題である。PICsのGHG排出量はわずかであるが、気候危機が環境、経済、社会、文化にもたらす悪影響や、それに伴う損失と損害を不釣り合いに大きくこうむっている。海面上昇、海岸浸食、塩水侵入、海水温上昇、極端な気象現象(サイクロン、干ばつ、洪水)の増加は、地域の人々の生活と生計に困難をもたらす。このような影響は、土地の安全保障、食料と水の安全保障、生計の安全保障、居住の安全保障を脅かす。天然資源は、劣化し、希少化する。社会や国全体の将来が不確実になる。それゆえに、太平洋の地域機関である太平洋諸島フォーラム(PIF)は、2018年の地域安全保障宣言(ボエ宣言)の中で「気候変動は、太平洋地域の人々の生計、安全保障、福祉を脅かす最大の単独要因」と記し、2022年のPIF会議では、太平洋諸国の首脳らが、地域は「気候非常事態」にあると宣言した。
太平洋地域における気候変動に伴う安全保障リスクは、さまざまな次元で現れる。「気候戦争」あるいは気候変動に起因する国内の大規模な暴力的紛争が起こる可能性は低いものの、局所的かつ日常的な状況における紛争や暴力は起こっている。例えば、減少する天然資源、特に土地、水、または漁業資源をめぐるコミュニティー間またはコミュニティー内の紛争である。太平洋地域の数少ない都市中心部の非公式居住区では、気候変動のためにさまざま農村部やさまざまな島から移転してきたコミュニティー間の紛争がある。非公式居住区は、犯罪や家庭内暴力およびジェンダーバイアスに基づく暴力の発生率が比較的高い場所でもある。また、サイクロンのような異常気象の後や移住を余儀なくされた後にも、これらの発生率が高くなる。最後に、一部の低地環礁国(ツバルなど)では、国家安全保障、あるいはその存続さえもがリスクにさらされている。
また、太平洋諸島民が安全保障を拡大的かつ全体的に理解しており、それには存在論的安全保障や関係性の安全保障も包含されることを考慮に入れなければならない。過去数年間、戸田平和研究所は、太平洋地域のパートナーと協力し、気候・紛争・平和・安全保障の関連性に対する太平洋特有の理解を、主流の(「西洋的」、「北半球的」、あるいは「国際的」な)支配的言説に送り込もうとしてきた。そのスタートが、「戸田記念国際平和研究所・気候変動、紛争、平和に関する太平洋宣言」(2019年)である。また、気候と平和に関する主流の国際的な考え方と太平洋的アプローチとの間の対話を促進しており、つい最近も「変化する気候における太平洋地域とその人々: 太平洋の知恵と多面的関係性の安全保障」に関するワークショップを開催した。
「救済、回復、平和」と「最前線コミュニティー」というテーマに照らして考えると、太平洋諸島民にとって特に重要な課題のいくつか(「人間の移動と強制移住」、「低地島における適応と気候レジリエンス」、「多面的危機に直面する国やコミュニティーに対する気候行動の促進」など)がCOP28で取り上げられることは励みになる。これによりさまざまなステークホルダー間の対話を実現する道が開けるし、太平洋島嶼民はそれに対して貢献できることが多くある。太平洋島嶼民は、COP28で太平洋の声を聞き届けてもらうために「あらゆる手を尽くす」と決意している。島民たちの化石燃料のない未来を求める声が、UAEの国営石油会社の長を務めるCOPホストにあまり気にいられないことは予想される。
フォルカー・ベーゲは、戸田記念国際平和研究所の上級研究員である。