Cooperative Security, Arms Control and Disarmament ラメッシュ・タクール | 2024年08月13日
核兵器なき世界を阻むものは何か?
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この記事は、2024年8月6日に「ジャパンタイムズ」に初出掲載され、許可を得て再掲載したものです。
広島が原爆忌を迎える今、これまで以上に強力な条約が必要である。
「ひろしまラウンドテーブル」は、2013年以降、パンデミックによる移動制限があった2年間の空白を除き毎年開催されている。広島県の湯崎英彦知事が主催するこの円卓会議は、各国の核政策専門家からなる小グループで構成され、核兵器廃絶に向けた「国際平和拠点ひろしま」構想を支援する最善の方法を議論している。
2024年の会議は7月に開催された。ハイライトは「ひろしまウォッチ」と題する新たな年次報告書の作成を発表したことであり、これは8月5日に発行された。
私の見解では、核ガバナンスの規範をなす構造に関しては、四つの緊張と、短期的に早急に取り組むべき三つの課題が存在する。
第1の構造的欠陥は、核軍備管理・軍縮体制の崩壊である。弾道弾迎撃ミサイル制限条約(ABM)、中距離核戦力全廃条約(IMF)、オープンスカイズ条約など、体制を支えるさまざまな柱が一つまた一つと崩れ去っていった。
包括的核実験禁止条約(CTBT)は十分に機能しているが、またとないほど自己妨害的な発効条件ゆえに法的に運用可能ではない。新STARTとして知られる新戦略兵器削減条約は2026年2月4日まで延長されたが、世界の核弾頭の90%をロシアと米国の2カ国で占める核軍備・配備を規制する補足条約に向けた意味ある交渉は行われていない。
部分的には、これは二つの核大国の間で不信感が膨らみ、地政学的緊張が高まっていることを反映している。
しかし、私が見たところ最大の課題は、既存の軍備管理体制が冷戦時代の二極的世界秩序を反映したものである一方、現実には世界の核情勢がますます多極化していることである。
さらに、核不拡散条約(NPT)は良好な状態にない。1968年に調印され、1970年に発効したNPTは、世界の核秩序の要として約半世紀にわたって機能してきた。しかし、条約はその規範としての可能性を使い果たしてしまった。5年ごとの再検討会議において、直近の2回にわたり成果に関する合意文書を出せなかったことは、条約の苦境を示している。
支配的な規制枠組みとしてNPTが不十分であることは、核兵器を保有する9カ国のうち、イスラエル、インド、パキスタン、北朝鮮(核兵器を獲得した順)の4カ国が条約に不参加であるという現実に如実に表れている。先述の3カ国はNPTに調印したことがなく、北朝鮮は今のところ唯一のNPT脱退国であるが、状況が速やかに改善しなければ中東やアジアで後に続く国があるかもしれない。
つまり、全ての核武装国のうち半数近くがNPTの会議に参加して議論に参加することができず、従ってその決定に拘束される理由がないということだ。さらに、これらの国々は、国連安全保障理事会による拘束に従う道義的義務も感じていない。なぜなら、安保理の常任理事国5カ国は、NPTが認める核兵器保有5カ国でもあるからだ。
最後に挙げる世界の核秩序の構造的欠陥は、核兵器を持たない国が圧倒的に多い国際社会が、核軍縮実現におけるNPTの限界を認識し、議題を提起し、国連核兵器禁止条約の交渉を2017年に開始して2021年に発効させたことである。
核保有国9カ国は、米国の核の傘に守られている日本やオーストラリアを含む大きなグループによって支えられている。これらの国々が一緒になって、妥協を拒絶する国の連合を形成している。従って、国連核兵器禁止条約は、いかなる国の核兵器保有も非合法化するという役割を果たしているものの、実質的な成果はゼロである。NPTと核兵器禁止条約の双方の陣営は、その間にある緊張の解消に向けて前進することができずにいる。理論的には、二つの条約は相互に補完し補強し合うはずであるのだが。
話を政策課題に移すと、最も重要な事項は、核兵器の使用に対するモラトリアムの継続を確保することである。これは文字通り、1945年の広島と長崎に起きた悪夢の繰り返しを阻止する最後の砦である。
その目的のために、二つの措置を講じることが緊急に必要である。全ての国が、核兵器使用の可能性について語ることや脅すことをやめなければならない。そのような事例は全て、核兵器の保有と、その使用について語ることの両方を常態化させてしまう。もし核保有国が「先制不使用」条約の交渉を行うのであれば、規範的障壁はさらに強化されるだろう。
7月12日、中国はNPT(先述の核保有国4カ国を除く)のもとで草案を提出した。北京は、核兵器を保有するNPT非批准国の存在を明示的または黙示的に認めることを保留する姿勢を固持している。中国とインド、インドとパキスタン、そして朝鮮半島における緊張を背景とする先制使用の可能性を低減するという点で、これがどのように役に立つと中国が考えているのかは、北京に説明してもらうしかない。
第2に、核兵器使用の現実的リスクはこの数年高まっていると明言するのが正しいだろう。なぜなら、そのような趣旨が軽率に語られ、また、核兵器の数、種類、配備も拡大しているからだ。例えば、ストックホルム国際平和研究所によれば、中国は平時である2023年に、24発の核弾頭を発射装置に搭載したとみられる。従って、核先制不使用ドクトリンに対する自らのコミットメントを弱体化させた可能性がある。また、ロシアは、戦術核兵器をベラルーシに配備した。
米国も、核を保有しない数カ国のNATO加盟国に非戦略兵器を配備する一方で、攻撃型潜水艦や水上艦に搭載する海上発射型の戦術核搭載巡航ミサイルを開発している。これにより、冷戦後初めて、太平洋に戦術核兵器が再導入されることになる。
バイデン政権は、2022年の「核戦略見直し」においてこの計画の取り消しを提案し、その年の10月にはこれに強く反対する公式声明を発表した。しかし、下院を共和党が支配する議会は、2024年度国防権限法において計画の実施を決定した。
緊急に手を打たねばならない最後のリスクは、核実験の再開である。さまざまな核武装国は、国内の世論的、科学的、軍事的な圧力に再びさらされており、核実験再開の可能性をほのめかしている。
1カ国が新たな実験を行えば、それはカスケード効果をもたらし、事実上のモラトリアムの崩壊と新たな多極的軍拡競争を引き起こす恐れがある。それは、包括的核実験禁止条約、そして最終的な核兵器廃絶に向けて誠実に交渉することを加盟国が誓ったNPT第6条の両方に違反するものである。
広島は、核兵器開発と使用の恐怖のシンボルである。しかし、繁栄する美しい街を再建する中で、市民は、再起、連帯、核廃絶の象徴として広島を育んできた。
広島を訪問すれば、死、破壊、そして感動的なほどの再生という三つの原則に改めて気づかされることになる。
ラメッシュ・タクールは、元国連事務次長補。オーストラリア国立大学名誉教授であり、オーストラリア国際問題研究所フェローを務める。戸田記念国際平和研究所の元上級研究員。「The Nuclear Ban Treaty :A Transformational Reframing of the Global Nuclear Order」の編者。