Cooperative Security, Arms Control and Disarmament ラメッシュ・タクール  |  2023年06月08日

新たなグローバル秩序に居場所を探す米同盟国

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 この記事は、2023年6月2日に「ジャパンタイムズ」に初出掲載され、許可を得て再掲載したものです。

 米国と西側諸国は、第2次世界大戦以降かつてないほど世界の他の国々から孤立している

 戸田記念国際平和研究所は2023年5月22~23日、世界各地からハイレベルの16人の参加者を迎えて政策検討会議を東京で開催した。

 主要テーマの一つは、変化する世界のパワー構造と規範構造、それが世界秩序、インド太平洋地域、地域の米同盟国であるオーストラリア、日本、韓国の3カ国にもたらす意味であった。当然ながら、話し合いの中心になった二つの背景要因は、米中関係とウクライナ戦争である。

 ウクライナにおける紛争は、軍事大国としてのロシアの限界を明確に示している。抵抗し、初期の衝撃を吸収し、次いで失地回復のために反転攻勢を仕掛けるというウクライナの決意と能力を、ロシアも米国もひどく見くびっていた(よく知られている通り、戦争初期に米国が安全に脱出させると申し出たとき、ヴォロディミル・ゼレンスキー大統領は「われわれに必要なのは、乗り物ではなく弾薬だ」と言った)。ロシアはもはや、欧州における軍事的脅威ではない。ロシアの指導者は、ウラジーミル・プーチンを含め、欧州のNATO同盟国を攻撃しようなどとは二度と考えないだろう。

 とはいえ、この戦争は、ロシアへの非難と制裁に前向きな国々の連合を形成しようとするうえで米国の影響力の限界という明白な現実も露呈した。それどころか、米国が率いる西側諸国は、1945年以降かつてないほどに世界の他の国々から孤立している。特に「グローバルサウス」が声を上げ、第1に、欧州の問題がもはや自動的に世界の問題になるわけではないと主張している。第2に、これらの国々はモスクワの攻撃を非難する一方で、NATOがロシアの国境まで勢力を拡大して挑発してきたというロシアの不満に対し、大いに同情もしている。

 国内に蔓延する機能不全も、米国のグローバルリーダーシップの足かせとなっている。深刻な分断と亀裂に苦しむ米国は、必要な共通目的、原則、堅固な外交政策を実行するために不可欠な国家の威信と戦略的方向性を欠いている。また、世界の多くの国々は、大国がまたしても大統領はジョー・バイデンかドナルド・トランプかという選択を示していることに困惑している。

 この戦争はNATOの連帯を強固にしたが、同時に、欧州内部に分断があること、欧州の安全保障が米軍に依存していることも浮き彫りにした。

 大きな戦略的勝利を収めたのは中国である。ロシアは中国への依存を深め、両国は米国の覇権に対抗する事実上の枢軸を形成している。中国の目覚ましい台頭は、速いペースで続いている。自動車輸出台数は2022年にドイツを追い抜き、2023年第1四半期には日本を追い越して世界1位になったところであり、中国、日本のそれぞれの輸出台数は107万台と95万台である。外交面でも、イランとサウジアラビアの間を誠意をもって仲介し、ウクライナ和平案を提唱することによって実績を示した。

 また、この戦争により、インドは遅まきながらも重要な大国として国際舞台に登場することになったといえる。ウクライナ戦争勃発以来、柵に座って傍観しているだけという多くの批判がニューデリーに向けられたが、それは恐らく、インドが重大なグローバル危機に際して独自の外交政策を実践した事例としては、過去数十年で最も成功を収めたものといえるだろう。S・ジャイシャンカル外相は1年前、柵に座っているという批判を見事に逆手に取って、「私は地面に座っている」と切り返しさえした。インドの政策をきっぱりと悪びれることなく説明しながらも、耳障りにならず、他国を批判することもない彼の才覚には幅広い称賛が寄せられ、中国のネット民さえ称賛を送った。

