政策提言

北東アジアの平和と安全保障 (政策提言 No.257)

2025年11月17日配信

朝鮮半島と北東アジアにおける相互安心供与を目指して: 2025年戸田研究クラスターの比較・総合

崔鍾建(チェ・ジョンゴン)

Jarretera / shutterstock.com

要旨

本報告書では、朝鮮半島における安心供与に関する2025年戸田研究クラスターによる研究結果を総合的に整理したものであり、米国、韓国、日本、中国、ロシア5カ国の理論的、国家的、政策的視点をまとめる。拡大する大国間競争や対立するブロックの形成が進む状況を背景に、参加者たちは抑止だけでは安定性を維持することはできないと主張する。五つの中核的論文の知見に基づき、本報告書では、相互の「安心供与」を、誤解を低減し、抑制の意志を示し、意思疎通を制度化するための確実な措置と定義し、抑止力を補う不可欠の要素であると位置づける。分析では、軍備管理に基づくリスク低減、南北朝鮮間および多国間チャンネルの回復、同盟の態勢の慎重な調整、首脳レベルの信頼性向上に向けた集約的提言を提示する。非核化という長期的目標を認識しつつも、本報告書では当面の安定性に向けた実際的な道筋を重視し、北東アジアにおいて持続可能な安心供与の構造を構築するための枠組みを提示する。

 現在の国際体制において、朝鮮半島は依然として最も重武装した政治的に不安定な地域の一つである。休戦協定調印から70年以上を経てもなお、朝鮮戦争は正式に終結しておらず、朝鮮半島は脆く不安定なパワーバランスのもとに置かれ続けている。軍事的対立は抑止されているものの、持続可能な平和の状態には至っていない。周期的な危機、核・ミサイル実験、威圧的示威行動が繰り返され、抑止力は絶えず再確認されるものの相互信頼は決して構築されないというパターンが定着している。

 このような状況を背景に、戸田記念国際平和研究所は2025年に「朝鮮半島における安心供与に関する研究クラスター」を発足させた。クラスターの中心的な問いは、抑止と制裁のみに依存する状況から脱して、朝鮮半島の紛争に直接・間接に関与する当事者の間に相互安心供与の具体的メカニズムを策定することが可能かどうかである。ここでの安心供与とは、善意への素朴な訴えではなく、一連の戦略的措置として理解される。すなわち、誤解を低減し、抑制のシグナルを送り、エスカレートする前に危機を管理するチャンネルを創出するという戦略的な行動であり、言葉による約束、制度的枠組み、軍事の態勢である。

 2025年10月に東京で開催したワークショップでは、韓国、日本、中国、米国の研究者・元政策決定者およびメディア関係者が一堂に会した。中心的に分析を担ったのは、フランク・オウム(Frank Aum)、西野純也、王棟(ワン・ドン)、リード・ポーリー(Reid B. C. Pauly)、チョン・ジェユン(Jae-Yoon Jung)の各氏である。彼らの論文は、共通の問題にさまざまな角度からアプローチしたもので、理論的、また米国、日本、中国からの視点やジャーナリスト的な政策視点に基づいている。彼らがともに前提とする情勢は、(1) 米中の戦略的競争の激化、(2) 日米韓と中朝露という二つの地域ブロックの可視化、(3) 南北朝鮮間および多国間外交における深刻な制度劣化の進行を特徴としている。

 本会議報告書では、これらの論文と1日半にわたるディスカッションの主な論点をまとめ、共通するテーマや相違点を明らかにし、戸田記念国際平和研究所の現行の取り組みに生かすべき政策的示唆を引き出す。本報告書は、4段階で論を進める。第1に、研究クラスターの背景と目的を紹介する。第2に、個別の論文の概説と比較を行い、まず理論的基盤を、その後に主要な国家的視点を検討していく。第3に、執筆者間の一致点と相違点を、特に抑止、強制外交、安心供与の関係について分析する。最後に、政策に関連する一連の結論を提示するとともに、今後の研究や提言の道筋を提案する。

 全体的な所見は明確である。相互安心供与は贅沢品ではなく戦略的必需品であるということだ。完全な非核化がもはや近い将来現実的に見込めなくなった状況において、安心供与は、抑止を安定化し、誤算を低減し、今後の進展をもたらす政治的余地を生み出すために利用できる主要な手段となる。

