協調的安全保障、軍備管理と軍縮 (政策提言 No.215)
2025年03月20日配信
現状を把握し前進する――
国連「未来のための協定」の
「国際平和と安全保障行動」の機会と課題
アポリーン・フォーディット、キース・クラウス

Image: Kjpargeter/shutterstock
要旨
本報告書は、2025年1月30日~31日にジュネーブで開催された紛争・開発・平和構築研究センター(CCDP)と戸田記念国際平和研究所が開催した「未来のための協定」に関する国際会議での主要な洞察と議論をまとめたものである。この会議では、以下のような差し迫った問題について議論がなされた。
未来のための協定は、グローバルな平和と安全保障の強化にどのような役割を果たすことができるのか?
国際協力が一層脆弱になっているこの時代に、増大する多国間主義の課題にどのように対処できるのか?
包摂的なガバナンスと紛争予防を推進するためにどのような機会を提供するのか?
本報告書では、「未来のための協定」がもたらす平和と安全保障への影響と、より効果的で包摂的なグローバル・ガバナンスの実現に向けた機会について明らかにする。
はじめに
2025年1月30日~31日にCCDPと戸田記念国際平和研究所が開催した国際会議には、平和と安全保障に関する世界的、地域的、そして国家的な関与のための革新的アプローチを明らかにするため、主要な研究者や実務家が一堂に会した。この会議では、以下のような差し迫った問いについて議論がなされた。「未来のための協定」は、グローバルな平和と安全保障の強化にどのような役割を果たすことができるのか? 国際協力が一層脆弱になっているこの時代に、増大する多国間主義の課題にどのように対処できるのか? 包摂的なガバナンスと紛争予防を推進するためにどのような機会を提供するのか? 会議では活発な議論を通じて、最新の分析から得られた知見と実践的行動のためのイニシアチブを結集させ、「未来のための協定」の公約を意味のある実行へと移す方途について対話を促進することを目指した。
新型コロナウイス(COVID-19)パンデミックの余波を受けて2021年に提案された未来サミットの背景にある発想は、多国間システムが世界的危機に効果的に対応できなかったという認識から生まれた。アントニオ・グテーレス国連事務総長は、世界のリーダーたちに多国間主義への関与を新たにするために結集するよう促した。しかしそれ以降、世界はさらに分断され、対立が深まるばかりとなった。2024年9月23日に国連総会が首脳会合のために招集された時点で、国連はその歴史上最も困難な時期の一つに直面していた。ウクライナとガザでの継続的な戦争が世界的な分断を深める一方、多くの加盟国は国連が持続可能な開発、気候変動対策、そして財政改革に関する取り組みを果たしていないとみなしていた。
大きな緊迫感があったにもかかわらず、首脳会合は三つの画期的な合意に至った。それは、「未来のための協定(事務総長の新たな平和への課題を推進するもの)」、「グローバル・デジタル・コンパクト(=デジタル協力のための包括的な世界的枠組み)」、そして「将来世代に関する宣言」である。
本報告書では、会議で得られた主要な洞察と議論を捉え、「未来のための協定」が平和と安全保障に与える影響、そしてより効果的で包摂的なグローバル・ガバナンスの実現に向けた機会を明らかにする。
「未来のための協定」における可能性
「未来のための協定」の異なるバージョンを分析することで、その最終形態の背後にある困難な交渉が見えてくる。気候変動と国際平和と安全保障に関する行動計画や武器貿易条約(ATT)への言及など、一部の要素は完全に消え去り、他の行動は縮小された。その結果、曖昧な協約と自発的行動への依存を特徴とする不明確なロードマップとなった。国際平和と安全保障を促進するためのグローバルおよび地域的な多国間構造が数年来危機に陥っているという認識が広まっていることを考えれば、この結果は驚くべきことではない。
