Cooperative Security, Arms Control and Disarmament ハルバート・ウルフ  |  2022年10月14日

ウクライナ戦争の行方は?

 ウクライナの未来に関する難しい問いに答えを見いだすには、現在西欧で広まっている二つの極端な、そして対極的な立場を分析することに意味があるだろう。一方では、ウクライナにいっそうの支援、特に軍事的支援を無制限に提供すべきだと考える人々がいる。もう一方では、ウクライナへのさらなる武器供給は犠牲者を増やし、戦争を長引かせるだけだと主張する人々がいる。あるいは、西側の制裁で損害を被るのはどこよりも西欧であり、ロシアではない、したがってロシアへの制裁はやめるべきだという主張である。

 幸いなことに、現時点ではどちらの立場も各国政府の合意に基づく政策とはなっていない。なぜなら、ウクライナへの無条件の支援は、エスカレーションを招くリスクを伴うからである。国際法に違反したロシアによるウクライナ侵攻と一部地域の併合は、クレムリン指導部の構想とはまったく異なる形で進行している。ロシア軍は守勢に立たされ、戦闘は終わりが見えない。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が仮に追い詰められたとしたらどのように反応するか予測し難い。近頃のおびただしい民間住宅やインフラへの激しい攻撃は、プーチンの苛立ちを表すとともに、エスカレーションにほとんど歯止めが利かないことを示している。危険は明白であり、プーチンは必要とあれば核兵器の使用も辞さないと繰り返し強調していることから、それはなおさらである。確かに、自由のために勇敢に戦っているウクライナ人がいっそうの支援を得て、ロシアの侵攻に対して見事に反転攻勢することを想像するのは魅力的である。とはいえ、ロシアによるさらなるエスカレーションがもたらす脅威は、西側同盟国がリスクを見積もるうえで重要な要素だろう。

 紛争を解決する、あるいは少なくともエスカレーションを食い止める戦略を成功させるには、何よりもまず冷静なリスク評価が必要である。戦争拡大のリスクはどれほど高いか、誰にとってリスクが高いか?それはウクライナなのか、西欧か、ロシアか、世界平和にとってなのか?警戒すべき所見が二つある。第1は、プーチン率いるロシアの近隣諸国に対する修正主義的政策である。第2は、西側の支配を脱した、全く新たな世界秩序の構築を目指す、プーチンの全般的なイデオロギー的思考性である。どちらの所見についても、バランスの取れた戦略が必要である。一方では、自由を求めて奮闘するウクライナを支援することにより、ロシアに限界を明確に示すこと。もう一方では、交渉に対して前向きであること、ただしウクライナを犠牲にしてはならない。具体的に言うなら、世間の注目の裏で、「レッドライン」は間違いなく各国政府によって守られるべきだということだ。

 ウクライナへの無条件の軍事支援以上に問題なのは、その反対の立場、すなわち、ロシアによる国際法違反、戦争犯罪、そして残虐な、しかも民間の標的も意識的に狙う軍事戦略を容認する立場である。この立場の文脈によれば、この種のむき出しのパワーポリティクスに対しては、手の打ちようがない。したがって結論は、自国の経済的利益をロシアとの関係の唯一の尺度とすることができるよう、ロシアと取引をするべきだというのだ。

 ウクライナの西側同盟国は目下のところ、このような二つの極端な立場の中道を行く、慎重かつ賢明な戦略を追求していると、筆者は結論づけている。一方では、ウクライナの正当な懸念に対して明確な支援を表明するが、もう一方では、2014年以降ロシアに占領された全領土の奪還、さらにはロシア領内への攻撃に使われる可能性がある最新兵器を求めるウクライナ政府の要求には答えていない。つまりこれは、使用される兵器と地理的広がりという両面で、この戦争を抑制しようとする試みである。

 このような方策の根拠は、ロシアが武力紛争と経済戦争のどちらもエスカレートさせる恐れがあるという予想に基づく。ロシアは明らかに、より多くの通常兵器を使える状態にあり、また核兵器も保有している。経済的にも、政治的・外交的にも、ロシアは、EUやNATOや米国政府の筋書きでしばしば描かれるような孤立した状態とはまったく言えない。先週OPECプラスグループが、すでに高い原油価格の維持または上昇さえ狙って産油量削減を決定したことは、反ロシア連合が基本的に西側同盟であることを示している。サウジアラビア、インド、中国といった影響力を持つ国々は自国の利益を追求する姿勢を崩さず、ロシアにおいては軍事力が輸出収益拡大の恩恵を受け続けるとしても、その姿勢に変わりはない。ロシアの完全な国際的孤立などということは虚構である。

