Cooperative Security, Arms Control and Disarmament タリフ・ディーン  |  2022年04月28日

国連だけでは核兵器のない世界を実現できないことをウクライナが証明

Image: sameer madhukar chogale/Shutterstock

 この記事は、2022年4月27日に非営利組織International Press Syndicateの基幹媒体であるIDNによって初出掲載されたものです。この記事は、クリエイティブ・コモンズ表示4.0国際ライセンス に基づき、無償でオンラインまたは印刷媒体に再掲載することができます。

 ウクライナにおける破壊的な戦争は、3カ月目に突入し、「核の選択肢」をほのめかす脅しが幾度かなされている。

 2月24日のロシアによるウクライナ侵攻から始まった戦闘は、世界の核大国の一つとそれに隣接する非核国との戦闘である。

 直近では、ロシアのセルゲイ・ラブロフ外相が暗に脅しをかけた。4月25日、核紛争の可能性を「過小評価すべきではない」と警告したのである。

 「誰もが、第3次世界大戦はいかなる場合も認められないとお題目を唱えている」と、ロシアのテレビ番組のインタビューで発言したと伝えられている。「その危険は深刻であり、現実的なものだ」と彼は述べた。

 ウクライナの危機は、国連憲章に記された「国際の平和及び安全を維持すること」における国連の限界をも露呈した。

 紛争がどんどん手に負えない状況になっていくなかで、4月26日にアントニオ・グテーレス事務総長がモスクワでウラジーミル・プーチン大統領と1対1で会談したにもかかわらず、国連は、危機を終わらせることも休戦交渉を促すことすらもできないとして厳しい批判を浴びている。

 このような情勢から判断すると、これに関連して、答えが強く求められる問いがある。国連は、数多くの決議や国際会議で想定されるような核兵器のない世界を、そもそも実現できるのか?

 バンクーバー州のブリティッシュ・コロンビア大学公共政策・国際関係大学院で教授、「軍縮・世界および人間の安全保障サイモンズ寄付講座」主任、リウ国際問題研究所所長を務めるM・V・ラマナ博士は、IDNに対し、決議や会議の数にかかわらず、国連単独では核兵器のない世界を実現することは決してできないと語った。

 しかしながら、国連は、この目標に関心を持つ世界中の国々が、集団的意志を表明することができる場の役割を果たし得ると彼は指摘した。

 しかし、そのような国々だけでは、たとえ国連で一致団結したとしても、米国、ロシア、中国のような大国に核兵器廃絶を強要することはできないだろうと論じた。

 「これらの国々で行われている社会運動と力を合わせる必要があるだろう。もちろん、現時点でそのような運動は非常に力が弱く、それらが政策を変えられるという見込みは極めて低い」

 「しかし、私達に選択肢はない。現在のような核の現状、さらに、悪くすれば軍拡競争を続けていれば、ほぼ間違いなく破滅に終わるからだ」と彼は警告した。

 ノルウェジャン・ピープルズ・エイドのヘンリエッテ・ヴェストリン事務局長は、「ウクライナの戦争とウラジーミル・プーチンによる核の脅しは、自国の安全保障を大規模かつ無差別な核の暴力に依存しようとする国家がある世界に暮らすことの深刻な危険を、いま一度明確に思い起こさせるものだ」と述べた。

 「われわれは、核抑止が果たすはずの安定化効果ではなく、運を天に任せることになってしまった。世界全体の使用可能な核兵器備蓄量が現在増え続けていることは、非常に懸念すべきことだ」と、2022年4月11日に年次報告書「核兵器禁止モニター」を発行したノルウェジャン・ピープルズ・エイドのヴェストリン事務局長は語った。

 米国の戦争と軍国主義を終わらせることを目指す女性主導の草の根団体「コード・ピンク」の共同創設者メディア・ベンジャミンは、IDNに対し、国連が戦争を止められなかったのは間違いなく今回が初めてのことではないと語った。

 「しかし、ウクライナの戦争は実際に、核戦争の危険に対する人々の意識を高めるものとなった。特に若い世代の人々は、現在われわれが直面しているような迫り来る脅威を知らずに育ってきたため、危機感が強い。そこに立脚する必要がある」

 国連の核兵器禁止条約に基づいて「核兵器はいまや違法となった。われわれは核兵器国に署名を働きかける努力を続けなければならない」と彼女は述べた。

 第1になすべきことは、核対立を引き起こすことなく、また、イラクとアフガニスタンにおける米国の戦争のように何年も続かせることなく、ウクライナの戦争を終わらせることである。