 朝鮮半島における安心供与に関する研究クラスターは、政策議論を抑止と強制的圧力という狭い視点から脱却させるという明確な目標をもって設置された。出発点となる前提は、抑止は必要であるものの、永続的な安定性を実現するには十分ではないということだ。脅威だけで平和を無限に維持することはできない。敵対国が攻撃をやめた場合は罰を受けない、あるいは少なくとも彼らが一定のルールに従う場合は基本的安全保障が損なわれないという信頼できる保証によって補う必要がある。

 研究クラスターには、二つの主要目的が課せられた。第1は分析的な目的であり、「安心供与」が理論上および実践上何を意味するか、また、融和、誘引、単なる「信頼醸成」といった関連概念とはどのように異なるのかを明確にすることである。第2は政策志向の目的であり、朝鮮半島紛争の関係国である北朝鮮、韓国、米国、中国、日本、ロシアが、緊張を緩和して紛争リスクを管理するために現在の環境で現実的に取り得る具体的措置を特定することである。

 参加者たちの意見は、朝鮮半島の不安定性が少なくとも二つの構造的傾向によって引き起こされているという点で一致した。第1は、北東アジアにおけるブロック政治の出現である。キャンプ・デービッド首脳会談とその後の合同軍事演習に示されるように日米韓3カ国協力が深化する一方、同じように中朝露の政治的、軍事的、象徴的協力がいっそう密になっている。2025年9月に北京で行われた軍事パレードに習近平、ウラジーミル・プーチン、金正恩(キム・ジョンウン)が揃って登場したことは、この新たな連携関係を強烈に印象付けるものとなった。こうした環境では、双方が、相手側の防衛的な措置を攻撃的な脅威と再解釈し、それによって古典的な安全保障のジレンマを深めてしまう傾向がある。

 第2の傾向は、制度化された対話ルートの衰えである。南北朝鮮間の連絡事務所は破壊された。軍事ホットラインは切断され、断続的に復旧するのみである。六者会合は交渉の場として機能しなくなって久しい。その一方で、ソウルとワシントンの間で発足した核協議グループ(NCG)のような新しいメカニズムが抑止力を強化したが、平壌(ピョンヤン)との直接的なリスク低減を図るチャンネルは組み込まれていない。

 そこで研究クラスターでは、安心供与を抽象的な規範的願望ではなく実際的なリスク管理戦略として扱う。現実的にどのような種類の安心供与を提供し、受け取ることができるか、どのような条件下でそれらは信頼性を持ち得るか、それらをどのように制度化すれば将来のエスカレーションを抑制できるかを探求する。このような観点に基づいて、個々の論文は読まれるべきである。

 リード・ポーリーの論文は、クラスターの取り組みに概念的バックボーンを提供する。自身の著書“The Art of Coercion”と最近の論文に基づいて、ポーリーは、強制の広範なロジックの中で安心供与がどのように機能し、なぜそれが朝鮮半島の安定化を図るあらゆる努力において中心的役割を果たすのかを明確にしている。

 ポーリーは、異なる三つの形態の安心供与を分析的に区別している。第1に、敵対国への安心供与は、「あなたを害するつもりはない」、より正確には「あなたが特定の行為を控える限り、私はあなたを攻撃しない」という意志を伝える試みである。この種の安心供与は、防衛的意図を示し、認識される野心の範囲を狭めることによって、安全保障のジレンマを緩和することを目的としている。第2に、強制的安心供与とは、強制関係にある相手に「私の要求に従うなら、あなたをこれ以上罰しない」と実質的に宣言するものである。これが、トーマス・シェリングの強制による安心供与という概念の本質である。第3に、同盟による安心供与は、同盟国を防御し、拡大抑止のコミットメントを堅持するという約束から成る。

 全参加者のディスカッションによれば、朝鮮半島では三つ全ての形態が同時に作用している。米国と韓国は互いの国と日本に対し、同盟が引き続き信頼できるものであると安心を与え、同時に北朝鮮に対しては、平壌が攻撃をしないなら体制変革を求めないというシグナルを送っている。それと同時に、ワシントンとソウルは平壌に対し、核兵器か通常兵器かを問わず合意を遵守することは、新たな要求を招くのではなく実際の安全保障と経済的利益をもたらすと伝えなければならない。