しかしその限界にもかかわらず、この協定には、特に国際平和と安全保障の分野において具体的な行動のための入り口がいくつか含まれている。協定は曖昧であるか言及されていない分野において、重要な約束を前進させ新たな戦略を導入する機会を提供している。これらには次のようなものがある。
- 早期警戒と積極的な外交を強調することにより予防アジェンダを強化する
- 世界的な軍事費の増大と軍事化の負担に対処する
- 気候危機と紛争の関連性を認識し、持続可能な解決策を提唱する
- 軍備管理と軍縮のための機運を再び高める
- 紛争解決においてジェンダーに配慮したアプローチを確保するため、女性・平和・安全保障(WPS)アジェンダを推進する
これらの問題については、以下のセクションで詳しく説明する。
協定の大部分は既存の協約の再確認で構成されているが、これは軽視されるべきではない。いくつかの再確認は特に重要である。例えば、ほぼ15年間正式に再確認されていなかった核軍縮への誓約である。同様に、協定による人道的支援の重要性の再確認により、ウクライナやガザなどの継続中の紛争において重要な基準点が提供されている。さらに、“平和と安全保障”に明確に該当しない協定の一部の側面も、グローバルな安定性に深い影響を与える可能性がある。「将来世代に関する宣言」は平和と安全保障の視点から解釈され、持続可能な平和の長期的なビジョンのための基盤を築くことができるだろう。
協定のグローバル・ガバナンスの目標と平和と安全保障に関する条項が成功するかどうかは、いくつかの重要な要素にかかっている。政治的な関与が不可欠であり、各国は狭い国益よりも多国間協力を優先しなければならない。効果的な実施を確保するためには、適切な資源配分とともに、より強力な制度的枠組みが必要となる。なぜなら、この協定では資金調達については言及されておらず、必要な投資を行う責任を各国政府に負わせているからである。市民社会の関与が有意義な変化を推進するために必要であるため、国民の支持も重要であり、特に国家の消極的姿勢に直面したときにはそうである。長期的な成功は、気候変動、移民、そして深まる不平等などのグローバルな課題に取り組みながら、政策が変化する安全保障の力学に適応し続けることを確保することにかかっている。今日の状況において、これらは大きな課題である。
現在の地政学的環境は、これらの目標を推進する上で特に不利であるとの認識が広まった。ある講演者は、「私が長年この問題に取り組んできた中で、今ほど事態が暗く思えたことはない」と述べた。国連加盟国と事務総長の間の力学は、それぞれの側が実施責任を回避する政治的な「ピンポン」ゲームとなってしまった。現在、ボールは加盟国の手に戻っており、加盟国は次のステップの責任を引き受けなければならない。
しかし、絶望している場合ではない。それどころか、この瞬間は行動への呼びかけとなるべきである。これまで以上に、暴力を減らし、予防し、ますます不安定化する世界において予測可能性と安全保障を回復できる、ルールに基づくグローバル秩序を促進し実施するための努力を倍加することが不可欠である。
「グローバル」な平和と軍縮の構造の再考
最初のパネルでは、「未来のための協定」からの二つの約束、すなわち、新たな課題に対処するための平和活動の適応と、軍縮義務の堅持に焦点が当てられた。議論の中心となったのは、安全保障上の脅威と地政学的な変化が高まる中で、国連の平和活動を目的に合ったものにできるかどうかという点だった。重要な課題は、世界的な武器移転を規制する画期的な条約である武器貿易条約(ATT)の遵守を強化することだった。協定には明記されていないが、ATTの目的はより広範な平和と安全保障の目標と密接に一致している。
中心的なテーマは、実施と遵守の区別であった。実施には新しい国内法の採択が含まれるが、遵守はそれ以上のものであり、条約規定の実質的な執行を指す。ATTの遵守を強化することは、条約の効果的な実施、国内および国際的な安全保障、そして責任をもって武器移転を規制する条約の能力に対する信頼を築くために不可欠である。ATT遵守の三つの主要分野が議論された。それは、武器報告の透明性、特に人権侵害につながる移転を防止するためのリスク評価の実施、そして承認なき使用者への武器転用の防止である。