 「しかし、同時に、核戦争がもたらす実存的脅威を人々に教え、国連の禁止条約への支持を構築するためにこの機会を利用することができる」

 核軍縮とは、見込みのない中で懸命に努力することなのかという問いに対し、ベンジャミンは、「見込みがないとは、ロシアと米国の核対立だろう。核兵器のない世界を実現するために闘うことが私たちの義務である。なぜなら、地球の未来がそれにかかっているからだ」と答えた。

 オーストラリア国立大学名誉教授であり、戸田記念国際平和研究所の上級研究員であるラメッシュ・タクール博士は、IDNに対し、そもそも国連に関するよくある誤解があると話した。

 「国連は、2003年の米国と英国によるイラク侵攻、現在のロシアによるウクライナ侵攻のような、大国(P5:国連安全保障理事会常任理事国5カ国)による小国の侵略を阻止できるように作られなかった。大国間の全面戦争を回避することによって平和を維持することに、より大きな重点が置かれた」

 拒否権条項は、両方の目標を確実に満たすものである、とタクール博士は言う。

 「これはまた、偏向した西側メディアがほとんどの場合無視している極めて重要な要素を示唆するものだ。本質的な意味では、ウクライナ戦争はロシア対NATOの代理戦争であり、それに対して米国とNATOは共同の責任を負っている」

 例えば、オーストラリアのスコット・モリソン首相は近頃、ソロモン諸島に中国の軍事基地が建設されることは許容できないレッドラインだと述べた。さらに、バイデン政権で太平洋地域に関する最高顧問を務めるカート・キャンベルがソロモン諸島首相と会談した後に出されたホワイトハウスの声明には、ソロモン諸島に中国の軍事基地が建設されることを米国は非常に懸念しており、もし建設されれば相応の対応を取ると記された。

 ソロモン諸島は、オーストラリア北海岸から2,000 kmの沖合にある。ロシアとウクライナは陸で国境を接し、キーウはモスクワから800 kmもない距離にある。しかし、米国は、NATOの継続的な東方拡大がロシアの当然のレッドラインを越えていることを頑として認めようとしないと彼は言及した。

 第2に、核の問題について言えば、現実問題は記者の問いが示唆するほど明快ではないと、『The Nuclear Ban Treaty: A Transformational Reframing of the Global Nuclear Order』(Routledge, 2022)を直近の著作とするタクール博士は言った。

 彼は、三つの立場から問題を論じることができると指摘した。一つ目に、地政学の荒っぽい復活により、核兵器の役割が脚光を浴び、欧州と太平洋の両地域で米国の同盟国の一部がNATOや米国との核共有協定に関心を深めており、そのため、核軍縮という大義が大幅に後退させられている。

 二つ目に、そうならないためにも、今回の危機は、核軍縮の目標を追求するには現在は適切な時期ではないとして問題を永遠に先送りするのではなく、核兵器の存在自体がもたらす脅威について実際に何らかの手を打つことが極めて重要だということを浮き彫りにしている。

 三つ目に、ウクライナ危機を考えると、世界は、核の危険を減らす確実かつ実際的な措置に向けて共同の努力を行うことなく、核兵器管理推進派と核軍縮推進派との間、核不拡散条約(NPT)推進派と核兵器禁止条約(TPNW)推進派との間の事実上の内戦を今後も続ける余裕があるのだろうかと、タクール博士は問うた。

 一方、「核兵器禁止モニター」による最新のデータによれば、九つの核兵器国を合わせた核弾頭の数は、2022年初めの時点で12,705発であった。

 そのうち推定9,440発(核出力の合計は広島型原爆約138,000発に相当)は使用可能備蓄を構成し、核兵器国がミサイル、航空機、潜水艦、船舶に搭載して使用することができる状態にある。

 現在、使用可能備蓄の核弾頭数は増加しつつあると、「核兵器禁止モニター」は警告する

 世界の使用可能備蓄を構成する9,440発の核弾頭に加え、2022年初めの時点で3,265発の退役した古い核弾頭がロシア、英国、米国で解体を待っていると推定される。

タリフ・ディーン は、元IPS国連支局長、北米担当。また、以前は、「スリランカ・デイリー・ニュース」の副編集者、香港の日刊紙「The Standard」の主任論説委員、米ジェーンズ情報グループで中東・アフリカの元軍事関連編集者、「スリランカ・サンデー・タイムズ」のコラムニスト、また長い間、香港の「アジアウィーク」とロンドン「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」の国連特派員。ニューヨークのコロンビア大学でフルブライト奨学生としてジャーナリズムの修士号を取得。