 ポーリーは、「安心供与のジレンマ」を強調している。強制外交が成功を収めるためには、脅威が現実のものであること、遵守によって本当に懲罰を回避または軽減できることの両方を、相手に納得させなければならない。要求が大きすぎる場合、あるいは相手の行動にかかわらず懲罰を与えるつもりがあることをリーダーが示唆する場合、安心供与は信頼性を失う。そのような状況では、相手は「やってもダメ、やらなくてもダメ」だと考える可能性が高く、従って遵守するより抵抗または防衛することになるだろう。

 このような観点から、ポーリーは、交渉の出発点として完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)を強く要求するという長年の姿勢は図らずも抑止の安定性を低下させていると主張し、参加者の幾人かがこれを支持した。非核化は強制的目標である。北朝鮮が国家存続の中心的役割を果たすと見なしている能力を放棄するよう、同国に強制することによって現状を変更することを目指すものだ。これに「体制の終焉」をほのめかす言葉遣いが加われば、そのような要求は、核を放棄すれば結局破滅を招くというシグナルを北朝鮮に送り、ひいては自制が安全をもたらすという安心供与を弱体化させる。

 彼はさらに、シグナルの送り方も重要だと述べる。合同演習を縮小する、あるいは体制変革を求めないことを公言するといったコストを伴う抑制のシグナルは、エスカレーションを避けるためなら一国が国内または同盟内のコストをいとわないと示すことによって、安心供与を強化することができる。それとは対照的に、首脳を標的にする能力を誇示する軍事演習や先制攻撃を重視する政策は、それらを慎重に調節した場合に限り抑止を安定化する効果を発揮し得るが、敵対国の核戦力について「使わなければ失う」という誘因を生み出すリスクを伴う。

 ポーリーは、安定化を目指すいかなる戦略も、抑止力と安心供与のバランスを取り直す必要があると結論する。これは抑止力を放棄するということではなく、レッドラインを明確にし、短期間で過剰な目標を追求することを避け、敵対国が協力を通して安全保障を高めることができるような枠組みの中に抑止力を組み込むことを意味する。ポーリーの理論的洞察は、他の執筆者が展開したより具体的な提案の土台となるものだ。

 フランク・オウムの論文「安定的共存による朝鮮半島における相互安心供与の構築(Building Mutual Reassurance on the Korean Peninsula Through Stable Coexistence)」は、ポーリーの理論的枠組みを踏まえ、それを詳細な政策アジェンダへと練り上げるものだ。オウムは、平壌の現行の政策、能力、国内的正当性の必要を考えると、北朝鮮の完全な非核化は近い将来達成することはできないという厳しい現状認識から始める。しかし、これは外交が無駄だという意味ではないと彼は主張する。むしろ彼は、根本的な対立を「解決」することよりも「管理」することを目的とする「安定的共存の枠組み」を提案する。

 そのような枠組みは、相互に補強し合う五つのテーマに基づく。

  1. 主権尊重に基づく安定的共存
  2. オウムは、米国と北朝鮮が、相互の主権尊重と内政不干渉を強化する期間限定の政治的合意を取りまとめることを提案する。これには、朝鮮戦争の終結を正式に確認する象徴としての終戦宣言、それに加えて不可侵の文言、関係正常化に向けた尽力の約束を盛り込むことが考えられる。このような措置は、北朝鮮を正当な核保有国と認めるものではないが、ワシントンが体制変革を求めているという平壌の根本的懸念に対処するものである。

  3. 核承認を伴わない軍備管理
  4. 即時的な非核化は困難であることを認識したうえで、オウムは、リスクの低減と能力の制限を目指す軍備管理に重点を置いたアプローチをすべきであると提案する。考え得る措置としては、核実験および長距離ミサイル実験の一時停止、寧辺などの主要核施設の閉鎖、核物質、核技術、また運搬システムの輸出禁止の誓約、極超音速滑空体やMIRV(複数個別誘導再突入体)化ミサイルのような前線配備型また高度に不安定化をもたらすシステムの制限などがある。北朝鮮の核保有を正当化することなく危機のエスカレーションのリスクを低減する、具体的かつ検証可能な措置に重点が置かれる。

  5. 最前線のガードレール(安全装置)
  6. 2018年に南北朝鮮間で結ばれた包括的軍事合意(CMA)は、飛行禁止区域および航行禁止区域、非武装地帯(DMZ)の監視所撤収、共同警備区域の非武装化といった、慎重に策定された信頼醸成措置が偶発的衝突のリスクを大幅に低減できることを実証した。オウムは、これらの条項を復活および更新することのほか、サイバー事案ホットラインや大規模演習の事前通報体制を設置することを求めている。これらの「ガードレール」は、日常的な軍事活動が攻撃準備と誤解される危険を低減するため、安心供与の重要な手段である。