 インドのナレンドラ・モディ首相は、広島で開催されたG7サミット、南太平洋、オーストラリアの訪問から帰国した際、「今日、インドが何を考えているか世界が知りたがっている」とコメントした。ヘンリー・キッシンジャーは、100歳の誕生日に「エコノミスト」誌のインタビューに応じ、ワシントンとニューデリーの密接な関係について「非常に嬉しい」と述べた。彼は、大規模な多国間同盟に国を縛り付けるのではなく、問題を中心に構築される非恒常的な同盟を外交政策の基礎とするその現実主義に敬意を表した。そして、「私の考え方に非常に近い」現在の政治家として、ジャイシャンカルを挙げた。

 これを補足するような「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙とのインタビューで、キッシンジャーは、決してそのような行動を推奨するわけではないが、日本が3~5年以内に独自の核兵器を獲得すると予想するとも述べた。

 マイケル・クレアは、2023年5月18日に公開したブログで、新たに浮上しつつある秩序は「グループ・オブ・スリー」の世界となる可能性が高いと主張した。米国、中国、インドが、人口、経済的影響力、軍事力(インドも、まだそこまで至っていないとはいえ、一目置かれる軍事大国になろうと突き進んでいる)に基づいて、三つの主要な中心点からなる世界である。インドに関して彼は筆者より楽観的であるが、それでも、世界の風向きに関する興味深いコメントである。今日、喫緊の世界的課題で、この3カ国の積極的な協力なくして解決可能なものはほとんどない。

 起こりつつある構造変化の最後の重要な点は、米中間の勢力バランスの変化が太平洋地域の3カ国の同盟国にいかなる影響を及ぼすかである。中国とは恒久的な敵対関係にあるという仮定から出発すると、当然ながら安全保障のジレンマという罠に陥ってしまう。そのような前提は、あらゆる問題に関するわれわれの全ての政策を争いごとにし、対立に向かうはずの敵意を挑発し、深刻化させるだろう。

 ローハン・ムケルジーは「フォーリン・アフェアーズ」誌(2023年5月19日)において、中国は現行の秩序を転覆させることによって世界制覇を狙っているのではなく、三面戦略を採っているのだと述べた。中国は、自国が公正かつオープンと見なす制度(国連安全保障理事会、WTO、G20)と協力し、部分的に公正で開かれた制度(IMF、世界銀行)を改革しようとしており、両方のグループから多大な利益を得ている。しかし、閉鎖的かつ不公平と見なす第3のグループ、すなわち人権制度については異議を唱えている。

 その過程で中国は、米国のような大国になれば、国際問題に関して偽善を謝罪する必要は一切なく、国連安全保障理事会のようなクラブにおける特権を強固にし、それを行使して他の全ての国の行動を統制することができるという結論に達した。

 オーストラリアのピーター・ヴァーギーズ元外務次官(副大臣)は、自己実現的な敵意の代わりに、関与を伴う抑制という対中政策を提案している。ワシントンは、グローバルな優越性を維持し、インド太平洋における優越性を北京に与えないという目標を掲げているかもしれないが、それでは、腹を立て、不機嫌になった中国が地域における優越性を米国から奪い取る努力に走るだけである。課題は、北京の台頭を阻止することではなく、管理することだ。それにより、他の多くの国は多大な利益を得て、中国は彼らの最大の貿易相手国となる。そのためには地域のバランスを構想し、構築する必要があり、そこでは米国のリーダーシップが戦略的対抗点として不可欠である。ヴァーギーズの言葉を借りれば、「米国は必然的にそのような取り決めの中心になるだろうが、だからといって必ずしも米国の優越性がその中心的支点の座に就くとは限らない」。

ラメッシュ・タクールは、元国連事務次長補。現在はオーストラリア国立大学名誉教授、戸田記念国際平和研究所の上級研究員およびオーストラリア国際問題研究所の研究員を務める。「The Nuclear Ban Treaty: A Transformational Reframing of the Global Nuclear Order」の編者。