政策提言

ソーシャルメディア、テクノロジーと平和構築 (政策提言 No.107)

2021年04月14日配信

2021年におけるデジタル・テクノロジーとアクティビズムへの案内

ナディン・ブロッホ

 本稿(Nadine Bloch著)は戸田記念国際平和研究所の政策提言No.107「2021年におけるデジタル・テクノロジーとアクティビズムへの案内(A Guide to Digital Tech and Activism in 2021)」(2021年4月)に基づくものである。

 この政策提言では、人権、民主主義および住み続けられる環境といった公共益の追求のために、活動家たちがどのようにテクノロジーを活用しているかを概観する。まず、携帯電話テクノロジーがどのようにそうした運動を支え、強化してきたかを検討し、デジタル・ストーリーテリングや資金調達に言及するとともに、連携やトレーニングのための主要なデジタル・ツールを探索する。また、サイバーセキュリティー上の考慮すべき事柄を扱い、テクノロジーを活用し、話題となっている創造的なアプローチに注目する。デジタル技術は、これらの運動を常に成功に導く特効薬ではないが、デジタル・テクノロジーで能力を強化し、勝利するための明確な活用方法や推奨事項は存在する。

 携帯電話やその他のデジタル・テクノロジーがより安価になり、その機能が向上、多様化したことは、平和的な社会正義運動の広がりや可能性を格段に向上させている。しかし一方で、当局もまた、市民社会や人権活動家の監視、偽情報の拡散、さらに、最悪の場合には自国民を抑圧するためにテクノロジーを活用している。

 成功の鍵は、戦略的な計画立案や強力な関係構築と合わせて、テクノロジーを創造的に活用することだ。それによって、私たちは、全体主義的あるいは抑圧的な活動家による戦術に対抗することができるだけでなく、創造的な非暴力による抵抗のための新たな革新的手段を創出することができる。テクノロジーシーンは急速に、かつ常に変化しており、今日、活動家たちは、人権、民主主義および住み続けられる環境といった公共益の追求のためにテクノロジーを活用している。

 全世界における携帯電話の普及は、搭載されている高画質ビデオカメラを含めて、組織化、記録、通信の潜在能力を大きく開いた。しかしながら、こうしたテクノロジーを適切に活用するには、通信エリアや帯域幅の限界を考慮しなければならない。このことが意味するのは、リーフレットのポスティング、移動宣伝カーからの放送や街頭演説イベントが、今でも情報伝達のための戦術的な選択肢である場所も存在するということだ。

 携帯電話は、グループチャットやリストを選択できるメッセージアプリの使用を通じて、簡単で迅速なコミュニケーションを可能にする。Signal、WhatsApp、Telegramが人気のアプリだ。オンラインのピア・ツー・ピア・コミュニケーションは、 特に新型コロナウイルスのパンデミックのような事態においては、対面の出会いを代替することも出来る上に、実際に会うことをより効率的に生かす方法にもなる。

 ミームは、FacebookやTwitterなどのソーシャルメディアのどこにでも見られる視覚的なコミュニケーションとなった。ハッシュタグは、情報を伝えたり、自分の特定の気持ちやコミュニティーへの所属を表したり、さらには、重要な情報を共有し、デジタル上で繋がった多くの人々を現実世界での行動に動員したりするための簡易な手段となっている。

 世界中に携帯電話ユーザーがあふれ、誰でもドキュメンタリー映画作家やデータサイエンティストにもなれるようになった。スマートフォン1台で、画像をキャプチャし、情報を拡散し、データをマッピングする様々な方法がある。例えば、記録調査( Lil Sis, ProPublicaなどでは、携帯電話が詳細な調査や調査報道に使われている)、自主メディア(進歩的な価値観に根差した独立のメディアで、マイクロブログなどのテクニックを用いる)、「見えないものを見える化する」ことに役立つデジタル・マッピングおよびビジュアライゼーション(インタラクティブマップやClimate Clocks<気候時計>などのようにグラフィックを活用する)、無償または安価なオンラインのグラフィック画像/動画作成サポート(例えば、ミームのデザインのためのCanva などのクラウドソーシングを用いたビデオ制作や、Lumen5VideoAskなど)、そして、クラウドファンディング( KickstarterIndieGoGoPatreonGreek Bailout Fundといったキャンペーンなど)である。

 クラウドストレージ・アプリケーションは、組織の機能と日々の業務プロセスを向上させた。多くの活動家は、連携のためのテクノロジー・ツールを採用している。例えば、安全性の高いCryptPadアプリや オープンソースの代替アプリなど、プロジェクトやデータを管理するためのデジタルインフラとしてのオンラインのファイル・キャビネットや協働スペース、コミュニケーション・ソフトウエアを用いた内部の調整やプロセス、Skype、Zoom、Firechatなどのアプリを活用した内部の会議、そして、オンラインツール、テクニックやソフトウェアのトレーニングである。

 一方で残念なことに、当局は活動家や抗議する人々を監視したり、私たちの進歩的な変化への歩みを妨げたりするために新しいテクノロジーを活用している。けれども、現実の活動でもデジタル上の活動においても、自分たちを守り、もっと賢く動くために私たちができることはたくさんある。