遵守改善のための提案には、能力構築イニシアチブの拡大、報告メカニズムの強化、およびリスク評価の強化が含まれた。興味深いことに、グローバルサウスの国々はグローバルノースの一部の国々よりもATTを遵守することに熱心であると見られており、従来の前提に異議を唱えている。
また、過去10年間で大幅に増加した世界の軍事費についても話し合われた。これには武器、人員、および防衛研究への支出が含まれる。現在の安全保障上の脅威を考えると、防衛支出の削減は非現実的であるとみなされた。その代わりに、軍事予算を気候変動対策や社会開発などのより広範な政策目標に連動させることができるだろう。
追加の議論とプレゼンテーションにより、急速に進化するグローバルな安全保障環境が強調された。今日の世界は、変動性、不確実性、複雑性、曖昧性、国際的な提携関係の変化、そしてトランプ・ドクトリンが紛争の力学や平和維持の任務に与える影響によって特徴づけられている。さらに、平和の概念も変化しており、積極的な平和を強調するものから、単に戦争がないことだけに焦点を絞ったものへと変わってきている。
「新たな平和への課題」と「未来のための協定」は平和活動に言及しているが、具体的な指針はほとんど示していない。現状に即した平和活動に向けて、いくつかの提案がなされた。これには、特に安全保障理事会の行き詰まりを乗り切るための、状況に応じた適応可能なパートナーシップの確立や、国連と地域とのパートナーシップ、特にアフリカ連合とのパートナーシップの強化が含まれる。また、AIによるデータ分析を平和維持戦略に統合するとともに、地域および2国間の安全保障活動の役割が増大していることも認識された。さらに、平和維持活動の伝統的原則である同意、公平性、そして武力の不行使は再評価されるべきであり、信頼、正当性、適応性、そして地域の当事者性に重点を置くべきであるとの提案があった。持続的な課題にもかかわらず、国連平和活動は紛争予防、危機管理、紛争後の安定化にとって、依然として重要な手段であることが認識された。
村落への人道支援や一時的停戦など、小規模かつ局所的な平和への取り組みに焦点を当てることのリスクについて、特に活発な議論が展開された。これらの取り組みは即時の救済をもたらす一方で、より広範な和平プロセスに拡大することが難しいという懸念がある。平和構築者は、こうしたミクロレベルの介入が、必要かつ大規模な体系的な変革に貢献することを、どのように保証できるのだろうか?
この緊張関係は、より広範な課題を浮き彫りにしている。すなわち、コミュニティーを基盤とする漸進的な平和イニシアチブと持続可能な平和のための長期的戦略ビジョンのバランスをとることである。局所的な信頼構築も極めて重要であるが、平和活動は短期的解決策だけに囚われるのではなく構造的な変革にも焦点を維持しなければならない。
平和構築と持続可能な平和
次のセッションでは、平和構築をテーマに、「国連の平和構築体制は目的に適うものにできるのか?」 という質問から始まった。ある参加者が自信を持って「できる」と答え、その発言は会場に笑いを誘った。このセッションからの重要な教訓は、国連平和構築委員会(PBC)とのより体系的な関与の必要性であり、これにより持続的かつ長期的な平和構築支援と資金調達を促進することができるだろう。この関与はまた、受入国と国際機関との協力関係を奨励するものとなる。
討議では、国連が現在直面している内外の課題について探った。特にシリア、ウクライナ、イエメン、リビアなどの複雑な紛争においては、国連の政治的任務や調停活動の困難さが増している。内部的には、国連は安全保障理事会の行き詰まりに苦しんでおり、常任理事国(P5)が軍事行動に関与していることが平和への取り組みに対する政治的支援を制限している。このことは、特にウクライナとガザのような紛争への対照的なアプローチを比較する際に、二重基準の非難が生じるなど、正当性の危機につながっている。国連への信頼は低下し、国連は和平プロセスにおいて大きな政治的影響力を持つ組織ではなく、技術的な役割に追いやられている。対外的には、紛争の当事者であると同時に調停者でもある国家の出現が、調停を成功させるために必要な中立性を複雑にしている。
