(政策提言 No.96)
2020年10月29日配信
次期米国大統領が北朝鮮に対して取りうる実際的アプローチ
ジョセフ・ユン/フランク・オウム
本稿(Joseph Yun , Frank Aum共著)は戸田記念国際平和研究所の政策提言No.96「次期米国大統領が北朝鮮に対して取りうる実際的アプローチ(A Practical Approach to North Korea for the Next US President)」(2020年10月)に基づくものである。
3年にわたり北朝鮮に対して一貫性のないアプローチを続けた揚げ句、トランプ政権は、核の脅威の低減や朝鮮半島における平和と安全保障の強化をほとんど進展させなかった。現在、北朝鮮は相変わらずウランを濃縮し、ミサイル攻撃力を高め、2018年に講じられた南北朝鮮融和策を覆している。次期米国大統領は、このような憂慮すべき状況に対処しなければならない。
米国政府は、過去のアプローチの失敗から正しい教訓を学ぶべきである。近い将来の非核化というドン・キホーテ的な夢に立脚した過激な政策を捨てるべきである。そのかわり、次期大統領は長期的な非核化と並行して平和と安定性を優先し、相互的かつ均衡的な対策を講じて、現実的な短期的成果と安全保障上の具体的見返りを求め、地域のパートナーから支援を得る、より実際的かつ積極的な外交を追求するべきである。そうしなければ、北朝鮮はいっそう挑発的な行動に出るようになり、近隣諸国だけでなく米国本土にも脅威となるだろう。
圧力だけでは十分ではない。
これまで、米国が北朝鮮を非核化するための実用的理論は、核兵器か国家の存続かの二者択一を迫ることだった。金正恩(キム・ジョンウン)の選択肢をより明確にするため、オバマ政権は国際社会に協力を求めて、世界的圧力キャンペーンを行った。その後トランプ政権は、圧力キャンペーンを強化した。トランプ大統領は、北朝鮮が脅しを続けるなら「炎と怒り」に直面するだろうと断言し、もし攻撃を受けたら米国は北朝鮮を「完全に破壊」すると警告した。
しかし、北朝鮮を説得して非核化させるには程遠く、圧力アプローチは、確実な核抑止力の追求に拍車をかけただけのように思われる。キム(金)はミサイル実験と核実験にいっそう力を入れ、2017年にはついに、250キロトンの核爆弾と米国本土全体を射程に入れることができる長距離弾道ミサイルの実験に成功した。というのも、制裁は、多大な犠牲を払わせるにもかかわらず、政治体制の行動を変化させるにはほとんど効果がないからである。特に、敵の攻撃を抑止するために、圧力には圧力で対応しなければならないと信じている政治体制の場合はなおさらである。
北朝鮮体制は、制裁逃れ、銀行や暗号通貨取引所からのサイバー窃盗、人民に対する完全支配、多くの第三国、特に中国とロシアによる制裁実施の緩さによって、世界的圧力キャンペーンにも持ちこたえることができた。結局のところ、圧力のみを前提とした理論は、対象となる体制がそれに逆らうような反応をし、回避する方法を積極的に模索すると、大きな犠牲と人民の苦しみをいとわない結果を招き、また、実効的な圧力をかけることを好まない、またはそれができない第三国から援助を受ければ、役に立たないのである。
何が効果的か?
持続的な成果を達成するためには、米国の政策は範囲を大幅に広げ、より現実的かつ実際的な対策を盛り込む必要がある。最近発表した報告書「朝鮮半島における平和体制」(“A Peace Regime for the Korean Peninsula”)において、我々は、米国平和研究所の同僚とともにこれらの問題の多くを検討した。
非核化と並行して、平和を優先する。
2018年6月のシンガポール宣言において、キムは、「完全な非核化に向けて取り組むこと」を自分が約束するのであれば、米国は「新たな米国―DPRK関係」を確立し、「朝鮮半島における長期的かつ安定的な平和体制」を構築することを約束しなければならないと主張した。現在交渉は膠着状態であるものの、北朝鮮はシンガポール宣言を明確に放棄していない。そこが他の過去の合意と違う点である。現実的かつ論理的なアプローチは、平和と非核化を並行して追求することである。六者会合参加国の大部分、すなわち、韓国、北朝鮮、中国、ロシアは、この枠組みを速やかに承認するだろう。
相互性と均衡性を確保する。
平和と非核化を並行して交渉するには、両サイドの利益を考慮した、相互的、均衡的、同時的な譲歩の交換が必要である。バランスの取れたアプローチとは、非核化措置と並行して、制裁緩和、外交正常化、朝鮮半島における米国の軍事活動の縮小といった、北朝鮮が望むことに取り組むことである。
現実的な、短期で得られる安全保障上の見返りを強調しつつ、長期的な非核化交渉に取り組む。
北朝鮮は、その歴史において唯一注目に値する成功をもたらした“宝刀”を簡単に放棄するはずがない。短中期的未来における完全な非核化は夢物語ではあるが、北朝鮮の核・ミサイル活動を凍結させる暫定的な取引の実現と検証はおおむね可能であり、それはただちに安全保障上の見返りをもたらすというのが、こんにち多くの専門家が認識するところである。つまり、米国は北朝鮮の非核化に向けた段階的アプローチを追求するべきであり、そのためには長年にわたる交渉、度重なる後退、そして持続的な信頼醸成措置が必要であるという現実を受け入れるべきである。
地域パートナーからの主体的参加を強める。
平和と非核化に向けた真摯な努力には、米朝と並んで朝鮮戦争の主要交戦国であった中国と韓国の参加が必要である。米国は、中国および韓国との連携なくして朝鮮半島の平和と安全保障を推進する持続可能な枠組みを創出することはできないだろう。また、適切な時期に日本とロシアの関与も取り付けるべきである。
北朝鮮は、米国大統領選を非常に注意深く見守るだろう。勝者がドナルド・トランプであれジョー・バイデンであれ、北朝鮮政府は、レバレッジを創出して有利な条件で駆け引きを始められるよう、意図的に危機を作り出すことによって相手を試そうとする可能性が高い。そうさせないよう、次期米国大統領は、平和と非核化の両面から北朝鮮政府と協議し、中国および韓国との対話を開始する準備があることを示唆することにより、素早く主導権を握るべきである。そうすることにより、朝鮮半島の平和と安全保障を実現する新たな枠組みの構築に向けた、実際的な道筋を敷くことができるだろう。
本稿は、戸田記念国際平和研究所の英文ウェブサイト上に引用文献も含めて掲載した政策提言No.96の要約版である。
ジョセフ・ユン大使は、米国平和研究所でアジアプログラムのシニアアドバイザーを務めている。フランク・オウムは、米国平和研究所で北朝鮮のシニアエキスパートを務めている。本稿で表明された見解は、あくまでも執筆者の見解であり、彼らが関係するいかなる機関の立場を必ずしも反映するものではない。本稿は、最初に「原子力科学者会報」において、より長文で発表されたものである。:https://thebulletin.org/2020/10/a-practical-approach-to-north-korea-for-the-next-us-president