 適正なセキュリティーは、適正なデジタル衛生を整えることに始まる。私たちは、ニーズに合ったセキュリティーを提供してくれるアプリケーション選択しなければならない。適切なメンバーを適切なスレッドまたはメッセージ・アプリに参加させ、安全なチャンネルに招待する人々を吟味する必要がある。コミュニケーションの運用方法について、明確で実用的なプロトコル や取り決め事項を作らなければならない。単にメッセージの転送を禁止するとか、必要ならコードワードを使用するといったことについて関係者全員からの誓約を取る必要があるかもしれない。どのようなメッセージを保存し(保存期間も)、何を削除するかを合意する必要がある。一定時間が経過すると消去されるメッセージ機能(適切な時間設定をしたもの)を使う必要がある。特に、抗議活動に出かける際には、携帯電話にパスワードやPINコードを設定することは不可欠だ。

 市民抵抗運動の活動家は、十分なサイバーセキュリティーを実践しなければならない。秘密主義は必要に応じて用いるべきだが、それによってアウトリーチを妨げたり、情報を知っている人のヒエラルキーひいては排除をもたらしたり、グループ内の不信を高めたりする可能性もあることを理解しておかなくてはいけない。

 適正な基本的デジタル衛生に加えて、非常に制約がある環境に置かれているグループや、セキュリティー上の具体的な課題に直面しているグループは、セキュリティーを高めるための追加の戦術を検討するのがよいだろう。たとえば、使い捨て携帯を買う、特定の個人に紐づけられない一般向けアカウントを作る、人の顔やその他の個人が特定できる特徴を撮影することを避ける、自分とウェブサイトの間の中継にVPN(仮想専用ネットワーク)を使用する、監視テクノロジーの使用など当局の戦術を調査する、携帯電話の「非常ボタン」または緊急SOSオプションの形で、本人の身の安全 をサポートするデジタルアプリを使用する、ノートパソコンを暗号化するといったことである。

 ここで論じた活動家によるテクノロジーの活用という広義のカテゴリーは別として、テクノロジーが活動家に勝利の機会をもたらした成功例は多くある。例えば、一斉に電話をかける作戦オンラインゲームアプリの乗っ取り電子的手段による市民的不服従(ECD)、デジタル・ホーンティングドローンZoom爆撃サイバーデモクラウドで利用可能な小道具の活用プロジェクション、そしてオンライン署名である。

 最新のテクノロジーへのアクセスは、内部の効果的なコミュニケーションや、外部に向けた動員の機会を増やすため、そして全般において新しい戦術をとるために、社会運動にとってその価値を増しつつある。しかし、テクノロジーそのものが成功の特効薬ではない。テクノロジーをうまく活用して集団としての主体性を増し、力をつけて勝利を得るためには、私たちは、 1) テクノロジーをやみくもに崇拝せず、選択できるツールの一つと考え、賢明に投資し、最新の状態に保つこと、2) デジタル衛生に投資して整え、自分たちの選択肢を把握し、運営がうまくいく方法を選択し、早い変化のペースに合わせた(再)検討の機会を計画する、といったことを通じてセキュリティーに留意することを忘れてはならない。

 最後に、これらのデジタル・テクノロジーはエネルギーコストが高くつくことを考慮に入れておこう。「フォーチュン」誌は、「デスパシート」のミュージックビデオは、2018年4月にYouTubeで50億ビューを達成した時点で、アメリカ国内の4万軒の家庭が1年間に使う分のエネルギーを消費した、と書いている。私たちはまもなく、よりエネルギー消費が少なく、サステナブルで、環境負荷が少ない選択肢を考える気に(あるいはそうせざるを得なく)なるかもしれない。であるならば、ローテクなツールや非デジタルのツールをすべて捨ててしまわないことが重要だ。なぜなら、私たちの取り組みが自然災害や人為的災害によって混乱に陥らなかったとしても、当局はきっとある時点で電源コードを抜く(抜こうとする)からだ!#PeoplePowerWorks.

 本稿は、引用文献および取り上げられている数多くのアプリケーションの例とともに、戸田記念国際平和研究所の英文ウェブサイト上に掲載された政策提言107の要約版である。

ナディン・ブロッホは、独創的なアクティビスト・アーティスト、政治的コミュニティーの主催者、戦略的非暴力アクションの活動家であり、Beautiful Troubleのトレーニング・ディレクターである。彼女の仕事は、アートと政治が力強く交わるところを探るものである。そこでは、クリエイティブな文化的抵抗が効果的な政治的アクションであるだけでなく、自分たちの生活に主体性を取り戻し、抑圧的なシステムと闘い、コミュニティーに投資するための強力な方法となる。それも、反対側の人々よりも楽しい方法で!同氏は Beautiful TroubleBeautiful Rising書籍We Are Many: Reflections on Movement Strategy from Occupation to Liberation(2012年、 AK Press)への寄稿に加え、Education & Training in Nonviolent Resistance(2016年、USIP)の執筆者、SNAP: An Action Guide to Synergizing Nonviolent Action and Peacebuilding(2019年、USIP)の共著者でもある。同氏のアートおよびアクティビズムについての記事はWagingNonviolence.orgでさらに読むことができる。