Peace and Security in Northeast Asia ムン・ジョンイン  |  2025年01月08日

トランプ2.0: 災いか祝福か?

この記事は、2025年1月5日に「The Korea Times」に初出掲載され、執筆者の許可を得て再掲載したものです。

 韓国は重大なポリクライシス(複合危機)の真っただ中にある。国内政治が先行き不透明な大統領弾劾プロセスの渦中にある一方、北朝鮮との軍事的緊張はかつてない水準にまで高まっている。さらに追い打ちをかけるように、トランプ2.0の出現は、韓国の国家安全保障と経済にとって不吉な兆候を示している。韓国ではトランプ恐怖症が広がっている。

 トランプ2.0が、過大な防衛費分担を要求し、さらには在韓米軍の縮小や撤退の脅しをかけることによって、韓米同盟を中断または弱体化させるのではないかという懸念がある。トランプはすでに、ソウルが毎年11億ドルを支払うことで合意した在韓米軍の防衛費分担特別協定(SMA)に関する最近の合意に対し、不満を表明している。韓国はマネーマシンなのだから、少なくとも現行の9倍に当たる100億ドルは払えるだろうと主張した。1月20日に就任した後は、共同軍事演習・訓練の一時停止や米国の戦略兵器配備といった交渉材料を使って、防衛費分担条件の再交渉を試みる可能性がある。また、在韓米軍の任務全体の変更も検討するかもしれない。韓国の国民は、そのような可能性を強く懸念している。

 中国の脅威に対する認識の相違も、対立の原因となるだろう。トランプ2.0は米国の対中強硬政策をいっそう強めると見込まれ、在韓米軍の任務は、北朝鮮ではなく中国の抑止に重点を置いて再編成される可能性がある。しかし、韓国にとって北朝鮮の抑止は依然として最重要課題であるし、中国を包囲して封じ込めようとする米国の戦略への積極的な参加には気が進まないだろう。このような目標の相違は、米韓関係に緊張をもたらす。

 北朝鮮と直接取り引きすることへのトランプの関心は、ソウルとワシントンの関係に問題を起こす可能性がある。トランプは、首脳外交で金正恩との対話を再開できると自信を持っているようだ。そのようなトランプ2.0の首脳外交がもし実現するとしたら、それがもたらす二つの結果をソウルは懸念するだろう。第1に、トランプは金との核兵器削減交渉を開始するかもしれないが、交渉の内容は非核化ではなく、平壌が核・ミサイル活動を停止し、核施設、核物質、核兵器を削減することと引き換えに、制裁緩和と外交正常化を図る可能性がある。これは、北朝鮮を事実上の核保有国と認めることに等しい。韓国は、CVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)の原則を堅持しており、そのような取り引きは受け入れられない。第2に、トランプ・金の2国間会談に韓国を参加させない手法、いわゆる「コリア・パッシング」は、韓国にとって、特に国内政治の観点から見ると最悪の事態である。

 トランプ2.0による貿易圧力も、対米輸出市場に大きく依存する韓国経済に打撃を与える恐れがある。一律関税の導入、米国への多額の投資を行う韓国企業への補助金の廃止、数量制限を含むその他の非関税障壁は、間違いなくソウルの不安を深めるだろう。

 これらの起こり得る「トランプの災い」は、単に忠誠心を見せたり声を張り上げたりするだけでは解決できない。韓国は、取り引き的交渉を超えた新しい思考が必要である。

 防衛費分担問題と脅威の認識における相違に対処するために、韓国は構造的な再調整が必要かもしれない。トランプ2.0の「アメリカ第一主義」は、韓国のただ乗りをもはや許容せず、米軍の継続的駐留も当然のものと考えることはできなくなる。韓国も欧州のように、米国への依存を低減するとともに、軍事的自立の強化を真剣に検討する必要があるかもしれない。この点で、戦時作戦統制権を米国から移管することが不可欠である。ソウルは、北朝鮮、中国、ロシアとの関係を改善することによって、韓国の安全保障環境を変えるためにあらゆる努力をしなければならない。米国の関与減少または撤退に備え、ソウルは、現行の同盟に基づく米国中心の集団的防衛体制に代わる新たな北東アジアの安全保障構造の構築を検討する必要がある。包摂的な多国間安全保障協力による集団安全保障体制は、一つの選択肢であろう。これは、共通の安全保障という旗印のもと、地域の全ての国々を包含する体制である。

 トランプが金正恩と直接取り引きをすることは、必ずしも災いとは言えない。むしろ祝福ともなり得る。ジークフリート・ヘッカーが長年主張しているように、トランプが金正恩を説得し、たとえ制裁緩和と外交正常化という犠牲を払っても、北朝鮮の核・ミサイル活動をやめさせ、核兵器とミサイルを縮小させ、核計画を徐々に廃止させることができれば、それは朝鮮半島の非核化の新たな展望を切り開くだろう。その前提として、この努力は、南北関係の改善、正式な終戦、休戦協定の持続可能な平和体制への転換、地域の核兵器管理体制の構築、そして北東アジアにおける非核兵器地帯の設置と連動させるべきである。

 韓国がトランプの貿易保護主義による短期的な打撃を回避することは難しいだろう。しかし、保護主義的圧力に対処するため、韓国はイノベーションとパートナーの多様化により競争力を強化する必要がある。また、中国、日本との3国間自由貿易協定を迅速にまとめることで開放的な地域主義の利点を生かし、それと同時に地域的な包括的経済連携を強化し、世界貿易機関(WTO)を再活性化する多国間努力に加わるべきである。

 アーノルド・トインビーはかつて、「文明は、連続的な挑戦に対してうまく応戦することによって誕生し、そして成長する」と述べた。トランプが突きつける挑戦によって、われわれの運命を決定づけられるべきではない。われわれは、創造的な応戦によってそれらを乗り越えるべきである。それができたとき、トランプの災いは新たな祝福へと転じ得るのである。

文正仁(ムン・ジョンイン)は、延世大学James Laney特別教授。文在寅元大統領の統一・外交・国家安全保障問題特別顧問を務めた(2017~2021年)。戸田記念国際平和研究所の国際研究諮問委員会メンバーである。