Global Challenges to Democracy ロバート・カウフマン  |  2025年02月24日

トランプ就任1カ月: 情報洪水戦略

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 大統領2期目の最初の30日間、ドナルド・トランプとその側近らは、一部の人が「緩慢な政治クーデター」とも評する行動に及んできた。新大統領は、制度的チェック・アンド・バランスや市民的および政治的権利に対する全面攻撃というべきものに乗り出している。公衆衛生、社会サービス、環境保護という重要分野における政策の急転換を打ち出しているのだ。外交政策では、ロシアや中国といった独裁的敵対国による潜在的攻撃に対する防衛を目的とした数10年にわたる政治的・軍事的連携を覆している。他の国々でも同様の動きが起こっており、政治学者が「競争的権威主義体制」と呼ぶものが登場している。民主主義的制度が独裁支配の現実を隠蔽する偽装となっている政治体制である。

 トランプの猛攻撃がどのように終わるかを言うにはあまりにも時期尚早であるが、現在の彼がもたらす民主主義への脅威と、1期目にもたらした脅威の主な違いを浮き彫りにすることは非常に重要である。トランプ1.0は、深く根差した政治的言説と慣行の規範に対して攻撃を仕掛け、彼を勝利に導いた社会の分極化を激化させた。しかし、米国の政治制度と憲法制度はおおむね無傷であった。民主主義への挑戦は、1月6日の議事堂襲撃事件を含め、議会の反対、裁判所、マスコミ、市民社会によって封じ込められた。共和党内部からの抵抗さえも、あるいは特にそれこそが、トランプの権力の乱用に対する重要な抑止力となっていた。

 現在トランプが米国の民主主義にもたらしている脅威は、それよりはるかに深刻である。なぜなら、それは、規範だけでなく法制度と憲法制度をもターゲットにしているからだ。現在の議会は、いまやすっかり忠実になった多数派の共和党議員に支配されており、独立機関への攻撃、監察官の解任、議会が定めた政府機関を大量解雇と資金凍結によって弱体化または廃止しようとする試み(USAIDの事実上の解体はその皮切りである)に抵抗することができなくなっている。無気力な上院は、かつては主流のはるか外にいると見なされていた人々が高位の政治任用ポストに就くのを黙認し、イーロン・マスクが国の官僚組織を「改革」するために絶大な権力を振るうかたわらで、静かに座っているだけである。下級裁判所はこのようなイニシアチブの一部を阻止する手を打ったが、それらの判決を極めて保守的な最高裁判所が支持するかどうか、また、支持したとしてもトランプがそれに従うかどうかは不透明である。一方、マスコミや大衆運動、大企業は、いずれもトランプ政権1期目では重要な抑制機能を果たしていたが、今期は呆然とし、混乱し、怖気づいているように見える。

 これまでのところ、トランプの行動のスピードと量は、支持者と反対者の両方の調子を狂わせている。彼の取り組みの一部は明白に違法であるが、彼は、法律の多くのグレーゾーンも利用している。そのため、民主主義が後退しつつある他の国々と同様、反対者らが連合してそのような難題に立ち向かうことが難しくなっている。さらに悪いことに、トランプ(そしてマスク)が早期に行った一部の取り組みによるダメージ、特に健康、環境、教育、対外援助、その他の極めて重要な機能を担当する政府機関に対するダメージは、すでに取り返しがつかなくなっているかもしれない。その損害は、専門知識の喪失、重要な研究の中断、不可欠なサービスの停止、そして国家安全保障への脅威の増大という形で測ることができるだろう。

 米国で現在われわれが直面している脅威の重大さを理解するには、比較的視点に立ってそれらを検討することが有用である。ステファン・ハガードと筆者が以前行った「民主主義後退」の16事例に関する分析では、独裁志望者が体制における権威主義的支配を確固たるものにすることに成功した(「競争的権威主義体制」)国とそうではない国を区別した。ジャイール・ボルソナロ政権下のブラジルと、トランプ1.0政権下の米国ではいずれも、対抗勢力は裁判所、議会、州において重要な制度的影響力を保持しており、独裁主義的な戦略を封じ込めることに成功していた。逆に、ハンガリー、トルコ、ベネズエラのような国々では、選挙で選ばれた独裁者が政治運動を率い、それがこれらの国々の憲法制度に対する支配を拡大し、さらにこの支配が正当性という体裁を作り上げ、彼らが対抗勢力の力を奪い、民主主義システムを弱体化させることを可能にした。

