Cooperative Security, Arms Control and Disarmament アレクサンダー・クメント  |  2021年01月12日

核依存国はTPNW発効にいかに対応し得るか

Photo Credit: Nisa yeh

 1945年に核の時代が幕開けして以来、核兵器に対する各国の認識や戦略的立場には常に相違がある。2017年の核兵器禁止条約(TPNW)は、このような既存の分断を白日のもとにさらした。この条約は、核兵器の人道的影響やすべての人類にもたらす持続的リスクを、非核兵器国がますます重大視するようになった結果である。また、TPNWは、核不拡散条約(NPT)のすべての締約国が全会一致で約束した、信頼できる核軍縮措置および行動が欠如していることへの懸念の表れでもある。TPNWを通して、支持国は核兵器問題に対する明確な態度を示した。すなわち核兵器の爆発がもたらす人道的影響は、あまりにも重大で受け入れ難く、そして恐らく全世界に及ぶものであり、核兵器と核抑止態勢の実行のリスクはあまりにも大きいと考える態度である。したがって、このような事態を防ぐために、また世界が核兵器に基づく安全保障の概念から脱却するための概念的前提条件として、核兵器は禁止されなければならない。

 驚くには当たらないが、核武装国はTPNWを手厳しく批判しており、核兵器を手放す意思はまったく見せていない。過去数十年にわたってこれらの国が主導してきた核兵器をめぐる議論は、核抑止を維持する“必要”を前提条件とし、優先させるものである。核抑止は価値があり必要であるとされ、それが当然と見なされている。これまでのところ、核抑止の前提概念の信ぴょう性に疑問を投げかける考え方や取り組みは、ナイーブであるとか異端であるなどと反論され、それ自体の真価をもって考慮されていない。核抑止のドグマの壁を突破することは、これまでのところ不可能だった。2013年にオスロで開催された核兵器の人道的影響とリスクに関する第1回国際会議以降、提起された実質的な議論に核兵器国が参加することができない、あるいは参加する用意がないという事実も、それを示している。そのような議論はまさに核抑止論の信ぴょう性に異議を唱えるものであるため、核武装国と依存国は、代わりに核兵器禁止という考え方、ひいてはTPNW自体を批判することによって矛先をかわす策を講じてきた。

 TPNWを支える論理的根拠も、核依存国すなわち核武装国との拡大核抑止の取り決めを結んでいる国を難しい立場に追い込む。核依存国がうわべの核軍縮支持を主張しながら、同時にTPNWを批判し核兵器の“必要性”と核の現状維持を擁護することは、いっそう難しくなっている。2016年の国連オープンエンド作業部会や2017年のTPNW交渉会議といったTPNWに至るプロセスには、いずれの核武装国も参加していないため、これらの会議で核兵器の安全保障上の価値と核兵器を保持する必要性を声高に訴える役目は核依存国に委ねられた。そのためTPNWは、核依存国が核軍縮や広義には多国間主義を支持しながら、同時に、自国が属するNATOのような軍事同盟の現行の核兵器と核抑止政策を黙認するという、信頼性の問題をあらわにする。この状況は今後さらに厳しいものになるだろう。なぜなら、TPNWが法的に発効すれば、必然的に彼ら自身の国でTPNWとその論理的根拠に関するより幅広い、より市民参加的な議論が湧き起こり、市民社会の関与へとつながっていくからである。

 とはいえ、核依存国がこの課題を認め、TPNWの支持に向けて建設的な準備を進めるために取り得るステップはある。例えば核依存国は、核リスクや現行の核抑止政策のせいで非核兵器国の大部分が感じている脅威に対し、理解を表明することができる。彼ら自身も核抑止に基づく安全保障構造からの脱却を望んでおり、それが長期的に持続可能な安全保障政策ではないと理解していることを表明することができる。核依存国は政治的な理由により、今すぐにはTPNWに署名できないと考えているかもしれないが、核抑止への依存を減らし、そこから脱却し、他の形の抑止に置き換えることを明確な政策目標として、また緊急の優先事項として掲げることができるだろう。核依存国は個別に、または集合的にそのような政治目標を設定し、核抑止の持続可能性に関するより建設的な対話への門戸を開くことができるだろう。そのような対話の中で、すべての人類に対する核兵器の人道的影響とリスクを、安全保障上の利益と知覚されているものと比較検討すればよい。

 核兵器と集団安全保障に関して、このようなより広範かつ包括的な議論が必要であり、核兵器が構成する世界的脅威に見合ったペースでその議論の重要性を認識し、国際レベルで追求されるべきである。

 2010年、NATOはその戦略概念において、「核兵器が存在する限り、NATOは核同盟であり続ける」と表明した。これは、TPNWに反対するNATOの姿勢を強調するために、しばしば引用される文言である。この声明の論理的帰結は、当然「NATOが核同盟であり続ける限り、核兵器は存在する」である。しかし、NATOの戦略概念でその前に書かれている文は、「核兵器のない世界のための条件を創出するという目標に向けて、NATOは全力を尽くす」である。核兵器への依存と核抑止から脱却する信頼性のある動きを開始することが、恐らくほかの何よりも、その条件を創出すると言っていいだろう。これまでのところ、より軍縮賛成派の核依存国の間で、核抑止に関するそのような幅広い議論を開始する、または参加するような動きはあまり見られない。それは、この大西洋を横断する同盟の未来や米国による安全の保証といった、核兵器問題にとどまらない政治的理由による部分もある。ワシントンにおけるさまざまな政治的状況や、TPNW発効を受けていくつかの核依存国がいわゆる橋渡しの努力を行うことで、より大きな可能性を見いだせるかどうかは、今後を待たねばならない。

アレクサンダー・クメントは、オーストリアの外交官であり、同国外務省軍縮・軍備管理・不拡散局長を務めている。軍縮・不拡散問題に関する幅広い取り組みを行っており、核兵器の人道的影響に関するイニシアチブや核兵器禁止条約(TPNW)の立案者の1人である。2016年よりEU政治・安全保障委員会のオーストリア常駐代表を務めた後、サバティカルで2019~2020年にキングス・カレッジ・ロンドンで上級客員研究員を務めた。著作 ‘The Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons: How it was achieved and why it matters’ が2021年春に Routledge Taylor & Francis Group から出版される予定である。

本論説に表明された見解は執筆者の見解であり、オーストリア外務省の立場を必ずしも反映するものではありません。