Cooperative Security, Arms Control and Disarmament ケビン・P・クレメンツ  |  2025年03月23日

距離を置き、同志国との連帯を築くべき時か?

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この記事は、2025年3月20日にニュージーランドの「Otago Daily Times」に初出掲載され、執筆者の許可を得て再掲載したものです。

 ホワイトハウスで行われたドナルド・トランプ、J・D・バンス、ウォロディミル・ゼレンスキーの会談は外交的な大失敗に終わり、主役たちの本性をあらわにした。会談は首脳レベルの政治的大喧嘩となり、多くの人はそれを、ホワイトハウスが米国の政治的協力関係を大幅に変更する口実を作るための不意打ち攻撃と捉えた。このような転換は、当然視されてきた長年の伝統ある同盟関係を弱体化させ、戦後のリベラルな国際秩序の土台を揺るがしている。それは法の支配を侵害し、われわれがルールに基づく国際協調と考えていたものに異議を唱えるものである。国連の役割、より広くは多国間主義の役割に対し、大きな疑問符を突き付けている。ニュージーランドのような小さな国が依存するこのような協調関係が損なわれたことで、19世紀さながらのなりふり構わぬ力に基づくナショナリズムが再び声高に主張されるようになった。

 特に米国民にとって、事態をさらに悪化させているのは、連邦政府の空洞化、大統領府への異常なまでの権力集中、生気のない骨抜きにされた共和党、分裂し麻痺した民主党、そして、2世紀以上にわたって米国を支えてきた法の支配とチェック・アンド・バランスの原理に対する日々の攻撃である。

 それに加えて、そして恐らく米国の同盟国にとって極めて憂慮すべきことに、政権は明白な反ロシア的見解からロシアとの関係密接化へと突然大きく舵を切るとともに、伝統的な西側の友好国や同盟国と意図的に距離を置くようになった。大統領がウクライナに関連してロシア寄りのレトリックを用いたことを皮切りに、米国はウクライナのエネルギー供給網に対する支援を打ち切り、ウクライナに関する重要な国連決議においてロシア、北朝鮮、ベラルーシと手を組んだ。ロシアに対する国際的制裁にもかかわらず、トランプ大統領はロシアのG7復帰を提唱し、サウジアラビアでウクライナに関する米国・ロシア間の交渉を推進した。ホワイトハウスは数回にわたってプーチンに電話をかけたが、政府関係者はこれらの話し合いの内容を知らされていない。当初のウクライナへの軍事支援停止は、ゼレンスキーが停戦協定に署名した際に撤回されたものの、トランプが強制力を用いてロシアに味方する用意があることは明白だった。

 戦争の終結を直接模索し、主要当事者に働きかけることの価値を認めることは重要だが、この戦争に真の安定した終結をもたらすためのトランプの手腕あるいは能力に対する信頼は、現在のやり方ではほとんど得られない。

 特に、トランプは、外国代理人登録法に基づく外国代理人に対する主要な執行措置を廃止した。米国の選挙における外国の介入を取り締まる対策本部を解散した。司法省の制裁逃れ摘発ユニットや合衆国国際開発庁(USAID)を、最近では「ボイス・オブ・アメリカ」を閉鎖した。関税に関する常軌を逸した決定は言うまでもなく、これらの大統領令はいずれも、トランプ政権下の米国の外交政策が「アメリカ・ファースト」のみならず、トランプの極めて特異で利己的な利益追求の足かせとなる厄介な同盟の排除も基本方針としていることを示している。そしてこれまでのところ、トランプがウラジーミル・プーチンや他の独裁者に熱をあげるのを止めるものはない。

 こういったこと全てが、ニュージーランドのような小規模国にとって、さらにはタスマン海を挟んだより大きな隣国にとっても、深刻な課題をもたらしている。パートナーシップで最も権力を持つメンバーが国連と民主主義の中核的価値を弱体化させている場合、もはや同盟の確実性はない。また、トランプがファイブ・アイズの解体を要求しており、ハッキングやロシア人への最高機密情報の海外漏洩を防ぐ基本的なサイバーセキュリティ対策を廃止してしまった状況で、保証されたインテリジェンス・セキュリティーはない。ウクライナ支援のために「有志連合」案が浮上しても、トランプ大統領はこれを気にかけることもなく、またウクライナ紛争の解決に向けてより公平なアプローチを取ろうという気にもなっていない。サウジアラビアがお膳立てした2国間の話し合いは、協調的な問題解決のための安全な環境を整えるというより、不利な条件を受け入れるようウクライナに圧力をかけることが目的だったようだ。

これがニュージーランドに意味するもの

 では、これによってニュージーランドはどうなるのか? 政権も野党も、この不確実な状況において防衛費を増額し、和平が訪れたら多国間の平和維持作戦に参加する準備をするようプレッシャーをかけられている。筆者の感じるところでは、トランプがもたらした外交政策のカオスはニュージーランドにとって、米国が権威主義寄りの政治体制に傾きつつある現状を踏まえて、われわれが米国とどこまで密接に連携することを望むかを深く考える機会である。

 筆者は、今こそニュージーランドが冷戦時代の古い米国主導の同盟から距離を置き、どの国となぜパートナーを組むべきかについて批判的に考察するチャンスであると考える。第1に、世界平和度指数(GPI)のスコアが高い同志国との関係を深めるべきだと筆者は考える。2024年のGPIランキングを見ると、アイスランド、アイルランド、オーストリア、ニュージーランド、シンガポール、スイス、ポルトガル、デンマーク、スロベニア、マレーシア、カナダが最も平和度の高い国々であり、イエメン、スーダン、南スーダン、アフガニスタン、ウクライナ、コンゴ、ロシア、シリア、イスラエル、マリが最も平和度の低い国々である。現在暴力的紛争に巻き込まれている国々より、予測可能で信頼できる確実な協調的関与の基盤を構築したいのであれば、まずは上位10カ国に働きかけるのが良いだろう。

 第2に、われわれと同じ民主主義的価値観や人権と法の支配に対する信念を持つ同志国の間で世界的議論を行い、時代遅れの冷戦構造のみに依存しない国際協力と集団安全保障の新たなビジョンにおいて、われわれはどのような未来を実現したいか、軍はどのような役割を果たすかを話し合う必要がある。

 現状を維持し続けることができないのは明白である。トランプ政権がいずれは心を入れ替えるだろうと信じるふりをするならば、決して事を荒立てず、あるいは王様が服を着ていないことを指摘しないならば、われわれはトランプの有害なナルシシズムを助長し続けることになる。賢明な行動の道筋は、ワシントンから流れ出るカオスと不確実性に連帯して立ち向かうことができるよう、有志・同志国の戦略的連合を結成することである。ニュージーランドは民主主義のパートナーと協力し、多国間体制を回復するとともに、全ての人の平和と安全保障を促進するルールに基づく国際秩序の尊重を改めて築くために、積極的な策を講じなければならない。

ケビン・P・クレメンツは、戸田記念国際平和研究所所長である。ニュージーランド在住。