協定はこれらの課題を克服するためにどのような支援ができるのか? まず、国連安全保障理事会を改革し、平和構築委員会と国際機関との戦略的パートナーシップを強化することが、より効果的で包摂的な平和構築プロセスにとって不可欠となる。調停における選挙で選ばれた委員の役割を強化することで、分断を埋め、前進への新たな道筋を作ることができるだろう。さらに、冷戦時代には特に効果的な手段であったが、国連事務総長の仲介を創造的に活用することは、特に分極化した世界情勢においては調停の新たな機会を提供する可能性がある。最後に、多極化を否定的なものとしてではなく、大国の均衡を取り戻す機会として受け入れることで、ゼロサム思考を乗り越え、紛争に対する協調的な解決策を育みながら、平和への新たな可能性を引き出すことができるだろう。
その他の介入は、特に平和構築基金への拠出を通じて、平和構築のための適切かつ予測可能で持続可能な資金を確保することに関する協定のAction 18に重点を置いたものであった。現在の資金はわずかなものにとどまっているが、今後の国際金融会議と世界銀行やIMFなどの国際金融機関との協力は、平和の維持と定着のための取り組みを連携させる上で重要な役割を果たすだろう。さらに、次のセクションでさらに詳しく議論される国家予防戦略の強化と、国連、民間セクター、そして市民社会間の協力促進は、長期的な平和の達成に不可欠となる。
討議では、平和の測定と説明責任についても検討され、普遍的な基準の必要性が強調された。平和構築の努力の多くは、正統性の欠如によって失敗に終わる。地域化の概念と、それが正統性を高める上で果たす役割については全般的な合意が得られているが、その正確な定義は依然として不明確である。信頼の低下は、現地の視点やニーズを無視することから生じることが多い。証拠に基づいたアプローチの重要性が強調され、また、状況を注意深く考慮し、そのプロセスにおいて誰が権力を掌握しているのかを理解する必要性も強調された。
さらに、安全保障と平和のアジェンダにおける企業の役割について懸念を示す発言もあった。これらの組織が推進する新自由主義イデオロギーの支配を、なぜ私たちは開発の解決策として受け入れるのだろうか? 特に、それらの政策が不平等の拡大に大きく影響していることを私たちが知っている場合、彼らが提案する政策が本当に平和を促進していると確信できるのだろうか?
平和構築を超えて:暴力の防止と低減
次のセッションでは、国家予防戦略、平和で公正かつ包摂的な社会に関するSDG 16、小型武器と軽兵器の不正取引に焦点が当てられた。議論では、なぜ今この瞬間が国家の紛争と暴力の予防戦略を推進するまたとない機会なのかが浮き彫りになった。
政治レベルでは、現在、国家予防戦略の余地が大きくなっている。ニューヨークの国連における加盟国との議論では、このアジェンダに対する熱意が目立っている。これは、外部からの介入を恐れ、予防に言及することさえ抵抗された以前とは大きく異なる。今日、予防は主権を強化するものとして認識されつつある。なぜなら、予防によって国や地域の主体は、外から解決策を押し付けられるのではなく、自分たちで優先順位を決めることができるからである。さらに、予防は普遍的に必要なものと理解されている。暴力と無縁の社会など存在せず、全ての国がリスクの軽減に貢献しなければならない。このアプローチはまた、武力紛争だけでなく、他の形態の暴力にも拡大しつつあり、さまざまな社会が多様な脅威に直面しているが、全ての社会が何らかの形で脆弱性を抱えていることを認めている。
国家予防戦略の重要な論点は、個別のプロジェクトの枠を越えた取り組みができるかどうかである。単一の原因に取り組む単独の取り組みでは、意味のある長期的な影響を生み出せないことが多い。体系的なアプローチを採用することで、国家予防戦略は、暴力の根源となる、相互に結びついた複数の原因を対象とすることができる。「影響を生み出すのは相互関係である」。政治的にも技術的にも、この転換は紛争と不安定化の防止を大きく前進させる重要な機会となる。