  7. 人道、教育、社会面での交流
  8. オウムは、公衆衛生、災害管理、農業、離散家族の再会といった限定的で低リスクな協力分野における相互に合意した「ホワイトリスト」プロジェクトであれば、情報流入を統制したいという平壌の意向を尊重しつつ、交流の習慣を築くことができると主張する。彼は、資金の流用や人道支援の政治利用を防ぐために、エスクロー(第三者預託)制度と審査を受けた実施組織の利用を推奨する。これらの取り組みは、北朝鮮の政治体制の変革が主目的ではなく、人々の苦痛を軽減し、継続的関与の基盤を徐々に広げていくことを目的とする。

  9. 地域における足場
  10. 最後にオウムは、朝鮮半島におけるいかなる安心供与体制も、地域の安全保障構造に組み込まれなければならないと強く主張する。彼は、南北朝鮮、米国、中国、日本、ロシアが関与するトラック1または1.5レベルの「北東アジア・リスク削減フォーラム」を提案する。フォーラムは必ずしも六者会合に取って代わるものではなく、海上および航空領域での衝突回避、実験通報手順、危機時連絡体制、輸出管理執行などについて協議する実務的議論の場としての役割を果たすものだ。

 これら五つの柱を合わせることで、対立関係を管理する「オペレーティング・システム」とすることができる。しかし、これが決着点ではないということを参加者たちは強く共有した。歴史的不満を解消するわけでも、北朝鮮の核兵器が解体されるわけでもない。むしろ、紛争に至る道筋を狭め、将来的により野心的な目標を追求するための可能性を確保することを目指している。我々は、短期的な目標の設定は控えめに、関与の論理を再構築する試みは大胆(または野心的)であるべきかもしれないということには、すべての参加者が同意した。

 西野純也の論文「朝鮮半島における相互安心供与の構築: 北朝鮮の核問題に対する日米韓の協調したアプローチ(Building Mutual Reassurance on the Korean Peninsula: Coordinating ROK, Japan, and US Approaches to North Korea’s Nuclear Challenge)」は、日本の重要な視点を提示する。彼はまず、日本にとって北朝鮮の核問題は遠い脅威でも抽象的な脅威でもなく、差し迫った存亡にかかわる懸念であると強調した。北朝鮮の弾道ミサイルはほとんど前触れもなく日本の領土を攻撃することが可能であり、平壌が展開するドクトリンは明らかに日本を敵対国かつ潜在的標的と位置付けている。

 西野は、このような観点から、北朝鮮に対するいかなる安心供与政策も、ソウル、東京、ワシントンの間の緊密な三者協力に組み込まれる必要があると主張する。日本の安全保障上の利益を軽視した安心供与は、政治的に持続不可能であり、むしろ同盟の結束を弱体化させる恐れがある。

 韓国の李在明(イ・ジェミョン)大統領の公式な提案に沿って、西野は、北朝鮮の核・ミサイル計画に対処するための3段階のロードマップを提案する。

  1. 凍結
  2. 第1段階では、北朝鮮の核・ミサイル能力のさらなる質的・量的拡大を凍結することが優先される。そのためには、核実験、ICBM(大陸間弾道ミサイル)および長距離ミサイルの発射、核分裂性物質の製造を、何らかの監視のもとで停止する必要がある。凍結には何が含まれるか、それをどのように検証するか、何をもって違反とするかなど、正確な定義については、韓国、日本、米国が共同で合意する必要がある。

  3. 削減
  4. 第2段階では、基本的な信頼と検証メカニズムが確立された後、目標が備蓄削減と特定施設またはシステムの解体に移行する。そのためには、弾頭の部分的解体、施設の転用、あるいは国際的監視下での長期保管が必要になるかもしれない。

  5. 非核化
  6. 最終段階で初めて、完全な非核化が追求される。西野は、この目的を放棄するべきではないと主張するが、それは長期的な大目標であり、そのためには最初の2段階を通じた当面の安定化を必要とすることを認めている。

 このロードマップに加え、西野は三つのテーマを強調している。第1に、南北朝鮮間の対話インフラの必要性である。特に1991年の南北基本合意書と2018年の南北包括的軍事合意(CMA)に定められた南北共同軍事委員会はこれまで機能していない。そのようなメカニズムがなければ、たとえ善意の政策でも危機の際には瓦解する危険性があると、彼は主張する。

