Global Challenges to Democracy ジョーダン・ライアン | 2025年09月04日
米国、パレスチナ代表団の入国を拒否: 国連の普遍性にとって危険な先例

2025年8月、米国は、ニューヨークで開催される国連総会への出席を予定していたパレスチナ自治政府のマフムード・アッバース議長ほか約80人の自治政府およびパレスチナ解放機構(PLO)高官に対するビザの発給を拒否し、事実上彼らの入国を阻止した。すでに派遣されてニューヨークに在留しているスタッフは、外交上の免除により対象外となった。1988年のヤセル・アラファトに対するビザ発給拒否のような過去の入国拒否事例は個人を標的としていたが、今回の大規模な入国拒否は出席しようとする首脳代表団全体を対象にしたもので、国連の歴史において前例がないことだ。
1947年の国連本部協定により、開催国は、全ての代表団のアクセスを円滑にして国連の普遍性を守る義務がある。米国の国内法は、公法113-100を含めて、国家安全保障や外交政策を理由にビザ発給を拒否する裁量権を行政府に与えており、そのような決定は領事の非審査性の原則によって法的異議申し立てから保護される。しかし、ワシントンは歴史的に、この種の緊張には実際的な対応をしており、たとえ敵対国であっても参加を認め、制約するのは例外的な場合のみだった。2025年の決定は、国際公約を犠牲にして、主権重視に大きく舵を切ったことを示している。
このような開催国による影響力の行使は政治的強制に等しく、国連の米国領土への依存を悪用するものだ。それは、一つの国家が開催国の立場を利用して多国間体制へのアクセスを制御するという、危険な門番役の形態を示している。もしこれが常態化すれば、国連を普遍的なルールではなく、国内政治の気まぐれに振り回される舞台へと変えてしまうだろう。
反発は激しいものだった。パレスチナ自治政府は、入国阻止を国際法違反であると指摘し、加盟国に対して包摂的関与を支持するよう訴えた。国連当局者は、この問題が米国務省に提起されたことを認めた。欧州数カ国のほかグローバルサウス諸国の政府は、この動きが危険な前例となり、全ての加盟国の平等な権利を損なう可能性があると警告した。市民社会や平和構築の専門家らは、権力を持つ国が思うままにアクセスを遮断することができるなら、国連の正当性はさらに損なわれるだろうと警告している。
その懸念は、米国務省の声明によっていっそう強められた。国務省は、パレスチナ自治政府が「国際刑事裁判所や国際司法裁判所のような法的機関に訴えるのをやめ、仮定上のパレスチナ国家を承認するよう各国に迫ることをやめなければならない」と主張した。国連への参加を国際法ではなく、一国の政策的選好に従属させることは、他国も悪用しかねない有害な先例をつくることになる。
アッバース自身は、説明責任によって外交のバランスを取ろうと努めてきた。彼は、ハマスによる2023年10月7日の攻撃を「容認できず、非難されるべきことだ」と非難し、全ての人質の即時解放を求めた。彼はこの立場を、フランスのエマニュエル・マクロン大統領宛ての2025年6月の書簡でも繰り返し、ハマスの武装解除やパレスチナ治安部隊の権限回復などの改革を約束している。彼はまた、「われわれは、双方における民間人の殺害や虐待を行うことを認めない。なぜなら、道徳、宗教、国際法に反するものだからだ」とも述べている。これらの立場は、パレスチナの国連参加がイスラエルの正当性を否定するのではなく、国際法を遵守するためであることを強調している。
提言
外交的措置が優先されるべきである。国際社会は、1947年国連本部協定の拘束的性質を再確認しなければならない。総会決議は、これらの義務を改めて表明すべきであり、その遵守が国内政治に従属していないことを確認するために、国連事務総長は定期報告の任を負うべきである。
国連加盟国もまた、開催国によるアクセス妨害がある場合には総会をジュネーブまたは他の国連拠点で開催するなど、総会自体の緊急時対策を検討するべきである。短期間で移転することは難しいだろうが、この選択肢を示すだけでも、国連が一つの拠点のみに縛られるものではなく、一国家の一方的措置によって国連の普遍性を打ち消すことはできないという原則を強化するものとなる。
このような政治的対応を、制度的な仕組みによって補強する必要がある。専任の事務局がビザの発給拒否や遅延を追跡するとともに、濫用のパターンを明らかにするために独立した審査機構が公正な報告を公表することが考えられる。これらの措置を移転やハイブリッド参加を可能にする緊急時計画と併せて実施することで、アクセスが妨害された場合でも国連の普遍性を守ることができるだろう。
また、包摂的参加も強化する必要がある。市民社会や平和構築の関係者は、アクセス拒否を記録し、その影響を分析するべきである。また、研修プログラムは、将来の外交官が普遍的なアクセスを守れるよう備えることができる。
アクセスと権利擁護には強力な支援が必要である。慈善財団、開発パートナー、民間アクターは、より小規模または過小評価された代表団が物理的アクセスを妨害された場合でも声を届けることができるよう、司法による権利擁護、通信インフラ、バーチャル参加ツールに資金提供するべきである。
普遍的な参加を擁護することは、国連の創設理念を維持するために不可欠である。自由裁量による排除を常態化させないことが、より力の弱い国の権利を守り、世界の外交の健全性を維持するために役立つだろう。依然として、規則、透明性、そして包摂性を改めて大切にすることが、分断された世界で真の永続的な平和を構築する唯一の道である。
ジョーダン・ライアンは、戸田記念国際平和研究所の国際研究諮問委員会(TIRAC)メンバーおよびフォルケ・ベルナドッテ・アカデミー(Folke Bernadotte Academy)のシニア・コンサルタント。過去には国連事務次長補を務め、国際的な平和構築、人権、開発政策分野で幅広い経験を持つ。専門分野は平和と安全に寄与する民主的機関と国際協力の強化である。これまでに、アフリカ、アジアおよび中東で市民社会団体を支援し、持続可能な開発を推進する数多くのプログラムを率いてきた。国際機関や各国政府に危機予防や民主的統治に関する助言を定期的に行っている。