 しかし、特にエネルギー供給を削減することによって西欧諸国の連帯に亀裂を入れるというロシアのもくろみは失敗した。それどころか、EUとNATOの結束はロシアの戦争によって強化された。EUもNATOも、数十年前より現在のほうが強固に団結しているように見える。とはいえ、忍耐力が試されるのはまだこれからであり、冬が来れば、エネルギー供給のボトルネックだけでなくエネルギー不足という問題が現実のものとなる。それでもなお限りない連帯が発揮されるかどうかは、そのときにならないとわからない。

 しかし、この戦争に対して考えうる解決として、現在の状況から何が言えるだろうか?できる限り早く戦争を終わらせたいという願いは、当然である。しかし、外交的解決への意欲は、いまだ見られない。ロシアは、これまで得られた成果には満足しないだろう。それどころか、国内のナショナリスト勢力はさらに激しい攻撃を求めている。とはいえ、より冷静な勢力がある時点で多数派になると思われ、彼らはウクライナ占領が判断ミスであったと認めることをいとわないだろう。他方でウクライナ政府は、軍事紛争が始まってから驚くほど初期の3月の段階で、交渉の目標として、NATO加盟の断念、クリミアの主権問題に関する今後15年間の交渉、ドンバス地方に関する2人の大統領間の直接協議、ウクライナの安全の保証という4項目を挙げていたが、当時ロシアはそれらを拒絶した。近頃の軍事的成功を受けて、ウクライナ政府ははるかに野心的になっており、クリミア半島を含め、ロシアに占領されたすべての領土を奪還することを目指している。

 この戦争は、交渉に向けて「成熟」していないようだ(ウィリアム・ザートマンの成熟理論によれば)。なぜなら、ロシアはその野心的目標をまだ断念しておらず、ウクライナは成功によって動機づけられ、侵略者をさらに押し返そうとしているからである。一方で、妥当と思われる短期的な戦略は、ウクライナが自由を守り、主権を確保できるよう、できる限りの支援を提供するが、さらなる武器提供の要求すべてには応えないということだ。もう一方で、特に米国はロシアに対し、核兵器へのエスカレーションがどのような結果をもたらすか明確にしなければならない。現在がまさにその状況のようだ。ジョー・バイデン大統領の「アルマゲドン」に関する発言を、私が正確に解釈しているのであればだが。とはいえ、このようなバランスの取れたアプローチは、この長期にわたる戦争をいっそう長引かせる可能性がある。

 冷戦終結後、ロシアとともに「欧州共通の家」(ミハイル・ゴルバチョフ)を構築するという機会は失われた。「ロシアとの対立ではなく共存によってのみ、欧州は共通の安全保障を実現することができる」という定式が長い間通用していた。ロシアは、2014年以降、ウクライナにおいて意図的に行動をエスカレートさせてきた(それ以前は旧ソ連圏の他の地域において)。NATOも東方拡大をエスカレートさせてきたが、交渉にも頼ってきた(ミンスク合意など)。いまやロシアの拡大主義的政策に幻滅した批評家たちは、「修正主義的野心が存在せず、新帝国主義国家が存在しない場合のみ、欧州に安全保障が存在する」という定式を用いている。これは、今日の現実とはかけ離れているように思える。その間にもわれわれは、武力衝突が存在し、まだ「成熟」していない一連の紛争が存在する中であったとしても、外交官たちが水面下で真剣な協議を開始してくれることを願うしかないのだ。

ハルバート・ウルフは、国際関係学教授でボン国際紛争研究センター(BICC)元所長。現在は、BICCのシニアフェロー、ドイツのデュースブルグ・エッセン大学の開発平和研究所(INEF: Institut für Entwicklung und Frieden)非常勤上級研究員、ニュージーランドのオタゴ大学・国立平和紛争研究所(NCPACS)研究員を兼務している。SIPRI(ストックホルム国際平和研究所)の科学評議会およびドイツ・マールブルク大学の紛争研究センターでも勤務している。