Global Challenges to Democracy ポリー・バイヤーズ  |  2025年05月06日

これはわれわれの在り方ではない:後退する米国

この記事は、2025年5月2日に「Daily Hampshire Gazette」に初出掲載され、執筆者の許可を得て再掲載したものです。

 現政権の支離滅裂な振る舞いがもたらす無数の破壊的影響の中でも、米国の国際的なリーダーシップと関与する機関を貶め、解体し、資金を断とうとする取り組みは、米国の基本的価値観や米国が長年にわたって体現してきた立場(信頼できるパートナー、機会と希望の国、より良い生活を求める人々の道しるべ)と最も著しく対立する。

 筆者は、最初は平和部隊のボランティアを務め、米国議会で働いた後、25年間にわたって米国国際開発庁(USAID)と国務省に勤務し、最近では非政府組織を率いているが、これまでの40年以上にわたる経験のうえから、米国の国際的関与が米国にとって極めて重要な役割を果たし、長期的な価値をもたらすということを断言できる。

 献身的な行政・外交職員、非営利組織、ボランティアらは、「急進的なイデオロギー的アジェンダ」を推進しているのでは決してなく、米国の利益と価値観を推進し、世界共通の利益に即した公正かつ持続可能な開発を支援するために尽力している。

 米国は長年にわたり、技術革新、医学・科学研究、ビジネス・金融、国際紛争解決、平和努力など多くの分野で世界を主導してきた。米国がリーダーシップを取って、ロシアの侵略に対するウクライナの自衛を支援するためにNATOや他の同志国の力を結集したこと、あるいは2015年にパリ気候協定を最終的に成功に導いたことなど、米国のリーダーシップの重要性を示す事例は枚挙にいとまがない。

 さらにさかのぼれば、第二次世界大戦後の欧州を再建するマーシャルプランの先見性と大成功は、何が本当に米国を偉大にしているかを如実に示している。多方面にわたる「ソフトパワー」を通して数十年をかけて構築した戦略的関係や信頼は、米国が今日のような世界の大国家となるのを助けてきた。

 米国と他国との教育交流を支援するフルブライト奨学金プログラムは、いかに米国が長きにわたって大学、企業、国家に最も優秀な人材を引き付けてきたかを示す有効な事例であり、今日非常に多くの分野で米国が発揮している卓越性に多大な寄与を果たしている。42人のフルブライト卒業生が現在または過去に国家首脳を務め、64人の卒業生がノーベル賞を受賞している。悲しむべきことに、今日米国中の外国人留学生が、国外退去またはビザ取り消しの可能性に怯えながら生きている。

 政府の効率性と有効性を高める必要があることについては、あらゆる政治的立場の人々が同意しており、過去の政権もそれを積極的に追求してきた。しかし、連邦政府全体と主要機関に大ハンマーを振るい、友好同盟国も敵対国も同じように攻撃的に脅すという見境のないやり方は、われわれを完全に間違った方向に導いている。それは米国内の機関や省庁に大惨事と大混乱をもたらし、重要な政府機能を危機にさらすだけでなく、米国を世界中で孤立させつつある。事実、FOXニュース、ピュー・リサーチセンターなどが近頃実施した世論調査によれば、大部分の米国民はこれらの政策に対し、大差で不支持である。

 確かに、米国の国際的関与にはベトナムやイラクにおける悲惨な戦争のように多くの失策や過ちがあったが、全体的に見れば、米国の中核的な民主主義の価値観を反映し、米国はおおむねポジティブで重要な役割を果たしてきた。

 米国民は、困窮する人々、飢餓、自然災害、戦争に苦しむ人々に対し、たとえそれが対立する国々であっても、重要な人道的支援を提供することにおいて長年にわたり世界のリーダーであり続けてきたことを、胸を張って誇りに思うべきである。ウクライナだけでも、USAIDは1,600万人以上の市民に緊急食糧支援、避難所、安全な飲料水を提供し、米国による援助をてこ入れして他の援助国の3倍規模に拡大した。

 わが国の対外援助予算が連邦予算に占める割合は常にわずかで、1%未満であるが、それは極めて大きい桁外れの影響と利益を米国にもたらしてきた。エボラ出血熱への対策によって米国への感染拡大を予防し、各国の医療制度を強化することによって将来のパンデミックが制御不能になるのを予防し、各国で腐敗防止策を推進することによって米国企業が公平な機会を得られるようにし、持続可能な生計手段を支援することによって移民流入を防ぎ、麻薬生産に代わる産業を提供するといったことは、ほんの一部の例である。多くの分野でそうであるように、危機が勃発してから対処するよりも予防の方が安上がりで効果的であるのが常である。

 国際的関与や国際支援を大幅に削減する措置が近頃立て続けに取られていることは、重大な戦略的失策であり、その影響は広範囲に及ぶ。ジョン・F・ケネディ大統領が創設して以来60年にわたって超党派の絶大な支持を得てきたUSAIDの解体により、命を救うプログラムが打ち切られ、数千人もの人々が疾患や飢餓に対して脆弱な状態に置かれている。平和部隊に続く米国平和研究所の閉鎖や近頃の国務省の「組織再編」はいずれも、米国を弱体化させ、孤立させ、多岐にわたる脅威に対して脆弱にし、わが国の世界におけるリーダーシップと国家安全保障を大幅に損なうだろう。予想通り、米国が去った後の空白には中国が喜んで足を踏み入れている。

 驚くべきことではないが、このような現在の混乱と騒動に対し、かつての友好国や同盟国は徐々に米国を信頼できない不安定な「ならず者国家」と見なすようになっている。数十年にわたる米国の国際的リーダーシップ、熟練した外交、寛大な対外支援によって築かれた関係と信頼は、今ややみくもに浪費されている。これらの関係を再構築することは容易ではなく、もしかしたら二度とないかもしれない。

 COVID、気候変動、統合が進むグローバル経済システムによって明らかになったように、良かれ悪しかれ、われわれは世界の他の部分から自国を壁で隔離することはできない。忍び寄る不況、金融と政治の混乱、気候変動、疫病、AIの利用など、現在の課題は多岐にわたり、だからこそ、われわれの中核的価値観と米国が今後も国際的関与とリーダーシップを堅持するという姿勢を断固として守ることがいっそう重要になる。世界のパートナーと協調的な取り組みを行うことは、任意事項ではない。不可欠なことだ。

ポリー・バイヤーズは近頃、カルナ平和構築センターのエグゼクティブ・ディレクターを退任した。米国政府内外で国際支援や平和構築プログラムの管理に従事する経験を有する。米国国際開発庁、国務省、議会の飢餓対策委員会、国際機関および非政府組織で働いてきたキャリアを通して、援助や平和構築努力におけるローカル・オーナーシップを拡大するための協働アプローチに重点を置いてきた。イェール大学で国際関係学の修士号、ウェズリアン大学で学士号を取得し、モロッコで平和部隊のボランティアを務めた。