Climate Change and Conflict ピーター・ブリッジウォーター、 ディルク・S・シュメラー、 スラジ・ウパダヤ | 2025年01月29日
複数の危機が絡み合った時代に生きる ― 政策対応は追い付いているか

この記事は、2025年1月24日に「The Conversation」に初出掲載され、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下で再掲載されたものです。
環境問題に取り組むための既存の政策は、生物多様性の喪失や気候変動、汚染が相互に結びつき、その影響が複合化かつ深刻化していることを考慮に入れていない。
個別に実施される政策措置は、予期しない結果をもたらす可能性が高い。
これらは、2024年末に発表された、「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学‐政策プラットフォーム」(IPBES)による、二つの主要な評価報告書が示した重要な知見である。
一つの報告書は、社会変革を実現するための枠組みを提示している。もう一つのネクサス・アセスメントと呼ばれている報告書は、生物多様性の喪失、水質、食料安全保障、保健リスク、そして気候変動の相互の関連性に焦点を当てている。
いずれの評価報告書も、相互作用や連鎖的に生じる課題に焦点を当てており、それらが重なり合うことで、ポリクライシス(複合危機)が引き起こされることを明らかにしている。ネクサス・アセスメントは、この点を次のように表現している。
生物多様性の喪失と気候変動は相互に依存しており、その複合的な影響が、人間の健康とウェルビーイングを脅かしている。
二つの報告書は、公正で持続可能な世界を実現するためには社会変革が急務であり、同時にそれは実現可能であるとも主張している。また、より包摂的かつ連携的なアプローチを推進し、予期せぬ影響を回避するため、先住民の知識と科学を結びつけることを奨励している。
持続可能な未来のための選択肢
両報告書は、生物多様性の損失の要因となっている産業分野において、生物多様性を主流化することを提案している。これには、農業、漁業、林業、都市開発、インフラ、鉱業、エネルギー産業(特に化石燃料)が含まれている。主流化とは、政府のあらゆる省庁や民間企業が、自らの活動において生物多様性を考慮すべきだという意味である。
土地利用をめぐる競争を減らすことで、生物多様性、食料、水、保健、気候の各分野において良い成果をもたらすことができる。これには、持続可能で健康的な食生活、食品ロスの削減、農業の生態学的集約化、生態系の回復などが含まれる。
いずれの報告書も、持続可能な未来に向けて不可欠な、社会変革を推進するいくつもの効果的な政策オプションを提示している。具体的には、次のようなものが含まれる。
都市部において自然に基づく解決策を実施し、人々と自然を再び結び付ける。土地や海洋資源の利用を調整し、トレードオフの均衡を図るため、空間計画を活用する。自然資本のストックとフローを測定および報告し、生態系サービスを管理・強化する。森林、土壌、マングローブのような炭素を豊富に含む生態系を回復する。先住民の食料システムを支援する。
両報告書では、70を超える選択肢を提示し、世界的に協調および一体化された努力が喫緊に必要であることを強調している。
これらの報告書の価値は明らかだが、水、エネルギー、保健、農業、生物多様性がもたらす複合的影響については、すでに2002年の持続可能な開発に関する世界首脳会議で取り上げられていた。われわれは同じことを繰り返すのではなく、すでに認識されてきた問題に対する解決策の実行に移らなければならない。
合意形成プロセスのあり方には変革が必要
2024年はいくつもの国際サミットが成果を出せなかったが、IPBES総会はその流れに逆行した。
生物多様性条約締約国会議(COP16)は、会期内に合意に至らず、2025年2月に再開せざるを得なくなった。年次気候サミット(COP19)では、資金不足により多くの代表団が失望感を抱いた。砂漠化対処条約締約国会議(COP16)においては、重要な課題を残したまま終了した。
IPBESは、報告書を発行しただけでなく、生物多様性と生態系サービスに関する第2次地球規模評価も、2025年から実施することで合意した。
しかし、最終的には合意に至ったものの、各国政府の間で続いた長時間で退屈な交渉は国益に翻弄され、見るに堪えないものだった。
二つの評価報告書はいずれも、何百人もの科学者による研究成果に基づき、最新の科学的知見を統合したものである。しかし、交渉の場であらわになった政治的駆け引きは、人間の営みの最悪の側面を示すものであった。
なぜこのようなことになったのか? 総会は、締約国147カ国の政府の官僚および外交官、他国政府からのオブザーバー、先住民、学識者で構成されている。そのため、科学的報告書を評価するには必ずしも適した場ではなかったのだ。報告書に記された科学的内容を彼らが各々の立場で解釈した結果、メッセージが希薄になってしまった。
報告書の執筆者らは、要請された修正を取り入れようとしたが、相反する要請が互いに打ち消し合うことも少なくなかった。そのため議論は堂々巡りとなり、結論は本来の科学的な内容から離れてしまった。
例年にも増して、この状況は執筆者らを落胆させ、プロセスに強い不満を抱かせた。IPBESの主要メンバーの一人は、「近いうちに、このプロセスに関わろうとする科学者はいなくなるだろう。自ら進んで3年間の人生を犠牲にする科学者などいない」と述べた。
このような交渉プロセスを変革し、IPBES評価の中心に科学を取り戻す必要がある。同様に、科学の側も、効果的な政策を策定するために、より優れた、そして幅広い選択肢を提示する必要性を理解しなければならない。
総会では、2019年に行われた第1次レビューを踏まえ、IPBESプロセスの改善方策を検討するためのレビュー実施に合意した。次のレビューが本格的なものであるなら、最終交渉および承認に関する総会プロセスの再考を中心的な課題とするべきだ。
もう一つ前進につながることは、IPBESと気候変動に関する政府間パネルとの間で、それぞれの役割に対する理解を深めることだ。両政府間機関による評価では、科学的な警鐘が大きく鳴り響いている。科学はその役割を果たした。政策立案者および意思決定者らが彼らの役割を果たすだろうか?
ピーター・ブリッジウォーターは、キャンベラ大学の保全学担当非常勤教授である。「社会変革アセスメント」の第1章および「政策立案者向け要約」の査読編集者を務めた。
ディルク・S・シュメラーは、フランス国立科学研究センター(CNRS)の保全生物学担当リサーチディレクターである。
スラジ・ウパダヤは、ケンタッキー州立大学の持続可能システム学担当助教である。