Cooperative Security, Arms Control and Disarmament ラメッシュ・タクール  |  2023年09月11日

米国がウクライナへの劣化ウラン弾供与を決定

Image: Denis Junker/shutterstock.com

 2022年にバリ島で開催されたG20サミットでは、世界で最も影響力のある首脳のほとんどが、「ロシア連邦によるウクライナ侵略」を強く非難した。それとは対照的に、ニューデリーで閉幕したばかりのサミットで出された首脳宣言は、ロシアについて名指しで言及していない。その代わりに、「ウクライナにおける戦争が、世界の食料およびエネルギー安全保障に及ぼす人的被害や更なる悪影響」について取り上げている。首脳宣言は各国に対し、「領土獲得のために武力による威嚇や行使を控える」よう求め、「状況に対するさまざまな見解や評価」に触れている。驚くべきことではないが、予想外にソフトな結果をロシアは歓迎したが、ウクライナは「誇るべきものは何もない」と切り捨てた。これは、「ウォール・ストリート・ジャーナル」でウォルター・ラッセル・ミードが指摘したような中国、中東、アフリカにおけるロシアの外交的成果を強固にするものだ。

 兆候はもう一つある。ウクライナは2022年のサミットに招待されたが、2023年は招待されなかった。そしてインドは、アフリカ連合をG20の新たな常任メンバーとして誘い入れた。「グローバルサウスは、もはや説教されるつもりはない」と、ウラジーミル・プーチン大統領に代わって出席したロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相は述べた。

 かたやワシントンでは、統合参謀本部議長のマーク・ミリー大将がBBCに対し、ウクライナの反転攻勢を妨げる冬が到来するまで残り1カ月もないと語った。ウクライナの反転攻勢がつまずいている状況を受けて、米国のウクライナ支援継続に対する国民の支持は低下しつつあり、問題は大統領選の焦点になっている。ジョー・バイデン大統領は、明確な戦略が欠如し、戦争目標が欠如しているとして非難を浴びている。ロンドンでは、退役大佐のリチャード・ケンプが「テレグラフ」に、米国は「ウクライナが戦闘を継続するためにちょうど十分だが、勝利を収めるにはあえて不十分な軍事支援を提供している」と書いた。

 これは、9月6日に発表された、劣化ウランを使用した徹甲弾をウクライナに供与するという米国の最新の決定を理解するための鍵となるかもしれない。

 ウランは天然に存在する金属である。既知の埋蔵鉱量が最も多いのはオーストラリアで、世界の総量の約3分の1を擁する。原子力発電に利用するためには、天然ウランに0.7%しか含まれていない状態から濃縮される。核兵器には、遠心分離機で回転させ、カスケードを通した高濃縮(94%)ウランを使用する。

 劣化ウラン(DU)は、濃縮工程で後に残る副産物である。ただし、放射能は弱く、天然ウランから生じる放射能より約40%少ないため、人間の皮膚を透過することはない。軍は、むしろその密度の高さに関心を抱く。1立方センチメートルあたり19グラムある劣化ウランは、鉛より70%密度が高い。10センチメートル四方の小さな立方体が、重さ20キログラムになる。このことから、劣化ウランは、ウクライナに供与された米軍の戦車M1エイブラムスやロシアの改良型戦車T-80BVのような戦車装甲として、また敵の戦車を貫通する砲弾にも、有効な材料として用いることができる。

 劣化ウランのさらに二つの特性が、貫通のインパクトを増幅する。高速で発射された際に高温の熱を発生させるため、劣化ウランは極めて焼夷性が高く、高温で自然発火する。また、装甲板を貫通する際に剪断効果により形状が先鋭化し、同時に、高温化によって戦車の燃料や砲弾の二次爆発を引き起こす。

