Contemporary Peace Research and Practice トビアス・イデ | 2022年12月05日
絡み合う危機の時代?
Photo Credit: Colin Crowley/Save the Children Flickr
過去3年間のニュースを追っていると、世界は永久に危機的状況が続くのではないかという印象を受けるかもしれない。気候変動は間違いなく現代の最も大きな課題であり、トップニュースはしばしば新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に関するもので占められ、ロシアによるウクライナ侵攻があり、直近では、エネルギー・食料価格の急激な高騰である。2021年アメリカ合衆国連邦議会議事堂襲撃事件、レバノンとスリランカのほぼ完全な経済破綻、アマゾンの熱帯雨林の大規模破壊など、他にも多くの出来事を加えることができるだろう。
このように悪いニュースが重なっても驚くには当たらないという人もいるかもしれない。結局のところ、「苦難は売れる」のである。メディア従事者らは長年、災害や戦争、悲劇的な出来事は、ポジティブな出来事よりもニュースとして価値があると考えてきた。同様に、国際社会も、短い期間に複数の「危機」的な出来事が偶然重なるということを経験してきた。例えば1979年には、イラン・イスラム革命があり、経済摩擦に際して石油価格の高騰があり、ソビエトのアフガニスタン侵攻があり、ラテンアメリカ全体に及ぶ政情不安(翌年の債務危機に続く)があり、スリーマイル島原発事故があった。
しかし、今日私たちが経験しているのは、様々な危機がただ偶然同じような時に生じているというのではない。むしろ、それらの危機は深く相互に関係し、お互いを悪化させている場合が多い。従って、これらは絡み合う危機となりつつあり、私たちはこれからの数十年間、そうした危機をより多く経験する可能性が高い。
「アフリカの角」における現在の食料状況は、そのような絡み合う危機の影響の典型的な(そして恐ろしい)事例である。世界保健機関によれば、同地域は「過去70年間で最悪の飢餓のひとつ」に直面している。3,700万人を超える人々(そのうち700万人超が5歳未満の子どもである)が、酷い栄養失調に陥っている。エチオピア、南スーダン、ソマリアのような国々での長年にわたる政情不安と貧困が、食料不足の要な理由である。しかし、ウクライナの戦争が状況を悪化させた。戦争のために世界の食料価格が高騰したことに加え、国際援助の一部の支援先が東アフリカから東ヨーロッパへと変更されたからである。この影響が、COVID-19パンデミック(およびそれによって引き起こされたサプライチェーンの混乱)の負の遺産や、同地域における気候変動被害に加わったのである。エチオピア、ケニアおよびソマリアは、(40年間で初めて)4年連続で雨季がなく、一方、過去3年間で南スーダンの領土の40%が洪水に見舞われた。このような状況が、地域の農業経済をさらに悪化させている。
上に挙げた危機の多くは、その影響が重なるだけではなく、お互いをさらに悪くする可能性もある。例えば、気候変動と生態系破壊は、ヒトと野生生物の生息域を近づけ、そのことで、動物からヒトへのウイルス感染のリスクを高める(COVID-19がそうだったように)。経済不況、災害対応における失策、パンデミックに関連する制限は、政治への不満を高めており、ポピュリストや過激主義の指導者の台頭を許しかねない。そのような政治家(アメリカのトランプや、ブラジルのボルソナロを思い浮かべてほしい)は、気候変動やCOVID-19などの問題の防止や対処の業績に乏しい。気候変動は、武力衝突(持続可能な開発が困難になる)や生態系破壊(気候変動がさらに加速する)のリスクを高める。そして、アメリカと中国(およびロシア)の間で激化している地政学的な競争が、上述した問題のいくつかに対して、地球規模で一致した強力な措置を講じる可能性を狭めている。これら一連の問題はしばらく続きそうだ。
世界的な温暖化、生物多様性の喪失、社会経済的な格差の拡大、国際的緊張、内戦および持続不可能な都市化といった懸念される傾向は、21世紀の間、あるいはそのあとも続くだろう。結果として、様々な危機の原因と影響がより絡み合うようになり、人類は危機の時代を生き続けることになるのだろうか? これは非常に現実的な、また、現在の展開から判断して、もっとも現実的なオプションである。
そのうえで、慎重な楽観主義のための理由が少なくとも2つある。第1に、本稿で言及している危機の多くに共通の原因があり、また似たような脆弱性に対して影響を及ぼしている。マルクス主義や批判理論の支持者を超えて、新自由主義的な市場重視と(お金の関わらない)社会経済的なコストの無視に非常に問題があるという認識は広まっている。さらに、すでに周縁化されているグループが、ほとんど全ての危機に対してもっとも脆弱である。例えば、教育レベルが低く貧しい人々は、食料不足に陥るリスクが最も高く、気候変動にうまく適応する可能性が最も低く、また、(食料を購入できない、または、傷害保険や健康保険を確保できない等の理由で)健康リスクがより大きい。従って、環境に関する無知、貧困、社会的不平等、ジェンダー差別を減らすための措置は、複数の危機に同時に対処するものとなる。
第2に、研究者らは、大きな問題同士の間の相互依存性を利用し、統合された形で対処するための複数の戦略を指摘している。例えば、環境平和構築の提唱者らは、紛争当事者たちが共通に直面している環境問題は、彼らがポジティブ・サムの協力を始め、環境悪化と平和に対する脅威に同時に対処するための入り口となる、と主張する。
究極的にいえば、人類には、複数の危機が絡み合う原因と影響に対して行動を起こすのか、それとも危機の時代を生きるのかを選択することができる。過去数十年間で、より多くの人々が安全な水へのアクセスを得、初等教育を修了するようになったこと、あるいは、オゾン層を破壊する物質の使用を段階的に中止したことなど、大いに改善できたこともいくつかある。今後数年間のうちに、そのような「成功」がもっと多く、そして緊急に必要とされている。
トビアス・イデは、マードック大学(パース)で政治・政策学講師、ブラウンシュヴァイク工科大学で国際関係学特任准教授を務めている。環境、気候変動、平和、紛争、安全保障が交わる分野の幅広いテーマについて、Global Environmental Change、 International Affairs、 Journal of Peace Research、 Nature Climate Change、 World Developmentなどの学術誌に論文を発表している。また、Environmental Peacebuilding Associationの理事も務めている。