Contemporary Peace Research and Practice シャム・サラン  |  2021年09月29日

タリバン復権で高まるインドの安全保障上の懸念

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 カブールにおけるタリバン政権の復活は、インドにとって痛手である。過去20年にわたってアフガニスタンで築いてきた政治、経済、安全保障面の大きな財産が、水泡に帰したのである。これには、インドがこの国に30億米ドル以上を投資して実施した数件の重要なインフラプロジェクト、国会議事堂建設、保健および教育促進事業などがある。アフガニスタン治安部隊の能力を構築するためにインドが果たした貢献も大きかった。

 これによってアフガニスタン国民の間に生まれた友好感情は財産であるが、外交関係が長期にわたって途絶え、同国内の開発関連事業を継続できなければ、好感情も長くは続かないだろう。米軍撤退後もアフガニスタンはタリバンによる武力制圧を阻止できるだろうという想定があった。これに関しては、さらに軍事的膠着状態になれば最終的にタリバンを加えた統治体制が形成されるだろうが、タリバンは選挙による政府とその指導者を完全に排除することはなく、インドも関与を続けることができるだろうという想定もあった。これらの想定があまりにも急速に崩れ始めたため、インドに見込みのある選択肢はほとんど残されていなかった。

 インド政府は、タリバンと関与を持たずにいたことを批判された。過去数年間における中国、ロシア、イラン、そして当の米国もそうであったような関わり方である。ドーハで活動するタリバン指導者とのコミュニケーション経路は確立されていたと報告されているが、そのような接触は控えめなものだった。これらは余り役に立っていない。なぜなら、アフガニスタン国内で政府軍との戦闘に従事する武装集団が、カブールに樹立された暫定政権で最も大きな権力を握る勢力となったからである。彼らは、政府の治安部隊に軍事支援を提供したインドに対して敵対的である。

 インドにとって特に大きな課題は、新政権でハッカーニ・グループが果たす役割である。ハッカーニ・グループは、パキスタンの軍統合情報局ISIと最も緊密に連携している。また、2008年とその1年後に発生したカブールのインド大使館への自爆テロ攻撃に関与しているとされるグループである。2008年の事件ではインドの上級外交官2名が死亡した。ISIの介入によって、いまやハッカーニ・グループがアフガニスタン国内外の安全保障を支配していることが、明白である。彼らがパキスタンの意図に沿って行動する限り、インドがアフガニスタンで外交活動や開発事業を再開することは難しいと思われる。

 インドでは、タリバン2.0はタリバン1.0とそれほど変わらない証拠が増えているにもかかわらず、表面上は「包摂的な」政権を樹立するというジェスチャーを見せ、アフガニスタン国土を越境テロに使わせないこと、人権とジェンダー平等を徐々に改善するという保証を繰り返しているため、タリバン政権の国際的正当性を付与するよう米国を中心とする主要国を説得するには十分ではないかという見解が示されている。西側諸国の最大の関心事は、アフガン難民や移民の大量流入を避けることである。国際的承認が得られれば、国内で政府の威信が完全崩壊するのを防ぐために必要な経済支援や財政支援を得る道筋が開けると考えられる。中国とロシアから、そのための強力な支援があるだろう。

 とすると、インドは、国際世論を大きく動かして政権承認を遅らせることも、これを契機にタリバンに約束を果たす実質的行動を取らせることもできないかもしれない。近隣諸国を標的にしてきたジハード集団との関係を断つという約束をタリバンが実際に果たすかどうかについては、懐疑的な見方がある。部族の系統に沿って構成される社会では、それを実行する能力さえないかもしれない。さらに、20年間の経験から、対テロ戦争を区分けすることは不可能であることが分かっている。これらのテロ組織は世界中でつながり合っており、連携の強いものもある。この現実はいずれ明白になり、主要国やアフガニスタン近隣国の両方の現在の計算を覆すかもしれない。インドはすでにこの種の脅威の高まり、特に緊張を抱えるジャンムー・カシミール地方における脅威に対して覚悟を固めている。

 こうした新たな状況はインドに難しい選択を迫っている。アフガニスタンにタリバン政権が樹立されたということは、必然的に同国におけるパキスタンの影響力が大幅に高まり、それと並行してアフガニスタンが中国の広範な中央アジア戦略に取り込まれることを意味している。二つの主要な敵対国がアフガニスタンに深く浸透している現状で、インドはその西側で安全保障上の脅威の増大に直面するだろう。従来通りの軍事的脅威だけでなく、テロ攻撃の脅威も増大する。インドは、タリバンと関わりを持ち、カブールにおける外交的プレゼンスを回復させ、たとえリスクを伴うとしてもアフガニスタンでの大々的なインフラ開発事業や社会福祉活動を再開することを望むかもしれない。しかし、パキスタンにとってアフガニスタンの価値とは、インドに対する敵意というプリズムを通して見るものである。パキスタンは、インドのいかなるプレゼンスもアフガニスタンから排除するために、できることは何でもやるだろう。それを確実にするために、ハッカーニ・グループが当てにされるかもしれない。

 アフガニスタンの状況が比較的安定し、ウイグル人武装勢力がアフガニスタン領内から新疆側の中国を標的にするのを阻止するためにパキスタンの後押しを受けたタリバンが協力する場合、中国がその野心的な一帯一路イニシアチブにアフガニスタンを組み入れ、伴うリスクにもかかわらず、それを中国・パキスタン経済回廊(CPEC)に結び付けることが当然予想される。アフガニスタンは、中国の中央アジア戦略の主要な構成要素となる可能性がある。この面で利用できる対抗手段をほとんど持たないインドには、これも不利な影響を及ぼすだろう。

 対抗戦略を打ち出すには、より好ましい時期が来るまで待つ必要があるだろう。カブールにタリバン政権が樹立された結果として、国際テロリズムに対抗する新たなコンセンサスを形成する条件がもたらされるときである。現時点では、中国とパキスタンによる脅威の増大と越境テロの脅威の増大に対抗するため、インドの防衛力を強化することを引き続き優先課題としなければならない。このゲームで、パートナーはほとんどいない。

シャム・サランは、元インド外務次官であり、政策研究センターのシニアフェローを務めている。