しかし、国家予防戦略の実施にはいくつかの課題がある。第1に、そのような戦略がどのようなものであるべきかについて、根本的に明確になっていない。明確なガイドラインがなければ、どの国も予防戦略を持っていると主張することができる。たとえそれが単に大量投獄などの益よりも害をもたらす可能性がある抑圧的な手段で構成されていたとしてもである。第2に、資金調達が依然として大きな障害となっている。予防の必要性については幅広いコンセンサスがあるが、そのような取り組みへの資金はしばしば真っ先に削減される。第3に、国や地域の主体の間で、既存の予防努力が認知も支援もされていないと感じることによる疲労感が高まっている。国家予防戦略は、また新たな硬直した枠組みを押し付けるのではなく、ゼロから始めるのでもなく、既存の取り組みを土台として、すでにある枠組みをつなげ、統合する機会として捉えるべきである。最後に、国連をどのように動かして国家予防戦略に有意義な支援を提供し、その役割が建設的であると同時に現地のニーズに応えられるようにするかという問題がある。
こうした課題に対処するためには、予防アジェンダの普遍的関連性を示すことで、信頼を維持することが極めて重要である。予防は、トップダウンの指示としてではなく、むしろ協力的で状況に応じた取り組みとして構築されるべきである。同様に重要なのは、国家戦略のさらなる断片化を防ぎ、予防がばらばらのイニシアチブの集合体ではなく、協調的でまとまりのある取り組みであり続けるようにすることである。幸いなことに、多くの国がすでに国家予防戦略を持っている。焦点を当てるべきは、ゼロから作るのではなく、既存の枠組みを強化し、良い事例に関する知識や経験を共有することである。
予防戦略は、SDG 16の達成にもつながっている。Action 7が最も明確に言及されているが、SDG 16は文書全体、特に暴力、ヘイトスピーチ、小型武器と軽兵器を取り上げたAction 8、12、13、18に組み込まれている。しかし、国連の主要機関間の連携構築は依然として課題を残している。これは、ECOSOC(経済社会理事会)と平和構築委員会(PBC)の関係に見られる通りである。国や地方レベルでの実施を進めるには、国連のハイレベルなプロセスの中で戦略的な入り口を特定する必要がある。「これは手がかりを見つけることだ」。政府開発援助(ODA)の縮小、消極的な議会、分断された国民が拡張可能な解決策を困難にしているため、資金調達の課題は進展をさらに複雑にしている。ゼロサムアプローチから脱却することは、気候変動対策資金、開発、平和構築の相乗効果を生み出す鍵である。前向きな一歩として、協定は平和と開発の相互依存を強化し、2016年の持続的な平和に関する決議と2015年の平和構築アーキテクチャー・レビュー(PBAR)を反映している。平和なくして持続可能な開発はなく、開発なくして恒久的な平和はないのである。
最後に、小型武器の規制と管理は、依然として議論の余地のある脆弱な課題であり、世界的な議題であり続けるためには絶え間ない擁護活動が必要である。最近の文書は2001年の行動計画から引用してコミットメントを再確認しているが、それらは広範で野心に欠ける表現を用いており、革新的な内容がほとんどない。協定は、ジェンダー、公衆衛生、平和維持情報についての進展をもたらしたが、他の武器管理手段との相乗効果が限定的であること、将来の優先順位が不明確であること、需給力学に関する取り組みが弱いことなど、重要な課題が残っている。約束を希薄化し、弾薬に関する議論を排除しようとする試みは、対立をさらに浮き彫りにしている。一部の地域では殺人率が低下しているにもかかわらず、紛争に関連した死者は増加しており、より強力で統合的な対策の必要性が強調されている。利用可能なデータに大きな隔たりがあることも、小型武器と暴力のパターンを追跡することを困難にしている。
