訃報 チャイワット・サーシャ=アナンド教授 逝去
戸田記念国際平和研究所長 ケビン・P・クレメンツ
2024年6月27日、チャイワット・サーシャ=アナンド氏が、がんのため逝去された。69歳でした。彼は優しく思いやりのある、素晴らしい人間でした。仏教徒が大半を占めるタイでは珍しいイスラム教徒だった。彼のその宗教的アイデンティティーが、いかにしてあらゆる差異を非暴力的に解決できるか、という生涯にわたる関心を彼に与えたことは疑いがないでしょう。しかし、抑圧的な支配に対して非暴力で抵抗する方法を理解したいという情熱を彼に持たせたのは、1970年代に起きたタイの軍事独裁政権に対する運動だったといえます。
彼は「私は、暴力というものは克服できる問題だと信じている。私は対立があることは普通のことであり自然だと考えており、それを根絶することを目指してはいない。しかし『暴力』は普通ではない。そして対立の解決に暴力を使う必要はない。平和的手段による別の方法があるはずだ」と述べていました。
チャイワット氏は、タイの国防軍や社会問題に関する研究と活動を行う「タイ平和情報センター」の所長やタイの戦略的非暴力委員会議長も務めました。彼は、イスラムの平和構築の伝統を理解することに力を傾け、一生を非暴力論とその活動に捧げたのです。さらに彼は数年にわたり国際平和研究学会(IPRA)の非暴力委員会を率い、私が事務局長を務めていたアジア太平洋平和研究学会(APPRA)ではメンバーとして積極的に活動をしました。
彼は2012年にエルヒブリ平和教育賞を受賞しています。2003年にはタイ南部で起きた暴力問題の解決のための国民和解委員会委員に任命され、暴力軽減の方途に関する最終報告書をタイ政府に提出しました。彼は非暴力の実践者であるだけでなく、優れた学者でした。彼の重要な著作の一つには「The Promise of Reconciliation? Examining Violent and Nonviolent Effects on Asian Conflicts(和解の兆候か?アジアの紛争に見る暴力および非暴力の影響を分析する-邦題仮訳)」(Transaction Publishers, 2016)があります。
これらの全ての業績にもまして、チャイワット氏は自己の可能性を存分に発揮した卓越した人物でありました。彼は非暴力を生き方として体現していた。彼の死は、彼と共に働く幸運を得たすべての人々から悼まれることでありましょう。
彼は戸田記念国際平和研究所の上級研究員として尊敬を集めていましたが、病により退くこととなりました。しかし彼はこの病に自らが束縛されることを許さず、平和への仕事を最後まで続けました。戸田平和研究所は、彼のパートナーであるスワンナ・サーシャ=アナンド博士に深く哀悼の意を表します。
APPRA、IPRA、ハワイのグローバル不殺生センターでチャイワット氏と共に働いたすべての人にも心からお悔やみを申し上げます。彼は、人生を懸命に生き切ることにおいて私たちの素晴らしい模範となりました。マレーシアのアンワル・イブラヒム首相による「私はこの並外れた魂に別れを告げても、彼が残した遺産に私は慰めを見いだす。彼の記憶が、我々が平和の道を歩き、困難に直面しても理解を求め、また調和と尊敬が支配する世界の構築に向けて、永遠に勇気づけられることを願う」との弔辞は、彼がどれほど高く評価されていたかを示しています。親愛なる友人の冥福を祈ります。非暴力の世界、非暴力のタイを目指した彼の素晴らしい仕事を続けていくことで、彼の生涯を讃えたい。