Cooperative Security, Arms Control and Disarmament ラメッシュ・タクール  |  2023年10月19日

核軍縮と国連改革

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 本稿は、政策提言139の要約です。全編(英語)は、研究所ウェブサイトでご覧いただけます。

 2021年1月、核兵器を違法化する国際条約が発効した。核兵器禁止条約(TPNW、あるいは禁止条約)は、1970年に核不拡散条約(NPT)が発効して以来、核軍備管理における最も重大な多国間の動きである。同条約は、核兵器の倫理性、合法性、正当性に対する新たな規範的解決点を確立するものである。

 9カ国の核兵器保有は、2021年1月の条約発効をもって突然違法になったわけではない。しかし、国連が承認したプロセスと会議を経て国連で交渉が行われた条約が核兵器の保有と運用の合法性と正当性に影響を持たないと主張することは、誤りといえる。

 ロシアのウクライナ侵攻は、核兵器をめぐるグローバルな言説に大きな影響を及ぼしている。抑止力として、また強制外交の手段としての核兵器の有用性と限界、核兵器を放棄することの見識、核兵器を取得する、または他国の核の傘に入ることへの誘因、そして何よりも、誰も望まないが誰もが恐れる全面核戦争の甚大なリスクに関する言説である。

 今となっては、核兵器にはほぼ完全に有用性がないことを、われわれはいっそう明確に理解できる。1945年以降に欧州で発生した最大の地上戦を支える軍事力として、ロシアには6,000発近い核弾頭があり、ウクライナには1発もないが、ウクライナはそれにひるんで降伏することはなかった。キーウは、核兵器が強制外交の道具として失敗した以上、軍事的に有用ではないと確信し、猛然と領土を防衛している。核兵器がもたらす国際政治における代償は、いかなる戦果をも上回るだろう。

 違法な侵略によってすでに深刻なダメージを受けているロシアの評判は、核兵器を使用などしたら完全に失墜するだろう。ロシアは、自国の軍隊も、ウクライナのロシア語圏も、さらにはロシア本土の一部も、放射性降下物から守ることができないだろう。それゆえ、核兵器は自己抑止機能を発揮する。

 確かにウラジーミル・プーチン大統領は、公然と「特別警戒」態勢に置いたその恐るべき核兵器について、あからさまに、かつ繰り返しNATOに示唆し、部外者が介入などしようものなら「予測不可能な結果」をもたらすだろうと警告した。NATOはそのいずれに阻止されることもなく、ますます殺傷力のある、効果の高い兵器をウクライナに供与しており、それがロシア軍の戦死者数を増やしている。

 NATOは、ウクライナにNATOの陸上部隊や戦闘機を派遣することは控えている。しかし、この慎重な姿勢が、どれほどロシアの核能力を考慮してのことか、あるいはアフリカ、中東、アジアにおけるNATOの軍事作戦失敗という内在的記憶にどれほど起因するものかについては、議論の余地がある。また、ウクライナにおけるNATOの利害が、単にロシアとの大規模な地上戦というリスクを冒すほど大きくないということもある。ロシアとの地上戦は、NATO自身の存続をかけた厳しい戦いになるだろう。

 しかし、ウクライナ危機は、すでに弱体化している核軍備管理および軍縮の努力に悪影響を及ぼす可能性が高い。ロシアの行為は、184カ国の非核兵器国にとって、安全保障上の懸念に対する安心材料とはならない。とはいえ、プーチン大統領は、地理的戦域をNATO加盟国に直接拡大するという常軌を逸した望みを示唆するようないことは何も言っていない。ウクライナのドンバス地方を制圧してロシア化し、クリミアを守り抜こうとするだけでも、プーチンにとっては手一杯なのだ。

 2017年の禁止条約採択によって、国連総会は国連史上初めて、常任理事国5カ国を合わせた地政学的影響力を上回る規範的優位性を総会が持つことを主張した。それは、安全保障理事会と総会の関係のバランスを取り直すことが国連の正当性、ひいては有効性を回復させるために不可欠であると、釘を刺すものだった。

 国連改革という広範囲かつ多岐にわたるアジェンダにおいて、最も重要で喫緊の課題は安全保障理事会のそれである。硬直した安全保障理事会は、1945年当時のパワーの均衡に囚われたままであり、従って、その中核を定義するロジックからもずれてしまっている。力を持つ国は罰せられることなく国連憲章体制のルールを破ることができるという広く普及した認識の強化に寄与した常任理事国は、ロシアだけではない。

 国連の77年間の歴史において、アフリカ諸国とアジア諸国の数は、加盟国全体の5分の1から半分以上へと増加した。西側諸国は、4分の1から6分の1へと縮小した。それでも、グローバルノースは安全保障理事会における支配的立場を保持し、理事会全体の40%、常任理事国の60%を占めている。非西側国は世界の人口の85%を占めているにもかかわらず、安全保障理事会全体の53%、常任理事国の20%しか占めていない。事務総長の選出には安全保障理事会が極めて重要な役割を果たすことから、グローバルノースの支配は、部局、基金、機関の長、事務総長特別代表、特使など、国連システム全般の上級職の選任に影響を及ぼしている。

 このことは、国連の最も重要な組織としての安全保障理事会の代表正当性を損ない、平和が最も脅かされている地域の開発、安全保障、人権、環境ダイナミクスを十分に理解したうえで意思決定を行う能力を弱める。また、国連が、平和と安全保障、人権、開発、環境という四つの規範的使命の全てを有効に実施する能力を損なう。だからこそ、安全保障理事会の構成、特に常任理事国の構造改革が重要なのである。しかし、近い将来にそれが実現する見込みは極めて低いため、最も考え得る道筋は、国連の正当性、有効性、権威が引き続き低下し、そして国連がますます周縁化され、的外れな物になっていくというものだ。

 国連職員と世界中の国連支持者の間では国連楽観論の炎がゆらめいているが、そのゆらめきは、さまざまな場面で攻撃を受けているという意味でもあり、それでもなお断固として燃えているという意味でもある。禁止条約は、希望と楽観主義のゆらめく炎を象徴するものだ。

 現在のウクライナ危機や起こり得る米中衝突は、核のアルマゲドンが意図的ではないにせよ、事故(システムエラー)や誤算(人為的ミス)によってはからずも起こってしまうかもしれないという世界の恐怖を増幅する。禁止条約は、われわれに規範的枠組みを授ける。その枠組みでは、核兵器の廃絶によって核の脅威を取り除く長い道のりにおいて、核リスク削減措置のアジェンダが依然として極めて重要である。

 われわれは、次のようないくつかのステップを、政府に対して/政府を通して積極的に推進することができる。

  • 核保有国や核傘下国の核兵器依存を削減する。
  • NPT第6条の核軍縮義務を履行するための具体的措置を講じる。
  • 禁止条約の規範的前進を認める。
  • 条約に反対する米同盟国は、禁止条約から距離を取るのではなく、関与するべきである。2022年6月の第1回締約国会議でドイツが行った演説は、TPNWの支持者と批判者に対して核兵器のない世界を実現するという共通の目標に向けて協力するよう促すという点で、特に建設的だった。
  • 核軍備管理交渉を復活させ、活性化させる。
  • 台湾情勢をめぐる中国や米国によるものを含め、核兵器の先制不使用を普遍化する。

ラメッシュ・タクールは、国連事務次長補を務め、現在は、オーストラリア国立大学名誉教授、戸田記念国際平和研究所上級研究員、オーストラリア国際問題研究所研究員を務める。最近の編著書に「The nuclear ban treaty: a transformational reframing of the global nuclear order」がある。