Climate Change and Conflict クライブ・スコフィールド、カレン・スコット  |  2024年05月27日

海洋法と気候変動に関する新判断がオーストラリアや島嶼国にとり重要である理由

Image: An island in Tuvalu - Romaine_W/shutterstock.com

この記事は、2024年5月24日に「The Conversation」に初出掲載され、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下で再掲載されたものです。

 国際海洋法裁判所は、海洋法の下で、各国は気候変動の影響から海洋を保護する義務があるとの判断を下した

 同裁判所の21人の判事は5月21日、気候変動と国際法に関する勧告的意見を全員一致で発表した。画期的な決定である。国際裁判所としては初めて、海洋法に関する国際連合条約に基づいて、気候変動を緩和する国家の義務の範囲を示した。

 海と気候変動は根本的に関連しているため、これらの所見の意義は深い。世界の海は地表の72%を覆っており、地球上の水の98%を占める。勧告的意見では、気候システムにおける余剰熱の90%を海洋が吸収しているとする「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)による2019年の所見が引用されている。

 国土面積(南極を除く)を50%近く上回る海域に主権(海洋管轄権)を有するオーストラリアにとって、この判断は重要である。

 気候変動が海洋に及ぼす影響によって最も脅かされている小島嶼国(しかし大海洋国)にとって、この判断は極めて重要である。

 気候変動の影響には、海水温上昇、サンゴの白化、海洋酸性化、海面上昇などがある。これらは、一部の島嶼国にとって存亡にかかわる脅威である。

 例えば、南太平洋のツバルは九つの低地環礁島と101の礁島からなる。それらを合計した国土面積は26平方キロメートルである。極めて重要な点であるが、平均海抜は3メートルを下回る。

 海面上昇に対するこのような脆弱性は、ツバルが抱える問題の一部に過ぎない。気候変動による極端な気象事象の頻度と強度が増加していることが、脅威に拍車をかけている。

 2015年のサイクロン・パムが引き起こした高潮のために、ツバルの人口の45%が避難を余儀なくされた。損失と損害のコストは、推定1千万ドルに上った。これは、当時のツバルのGDPの3分の1を上回る。

 これらの深刻な課題を受けて、アンティグア・バーブーダとツバルは、2021年10月、国連気候会議COP26の直前に気候変動と国際法に関する小島嶼国委員会(COSIS)を設立した。現在の加盟国は、両国のほか、パラオ、ニウエ、バヌアツ、セントルシア、セントビンセント及びグレナディーン諸島、セントクリストファー・ネービス、バハマである。

 主要な所見は、海洋法条約に基づき温室効果ガス排出は海洋環境の汚染に当たるという同裁判所の認定である。

 同裁判所はまた、同条約の締約国が温室効果ガス排出に起因する海洋への影響を緩和する実質的かつ具体的な義務を負うという判断も下した。これは、公海にも国家の管轄下にある海域にも適用される。そのための措置として、以下の発生源からの排出に起因する海洋汚染を防止、削減、規制する法律や規則などがある。

  • 陸上発生源
  • 船籍を掲げる、またはその船籍のもとにある船舶
  • 石油・ガス採掘などの沖合での事業に属する船舶

 また、締約国は、国際海事機関(IMO)、国際民間航空機関(ICAO)などの権限ある国際機関が定める国際基準を満たすために必要なあらゆる措置も講じなければならない。

 各国は、利用可能な最善の科学と国際規則および基準に基づいて行動しなければならない。同裁判所は、国連気候変動枠組条約と地球の気温上昇を産業革命以前の水準と比較して1.5℃に抑えるという目標を掲げるパリ協定が、気候変動に取り組むための主要な国際的法的手段として適切であることを明確に示した。

 これらの義務は、結果の義務(被害が生じないことを確保する)ではなく行為の義務(必要なあらゆる努力を行う)と認識されている。同裁判所は、これらの義務の履行に関連する注意義務は「厳格」であることを明確にした。

 勧告的意見は、これらの義務を履行する努力は、各国が利用できる手段によって異なる可能性があることを指摘している。また、気候変動体制の下で形成された「共通だが差異ある責任」という原則を認めている。

 途上国、特に気候変動に対して脆弱な国々を支援するという、海洋法に基づく義務も強調された。また、気候影響を監視および評価し、情報を共有する必要性も強調された。

 同裁判所は、各国が自国の管理下にある排出によって他国の海洋環境に損害が及ばないようにするという具体的な義務を負うことを強調した。また、国家間または国際機関を通した協力と協議という条約上の具体的な義務を指摘した。

 同裁判所は、海洋環境を保護および保全する義務が広範囲にわたることを認めつつ、ただし、希少かつ脆弱な生態系、絶滅危惧種の生息地、気候変動の影響により脅かされている海洋生物資源を保護および保全するという具体的な義務を強調した。

 勧告的意見ではあるものの、同裁判所の所見は権威を持つ。

 過去の勧告的意見は、法律に重要な貢献を果たしてきた。例えば、深海底採掘や国の管轄下にある海域における違法漁業に関する同裁判所の決定によって、注意義務の概念が海洋法に基づく標準手法として形成された。

 国際司法裁判所が出した勧告的意見は、チャゴス諸島の将来的返還についてモーリシャスとの交渉を再開するよう英国を説得した。また、これによって、国際海洋法裁判所はモルディブとモーリシャスの間の海洋境界紛争を解決することができた。

 今回の勧告的意見は、気候変動への寄与が最も小さい小島嶼国などの脆弱な途上国が、先進国の責任を問おうとする努力を支持するものである。

 海洋法に基づいて、各国は、汚染防止と海洋環境保護の義務を果たさないことに対する責任を負う。同裁判所は、気候変動と海洋酸性化のいずれについてもこの義務が適用されることを確認した。

 将来的に、例えば同条約の強制的な紛争解決メカニズムを利用するなどして、海洋関連の気候変動問題をめぐる訴訟を提起する道が、今回の勧告的意見によって開かれたといえるかもしれない。

クライブ・スコフィールドは、オーストラリア、ウーロンゴン大学オーストラリア国立海洋資源安全保障センター(ANCORS)の教授である。

カレン・スコットは、ニュージーランド、カンタベリー大学の法学教授である。