政策提言

(政策提言 No.66)

2019年11月29日配信

ソーシャルメディアが核の舞台に登場

ピーター・ヘイズ

 本稿(Peter Hayes著)は戸田記念国際平和研究所の政策提言No.66「ソーシャルメディアが核の舞台に登場(Social Media Arrives on the Nuclear Stage)」(2019年11月)に基づくものである。

 2018年、ソーシャルメディアが核戦争の舞台に突如登場した。核戦争につながりかねない紛争においてソーシャルメディアが役割を果たす事例は、2017年8月~2018年1月にアジア太平洋地域だけでも6件あった。うち3件は、米国による北朝鮮への核兵器攻撃の準備に関連するものであり、残りの3件では、核攻撃が迫っているという誤報を増幅させるソーシャルメディア上の投稿が嵐のように発生する事態に至った。

 戦略家たちは何十年にもわたり、核兵器保有国が早期警戒システムの誤報や意思決定の劣化により誤って核攻撃を行うかもしれないという懸念を抱いてきた。

 現在、9カ国が核兵器を保有している。各核兵器保有国は、攻撃を受けることを示唆する情報を受信した際に、その脅威の重要性を判断する早期警戒システムを保持している。人工衛星の赤外線探知機や長距離レーダーなどの物理センサーを使用している国もあるが、これは物理的に別々のシステムから“二重”に警報を取得し、一方のシステムで他方のシステムの表示内容を照合・確認するためである。

 この点、米国は最も成熟した早期警戒システムと核意思決定システムを整備している。他の核兵器保有国の早期警戒システムは、米国のものと比べるとその能力ははるかに劣り、北朝鮮のように長距離センサーシステムを有していない国もある。

 ただ、北朝鮮を含むこれらすべての国で政府関係者がソーシャルメディアを利用できる。それゆえ、核兵器搭載が可能なミサイルや爆撃機が平壌に向かっているかもしれないという最初の警報は、ツイッターやフェイスブックに投稿されるかもしれない。ソーシャルメディアは核兵器の物理的状況の早期警報を発信するだけでなく、核兵器司令官の意図―それに精神状態―について、これまでにないユニークな情報を提供する可能性もある。

 より懸念材料となるのは、ソーシャルメディア上の情報は、事実に照らすと不正確なことが多いことである。中には“フェイクメディア”としてユーザーを操作したり、多くの読者を一度に操作し対立をあおるために意図的に投稿されている情報もある。さらには、実際に撮影・記録された動画、写真、声と “ディープフェイク”とを区別するのは難しく、不可能にさえなっている。

 なぜこれが問題なのだろうか。最大の理由は、核兵器が持つ破壊力の速度と比類のない規模である。この恐ろしい組み合わせのために、核兵器は他のあらゆる威圧手段とはいまだ一線を画している。核兵器司令官は核兵器を使用して大量破壊を図るかどうかという決断を、何時間、何日、何分という単位ではなく、分や秒の単位で下さなければならない。

 核兵器保有国は、膨大な量のソーシャルメディアをどう扱うべきなのだろうか。そこにはほぼ瞬時に発信されている事実に基づいた正確なコンテンツがある一方で、悪意を持つ者が早期警戒システムを欺き、操作し、誤った方向に導いたり、核兵器司令の意思決定プロセスを損わせる目的で偽情報を用いて作成されたコンテンツがある可能性もある。

 現代では、核兵器司令官がソーシャルメディアの世界に身を置いていることを考えると、早期警報の評価・警報・意思決定の流れの中で、彼らはソーシャルメディアから補足的データを得たり影響を受ける可能性がある。このようなデータや影響が他のセンサーのデータや兆候と組み合わされた時、評価に“内々の情報を与える”ことになり、評価を「攻撃は進行中ではない」から、「攻撃の可能性がある」または「攻撃が進行中」に傾けさせるかもしれない。

 我々の研究によれば、ソーシャルメディアの影響力は中心的な役割を果たすものではなく、戦略的な諜報やリアルタイムのセンサーデータ、あるいは戦術的警報を補完するものと推測される。そして核兵器司令官は、敵によるソーシャルメディアの投稿や、司令官が価値を認めている友好的なソーシャルメディアの情報源のみに基づいて決定を下すことはないだろうとも考えられている。