女性・平和・安全保障アジェンダの推進
女性・平和・安全保障(WPS)アジェンダは、重要な政策的コミットメントをもたらしたが、その実施は依然として一様ではない。平和プロセスへの女性の参加には改善が見られるものの、形だけの参加、意思決定権の欠如、限られた資金といった根強い課題が進展を妨げている。このアジェンダは、しばしば既存の家父長制的かつ軍事的構造の中で展開され、権力構造を変革するのではなく、むしろ強化する。さらに、交差性は複雑な不平等を理解するためのツールではなく、チェックリストに還元されることが多い。包摂性(インクルージョン)に焦点を当てる際、女性を追加することに重点が置かれることが多いが、どの女性が代表されているのかを批判的に検討したり、これらの場における男性支配を問い直したりすることはほとんどない。
紛争における性的暴力やジェンダーに基づく暴力に取り組む国際的な認識や法的枠組みにもかかわらず、実際の進展は一貫していない。WPSの枠組みは、予防と対応を強調する一方で、脆弱性の全領域を捉えることができない硬直した性別二元論に依存していることが多い。測定可能な指標を求めるあまり、ジェンダー的な経験が過度に単純化され、構造的不平等に効果的に対処することが難しくなることがある。さらに、性的暴力やジェンダーに基づく暴力に焦点が当てられることで、経済的搾取、強制移住、政治的疎外など、より広範なジェンダーに基づく暴力の側面が傍観されがちである。
WPSのアジェンダは包摂性を強調するが、多くの場合、その基礎となる前提を問い直すことはない。このアプローチは、女性を排除する構造や、こうしたシステムを支える男性の役割を問うのではなく、女性がどこにいるのかを問う傾向がある。平和活動や調停の取り組みでは、ジェンダー・バランスを求める傾向が強まっているが、斬新的変化を制限する安全保障重視の国家中心モデルに組み込まれたままである。和平プロセスに女性を参加させることに対する抵抗は一部で残っており、その抵抗は構造的な動機に基づくもので、排除を正当化する階層的世界観に根ざしている。「未来のための協定」は、女性の参加に対する挫折や障害を認めているが、こうした障害の性質や、女性がどのように障害を乗り越えていくのかについての具体的な説明が欠けている。
さらに、交差的な視点は、政策に反映される際にしばしば希薄化されるが、それは包摂性を標準化し、定量化しようとする努力が、より深い構造的批判を曖昧にしてしまうリスクがあるためである。平和維持の廃止論的視点は、こうした構造を改革できるのか、あるいはグローバルな安全保障に代わるアプローチが必要なのかという根本的な問題を提起する。
前進するためには、WPSアジェンダの基礎となる前提に批判的に取り組む必要がある。平和と安全保障におけるジェンダーの不平等に対処するためには、単に代表性を向上させるだけでなく、平和そのものを概念化する方法の転換が必要である。つまり、軍事化された枠組みや植民地主義的な枠組みから、より包摂的で正義を重視したアプローチへと移行する必要がある。これには、統合を再考し、誰が含まれ、なぜ含まれるのかを問い直し、交差性が官僚的なカテゴリーではなく、制度的抑圧を明らかにするためのツールであり続けるようにすることが含まれる。このような転換がなければ、WPSのアジェンダは、異議を唱えようとしている権力構造そのものを強化する危険性がある。
不平等は重要問題ではあるが、協定では数回しか言及されていない。家父長制、資本主義、ナショナリズム、権威主義、構造的不平等がどのように相互作用して紛争を永続させているのか、より深く理解する必要がある。さらに、ボランティア労働に大きく依存しているケアエコノミーは、戦争中に大幅に拡大したが、ほとんど見えないままである。地域社会を維持する上で重要な役割を担っているにもかかわらず、紛争と平和構築の議論では、このような重要な仕事が見過ごされがちである。