 第2に、韓国と日本の国内における国民的コンセンサスの重要性である。彼の見解では、2018~2019年の和平プロセスが崩壊した原因の一部は、政治的分極化と和平に伴うトレードオフに関する国民の理解不足である。安心供与戦略が永続的なものになるためには、社会と議会レベルの幅広い支持の上に立脚しなければならない。

 第3に、長年にわたる拉致問題を含む日本固有の懸念に取り組むことである。日本人拉致被害者の安否に関する平壌からの信頼できる措置がなければ、いかなる日本政府にとっても大規模な経済支援や国交正常化を承認することは政治的に難しい。西野は、安心供与とは純粋に軍事的または戦略的な概念にとどまらず、人間的、道徳的な側面があり、それを無視することはできないと強調する。

 一部の参加者からは、拉致問題が安心供与の議論に絡むことを懸念する声が上がった。政策の優先順位という点で、拉致問題は日本の戦略的思惑に利することはなく、北朝鮮に対処するうえで戦略的機動性を制約するものだと、これらの参加者は主張する。

 全体的に、西野の分析は、現実主義と順序付けを重視するという点でフランク・オウムの分析と一致するが、日本がないがしろにされるなら朝鮮半島における安心供与は成功し得ないという重要な知見をそれに加えるものである。

 王棟(ワン・ドン)の論文「中国の責任ある安心供与から北東アジアにおける相互安心供与へ(From China’s Responsible Reassurance to Mutual Reassurance in Northeast Asia)」は、朝鮮半島問題を米中戦略競争と地域ブロック形成というより広範な情勢の中で位置付けている。北東アジアは、かたや米中韓ブロックの強化、かたや中朝露のグループ形成に特徴付けられる、構造的不安定性増大の時代に入っていると、彼は主張する。歴史的恨み、権力移行、リーダーシップ交代は、ドナルド・トランプがホワイトハウスに返り咲いたことによってさらにこじれ、態度の硬化に拍車をかけている。

 王は、中国の地域政策の基本理念として「責任ある安心供与」という概念を紹介する。彼は、北京にとって朝鮮半島における大規模な紛争を防止することは、自国の安全保障を守るためにも経済発展をもたらす環境を維持するためにも、利益にかなうことである。責任ある安心供与とは、彼の使い方では、戦略的自制を働かせ、レッドラインを明確に示し、誤判断のリスクを低減するメカニズムに積極的に参加することを意味する。

 彼は、相互安心供与をもたらす中国戦略の4本柱の概略を示した。

  1. 米中関係の安定化
  2. 王は、北東アジアの安全保障にとって最大の変数は米中関係の行方だと主張する。競争は不可避であるものの、それを一定の範囲内に収めるメカニズムを彼は求める。例えば、危機管理ホットライン、軍当局間の対話、お互いの中核的利益の相互尊重を確認する定期的な首脳会談などである。

  3. 日本および韓国との関係の管理
  4. 安全保障や歴史問題に関する不一致が根強く残るとはいえ、貿易、環境保護、パンデミック対策などの分野では、中国が引き続き日本および韓国との3カ国協力を進めることを彼は提言する。このような「分野別切り分け」は、緊張がより広範な対立へと波及するのを防ぐために有益である。

  5. 朝鮮半島における紛争防止
  6. 王の見解では、北京は、平壌、ワシントン、あるいは他の政府の力による現状変更のいかなる試みにも反対するべきである。訪問や記念行事への出席など、中国が近頃行っている北朝鮮とのハイレベル交流を、連帯のシグナルを送るためだけでなく、自制を促すためにも用いるべきだと指摘している。

  7. 南北間対話の促進
  8. 最後に王は、特にソウルが非敵対政策と北朝鮮の政治体制の尊重を維持するなら、北朝鮮に対して韓国との対話を再開するよう促すうえで、中国が有益な役割を果たし得ると提案する。

 トランプ2.0時代に対する王の見解は、中国の視点から慎重ながらも楽観的なものだ。彼は、米国が一定の戦略的縮小を図り、同盟国は自らの安全保障管理をこれまでより多く負担することになると予想している。これにより、中国を含む地域アクターがより大きな主体性を発揮し、北東アジアにおける包摂的な多極的秩序を形成する余地が生まれると、彼は主張する。さらに彼は、朝鮮半島における安心供与は大国間競争の管理というより広範な課題と切り離すことはできないという重要な地域的見地を加えている。