 核の早期警戒の世界でソーシャルメディアがどのように展開するかを予測するため、我々は核以外の領域で、ソーシャルメディアが極端な考えや行動を推進するために使われている事例の研究を行った。その一つが「ワクチン接種反対」運動である。

 我々が最初に学んだ事柄は、ソーシャルメディアは誤報を作り出し、それが結果として、それまでは紛争がほぼ皆無であった領域で紛争を生み、増幅させているということである。

 ワクチン接種の阻止を目的にソーシャルメディア上でキャンペーンを展開する「反ワクチン派」の場合、ある事例では、仮想ソーシャルネットワークはプラットフォームを越えた操作に脆弱性があり、この操作によって、反ワクチン接種を支持する大勢のネットユーザーが生まれていることが示された。反ワクチン派は洗練された技術を多く用いて、影響を受けやすい読み手にワクチン接種から距離を置かせようとしている。複数の要因が合わさった結果、さまざまなアクターが比較的容易に操作できる情報エコシステムが生まれ、専門家や証拠に基づく医学知識の従来の流れを妨げ、ワクチン接種率が低下し、伝染病が新たに発生する事態に至っている。

 このような仮想攻撃を生み出す例から示唆されるのは、個人、組織、さらには国家でさえもソーシャルメディアを使用し始め、敵に対する核攻撃を誘発しようとする事態がほぼ避けられないということである。またこうした運動は、核の早期警戒評価や核司令の決定を行う一部の人々に影響を与える効果があると考えられる。

 我々が二つ目に学んだのは、この種の誤報への対策である。ソーシャルメディア上での対策、あるいは権威があり信頼できる参考知識を作成するといった方法による対策である。さまざまな戦略によってこの問題は部分的には改善している。しかし一般的には、ソーシャルメディアのプラットフォーム自体の対応は遅く、外部からの強い要請に応じてようやく対処されることが多い。また、オンライン上の攻撃者の帰属や追跡にまつわる多くの問題もその対応を妨げている。

 ソーシャルメディアのプラットフォーム自体のサービスについて、ユーザーによる操作的または危険な利用を抑制する最善の方法の一つは、ユーザーが行っている運動の展開能力を鈍らせることであることが分かった。偽サイトをシャットダウンし、ボットの利用や匿名性といった運動の核となっている行動を特定するのである。

 オンライン上の行動をこのように規制する場合の問題点の一つは、何が危険で何が危険でないのかを判断する上ではその背景が重要であり、人間がそこに関与しなければならないという事である。しかし、一度ディープフェイクが広まってしまうと、特定の投稿やサイトのコンテンツの事実を判断することは人の関与では十分ではないかもしれない。

 核の早期警戒や核司令の決定は迅速に行われるため、こうした経路をたどる対応では不十分で遅すぎるだろう。実際のところ、ソーシャルメディアに携わる者が自分のプラットフォーム上で核攻撃の予兆を見つけたとしても、誰に伝えるべきなのか明らかではない。

 したがって、何が本当で何が偽物かについての正当で確かな再検証がなされるためには、ユーザーに信頼される“真実のインフラ”が必要である。このインフラは、核戦力の状況に関する信頼できる情報源のことであり、既存で信用でき、独立性のあるものである。

 核の指揮統制に関連した不確実性を軽減する可能性が一つある。それは、特に都市のレベルで最初に応答する者が、自分たちの情報システムを使って信用できる情報を記者やマスメディアに提供することである。そして、慎重に評価されたソーシャルメディアの報告を情報に組み入れることだが、それはまず、さまざまなリアルタイムセンサーで初期報告が正しいことを確認した上で行う。複数の市や郡に伝わるメッセージに一貫性があるよう万全を期し、早期警報の公式な情報源に対する市民の混乱や幻滅を招かないようにすることが重要である。しかし、最初の応答者は経験上、誤報を避けるためには、一つのメッセージだけではなく、回線遮断器が必要であることを知っている。

 地震警報のように極めて短時間に生じる脅威の場合は、ソーシャルメディアを活用し、リスクを減らす方法で対応できるよう人々に情報を提供し誘導することは可能である。悪意のあるアクターによって警報システムが乗っ取られるリスクもない。重要な点は、ユーザーがこの発信された情報を、信頼でき本物であると信じられることである。

 

 したがって、核兵器保有国にとって重要な問いは以下になるだろう:

