Contemporary Peace Research and Practice アミン・サイカル  |  2022年02月09日

米国と同盟国がアフガニスタンに残したもの

Image: Trent Inness/Shutterstock

 この記事は、2022年2月3日に「The Strategist」に初出掲載され、許可を得て再掲載したものです。

アフガニスタン戦争は、米国とその同盟国にとっては終了した。しかし、イスラムの名を借りたタリバンの過激主義的、抑圧的な支配の下で、アフガニスタンの人々の苦しみはいっそう大きくなっている。今日、アフガニスタンほど、人口の半分を飢餓で失う危機に瀕している国はない。この責任は誰にあるのか?

タリバンは、前政権を非難する。国際的な支持を得ながらも、無能で腐敗した前政権は、米国と同盟国の無思慮で不手際なアフガニスタン撤退の直後に崩壊した。しかし、それは状況の一面にすぎない。主な責任はタリバン自身と、そのパキスタンの支援者にある。

タリバン指導者(そのほとんどは国連のブラックリストに載っており、FBIの指名手配を受けている者が少なくとも1人いる)による当初の約束にもかかわらず、タリバンは、その排他的、差別的、抑圧的な行動に関する国際的懸念を軽減する措置を何ら講じていない。

これまでのところ彼らは、アフガニスタンの多様な人口構成を反映する包摂的政権を樹立すること、人権、特にタリバンが公の生活から締め出している女性と少女の人権を尊重することを求める全ての国際的圧力に抵抗している。また、彼らがアルカイダとのあらゆるつながりを断ったという具体的な証拠もない。アルカイダは、アフガニスタンの34州の少なくとも半数に下部組織を持っていると報告されている。受容できる程度の内部正当性と外部正当性をタリバン政権にもたらすような国内および外交政策プロセスは実施されていない。

外国の支援が中断し、アフガニスタンの金融資産、特に米国の銀行にある資産が凍結されているため、アフガニスタンの経済、財政、医療制度、教育制度は崩壊している。多くの企業が倒産し、開発プロジェクトは中断している。失業率とインフレ率は急上昇している。アフガニスタンの人口の90%が食料や他の必需品の不足に見舞われ、その多くが苦痛に満ちた死に直面している。児童の栄養不良や死亡は言語に絶するレベルに達しており、病院には基本的な医薬品もなくなり、新型コロナウイルス感染症が国中に蔓延している。

状況をさらに悪化させているのは、全国民への恩赦を宣言したと主張しているにもかかわらず、タリバンがいかなる形の反対勢力にも恣意的拘束、殺害、家宅捜索といった非道な仕打ちを続けていることである。

安全保障理事会に提出されたばかりの国連報告書によれば、アフガニスタンの国連ミッションは、「前政権の政府職員、治安部隊員、および外国の部隊や派遣団に協力したアフガニスタン人に対する殺害、強制失踪、その他の暴力行為に関する信憑性のある申し立てを引き続き受けている」とのことである。また、報告書では、人権擁護活動家(女性を含む)や報道関係者が引き続き「攻撃、脅し、嫌がらせ、恣意的拘束、虐待、殺害を受けている」とも主張されている。

アントニオ・グテーレス国連事務総長は、アフガニスタン経済の急激な悪化について警戒感を表明し、アフガニスタンへの流動性注入を呼び掛けた。今すぐ行動を起こさなければ、「命が失われ、絶望と過激主義が広がるだろう」と、事務総長は警告している。

タリバン報道官は、現地の状況と一致しないとして国連報告書を否定している。しかし、ヒューマン・ライツ・ウォッチなど、他の全ての報道機関や民間機関の報告は国連の調査結果を裏付けている。にもかかわらず、米国とその同盟国は、タリバン政権を通してアフガニスタンの人々を支援することへの政治的・倫理的考慮により、身動きが取れないままになっている。彼らは、国連や他の独立機関を通して人道援助を人々に直接提供することで取り組んでいる。とはいえ、これらの機関が現地で活動するにはタリバンの協力が必要であり、タリバンはそれをどのような形であれ自己に有利なように利用している。

一方、パキスタンは、ロシアや中国と同じように、大部分が米国の銀行に預けられているアフガニスタン中央銀行の資金約90億米ドルの凍結を解除するよう求めている。タリバンにとって最大の後ろ盾であるイスラマバードは、実質的にタリバンをアフガニスタンの正当な統治者として承認している。パキスタンは、タリバンが大使を任命している唯一の国である。イムラン・カーン首相、外務大臣、国家安全保障担当顧問、権力強大な軍統合情報局(ISI= Inter-Services Intelligence)の元局長など、パキスタンの文民指導者や軍指導者は、ただちにカブールと連絡を取り、パキスタンとタリバンの「支援者と被支援者の関係」としか言いようがない関係を強化した。

カーンは、タリバン政権への国際社会の関与と承認を粘り強く訴えており、最近では、あらゆる分野でタリバンの行政運営を支援するために、パキスタンから熟練労働者を派遣するよう命じた。それに対してタリバン指導者らは、パキスタンにいた時と同じように心からの歓迎を示した。しかし、パキスタン自身も核兵器保有国でありながら、無数の政治的、経済的、社会的問題、さらには複雑な外交問題を抱える脆弱な国家であることを考えると、タリバン支配下のアフガニスタンの問題をイスラマバードが解決できるはずはない。

現在の状況から明らかなのは、タリバンがパキスタンの代理人として機能し、その結果イスラマバードが長年の目標である「戦略的深化」を達成できるようになったことである。それによりパキスタンは、地域における最大のライバルであるインドに対抗し、近隣諸国により大きな影響を及ぼすためにアフガニスタンを利用することが可能になった。1994年半ばからISIがタリバンを組織化して以来、彼らを支援してきたことの見返りを得ようとして、パキスタンは、脆弱で操縦可能なアフガニスタンを求めているようだ。

アフガニスタンを救うために、国際社会は、モザイク状に構成された人口層の大多数から支持され、女性や他の少数派の権利を尊重し、主権国家としての国の運命を決定する過程に全面的に参加させる包摂的な政権を要求し続けるかたわら、そのような政権が実現するまでは人道援助をアフガニスタンの人々に直接提供することが必要である。

アミン・サイカルは、西オーストラリア大学で社会学の非常勤教授を務めている。共著に“Islam Beyond Borders: The Umma in World Politics” (2019)、共編に“Afghanistan and Its Neighbours After the NATO Withdrawal” (2016) がある。