Climate Change and Conflict ウェスリー・モーガン、リアム・ムーア  |  2024年12月08日

太平洋諸国にとって信頼できるパートナーか、化石燃料の輸出大国か?

Image: Jason Benz Bennee/shutterstock.com

この記事は、2024年12月5日に「The Conversation」に初出掲載され、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下で再掲載されたものです。

 オーストラリアは長年、同時に二つのものであろうとしてきた。中国の影響力を低下させる目的で太平洋諸国の信頼できるパートナーであろうとし、また、化石燃料の輸出大国であろうとしてきたのである。このような綱渡り外交は、太平洋諸国が気候変動を存亡にかかわる脅威と見なすようになったことでますます難しくなっている。

 今週、オーストラリア政府は公的なフォーラムの場で選択を迫られ、化石燃料を選んだ。

 国連気候会議の遅々としたペースに失望したバヌアツと他の太平洋諸国は、現在および将来世代のために地球の気候システムへの害を防ぐうえで各国が負う義務を明確にするよう、オランダにある国際司法裁判所に訴えを起こした。

 国際気候交渉が多くの場合は密室で行われるのに対し、この裁判は一般に向けて放送されている。オーストラリアがどのような主張を展開したか、どのような国々と同調しているかを、はっきりと見ることができる。

 12月2日の法廷で、オーストラリアは、サウジアラビア米国中国などの主要な排出国や化石燃料輸出国の側につき、気候変動への要因に対する彼らの法的責任を最小限にしようとした。

 バヌアツの首都ポートビラで行われた大学の指導から始まり、ニューヨークの国連本部会議場を経て、今やハーグの国際司法裁判所にまで到達した5年間にわたる法的キャンペーンは、今週山場を迎えている。国際司法裁判所は、国連加盟国間の紛争を解決することができる唯一の国際裁判所である。

 2019年、南太平洋大学の学生27名に「気候正義を目指す最も野心的な法的道筋を見いだせ」という課題が与えられた。彼らは、国際司法裁判所に訴訟を提起することがその条件を満たすと判断した。

 2023年、バヌアツと他の国々は、国連総会で国際司法裁判所に二つの問題について勧告的意見を出すよう要請するという決議を可決させることに成功した。温室効果ガス排出から気候を保護するために各国は国際法上どのような義務を負うのか、また、地球の気候に「重大な害」を及ぼしている国々はどのような法的責任を負うのか?

 審理の前に、国際司法裁判所は史上最多の書面による提出物を受け取っている。判事らは、2週間にわたって口頭陳述を聴取する。その後、彼らによる勧告的意見が出され、温室効果ガス排出に取り組むために各国が負う義務を明確にすることによって、国際法における新たな基準を設定することになる。

 勧告的意見は法的拘束力を持たないものの、国際司法裁判所の見解は各国における訴訟事件や国連気候会議に影響を及ぼすと考えられる。

 オーストラリアにとって、この裁判は直接的な課題を示している。オーストラリアは、化石燃料の輸出を削減する計画はない。それどころか、輸出拡大を計画している

 裁判所の意見によって化石燃料輸出国と気候損害の関係が明確にされた場合、それはオーストラリアにとって深刻な影響を及ぼし得る。例えば、気候損害に対する補償を請求する訴訟への道が開かれる可能性がある。

 2000年以降、オーストラリアは700件を超える石油・ガス・石炭プロジェクトを承認している。さらに数十件が承認を受ける準備を進めている。今週だけでも、連邦政府は3件の新たな炭鉱に道を開いた

 現在オーストラリアは、世界最大級の石炭・ガス輸出国の一つである。これは比較的最近のことだ。石炭は1801年から輸出されているが、液化天然ガスの大規模な輸出は10年前に始まったばかりである。

 オーストラリアが輸出し、外国で燃やされる化石燃料による排出量は、今やオーストラリア国内経済全体による排出量の2倍以上に上る。これらの排出は、地球の気候に損害を及ぼし、オーストラリアと全世界の人々に健康被害が及ぶリスクを増大させている。

 訴えを起こすにあたりバヌアツは、海洋法、人権法、環境法などの幅広い国際的義務のもとで、気候変動を引き起こす活動は違法であると主張している。

 オーストラリアの代表団は、裁判の提起におけるバヌアツのリーダーシップを称賛したうえで、気候対策に関する太平洋諸国との協力に対するオーストラリアの取り組みを繰り返し述べた。

 外交辞令の後、オーストラリアのスティーブン・ドナヒュー法務次官は本題に入った。彼は、気候変動の緩和という問題に関しては、各国が国内排出量の削減目標を設定することを求めるパリ協定のみが適用されるべきだと法廷で陳述した

 ドナヒューはまた、温室効果ガスの排出は、例えばある国の有毒廃棄物が他国の環境に被害をもたらすのとは異なると主張した。なぜなら温室効果ガスには多くの排出源があるからだと、彼は主張した。

 ドナヒューとオーストラリア代表団は、裁判所が排出量削減義務をより狭い観点から捉えるべきであると主張し、気候変動がもたらす被害の責任を個別の国に負わせることはできないと示唆した。

 オーストラリアは、人権保護は気候変動に取り組む義務に拡大されないという主張も行った

 2022年、トレス海峡諸島民が国連人権理事会に対し、気候変動対策がなされなかったことにより彼らの人権が侵害されたと述べた。それに対してオーストラリア政府は、今回と非常によく似た論拠を用い、気候変動は国連の気候交渉を通して対処するのが最適だと主張した。

 裁判所の意見は、2025年に言い渡される。

 オーストラリアの主張にもかかわらず、他の裁判所による近頃の判決は、国際司法裁判所がオーストラリアに有利な決定を下さない可能性もあることを示唆するものだ

 例えば2024年5月、国際海洋法裁判所は、温室効果ガス排出は海洋汚染の一形態であり(海洋を酸性化し、水温を上昇させるため)、各国はこれを防止する義務を有すると判断した。同裁判所は、各国の義務はパリ協定の履行に限定されるという主張を退けた

 米州人権裁判所でも、同様の事件に対する判決が2024年内に出ると予想される。

 太平洋諸国との関係は、ハーグでの法的手続きが進展するにつれて緊張にさらされる可能性が高い。

 情勢は、裁判所が勧告的意見を出す2025年に山場を迎えると考えられる。

 オーストラリアが太平洋島嶼国と共同で2026年の国連気候会議であるCOP31の開催国となるか否かの決定は、今なお保留となっている。

 COP開催国への立候補が成功すれば、キャンベラは、化石燃料輸出から重要鉱物やグリーンスチールなどのグリーン輸出舵を切ることを示唆するチャンスを得るだろう。そうすることによって、オーストラリアと太平洋諸国の利益を一致させ、オーストラリアが最適なパートナーであることをより明確に示すことができる。

ウェスリー・モーガンは、ニューサウスウェールズ大学気候リスク・対応研究所(Institute for Climate Risk and Response)の研究員である。

リアム・ムーアは、ジェームズ・クック大学の国際政治・政策学講師である。