 劣化ウラン弾の使用は、1991年の湾岸戦争(40トン)、1999年のNATOによるコソボ空爆作戦(11トン)、2003年のイラク侵攻など、常に物議をかもしてきた。クラスター爆弾と異なり、劣化ウランの使用を禁止する国際条約はない。にもかかわらず、武力紛争に適用される国際人道法の範囲を拡大することを求める批判者らは、劣化ウランが生態系への被害と長期にわたる健康への影響を及ぼすと長年訴えてきた。

 放射線の脅威はないものの、化学毒性を持ち、人間が吸引または摂取した場合は肝臓障害やある種のがんを引き起こす恐れがある。戦争で使われた劣化ウランの粉塵は人体に入る恐れがあり、また周囲の土砂や土壌を汚染する恐れがある。国際原子力機関は、劣化ウランによる人体および生態系への放射線リスクと毒性リスクに関する役に立つファクトシートを作成し、こちらに掲載している。

 2015年、米国はシリア国内で、過激派組織「イスラム国」を標的とする空爆に劣化ウラン弾を使用した。1991年のペルシャ湾岸戦争の後、イラクは、劣化ウラン弾が先天性欠損症やその他の健康障害の増加を引き起こしていると主張した。1999年のNATOによるコソボ空爆の後にも同様の主張がなされ、イタリアはバルカン半島で従軍した兵士の間に見られる疾患との関連性を調査した。

 2023年3月、英国はNATO加盟国として初めて、戦車「チャレンジャー2」とともに使用するために劣化ウラン弾をウクライナに供与することを発表した。これに対し、ロシアは、同じやり方で仕返しをすると脅した。ワシントンは事実上この脅しを受け流し、それが嫌ならロシアはウクライナから手を引けばいいと言った。

 6カ月後、米国も同じ決定を下した。ロシアは案の定、決定を非難し、エスカレーションのリスクに関する警告を繰り返した。駐米ロシア大使館は、劣化ウランの「無差別な影響」を「非人道性の表れ」と批判し、この決定は「ウクライナ軍のいわゆる反転攻勢の失敗を受け入れ」ようとしない米国の欺瞞によるものだと非難した。

 劣化ウラン弾供与の決定は、エスカレーションを招く三つのリスクをはらんでいる。第1に、ウクライナ戦争で使用される武器や兵器の種類が徐々に、かつ着実に、垂直的にエスカレーションする道筋を維持することになる。2023年7月、米国はウクライナへのクラスター爆弾供与を開始した。これは、クラスター爆弾を禁止する国際条約(米国は未調印)に違反しており、欧州のNATO同盟国数カ国とカナダでは国民の失望を招いている。これについては、ハルバート・ウルフが本サイトで論じている。今や米国は、ウクライナに劣化ウラン弾を供与することによってリスクを引き上げてしまった。

 第2に、この決定は、極めて非人道的な特徴を持つ兵器に反対する既存の人道的規範を継続的に弱体化させるものだ。20世紀の歴史は、かつて国家主権の要素として認められていた戦争行使に対して、また、武力紛争で使用され得る兵器の種類に対して、法的正当性と手続き要件の両面で制約を厳しくしてきた歴史である。ウクライナへの劣化ウラン弾供与は、これらの制約のさらなる弱体化を示している。

 最後のエスカレーションリスクは、三つのうちで最も深刻である。広く知られているように、ロシアは保有する核兵器の規模や殺傷力に繰り返し言及しており、追い詰められればウクライナ戦域でそれらを行使する意思があることを示唆している。ロシアの核兵器の一部は、ほんの数カ月前にベラルーシ領内に移転されたばかりである。NATOが供与した劣化ウラン弾をウクライナが使用すれば、概念的にも、心理的にも、規範的にも、運用上も、通常兵器から核兵器への距離が縮まるばかりである。

ラメッシュ・タクールは、元国連事務次長補。現在は、オーストラリア国立大学クロフォード公共政策大学院名誉教授、同大学の核不拡散・軍縮センター長、および戸田記念国際平和研究所の上級研究員を務める。「The Nuclear Ban Treaty :A Transformational Reframing of the Global Nuclear Order」の編者。