 今回返り咲いたトランプ政権は、トランプ1.0の時よりもはるかに、競争的権威主義へと発展していった民主主義との大きな類似性を備えている。われわれが分析した他の民主主義後退国と同様、わが国の議会は、トランプが自身の権限を拡大しようとするのを抑制するのではなく可能にしている。最高裁判所の独立性は依然として疑わしい。そして、対抗勢力の多くは分断され、士気をくじかれている。

 しかし、われわれはまだ独裁主義の敷居をまたいではいない。権力を固めようとするトランプのもくろみは重要な課題に直面し続けており、それは時とともに重大性を増す可能性がある。第1に、憲法制度が弱体化したとはいえ、それはまだ存続している。上述の通り、下級裁判所はこれまでのところ、トランプの破壊的な戦略を阻止または少なくとも遅らせるための重要な道筋を提供し続けている。また、野党がその基盤を取り戻す可能性は十分にある。確かに国全体で見れば民主党の影響力は極めて小さいが、多くの州や市の政府を引き続き支配しており、それが重要な対抗運動の基盤を提供する。市民社会組織も、トランプ就任当初の衝撃が収まるにつれて自らの声を見いだしていくだろう。また、マスコミは、圧力がかけられているにもかかわらず、独裁主義者の支配に屈した国々のマスコミよりははるかに堅牢な対抗と批判のフォーラムであり続けている。

 別の記事でも書いた通り、トランプ連合にも内部亀裂があり、当初のハネムーン気分が薄れれば亀裂が拡大する可能性が高い。企業界、特に巨大IT企業は、減税と規制緩和による利益を期待して新政権のご機嫌取りに駆け付けている。しかし、大企業は、サプライチェーンの途絶、高い輸入関税、移民労働者への攻撃、そして地政学的不安定さによる深刻な脅威にも直面している。例えば、自動車産業は北中西部と共和党支持州における主要な雇用産業であるが、鉄鋼への関税と部品や原材料の輸入規制により大きな課題に直面している。

 最後に、トランプは、自身に投票した有権者の離反に直面するだろう。なぜなら、彼の貿易政策や移民政策が、物価安定や雇用安定を求める有権者の希望に水を差し始めているからである。政権が新たな公衆衛生危機を回避できなかった場合、あるいはウクライナ、中東、アジアにおける国際紛争にうまく対処できなかった場合、不満は拡大するだろう。

 確かに、こういった問題にもかかわらずMAGA層(有権者の約30%)が忠実であり続ける可能性は高い。また、現在のメディア環境では、他の多くのトランプ投票者は、自分たちが直面している困難が誰の責任なのか、よく分かっていないかもしれない。しかし、オルバンやエルドアンのような選挙で選ばれた独裁者とは異なり、トランプに対する有権者の支持はそもそも弱く、2024年の選挙では50%未満であり、すでに支持率は下がり始めている。分極化した米国社会において、トランプに対する有権者の支持が完全に崩壊するとは考えられないが、少なくとも一部の投票者の離反が対抗する民主党の追い風となり、一部の共和党政治指導者の忠誠心を弱める可能性がある。

 トランプ2.0の発足は極めて恐るべきものであり、上述の通り、公共サービスや国際安全保障を提供する国家能力がすでに負わされたダメージは修復が極めて困難、あるいは不可能ですらある。また、たとえトランプの戦略が最終的に阻止されるとしても、わが国の民主主義システムの長期的健全性は、長年の社会問題や政治的問題に対する新しい革新的なアプローチがない限り、不安定なままであろう。しかし、そのようなアプローチが成功を収めるか否かにかかわらず、権威主義への転落を防ぐことができれば、それは小さからぬ成果である。少なくとも、トランプが退場した後により公正でより堅牢な民主主義システムを構築する道を残すことになる。

ロバート・R・カウフマンは、米国ラトガース大学の政治学名誉教授。「Backsliding: Democratic Regress in the Modern World」(Cambridge University Press, 2021)の共著者である。