Peace and Security in Northeast Asia 文正仁(ムン・ジョンイン) | 2022年01月17日
韓国のレジリエンス戦略に向けて
Image: Port of Busan (Panwasin Seemala/Shutterstock)
この記事は、2022年1月3日に「ハンギョレ」に初掲載されたものです。
2022年はあらゆる面で韓国のレジリエンスが試される勝負の年となるかもしれない。
われわれは、2022年を迎えた。昨年は新型コロナや他の問題で多大な困難に直面したが、韓国の国際的威信は1段階上がったというのが大方の見方である。
2021年、韓国経済のランクは3年連続で世界10位となった。韓国はまた、世界7位の輸出大国としての地位も固めた。軍事分野では、韓国は世界6位の軍事力を構築している。産業発展の重要な推進力と見なすことができるイノベーション指数でも、韓国はブルームバーグとEUによる評価で世界1位にランクされた。
これらは、確かに立派な成果である。
キャスリーン・スティーブンス元駐韓米国大使は、21年12月にソウルで開催されたセミナーでこれらの指標を引用し、韓国は危機における強さを備えた国であると述べ、その理由は韓国の「レジリエンス」にあるとした。
スティーブンスによると、韓国は外部からの衝撃に対して並外れた忍耐力と回復力を発揮する。それに対し、米国はその国力のわりにレジリエンスを十分発揮できずにいると懸念を表明した。
レジリエンスは、米国の主流な論議のキーワードとして近年浮上している。この議論の中心にあるのは、2021年8月に「フォーリン・アフェアーズ(Foreign Affairs)」誌に掲載された「レジリエンス強化の大戦略を―パンデミック、異常気象時代における復元力パワー(A Grand Strategy of Resilience: American Power in the Age of Fragility)」と題する論文である。執筆者は、バンダービルド大学法科大学院教授ガネーシュ・シタラマンである。
シタラマンはレジリエンスの定義を、内部の大きな犠牲を払うことなく外部の課題から立ち直る能力、そして変化する環境に対し必要に応じて適応する能力としている。言い換えれば、この概念は国家や社会の強靭性、敏捷性、柔軟性、弾力性を示すものである。
シタラマンによれば、米国はコロナ禍、気候変動、サイバー攻撃の脅威、中国との地政学的および地経学的競争といったさまざまな課題に直面するなかで、深刻なほどレジリエンスを発揮できずにいる。その理由として彼が挙げるのは、米国の不十分なインフラ、政治の分極化、民主主義の後退、新自由主義的資本主義の弊害、軍産複合体の横暴、国家戦略の欠如である。
この全般的な危機を乗り越えるために、米国は絶え間ないイノベーションと、政治、経済、社会における大規模な変革によって、国内のレジリエンスを高めるだけでなく、国外においても友好国や同盟国との集団的レジリエンスを構築する必要があると、シタラマンは言う。
韓国は、本当に米国よりも良い状況にあるのだろうか? 確信するのは難しい。
2022年は大きな課題が韓国を待ち受けている。第1に、コロナ禍を脱するのは容易ではないだろう。
北朝鮮問題も、もう一つの頭痛の種である。文政権は、朝鮮戦争を正式に終わらせる議論の先頭に立つことによって、南北関係を進展させようとしてきた。しかし、韓国と米国が予定通り3月に合同軍事演習を実施すれば、平壌は相応の措置を取ってくるだろう。それにより、5月にソウルで次期政権が発足すると同時に、緊張が高まる恐れもある。
大統領選後の社会的動揺に対処し国家の分断を癒すことも、それ自体が大仕事となるだろう。
より深刻な問題は、行く手に待ち受ける構造的な脅威である。韓国経済の二極化による構造的不平等と慢性的失業の危機が続いており、若年層の失業が特に問題となっている。韓国の出生率の低さと高齢社会がもたらす経済、社会、安全保障上の脆弱性は悪化し続けている。
外部環境も予測不能である。米中対立の激化によって北東アジアが不安定化すれば、韓国の戦略的動きはいっそう難しいものになる。
米国は同盟強化を強く要求し、中国は中立を求めるなか、両国の間でバランスを維持するという韓国の現行の外交政策は限界に達し、大国外交の板挟みになった国の実存的ジレンマをいっそう深めるだろう。
この観点から見ると、2022年は韓国のレジリエンスが試される勝負の年となるかもしれない。韓国が国内外の嵐を切り抜けるとともに、弾力性、柔軟性、適応性によって平和、繁栄、安定の新たな展望を切り開くためには、物質的な下部構造を拡張するだけでは不十分である。
レジリエンスの上部構造が頑健でなければならない。われわれは、リスク要因を脳裏から追い払おうとする習慣的な甘い姿勢を脱却し、通常なら想像もしないようなことも含めて起こりうるあらゆる課題を予見する能力を養うべき時である。
そのような先見力は、情報収集能力によって決まる。だからこそ、社会と政府が協力して、情報収集能力を強化する努力が必要なのである。安全保障のあらゆる分野、すなわち軍事、経済、生態系、サイバーの各分野における情報力の拡大が不可欠である。
もう一つの重要な要因は、国家の官公庁の能力である。幅広い脅威を適時に予測し、評価し、迅速な政策決定によってこれらの脅威に果断に対処する能力のことである。
安全保障上の伝統的問題と新たな問題が同時に生じている今こそ、そのような全般的脅威に体系的に対処できる、安全保障重視のリーダーシップが極めて必要とされている。しかし、われわれは今なお、国家安全保障の重視が政権の安泰を図る道具として利用された1970年代の悪夢を引きずっている。
これらの懸念に対処するために最も重要な必須条件は、国民的な合意形成である。国家安全保障の政治利用を避け、国と市民社会のコミュニケーションを通じて、超越的な目標についての合意を形成する必要がある。
これらの条件が満たされて初めて、韓国のレジリエンスが実現可能となるだろう。
文正仁(ムン・ジョンイン)は世宗研究所理事長。戸田記念国際平和研究所の国際研究諮問委員会メンバーでもある。