 チョンの論考は、ディテールやナラティブに対するジャーナリストの視点を議論にもたらすものだ。彼女の論文「南北朝鮮は、中国、日本、米国、ロシアとともに、いかにして相互に安心を供与し、紛争リスクを低減できるか(How Two Koreas, Along with China, Japan, the US, and Russia, Can Reassure One Another and Reduce Conflict Risks on the Peninsula)」は、2025年9月3日に北京で行われた軍事パレードの迫力あるイメージから始まる。第2次世界大戦勝利80周年を祝うパレードには、習近平、プーチン、金正恩(キム・ジョンウン)が揃って姿を見せた。チョンは、このイベントを、朝鮮半島が競い合うブロック政治の中心に位置する新冷戦の視覚的宣言であると解釈している。

 このような文脈において、チョンは李在明(イ・ジェミョン)大統領とドナルド・トランプ大統領のもとで進展する米韓同盟の動きに注目する。彼女は、金正恩との個人的な信頼関係を主張するトランプの「ピースメーカー」としての役割と、外交的注目の独占ではなく米朝対話の条件整備に重点を置く李大統領が自称する「ペースメーカー」としての役割の対比を浮き彫りにする。平壌が、南側による拡声器放送の停止といった李大統領の融和的ジェスチャーの一部に素早く反応した一方で、依然としてソウルを公然と非難し、米国が唯一の交渉相手であると主張し続けていると述べている。

 チョンは、いくつかの実際的な所見や提案を示している。

  • 第1に、協議再開の際は「完全な非核化」を交渉課題の前面に押し出すべきではないと主張する。むしろ、核やミサイル実験の一時停止、制裁の一部解除、北朝鮮付近での合同軍事演習の制限といった、達成可能なステップに重点を置くべきである。
  • 第2に、公式の外交使節団を通してであれ信頼できる仲介者を通してであれ、米朝間の定期連絡チャンネルを再構築することの重要性を強調する。2019年にそのようなチャンネルがなかったことが、ハノイ首脳会談の破綻とその後の外交凍結の一因になったと指摘する。
  • 第3に、米韓同盟の近代化は、その枠組みと実施方法によって、脅威とも安心供与とも解釈され得る。半島の範囲を超えて作戦能力を大幅に向上させる、例えば在韓米軍の「戦略的柔軟性」を重視するといった方法で近代化を図るなら、それは平壌と北京の双方に警戒をもたらすかもしれない。しかし、半島に安定をもたらす抑止の手段として近代化を位置付け、それと併せて軍事演習と展開を自制するなら、 それは安心供与に寄与する可能性がある。
  • 第4に、モスクワと平壌が関係を深めていることから、ロシアとのトラック2または準公式対話の潜在的重要性を強調する。ウクライナ戦争と西側の制裁により公式な交流は制約されるものの、韓国と日本が非公式チャンネルを用いて半島に対するロシアの見方を探り、エネルギーや輸送プロジェクトといった共通の利益が見込まれる分野を特定することができるだろうと、彼女は提案する。

 チョンは、リーダーシップと認知の政治学を強調した。安心供与とは、条約や制度だけの話ではなく、首脳同士や、国内の聴衆とどのようにコミュニケーションを取るかという話でもある。首脳会談の論調、譲歩の順序、期待値の管理はいずれも、新たな外交の糸口を維持するために極めて重要である。

 5人の主要論文を総合すると、重点や詳細は異なるとしても、広範な政策の方向性については顕著な意見の一致が明らかになる。

 一致点については、四つの点が際立っている。

  • 非核化を最優先する外交の否定
  • 全ての執筆者が、関与の前提条件として即時かつ完全な非核化を要求することは現在の状況では現実的ではないと認識している。大多数にとって非核化は依然として長期的な目標であるが、短・中期的重点は軍備管理、リスク低減、安定化に移行しなければならない。

  • 抑止と安心供与の相補性
  • 安心供与は、抑止力に取って代わるのではなく、むしろ、抑止を安定化し、高度化するよう設計されるべきである。純然たる抑止力中心のアプローチは、軍拡競争か偶発事が起こりやすい膠着状態をもたらす恐れがある。しかし、信頼できる安心供与や明確なシグナル発信とを併用することで、抑止力をより予測可能に、よりエスカレートしにくくすることができる。

