Cooperative Security, Arms Control and Disarmament ラメッシュ・タクール  |  2025年08月21日

トランプのBRICS攻撃は、その結束を強める可能性がある

 ドナルド・トランプ大統領は、米国の地政学的な影響力と市場支配力を利用して、「関税の新たな世界秩序」の到来をもたらした。2025年7月30日、彼はブラジルの輸出の半分以上に50%の関税を課した。気分の変わりやすい大統領の憤怒が、ブラジルのジャイル・ボルソナーロ前大統領に対する「魔女狩り」に向けられたのである。

 インドのナレンドラ・モディ首相は、さまざまな場面でトランプを「真の友人」、「親愛なる友」、「私の偉大なる友人」として抱擁してきた。しかし、関税王トランプに永続的な個人的愛着はなく、米国に有利な次のディールを求めて移り変わる取り引き的な交流しかない。7月30日、トランプはインドに25%の関税を課した。翌日、彼は自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」に、インドとロシアが「一緒に経済破綻しようが構わない」と投稿した。8月6日には、インドのロシア産原油購入に対する懲罰として、彼はさらに25%の関税を課すと発表した。この高関税は、世界最高水準であり、両国が合意の最終段階に近づいているとの多くのシグナルが双方からあったにもかかわらず実施された。

 トランプは、かくも法外な関税をインドに課すことによって、2国間関係を拡大・深化させ、戦略的パートナーシップを構築するための過去25年にわたる両国の超党派の努力を覆そうとしている。インドの輸出の約20%が米国向けであり、専門家らはトランプ関税がGDPの約2%に相当する輸出に打撃を与えると推定している。もし、この貿易摩擦が解消されなければ、インドの経済的野心と米国の戦略的野心の双方に損害を与える恐れがある。いずれの国も、その外交政策において、道徳と国益、さらには競合する利益間のトレードオフを行っている。国際原則よりも国益を高めようとする他国を厳しく糾弾することを控える国ばかりではない。インドは、自国の貧困層のエネルギー需要を優先しており、安価で安定した燃料の確保は譲れない。米国主導の西側諸国による経済的・外交的圧力に屈してロシア産原油の供給を放棄することは、国内の中核的利益に対する裏切りであり、道徳的に正当化できず、政治的には自殺行為に等しい。

 さらに、インドがブラジル、中国、ロシアとともに創設メンバーである(その後、南アフリカが加わった)非西側同盟のBRICS加盟国に対して、関税を10%上乗せするという脅しも依然として残っている。

 南アフリカ、インド、中国の順に駐在した元チリ大使のホルヘ・エイネは、2024年11月の「チャイナデイリー」で、「2022年から24年にかけて生じた最も顕著な地政学的変化は、第三世界、すなわち現在ではグローバルサウスと呼ばれる発展途上国が、国際政治の最前線に浮上したことである」と述べている。ロンドンに拠点を置くチャタムハウスに寄せられたある論評は、南南協力に焦点を当てつつ、「BRICSは、ロシアが望むほど反西側的ではない」と主張している。専門家の中には、BRICSが「見当違いな方向に向かっている」と主張する者がいる一方で、他方では、2025年7月にブラジルで開催された第17回首脳会議で採択されたリオ宣言が、「幅広い問題に関するBRICS加盟国内の基本的な結束と合意を明確に示した」という意見を持つ者もいる。

 2024年11月、次期大統領となったトランプはBRICSを「反米的」と言い、脱ドル化に向かういかなる動きにも関税100%の刑を科す」と警告した。大統領は2025年7月6日にも、BRICSと同調して脱ドル化を図る国には10%の追加関税を課すという脅しを繰り返した。BRICSは加盟国間で自国通貨と相互決済の仕組みを用いることを追求しているのであって、「強大な米ドル」(トランプの言葉)に取って代わって世界基準になろうというわけではないと、BRICS加盟国がこぞって説明しているにもかかわらず、一切耳を貸していない。7月下旬には、共和党のリンゼイ・グラム米上院議員が中国、インド、ブラジルに対し、「バラバラにして、経済をぶっ壊してやる。なぜなら、血まみれの金で儲けているからだ」と警告した。

 BRICSを標的にしたワシントンの好戦的な発言は、BRICS加盟国にとっては北京にもワシントンにも従属しない戦略的自律を追求することの見識と必要性を再確認させているに過ぎない。8月8日、モディはロシアのウラジーミル・プーチン大統領と電話で「有意義で詳細な会話」をした。両首脳は、インドとロシアの特別で特権的な戦略的パートナーシップを一層深化させていく決意を再確認し合った。その前日、モディはブラジルのルーラ・ダ・シルバ大統領に電話し、トランプが両国に課す50%の関税を含む国際的課題について話し合った。

 モディとプーチンの電話会談と同じ日、中国は、モディが2025年8月末に天津で開催される上海協力機構の首脳会議に出席することを確認したと発表した。首脳会議に合わせて習近平国家主席との協議も行う予定である。モディの中国訪問は、2018年6月以来となる。中国の王毅外相は、2025年8月18~19日にインドを訪問し、S・ジャイシャンカル外相およびモディ首相との会談を行った。この訪問は非常に生産的なものとなり、中国とインドは直行便の運航再開、貿易・投資イニシアチブ、そして国境問題を管理する三つの新たなメカニズムについて合意に達した。国境緊張から5年を経て、両国は2国間関係の再建に向けて前進しつつある。

 2022年6月にスロバキアで開催されたGLOBSECフォーラムでウクライナに関するインドの政策を問われたことを受けて、ジャイシャンカルは、「欧州は、欧州の問題は世界の問題だが、世界の問題は欧州の問題ではないという考え方から脱却しなければならない」と述べた。この発言は、グローバルサウスから広く共感を得た。

 BRICSは拡大を遂げ、今やエジプト、エチオピア、インドネシア、アラブ首長国連邦の参加を得て、世界情勢に関する彼らの地政学的かつ地史学的意見を表明している。世界が多極的な多国間主義に移行しつつある時代に、トランプが怒りにまかせてインドとブラジルにBRICSの放棄を強要する試みは、むしろ、国際金融ガバナンスの構造を民主化する手段として、BRICSの結束を一層強固なものにしかねない。意図せざる逆効果の法則を裏付けるようなトランプのBRICS攻撃は、まさに米国大統領をかくも苛立たせている地政学的再編成そのものを加速させる可能性がある。

ラメッシュ・タクールは、元国連事務次長補。オーストラリア国立大学名誉教授であり、オーストラリア国際問題研究所フェローを務める。戸田記念国際平和研究所の元上級研究員。「The Nuclear Ban Treaty :A Transformational Reframing of the Global Nuclear Order」の編者。