Cooperative Security, Arms Control and Disarmament ケネディ・グラハム  |  2022年03月19日

核兵器禁止条約: 今後の見通し

Image: International Court of Justice Tom Jutte/Flickr

 この記事は、2022年2月16日にAPLNにより最初に発表され、許可を得て再掲載したものです。参考文献および脚注については転載元をご覧ください。

 核兵器禁止条約(TPNW)第1回締約国会議(CMP-1)は、2022年中頃に予定されている。賛否両論のこの条約を今後何が待ち受けているのだろうか?

 グローバル社会は、前例のない状況に直面している。少数の軍事大国が採用している国家安全保障の中心的要素を、大多数の国家がTPNWによって国際法上違法としたのである。「何か」が、ある国々にとっては違法で、別の国々にとっては違法でないということがあり得るだろうか? この問いは、条約法と国際慣習法の関係を想起させる。

 法学的根拠は、「核兵器の威嚇または使用の合法性」に関する1996年の国際司法裁判所(ICJ)勧告的意見である。裁判所は、禁止条約がない限り、国家の存亡そのものがかかっているような極限的な自衛状況においては、核兵器の違法性を断定的に結論づけることはできないとの意見を示した。その一方でICJは、核兵器に対する国際社会の懸念が高まっていることを指摘し、核兵器に関連する既存条約は「将来における核兵器使用の一般的禁止を予見させるもの」とした。

 TPNWは、このように予見された禁止である。しかし、核兵器の保有と使用に関する戦略的分裂は根深い。直近の国連総会決議は、賛成128カ国、反対42カ国であった。安全保障理事会の常任理事国5カ国(P5)は、従来からの政治的分断を超えてNPTの優位性を支持し、「P5は、TPNWに反対する。それはNPTと矛盾し、弱体化させるリスクがある[……]」としている。P5は、TPNWの署名も批准もせず、その拘束を受けない。TPNWが国際慣習法の発展に寄与するという主張には同意しない。NATOに加盟するP3(米国、英国、フランス)は、「禁止条約への参加は、70年にわたって欧州と北アジアの平和維持に不可欠であり続けた核抑止政策と両立しない」と強弁している

 NPT/TPNWの膠着状態に対する一定の外交的調整が、現在見受けられる。P5は近頃、核戦争に勝者はなく、決して戦われてはならないというレーガン・ゴルバチョフ宣言を再確認し、また、「われわれはまた、核兵器の使用は広範囲に影響が及ぶため、核兵器は、それが存在し続ける限りずっと、防衛の目的を果たし、侵略を抑止し、戦争を回避するためにあるべきだということを確認する。[……]われわれは、引き続き核不拡散条約(NPT)の義務に取り組み、それには第6条の義務も含まれる。[……]われわれは、お互いの安全保障上の利害と懸念を相互に尊重し、認識しつつ、建設的な対話を追求することを決意する」と表明した。

 TPNW締約国を待ち受ける試練は、「有効な普遍性」への移行をいかに成功させるかである。59カ国の批准を達成するために要した期間はわずか4年であった。次の4年間(2026年1月のCMP-3まで)で何が達成され得るだろうか? TPNW(第12条)が謳う普遍的遵守を実現するための確かな方策は、次のような国々による批准を困難さが小さい方から大きい方へ順を追って進めるという、経時的な目標を明確にすることであろう。第1の目標は、直近の決議への賛成と同数の128カ国の批准を達成することである。この批准努力は、まず署名国の残り30カ国を、次に決議に賛成したがTPNWにまだ署名していない42カ国を対象とする。

 第2の目標はより困難となり、棄権(16カ国)または無投票(7カ国)の23カ国を対象とする。どれほど時間がかかろうとも、これによって国連に加盟する151カ国が締約国となる。核保有国と依存国からなる42カ国は、予見し得る将来において引き続き反対すると予想される。

 条約法にとどまらず、核兵器の禁止、それ以前に生物・化学兵器の禁止は、国際慣習法における強行規範になり得るか否かという疑問が生じる。国際法委員会(ILC)は近頃、強行規範に関する5年間の調査を完了した。その最終報告書案には23の結論が提示され、各国政府見解に対する解釈が示されている。少数の軍事大国による反対にもかかわらず、報告書には強行規範の「非網羅的リスト」(侵略、大量虐殺、人道犯罪、人種差別とアパルトヘイト、奴隷制、および拷問の禁止、国際人道法の基本原則、自決権)が記載されている。ILCは、その第73回会期において2022年8月までに、国連総会がこれらの結論を推奨して各国政府の注意を喚起することを勧告するか否かを決定する。

 強行規範の合意には、二つの厄介な問題が付きまとう。不可逆性と普遍性である。強行規範は逸脱を認めないが、認識されている八つの強行規範のうち六つは、条約で締約国の脱退が認められている。これらの条約から脱退する締約国は、その後も強行規範として義務を遵守する必要があるのだろうか、あるいは脱退によってその強行規範を拒絶することができるのだろうか? 大量破壊兵器(生物兵器、化学兵器、核兵器)に関する条約についていえば、それらは保有禁止と使用禁止を「不可逆」としているにも関わらず、脱退条項を含んでいる。

 第2に、ILC報告書は、強行規範は国際社会「全体」の承諾を必要とすると記している(結論4)一方で、「各国の圧倒的大多数」が必要であり、「すべての国家の承諾は必要ではない」とも付記している(結論7)。「圧倒的大多数」は、「全体」にはならない。しかし、それを資格要件として受け入れるなら、比率の定義または一定の目安を定めることは有益であろう。では、128カ国は十分だろうか、あるいは151カ国は? もし十分であるなら、TPNWに反対する国々は強行規範に対する「一貫した反対国」と確実に見なされ得るのだろうか?

 こういったことすべてが、国際社会の諸国家の関心事である。では、グローバル社会の諸国民についてはどうか? 列国議会同盟(IPU)の最近の決議は、各国議会の見解を反映し、TPNWへの支持を表明している。核同盟国の多くで、世論調査は大多数が核兵器禁止に賛成していることを反映している。個別の凶悪犯罪(大量虐殺、拷問、奴隷制)は強行規範の項目に含まれているが大量破壊兵器は含まれていないということは、示唆的である。

 TPNWの「有効な普遍性」は達成されるだろうが、それには時間がかかるだろう。核兵器が77年間にわたって存在してきたことを考えると、20~30年など短いものである。もちろん、核兵器の解体と廃棄に関する検証体制が必要である。インドが2010年までに3段階で核兵器を解体するとした軍縮行動計画(1988年)が、皮肉にもガイドラインとなり得るだろう。ひとたび道が開ければ、9カ国すべての核兵器国にとって20年あれば十分なはずである。おそらく2045年までといったところだろう。

ケネディ・グラハム博士は、ニュージーランドの外交官、国会議員、国連職員。欧州大学院大学およびニュージーランドのいくつかの大学で国際関係と国際法を教えている。