  • 制度化されたコミュニケーションの重要性
  • 全ての執筆者が、南北軍事委員会、連絡事務所、ホットライン、リスク低減フォーラム、多国間対話など、メカニズムの新設または再活性化を求めている。これらは、誤解が壊滅的な結果を引き起こしかねない地域において、安心供与のために最低限必要な枠組みと見なされる。

  • トランプ2.0を構造的変数として認識
  • これに対する見解がポジティブなものであれ、ネガティブなものであれ、執筆者たちは、2期目のトランプ政権は、予測不能性と取り引き的傾向ゆえのリスクと、金正恩との個人的関係や劇的な外交ジェスチャーへの関心ゆえの機会の両方をもたらすと想定している。そのため、同盟国間で協力を行い、いかなる新たな関与も慎重に策定する必要が強まっている。

 相違点としては、いくつかの違いが浮上した。

  • 主要因子と変化の所在
  • オウムとチョンは、安心供与を構築する決定的領域として米朝間チャンネルを特に重視している。それに対し、西野と王は、3カ国および地域枠組みの重要性を強調し、半島の安定性はより広範な北東アジアの秩序と切り離すことはできないと主張する。一方、ポーリーは特定の場よりも、いかなる状況でも信頼できるコミュニケーションを行うという論理に関心を持っている。

  • 中国の役割
  • 王にとって、中国は中心的かつ建設的なアクターであり、その政策決定は地域が対立に向かうか協調に向かうかを大きく左右する。他の論文では、中国は安心供与の主要な推進役というより、むしろ必要なステークホルダーであり、平壌に影響力を及ぼす源泉として扱っている。

  • 同盟の態勢
  • 西野は、安心供与を模索しながらも同盟による抑止を維持し、むしろ強化する必要があることを最も明確に述べている。オウムとチョンは、抑止に反対ではないものの、平壌を安心させるために演習や軍の態勢調整を可視化することを支持している。ポーリーは、ある種のシグナル、特に先制攻撃能力を強調するシグナルを送ることは、安心供与にとっては逆効果になりかねないと警告する。

  • 時間軸
  • ポーリーの分析は、強制的な関係の長期的安定性に向けられている。オウムとチョンは、短・中期的に危機を回避してチャンネルを再開する必要性に重点を置いている。西野と王は、短期的立場を取っており、今後数年の政策が10年以上にわたる地域の行方をどのように形成するかに目を向けている。

 これらの相違点は、根本的な意見の相違とまではいえない。むしろ、それぞれの執筆者が共通の問題に取り組むうえでの異なる観点(理論的、国家的、専門的観点)を反映している。戸田研究クラスターの目的において、このような視点の多様性は資産である。実行可能な手段の範囲を特定し、2国間から地域規模まで多元的な安心供与が必要であることを強調するために役立つ。

 比較分析により、戸田記念国際平和研究所の今後の取り組みとより広範な政策論の両方にとって指針となり得るいくつかの政策的示唆が導き出される。

 第1に、安心供与は、その場しのぎの措置ではなく、構造化された戦略として追求されるべきである。クラスターの取り組みから、ある順序が浮かび上がる。初期の安定化措置(実験の一時停止、連絡チャンネルなど)、次いで制度化(リスク低減フォーラム、共同委員会など)、そして安定性が長期間続いた後、より野心的な政治的変更の検討を行うというものだ。このような順序のロジックは、凍結-削減-非核化のロードマップとよく似ており、安定的共存という概念と一致する。

 第2に、オウムが提案し、王の地域ビジョンとも大まかに一致する北東アジア・リスク削減フォーラムの策定という説得力のある主張がある。そのようなフォーラムでは、最初は穏健で実務的な議題(ミサイル実験の通知、NOTAM/NOTMAR<航空機への通報/船舶への通報>手順の標準化、海上での海事事案の報告、サイバーインシデントの報告)を取り上げることとするが、いずれは徐々に欧州におけるOSCE(欧州安全保障協力機構)のリスク削減メカニズムに匹敵する主要な機関へと発展させることができるかもしれない。

 第3に、南北間メカニズムの活性化が不可欠である。米朝関係がどのような状況であれ、南北朝鮮が接する国境は重武装され、日常的に誤判断のリスクに直面している。共同軍事委員会の運用、ホットラインの復旧、非武装地帯(DMZ)周囲に新方式の緩衝地帯を実施することによって、安心供与の目的に直接寄与することができるだろう。政治的対話が限定的なままでも、実務的チャンネルがあれば緊張を低減することができる。

