Climate Change and Conflict アカ・リモン/アノテ・トン  |  2021年11月30日

キリバスの人々に迫る海 ― オーストラリアへの移住は実現するか?

Image: Wikipedia Creative Commons Erin Magee/DFAT, CC BY 2.0,

 この記事は、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスに基づいて、ニュースメディアサイト「The Conversation」より再掲載されたものです。元の記事はこちら

 私たちの環礁国は海抜2メートルしかなく、水は私たちに迫りつつある。

 グラスゴーで開かれた気候会議COP26の進展と気運にもかかわらず、いまだに気候変動による最悪の事態を回避するために十分なスピードで行動していない。

 190以上の国と組織が、石炭火力発電の速やかな段階的廃止と新たな石炭火力発電所への投資の中止に賛成したのは心強いことである。100以上の国々がメタンガス排出量を2030年までに30%削減するという誓約に署名し、ほぼ同数の国が2030年までに産業規模での森林破壊を止めることに同意した。

 しかし、これらの合意にもかかわらず、キリバスは祖国の死に直面している。共同執筆者であるアノテ・トンは、大統領として15年間にわたりキリバスを率い、主執筆者であるアカ・リモンは、彼のもとで2014年から16年まで外務次官を務めた。

 問題はスピードである。キリバスの国土は、グローバルな行動が気候変動を食い止めるより速く消滅しつつある。遅滞と世界的リーダーシップの欠如によりキリバスのような小さな島国の存在は、現在危うくなっている。

 それは、国民に新たな居住地を見つける方法を緊急に見いださなければならないことを意味している。母国を去るのは非常に苦しいことであるが、ほかに選択肢はない。私たちに時間の余裕はないのである。困難な未来に備えなければならない。

 私たちが必要としているのは、もはや故郷で暮らせなくなり、居住地を失った人々が受け入れ国に移住することができるというモデルである。オーストラリアのような国々は労働者を必要としており、私たちは近い将来居住地が必要になる。

 これは、ますます正義の問題になりつつある。特にオーストラリアの行動は、COP26で掲げた最近の公約をどこまで誠実に守っているのかという疑問を投げかけている。

 世界最大の液化天然ガス輸出国であり、世界第2位の石炭輸出国であるオーストラリアが変化に消極的であるために、太平洋地域の近隣諸国は文字通り消滅の危機に瀕している。オーストラリアは、2030年までに排出量を少なくとも半分に削減することを誓約しなかった唯一の先進国である。

 グラスゴーでは、フィジーがオーストラリアに対し、2030年までに排出量を半減させるという現実的な行動を取るよう促した。その効果はあっただろうか? なかった。オーストラリアは、石炭依存に終止符を打つ合意への署名も拒否した。会議が終わった途端、大物政治家たちがCOP26の合意を弱体化させたのである。

 私たちは、COP26 でオーストラリアが誓ったことが単なる紙の上の言葉でないことを切実に願っている。しかし、もしそうなら、確実性を求める私たちの必要性はいっそう強くなる。

 率直に言えば、オーストラリアが本当に化石燃料を可能な限りたくさん売ることを計画し気候対策への取り組みを渋っているのであれば、彼らが私たちのためにできる最低限のことは、石炭やガスの燃焼がもたらした海面上昇から私たちが生き延びるための手助けをすることである。

 18年前(2003年)、当時のアノテ・トン大統領率いるキリバス政府は、キリバスの人々が気候変動に適応する方法として「尊厳ある移住」政策を導入した。

 私たちは、イ・キリバス(キリバス人)の労働者に、海外で需要がある職に適合する国際資格を与えた。その後、キリバス、ツバル、フィジー、トンガ、ニュージーランドは、就職先がある場合は労働者がニュージーランドに移住することを認める制度を設立した。コロナ禍が始まる前は、キリバスから毎年75人がこの制度を利用して移住することができた。

 ニュージーランドは、現在キリバスからの永住労働移民プログラムを提供している最初で唯一の国である。温かく迎えられているが、気候変動の深刻化に伴い、キリバス人のためにさらに多くの場所が必要である。

 ニュージーランドと同様、オーストラリアも太平洋諸国の労働者のために季節労働者制度を拡大しており、現在、太平洋労働計画(Pacific Labour Scheme)の下で滞在期間の長期化とマルチビザの付与に向けて動いている。この計画が今後、ニュージーランドと同様の永住移民制度へと発展することを期待している。

 国民が本当に安全な避難先を得ることを期待して待つ間にも、離散する移住者の数は増え続けている。キリバス人はいまや、フィジー、クック諸島、ニウエ、サモア、トンガのような、キリバスより高海抜の太平洋諸国に移住しつつある。

 私たちは恐れているか? もちろんである。私たちは、この危機の最前線にいる。その原因になるようなことを最もしていない国の一つであるにもかかわらず。私たちの唯一の祖国である島を去るのは苦しいことである。しかし、科学は嘘をつかない。そして、私たちは水が迫りつつあるのを見るのである。

 労働移住は、気候変動問題を解決するわけではないが、そのために真っ先に住む場所を失う私たちに希望を与えてくれる。

 これは、気候正義における極めて重要な問題である。この大変動は、米国、中国、EUのような排出量の多い経済大国によって引き起こされたものである。しかし、その代償は全て脆弱な国々が支払っている。これは不公平である。

 気候変動が悪化するなか、各国のリーダーたちは労働移住を通じて適応を支援する最善の方法を検討しなければならない。気候変動への怒りを放置し、さらに大規模な難民流入を引き起こすよりも、今、支援の計画を立てるほうがはるかによいだろう。

 考えてみて欲しい。2018年、キリバス国民1人あたりの二酸化炭素換算排出量は0.95トンだった。それに対し、米国民1人あたりの排出量は17.7トンだった。このような不均衡にもかかわらず、米国はキリバスや他の低海抜国に起こっている状況に対してほとんど責任を取っていない。

 ジョー・バイデン米大統領が最近、気候変動による被害が最も深刻で、対処するための資源が最も少ない国々を支援することにより、米国を気候資金におけるリーダーにすると誓ったことから、私たちはこの状況が変わるかもしれないと期待している。また、気候変動による避難民に米国で暮らすことを認める新たな法案が提出されたことも心強い。

 排出量を削減し、温暖化に起因する問題の解決策を編み出すために、私たちは努力しなければならない。

 国際法においては、気候変動によって家を失った人々の存在を認め、再定住できる方法を確立するための法整備が必要である。

 キリバスには、気候耐性のあるインフラや、さらには浮き島といった他の解決策も提案されているが、これらは一夜にして実現できるものではなく、また、非常にコストがかかる。それに対し、労働移住は手っ取り早く、受け入れ国にも利益がある。

 キリバスの現政府は、労働者のスキルアップと雇用機会を増やす努力を行っている。私たちは、大移住に備えてやるべきことをやっているのである。

 キリバス人が移住しなければならないとき、気候難民としてではなく、確かな将来に手が届く対等な市民として赴くことができるよう願っている。

 ますます気候変動が深刻化する中で、私たちは何とか生き延びるために全力を尽くしている。しかし、私たちの小さな村を救い、私たちの文化、言語、伝統、精神、土地、水、そして何よりも人々を生かし続けるためには、地球村全体の協力が必要なのである。

<訂正>本稿旧版では、オーストラリアを世界最大の化石ガス輸出国と記載していましたが、正しくは最大の液化天然ガス輸出国でした。

アカ・リモンオーストラリア国立大学の博士課程在籍中、アノテ・トンペンシルベニア大学のグローバルリーダー滞在プログラム招待者(Distinguished Global Leader-in-Residence)である。