Global Challenges to Democracy ジョーダン・ライアン | 2025年01月16日
説明責任の死: 米国民主主義の危機がいかに世界の自由を脅かすか
米国のリチャード・ニクソン元大統領が「大統領が行うことは、違法には当たらない」と豪語したとき、国民は戦慄を覚えた。今日、その衝撃的な主張がじわじわと法的現実に近づきつつある。大統領就任直前、判事によって一部公開されたジャック・スミス特別検察官の最終報告書は、ドナルド・トランプが2020年の選挙結果を覆そうとした事実を確認するだけでなく、近代民主主義の基盤モデルが、それを内部から解体しようとする者を抑制するためにいかに苦闘してきたかを明らかにしている。
スミスが収集した証拠は衝撃的だ。トランプは、私的には敗北を認める一方、公には不正行為があったと主張した。彼は、得票を捏造するよう州職員に圧力をかけ、虚偽の選挙人名簿を作成して、正当な選挙人を無効にしようとした。また、彼の執拗な主張にもかかわらず、司法省が選挙の不正行為を発見できなかった時は、自らの嘘を支持する忠実な支持者に職員を入れ替えようとした。これらは、敗北した候補者のあがきではない。独裁化への計算された一歩であり、世界の民主主義国で見慣れつつある手法に従ったものだ。
厳しい現実を述べれば、トランプに不利な証拠が圧倒的であっても、制度的障壁によって説明責任を負わせにくくなっている。一般市民が連邦捜査官に嘘をつけば投獄されるのに、その同じ法制度が元大統領の責任を問うのに苦戦しているのだ。トランプ対合衆国事件(2024年)=訳者注:トランプ大統領が連邦政府から起訴された複数の刑事事件を指す総称=を含む最近の最高裁判所の判決は、大統領免責の範囲を明確にしており、公務行為については絶対的免責を支持しているが、厄介な曖昧さを残している。このような保護措置は、現職大統領を起訴から守るという司法省の時代遅れな方針と相まって、不誠実な者たちが悪用する恐れのある説明責任の空白を生み出した。これらが重なって、危険な構図を可能にしている。民主主義を転覆させ、しかもそれによる保護を利用して処罰を免れようとする構図である。
失敗するように設計された制度
このような危機は米国だけにとどまらない。世界の民主主義国が権威主義の台頭に直面しており、米国は意図せず危険な手本を提示してしまった。民主主義の規範を悪用し、権力を集中させ、制度内部からの説明責任を逃れるという手法である。
他の民主主義国は、より強い意志を示している。フランスは、ジャック・シラク元大統領を汚職で起訴し、いかなる公職者も法に勝ることはないと示した。韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領の弾劾は、たとえ最高位の公職者でさえ迅速な結果に直面し得ることを証明した。ブラジルの最高裁判所は、選挙干渉に真っ向から立ち向かった。それに対し米国は、最高位の公職者に責任を問うことができないことを証明した。
現状維持派は、米国の制度が「持ちこたえた」、つまり民主主義は南北戦争以来最大の試練を乗り越えたと主張する。しかし、この主張は危険なほど的外れである。制度的安全装置ではなく、一握りの公職者の個人的な誠実さに依存する制度は、機能しているとはいえない。それは、すでに失敗した制度である。権力の平和的移行は、運や勇気に依存してはならず、最も野心的な指導者に対しても十分に抵抗し得るほど強靭な法律と制度によって保証されなければならない。
ウォーターゲート事件の後、米国は断固とした対応をした。ジミー・カーター大統領のリーダーシップのもと、独立検察官制度の設置など、1978年の政府倫理法に基づいて監督と説明責任を強化した。これらの改革は、ニクソン時代の権力乱用の後、政府への信頼を回復するためにカーターが非常に尽力したことを示している。大統領としての彼の働きは、健全な民主主義には倫理的なリーダーシップが不可欠であるという信念に根差しており、誠実さの基準を打ち立てた。
しかし、カーターの改革は当時としては画期的だったものの、民主主義の原則を積極的に弱体化させようとする指導者に耐えうる設計にはなっていなかった。トランプ政権は、これらの安全装置が、それを悪用しようとする者による試練を受けたとき、いかに容易に崩壊するかを露呈した。先般のカーターの逝去は、彼が体現していた価値、そして、彼のリーダーシップの特徴であった強い決意を伴う説明責任を再構築することがいかに重要かを改めて思い起こさせる。
悪循環を断ち切る
説明責任を回復するには、少しずつ修正するだけでは足りない。民主主義が権力を抑制する方法を根本から再構築する必要がある。先に進むためには、まず大統領免責特権の再定義から始めなければならない。正当な統治の保護を目的とするこの原則が、潜在的な犯罪行為の盾へと形を変えてしまった。憲法改正によって大統領免責特権の範囲を明確にし、職務遂行を守りつつも、選挙干渉や司法妨害の手段として濫用されることを防がなければならない。
米国は、行政機関の不正行為を捜査する新たな枠組みを必要としている。それは、独立した起訴と迅速な司法審査を組み合わせた枠組みである。現行制度の遅々とした進捗は、それを悪用しようとする者に有利であり、説明責任を逃れるために時間切れを待つか、再選を狙うことが可能である。韓国の効率的な弾劾制度やフランスの憲法上の安全措置から教訓を得て、米国も、大統領の不正行為に対処するために、政治的陰謀によって遅延または阻止される恐れがない明確な手順を確立しなければならない。
とりわけ重要なのは、民主的統治の基礎である平和的な権力移行を、明確な法的強制力によって強化することである。いかなる大統領も、権力にしがみつくために官僚的な抜け穴や、憲法の曖昧さを悪用できないようにするべきである。そのためには、選挙干渉に対する明確な刑事罰と、ごまかしの余地がない法的強制力のある継承手続きを整備することである。
世界の民主主義にとっての重大な岐路
トランプの司法回避は、単なる米国の失敗にとどまらない。それは世界への警告である。彼が説明責任を回避できるということは、民主主義体制がいかに容易に内部から悪用され得るかを露わにした。権力者が自身の行いの報いから身を守る術を学べば、たとえ最も強力な制度であってもむしばまれていく。
歴史的に見て、民主主義国が劇的なクーデターによって崩壊することはほとんどない。むしろ、規範が衰退し、説明責任が消滅するにつれて、徐々に崩れていくのである。これが、トランプの遺した危険な教訓である。彼は、単に司法を回避しただけではない。民主主義のガードレールが本当はいかに脆弱であるか、そして、彼の例に学ぶ者たちによって、それらがいかに容易に解体され得るかを示したのである。
世界の民主主義国が直面する選択は、これ以上ないほど明確である。いかなる者も法に勝ることがないよう制度を強化するか?あるいは、権力が常に正義に勝る世界を受け入れるか?民主主義国が断固とした行動を起こさなければ、この瞬間は克服した危機としてではなく、説明責任の静かな死の始まりとして記憶され、そして誰も法に勝ることはないという約束も失われるだろう。
ジョーダン・ライアンは、戸田記念国際平和研究所の国際研究諮問委員会(TIRAC)メンバーおよびフォルケ・ベルナドッテ・アカデミー(Folke Bernadotte Academy)のシニア・コンサルタント。過去には国連事務次長補を務め、国際的な平和構築、人権、開発政策分野で幅広い経験を持つ。専門分野は平和と安全に寄与する民主的機関と国際協力の強化である。これまでに、アフリカ、アジアおよび中東で市民社会団体を支援し、持続可能な開発を推進する数多くのプログラムを率いてきた。国際機関や各国政府に危機予防や民主的統治に関する助言を定期的に行っている。