 第4に、クラスターの分析結果は、非核化と安定性という目標のバランスを取り直す必要があることを強調する。非核化は国際社会の長期目標であり続けるべきだが、その目的に向けた措置のみを進捗と見なすとしたら、図らずも半島の安全を低下させる恐れがある。政策は、部分的な軍備管理措置、信頼醸成措置、経済協力または人道的協力でも、それ自体がリスク低減に寄与するという点で有益であり得ることを認識するべきである。

 第5に、今回の取り組みで、国民のコンセンサスと同盟の協調の重要性が浮き彫りになった。国民から認識が甘すぎる、一方的である、または国の安全保障課題との関連性が不十分であると見なされる安心供与戦略は、持続する見込みが薄い。これは特に、日本の国内政治を強調する西野の主張と、2018~2019年の和平プロセスをめぐる韓国内の議論の記憶に顕著に見られる。従って、国民との透明性の高いコミュニケーション、立法機関との協議、同盟国間の調整は極めて重要である。

 第6に、クラスターの分析により、安心供与が前進するか後退するかを決める中心領域は引き続きトランプ-李-金の三者関係であり続けることが示唆される。関係者のパーソナリティーや傾向を考えると、危険と機会の両方が存在する。戸田記念国際平和研究所や他のトラック2にかかわるアクターは、アイデアを生み出し、信頼醸成措置を提案し、公式の交渉が行き詰まった時にも開かれたチャンネルを維持するために、建設的な役割を果たせるかもしれない。

 朝鮮半島における安心供与に関する2025年戸田研究クラスターは、相互安心供与が理論的にも実務的にも今日の北東アジアにおいて必要不可欠なものであることを明確に示した。これらの論文から浮かび上がる安心供与とは、軟弱あるいは理想主義的な幻想ではなく、根深く長期にわたる紛争を管理し破滅リスクを低減するための、現実的な戦略である。

 クラスター参加者らは、パワー・ポリティクスの現実を否定せず、北朝鮮の核兵器、各国の国内政治、あるいは大国間競争がもたらしている問題を過小評価もしていない。彼らがこぞって主張していることは、抑止と制裁に過度に依存すれば、特にそれと併せて過剰な要求をする場合は、最終的に地域は野放しの軍拡競争または危機のエスカレーションへと向かっていくだろうということだ。それに対し、慎重に計画された抑止、軍備管理、安心供与の組み合わせは、誤判断の可能性を狭め、予測可能性を高め、将来の政治的転換の余地を確保する道筋である。

 戸田記念国際平和研究所が取るべき次のステップは、これらの分析的知見を具体的な政策関与につなげることである。これには、当局者や専門家とのシナリオ・ワークショップ、危機管理メカニズムのシミュレーション、あるいは具体的なガードレールやコミュニケーション手順に関するモデル合意の起草などが考えられる。また、安心供与は敵対国への譲歩ではなく、共に存続するための投資であるということについて、より幅広い理解を促すために、市民社会、議会、メディアに働きかける必要もあるだろう。

 相互安心供与は、それ自体が歴史的恨みやイデオロギー的分断を解決するわけではなく、ただちに朝鮮半島から核兵器をなくすわけでもない。しかし、核兵器が決して使われないようにし、危機がエスカレートする前に管理し、北東アジアの人々が再びの大戦の惨禍を免れるよう保証するために、安心供与は役立つであろう。大国間競争の再来と加速する技術変革の時代において、それだけでも重要な成果であり、政策策定の軸とする価値を持っている。

崔鍾建(チェ・ジョンゴン)は、延世大学政治外交学科の教授であり学科長を務めている。韓国大統領府(青瓦台)で平和・軍備管理担当秘書官を務めた後、平和企画担当秘書官を歴任した。2020年に韓国外務省第1次官に任命された。最年少かつ民間人として初めての就任であった。北東アジアの安全保障に重点を置いた国際関係論の専門家として、「International Security」、「Review of International Studies」、「International Politics」、「The Washington Quarterly」、「Foreign Policy」、「Global Asia」などの主要学術誌に論文を発表している。近著『Power of Peace』および『辺境から中心へ 文在寅回顧録 外交安保編』(文在寅元大統領との共著)は、2023~2024年に韓国の社会科学・時事問題カテゴリーにおけるベストセラーとなった。