平和活動や軍事行動において、女性を参加させることは、信頼を高め、性的暴力を減らすなど、直接的で肯定的な影響をもたらすと思われがちである。しかし、これは女性の存在と結果との間に因果関係があることを前提としたものであり、こうした変化がどのように起こるのかの複雑さを十分に理解していない。女性の存在だけに注目すれば、平和構築における男女の役割について、本質主義的な思い込みや固定観念を強めてしまう危険がある。
気候、紛争、平和の関連性の解明:連携と機会
「気候と環境の影響がもたらす課題に対処するためのActionが、「未来のための協定」から削除された。これは残念なことである。特に、「新たな平和への課題」では、先進的な考えと強い表現が導入されている。しかし、私は根っからの現実主義者だ。それは重要なことなのか? たぶんそうではないだろう。気候と環境への懸念は、平和と安全保障の章のいたるところにあるからだ。それらは、根本的な原因に取り組み、持続可能な平和を構築することに焦点を当てたAction 13、国家予防戦略を重視するAction 18、新たな現実に適応する平和活動に関するAction 21に含まれている。そして、新たな現実とは、気候変動によって形作られたものでなければ何だろうか?」
この議論では、気候変動と紛争、平和の間のつながりを示す必要があった過去の年月から大きな転換が認められた。今日、このつながりは国際平和と安全保障にとって重要な問題として広く認識されている。しかし、ハイチなど一部の地域では、気候変動はまだ二次的な関心事として認識されている。それにもかかわらず、農業の衰退や環境の悪化など、気候変動の影響は社会を不安定にし、武装集団、特にギャングによる勧誘を助長している。
世界自然保護基金(WWF)のような組織は、自らの環境活動が平和構築の入り口にもなり得ることをますます認識するようになっている。このことは、縦割り組織間の橋渡しをし、とりわけ現地の主体や民間セクター、その他の利害関係者とのパートナーシップを強化することのできる国連の必要性を強調している。気候変動によってもたらされる生活上の課題に対処するために地域社会を整備することが重要な焦点となっており、気候問題を平和と安全保障の取り組みに統合することが進展している。気候の脆弱性が非常に不平等であることを認識することも、平和と安全保障を前進させるために必要である。
しかし、気候変動と安全保障の関連性に資金を提供し、それを運用するには、まだ大きなギャップがある。例えばSDG 16は、環境保護と平和への取り組みを組み合わせた統合的な資金調達の必要性を強調しているが、そうした取り組みの成功を測定することは依然として課題である。協定は環境と安全保障の両方の問題を扱っているが、特に環境法における法の支配とガバナンスに関して、これらの要素を実践的にさらに統合する機会を逃している。
今後の議論では、従来の枠組みをどのように超えていくかに焦点が当てられ、何が行われているかだけでなく、どのように行われているかが問われている。平和構築と気候変動対策の重なりは、より持続可能で影響力のある解決策への潜在的な道筋を提供している。気候変動に関する資金は、しばしば垂直的で縦割り的なものと見られがちであるが、状況分析の重要性や、こうしたプログラムが地域社会に与える影響を理解することの重要性が認識されつつある。最終的に、気候変動の進展と平和構築の関連性を確保するには、これらの問題の相互関連性を強調し、言説を転換する必要がある。
今後の道筋
「実践なき批評は空虚であるが、批評なき実践は浅薄である」。だからこそ、実務家側と研究者側の私たち双方が、浅薄にも空虚にもならないよう、お互いの意見に注意深く耳を傾けなければならないのだと思う。
最後のセッションは、参加者に自分が推進したい創造的な提案の「トップ3」について考えてもらうものだった。複数のAction項目にまたがる協調的な行動を可能にする横断的なイニシアチブはあるか? 現在の「多国間主義の危機」を打開するために、革新的な協力関係やパートナーシップを特定することはできるのか? 肯定的なものも否定的なものも含めて、私たちが認め、関わっていかなければならない別の声はあるのだろうか?
