Climate Change and Conflict フォルカー・ベーゲ  |  2023年11月28日

想像を絶する事態を目前にしての公正と気候正義

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 COP28に先立つ数週間、戸田記念国際平和研究所はグローバル・アウトルックで特集を組み、気候危機によって太平洋地域の人々が体験していること、また、ドバイで開催される2023年のCOPについて彼らが期待することを取り上げる一連の記事を発表してきた。会議を直前に控え、これらの記事で表面化した主な懸念や課題をまとめることとする。

 太平洋の小島嶼国(あるいは大海洋国)は、気候変動により今日すでに深刻な影響を受けている。海面上昇のように緩やかに進行する事象からサイクロンのような突発事象まで、気候変動の影響は、これらの国々に深刻な存続の脅威をもたらしている。従って、太平洋島嶼民は何よりもまず実質的な緩和策をただちに求めており、また、彼らが気候変動の影響に適応するのを支援する実質的な資金供与を求めている。

 緩和策については、いっそうの取り組みを行わなければならない。温室効果ガス(GHG)の主要排出国は、「温室効果ガス排出量を削減する野心的な対策を公約する必要がある」。そのためには、化石燃料生産の急速な段階的廃止が必要である。化石燃料産業への補助金を中止し、炭鉱、油田、ガス田の新規開発や拡張をやめることが、特に急を要する。世界的な化石燃料の段階的廃止には、化石燃料からの公正かつ公平な転換が伴わなければならない。

 さらに、「気候資金の質と量」を大幅に向上させなければならない。特に、昨年(2022年)のCOP27で合意された「損失と損害」基金を今年(2023年)のCOPで設立し、資金を拠出する必要がある。最もリスクにさらされた現地コミュニティーが直接アクセスできるようにした強固な「損失と損害」基金が、太平洋島嶼民の中心的な要求である。コミュニティーにとって有効かつ実用的であるために、資金提供メカニズムは、「厳しいスケジュールや複雑な官僚的プロセスなどによって、援助プロセスをコントロールしたいという欲求を、資金提供国が控えるという約束が必要」になるだろう。

 また、非経済的な損失と損害、例えば文化的アイデンティティー、伝統的知識、祖先の埋葬地、聖地などの損失は、太平洋島嶼民にとって大きな懸念である。それは、太平洋地域の若い人々にとりわけ影響を及ぼす。特に、彼らが環太平洋地域の外国への移転を余儀なくされる場合である。より一般的には、気候によって誘発または強制される移転や避難は、太平洋地域(およびその他の場所)の人々に大きな経済的および非経済的な損失と損害をもたらす。それは、直接的な暴力につながる恐れがあり、紛れもなくある種の構造的・文化的暴力であり、女性がとりわけ深刻な影響を受ける。したがって、危機への「解決」として移転に踏み切る前に、人々が故郷と呼ぶ場所に留まることを可能にするため、あらゆる手を打たなければならない。

