Climate Change and Conflict フォルカー・ベーゲ  |  2020年12月19日

国連事務総長が警鐘:「自然に対する戦争」は「自殺的」

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 「地球の状態は壊れている」。これは、人類が今日陥っている状況を端的にまとめた国連事務総長の言葉である。12月2日、世界の気候変動非常事態と環境の劇的劣化についての講演の中で、気候と環境が現在直面する危機の深刻さを示す最も重要な事実をいくつか挙げている。「この10年間は、人類の歴史上最も暑い10年間だった」、「二酸化炭素濃度は依然として記録的に高く、さらに上昇している」、「今世紀、われわれは摂氏3~5度という途方もない気温上昇に突き進んでいる」、「いつものことだが、最も深刻な影響を受けるのは世界で最も脆弱な人々である。問題を引き起こすようなことを最もしていない人々が最も苦しんでいる」。「われわれが気候の大惨事にいかに近づいているか」を示すこれらの事実に注意を引くことによって、グテーレス事務総長は国連加盟国がより断固とした行動を起こす必要があることを強調するとともに、パリ協定5周年の日である12月12日に国連、英国、フランスがオンラインで共同開催した「気候野心サミット」への布石を打とうとしたのである。このサミットで事務総長は、世界中のすべてのリーダーに気候非常事態を宣言するよう求めた

 平和研究者および平和構築者の観点から見ると、グテーレス事務総長が気候危機を紛争と平和に明確に関連付け、気候危機は「平和のための取り組みをいっそう困難にする。なぜなら、この混乱が不安定化、避難民化、紛争に拍車をかけるからである」と述べている点が興味深い。これにより彼は、気候変動は“脅威の増幅要因”という主流的見解を追認している。すなわち気候変動に関連する(暴力的な)紛争は、国内レベルから国際レベルまでさまざまな規模で、平和と安全保障上の重要な課題となっているということである。実際、気候変動に起因する避難民化は、特に避難民と受け入れ側のコミュニティーの対立のような紛争を引き起こしやすいことが分かっている。

 しかし平和研究者および平和構築者の観点から見てさらに興味深く、また、気候変動/平和/安全保障をめぐる言説に新たな視点をもたらす要素は、事務総長が目の前の問題を人間と自然の関における戦争と平和という枠組みで捉えたことである。「人間は自然に対して戦争を仕掛けており」、それは「自殺的」だと述べた。それに基づき「自然と和解することは、21世紀を決定付ける課題である」と宣言した。このような自然との和解は「すべての人、すべての場所にとって最優先課題」でなければならないとグテーレス事務総長は述べた。目標は、「自然と調和して生きる道筋に世界を導くこと」でなければならない。

 国連事務総長が、「自然」、そして自然と「調和して」生きる必要性を議論の中心に置いたことは、もちろん大いに称賛に値する。真剣に受け止めれば、これは、そもそもわれわれを気候の大惨事に向かわせた世界観や考え方からの根本的な転換である。しかしその一方で、上に引用した言葉に表れている思考の流れは、依然として“世界”や“人間”を“自然”と切り離しており、“自然”を人間に尽くすものとして捉えている。「自然は、われわれに食料を与え、衣服を与え、渇きを癒し、酸素を作り、われわれの文化や信仰を形成し、まさにわれわれのアイデンティティーを作り上げている」。確かにそれは真実であるが、同時に、二元論的、人間中心主義的世界観を具象化している。それは、過去何世紀にもわたって圧倒的に支配的で、また、国連システムの根底にあり、気候危機の原因の根底にもある世界観である。

 これ以外にも、世界における在り方、世界に関する考え方はある。それらは今日、世界規模できわめて周縁化されているが、それでもなお、気候危機を脱する道を模索するにあたって検討するだけの価値があるものだ。グテーレス事務総長は講演の中で、気候危機という文脈においては先住民族と在来知が重要であると強調し、正しい方向性を示した。「先住民族が住んでいる土地は、気候変動と環境劣化に対して最も脆弱な土地に含まれていることを考えると、今こそ彼らの声に耳を傾け、彼らの知識に報い、彼らの権利を尊重するべきである」。そして「何千年にもわたって自然と密接かつ直接的に接触する中で集約されてきた在来知は、道を指し示すために役立つだろう」

 実際世界各地の先住民族は、グテーレス事務総長の講演に今なお染み込んでいる、世界中で支配的な世界観に対して異議を唱えている。彼らは人間を自然から切り離された存在とも、自然を支配する存在とも考えておらず、関係性に応じて自然に組み込まれる存在と考えている。このような考え方に基づけば、気候危機に対する人間中心のアプローチを克服し、人間と人間社会を関係性に応じて理解するアプローチを推進することができるだろう。それは他の人間との関係性だけでなく、人間以外の存在(「自然」)との関係性である。“人類”を脱中心化することによって、「自然と和解する」新たな道筋を切り開くことができるだろう。それは、国連の文脈において非常に影響力を持っている“人間の安全保障”という進歩的概念さえも超越していく道である。“人間の安全保障”はなおも区分を作り、自然と社会の分断を具象化し、人間を創造物の頂点として概念化している。

 最後に、国連事務総長は「体系的な適応支援は……特に存続の脅威に直面している小島嶼開発途上国にとって緊急に必要である」と表明した。実際、ツバル、キリバス、マーシャル諸島のような小さな太平洋島嶼国を見ると、上記の問題すべてが合体している状況である。これらの国々は気候非常事態の原因となることをほとんど何もしていないにもかかわらず、海面上昇、自然災害、食料と水の不安定など気候変動による影響に際立って脆弱であり、深刻な影響を受けている。これらの国々の国民にとって気候変動に起因する避難民化は緊急の問題となっており、気候変動の経済的、社会的影響に起因する暴力的な紛争は、生計、福利、安全を脅かしている。同時に、太平洋諸島の人々は豊かな在来知を持っている。それは彼らの世界における在り方や世界観に根差したものであり、人間と自然の分断や、気候非常事態への取り組みにおける世界的に支配的なアプローチに内在する人間中心主義を超越するものである。彼らの脱人間中心主義的な、関係性に基づく振る舞い方や考え方はまさに「道を指し示すために役立つだろう」。

 そのため、太平洋島嶼国における平和研究や平和実践に焦点を当てるだけの多くの十分な理由がある。

フォルカー・ベーゲは、戸田記念国際平和研究所の「気候変動と紛争」プログラムを担当する上級研究員である。ベーゲ博士は太平洋地域の平和構築とレジリエンス(回復力)について幅広く研究を行ってきた。彼の研究は、紛争後の平和構築、混成的な政治秩序と国家の形成、非西洋型の紛争転換に向けたアプローチ、オセアニア地域における環境劣化と紛争に焦点を当てている。