「未来のための協定」に至るまでの過程は、包摂性を強く強調することによって定義された。国連サミットは高校生で埋め尽くされ、何千もの市民社会メンバーを代表する影響力のある連合がプロセスに関与した。しかし、彼らの提案のほとんどが加盟国によって採択されなかったため、彼らの期待の多くは満たされなかった。それにもかかわらず、包摂性という言葉はいたるところに見受けられる。しかし、包摂性に関する議論は、しばしば代表権のないグループや市民社会に焦点を当てる一方で、主要な一連の主体が多国間主義から大きく除外され、責任を負わないままである。例えば、民間セクター、大手汚染企業、武器製造業者などがそれにあたり、これらの主体はシステムの外側にとどまり、そのメカニズムにほとんど無関心である。多国間行動に対するより広範な支持を得るためには、多国間行動に反対する人々をも巻き込むような枠組みを見つけなければならない。
インクルージョンを超えて、私たちはより深く、より変革的な原則、すなわち多元主義を受け入れなければならない。インクルージョンだけでは、多様な視点に心を配ることなく、表面的な運動になってしまう危険性がある。有意義な変化をもたらすには、平和構築に対する硬直的で直線的なアプローチを超えて、よりダイナミックで状況に応じた変化の理論を採用する必要がある。ドナーのログフレーム(=プログラムの施策や効果などの因果関係を表すもの)のような従来のモデルは、紛争の影響を受けた環境の複雑さを捉えきれないことがよくある。その代わりに、ニュアンス、適応性、相互接続されたシステムを考慮した枠組みが必要である。
「未来のための協定」のAction 53は、進歩の主な尺度としてのGDPに依存することに異議を唱えることで、重要な転換を示している。GDPでは、不平等の拡大、排除、環境破壊を適切に捉えることはできない。過去数十年間の経済成長の多くは、地球の自然資本の枯渇によってもたらされた。例えば、木材や石油などの再生不可能な資源の採掘による資本の枯渇に基づく成長は、現実的でも持続可能でもない。この現実は、経済評価に組み込まれなければならない。この問題については深く議論されなかったが、Action 53は、ミクロレベルの効率性からマクロレベルの持続可能性まで、より総合的なアプローチを採用する機会を提供している。
前進するためには、政治経済分析のレンズを通して国際平和と安全保障を構築するアプローチを再構築し、政治的・経済的パワーがどこにあるかを理解し、どこに投資すれば最大の効果が得られるかを特定しなければならない。これは、持続可能な開発にコミットするだけでなく、金銭的価値と費用対効果という言葉を使いこなし、長期的で変革的な変化を促す介入策に確実に資源を配分することを意味する。
この会議からのもう一つの重要な教訓は、ストーリーテリングや「P4Pプレイブック」のような革新的な枠組みなど、新しい思考方法の必要性である。目標は、硬直したツールキットを持って到着することではなく、次の行動を状況に応じて理解するプレイブックを持って到着することである。あなたは誰か? あなたのチームには他に誰がいるか? あなたはどのような立場にいるか? この立場からどのような戦略が生まれる可能性があるのか? このような質問を私たちは投げかけなければならない。現代の複雑な問題に対処するためには、新しい比喩と概念的なツールが不可欠である。
何よりも私たちは、私たちが持つ影響力とそれに伴う責任の両方を認識しながら、現在の権力構造に注意を払い続けなければならない。この批判的なレンズを通してのみ、私たちは平和を希求するだけでなく、包摂的で持続可能な方法で積極的に平和を構築する世界の再構築を望むことができる。最終的に、問題は単に何がなされるべきかではなく、むしろ次のようなものである。私はさらに何をすべきなのだろうか? そして、私がしていることはどのような影響をもたらすのだろうか?
アポリーン・フォーディットは、国際関係史および政治学の博士課程在籍者であり、ジュネーブ国際・開発研究大学院の紛争・開発・平和構築センターの研究助手も務めている。ジュネーブ大学で国際関係学の学士号、ジュネーブ国際・開発研究大学院で開発学の修士号を取得。開発、人権、社会運動を専門とする。博士課程では亡命権を擁護する団体の出現と変容について研究しており、特に移民政策のヨーロッパ化、EUおよびスイスにおける国境の強化、これらの団体の一部の制度化という文脈に焦点を当てている。
キース・クラウスは、戸田記念国際平和研究所の「協調的安全保障、軍備管理と軍縮」プログラム担当上級研究員。ジュネーブ国際・開発研究大学院の国際関係教授、同大学院の紛争・開発・平和構築研究センター(CCDP)ディレクターおよび「Principles for Peace Foundation」の首席政策顧問を務める。2000年には国際的に評価されている研究NGO「Small Arms Survey」を設立し、2016年までプログラム・ディレクターを務めた。紛争予防、平和構築、武装暴力の国際的専門家として30年以上にわたり学術および政策志向の研究プロジェクトの立案と実施に携わってきた。研究テーマは、現代の武装暴力の特徴の変化、紛争後の平和構築と国家建設、多国間安全保障協力など。