 太平洋諸島の人々は、GHGの主要排出国の政策が、気候非常事態の根本原因(特に化石燃料)に取り組むのではなく、その影響に対するバンドエイド的「解決」しか提供していないことを強く批判している。典型的な例としては、2023年COPの直前に発表されたオーストラリア・ツバル・ファレピリ連合条約がある。この条約は、太平洋国家ツバルの気候変動に影響を受けた人々への寛大な申し出としてオーストラリアが提示し、オーストラリアに気候移住する権利を提供するものである。条約は、気候移住に関する最初の2国間条約であり「オーストラリアと太平洋国家の間に結ばれた史上最も重要な合意」(オーストラリアのアルバニージー首相)として称賛された。しかし、オーストラリア政府はその一方で、炭鉱の新規開発やその他の化石燃料プロジェクトを頻繁に承認しており、化石燃料産業への補助金は太平洋諸国へのオーストラリア政府の海外援助をはるかに上回る。現在オーストラリアは、世界3位の化石燃料(石炭、天然ガス)輸出国である。このような状況のもとで、ファレピリ条約が「気候正義を実現するものではない」ことは明白である。ツバルのエネレ・ソポアンガ前首相は、この条約を、「オーストラリアの石炭輸出に対するツバルの沈黙を買うためであり、ツバルの国家としての終焉に寄与する」ものだと考えている。ソポアンガは、この条約を「恥ずべきもの」と呼んだ。ツバル国民をオーストラリアに受け入れる特別移住政策の申し出が、「極めて新植民地主義的な西洋人」のやり方で、ツバルの外交・安全保障・防衛政策に対する拒否権をオーストラリアに付与すること、それにより国家主権を損なうこと、あるいはソポアンガの言葉で言えば「ツバルの主権をオーストラリアに明け渡すこと」と抱き合わせになっているのだから、なおさらである。オーストラリアが本当に「太平洋ファミリー」の一員にして「良き隣人」(これが、ツバル語の「ファレピリ」の意味である)になりたいと願うなら、気候変動の原因に取り組まなければならない。2026年のCOP31を太平洋島嶼国と共同開催することを望むなら、なおさらである。

 明るい面を見れば、今年(2023年)ドバイで開催されるCOPで初めて「平和」が特別議題となる「COP28気候・救援・復興・平和に関する宣言」が発表されることも計画されている。実際、気候政策の文脈において、気候関連の紛争防止や平和構築にこれまで以上の注意を払う必要がある。国連が2023年7月に発表した「平和のための新たなアジェンダ」は、明確にこう述べている。

 気候変動がもたらす問題とそれが生み出す不平等に対し、野心的な緩和策、適応策、損失と損害のアジェンダの実施を通して正面から取り組み、十分な気候資金によってそれを支えなければ、地球にとっても、また、開発、人権、平和構築の共通目標にとっても、壊滅的な影響が出るだろう。

 地球温暖化が現在のペースで衰えることないまま続くなら、それは世界の平和と安全保障にとって「想像を絶する」結果をもたらすだろう。特に、気候変動による最も深刻な影響があり、同時に最も脆弱で紛争の影響を受けている地域でそれが顕著となるだろう。

 COP 28に出席する代表者らが、気候と平和の関連性を真剣に受け止めようと本当に思うなら、相当額の気候適応資金が、脆弱で紛争の影響を受けている国に提供され、脆弱性/紛争と気候変動の悪循環への取り組みがなされるようにするべきだ。気候変動が、避難や乏しい天然資源をめぐる競争のような紛争の原因になりやすい問題を悪化させ、紛争/脆弱性が気候への適応や緩和を妨げるという悪循環である。

 太平洋島嶼民には気候危機に取り組む方法に関する提案がある。彼らはCOP28で意見を述べることになっており、各国政府、太平洋の文化、現地のコミュニティー、草の根の運動、そして、女性、若者、伝統的リーダーの声を集結する関係性に基づく太平洋的または海洋的な外交アプローチを追求し、今日の太平洋の人々の権利だけではなく将来世代の権利や自然の権利も訴えることになっている。

 2023年は観測史上最も暑い年となる見込みであり、COP28の直前に国連環境計画が発表した報告書によれば、現行政策のもとでは地球の気温上昇は今世紀末までに摂氏3度に達する可能性があるという。これは、地球規模の大惨事になるだろう。残念なことに、COP28に向けた準備や会議それ自体も、現在世界中の目の前で展開しているもう一つの大惨事によって影が薄くなってしまうだろう。イスラエルとハマスの激しい残虐な戦争が、ドバイのCOP28会場からそれほど遠くないガザで起こっている。この戦争に注目が集まることによって、気候非常事態とそれによる将来の地球規模の荒廃(暴力紛争の広がりを含め)から注意がそれてしまうとしたら、悲劇的なことである。太平洋地域と世界中の人々が単に生存するだけでなく、まともな生活を送ることができる気候がなければ、平和はあり得ない。

フォルカー・ベーゲは、戸田記念国際平和研究所の上級研究員である。