  • 核早期警戒システムは、脅威評価の対象にソーシャルメディアを含めるべきか。
  • 核早期警戒システムは、攻撃に関するソーシャルメディアの報告を無視することで、評価の頻度が増えて結果として評価に誤りが生じる事態を回避すべきか。
  • そうしたシステムは、敵の成熟度、能力、専門性に基づいて自身の核戦力の状況を評価すべきなのか。あるいは、ソーシャルメディアの報告から生じる可能性がある誤りも含め、誤りを犯すリスクを減らす協同の情報システムを構築し始めるときなのか。

 非核保有国並びにソーシャルメディアなどの非国家部門を含むすべての人々にとって重要な問いは以下の通りである:

  • 核兵器保有国の早期警戒システム、司令官、その他の人々にとって独立した参考情報として役に立つ、核戦力のリアルタイムの状況を提供できる第三者は存在するのか。
  • 存在する場合、誰が率先してそれを構築すべきか。

 ソーシャルメディアのプラットフォームとそのユーザーは、言論の自由やほぼ瞬時に行うことのできるネットワーキングの機能を保持しつつ、より信頼性の高い認証済みの情報に重心を移すことができる。

 都市や市民社会のネットワークは、新しい形のガバナンスと公共情報財を作り出す立場にあるのかもしれない。そのような取り組みは、国家レベルでの誤報や誤った判断を招く可能性のあるソーシャルメディアの攻撃的な使用を抑制することができる一方で、独立した公平で検証済みの情報を提供することができるため、核早期警戒システムや核司令官にとっても有用である。というのも、国家間の紛争においては従来のセンサーや早期警戒システム、紛争解決メカニズムは、それほど十分には役に立たないからである。核戦争の影響に対して自分たちが脆弱であると深刻な懸念を抱いている都市は多数存在する。それらの都市、特に「平和首長会議」の世界の主要加盟都市のうちのいくつかは、このような取り組みの“推進都市”になれるかもしれない。

 しかし、この取り組みを他のグローバルな都市ネットワークに拡大し、都市レベルにおける核戦争の監視態勢を統合させていく可能性は大いにある。この態勢においては、各核兵器保有国の配備済みの核戦力の状況や場所、文民や軍の核司令官の「思想的」および「感情的」な状況を監視対象にすることができる。このような社会的監視は、大量虐殺などの非人道的な犯罪が存在する地域ではすでに行われている。また都市レベルや「市民社会」の報告者の訓練、必要な知識の習得、その認定を行うことは、核リスクの低減に大いに役立つ可能性があり、核兵器保有国、“核の傘”下にある国、および核禁止国にとって、それを行わない理由を差し置いてでも関心を持つ取り組みとなるかもしれない。このような監視・報告システムは、核のみに利用するのではなく、一般的な災害リスク管理の監視・報告システムとも統合できるだろう。そうすることで、市民リポーターの世界的ネットワークへの参加に関心を持つ都市の数を最大限に増やすことができるかもしれない。 都市レベルの監視・報告も、非核保有国から提供される情報と統合させることができる。その場合は、非国家の市民社会、地方政府、その他の都市アクターが持つ技術よりも高度な、国家の技術的手段を用いることができるかもしれない。キューブサット(超小型人工衛星)通信や遠隔測定を行う企業のような革新的な市場アクターの能力が測定データ提供者として加わり、そこに政治的な意思が伴なえば、真に独立した信頼できる監視システムが可能になる。

 

 本稿は、戸田記念国際平和研究所の英文ウェブサイト上に引用文献も含めて掲載した政策提言No.66の要約版である。

ピーター・ヘイズは、オーストラリアのシドニー大学国際安全保障研究センター名誉教授、米国カリフォルニア州バークレーのノーチラス研究所所長を務める。安全保障、環境、エネルギー政策の問題を中心に活動している。北朝鮮をめぐる革新的で協力的な関与戦略で知られ、ノーチラス研究所で世界の安全保障と持続可能性の問題に対する短期的解決策を探る手法を開発し、東アジア、オーストラリア、南アジアでこの手法を応用した。現在のプロジェクトは核兵器司令官の説明責任を高めることである。アジア太平洋リーダーシップ・ネットワークの顧問を担い、「グローバル・アジア」の編集委員を務める。