Contemporary Peace Research and Practice アミン・サイカル  |  2021年09月08日

アフガニスタンの状況に平和の兆し見られず

Image: Shutterstock/ Members of the Afghan community protest in Athens after the Taliban take power.

 パキスタンが糸を引くタリバンの復活により、近い将来にアフガニスタンが安定した堅牢な平和国家へと生まれ変わる見込みは失われた。新たに組閣されたタリバンの暫定内閣は、アフガニスタン国民の大部分と国際社会にとって、政治的にも倫理的にも受け入れ可能なものとして正当化できる余地はない。いまやアフガニスタンは、世界の除け者国家になる可能性がある。

 全員男性のタリバン政権は、アフガニスタンのモザイク状の人口構成を反映していない。全てタリバン指導者で構成され、暴力的な過激主義者も数人含まれている。首相のムッラー・ハサン・アフンドは、国連のブラックリストに登録されている。内務大臣のシラージュッディン・ハッカーニは、アルカイダや強大なパキスタン軍統合情報局(ISI)と非常に密接な友好関係にあり、FBIにテロ容疑で指名手配されている。それ以外の閣僚も、潔白な者は一人もいない。

 内閣に対してはすでに、アフマド・マスード率いる国民抵抗戦線(NRF)が非難する声明を出している。アフマドは、伝説的司令官アフマド・シャー・マスードの息子である。マスード司令官は、1980年代にソ連と、その後はタリバン・アルカイダ連合と果敢に戦い、9.11事件の2日前にアルカイダ工作員に暗殺された。NRFは9月5日まで、タリバンの支配を受けていない唯一の州であったパンジシール州の要塞をタリバンの侵攻に抗して守り抜いていたが、タリバンとパキスタンが合同で行ったと報道された空と陸からの攻撃により、指導者と戦闘員らは散り散りになった。NRFはなおも戦闘に従事し、戦闘能力のある者に対して戦闘を続けるよう命令している。その一方でアフマド・マスードは一般人に対し、自由、尊厳、人権、女性の権利を勝ち取るためにタリバンに対して蜂起するよう呼びかけた。その結果、カブール、ヘラート、マザーリシャリーフの勇気ある女性たちが先頭に立って民衆の抗議行動が行われたが、タリバンは銃撃でこれに対抗した。

 3週間前にアシュラフ・ガニ大統領が国を脱出した直後にカブールを制圧した後、タリバンは、包摂的政権の樹立を約束した。それは、パシュトゥン族(タリバン)が最大を構成するアフガニスタンの多様な人口構成を反映するものとなるはずだった。しかし、指導者間で権力の配分に関する内輪もめがあったために、彼らはこれを実現することができず、また、パンジシール渓谷への総攻撃も開始した。ISI局長のファイズ・ハミード中将による9月3日のカブール訪問は、外国高官がタリバン指導者を訪問した最初の事例となり、転換点となった。1994年半ばから後半にかけてタリバン武装組織が出現した時以来、パキスタン軍全般、特にISIがタリバンを庇護してきたことは広く明らかになっている。タリバンは主に、パキスタンが地域の宿敵インドに対抗し、影響力を拡大するためのいわゆる「戦略的深さ」としてアフガニスタンを利用できるようにする代理部隊の役割を果たした。一方、パンジシールへの攻撃とタリバンの暫定政権樹立宣言がいずれも、ハミード中将のカブール滞在中になされたことは偶然の一致ではない。

 タリバン政権樹立とこれまでの野蛮な神権主義的行動を見ると、イスラム教スンニ派の教義の過激な解釈と適用に基づくこの武装集団のイデオロギーが、何ら変わっていないことは明らかである。パキスタンによるタリバン庇護も変わっていない。タリバンとその支持者らは、厳しい差別的なイスラム秩序を制定し、他の少数民族や女性に対するパシュトゥン族(より具体的には、タリバンを歓迎する人々のほとんどを占めるギルザイ部族)の支配を強制することに、依然として熱心である。これは、米国や同盟国による20年にわたる占領時代にアフガニスタンが獲得した政治的、社会的自由の逆行を意味するといえる。

 この武装組織が、不干渉と相互尊重の原則に基づいて全ての国との友好関係に対して受容的かつ前向きであると語ったのは、一部の指導者が国際的認知と支援を得るために推進しているPRキャンペーンの一環である。彼らはそれを喉から手が出るほど欲しがっている。これらの指導者たちは、海外旅行、特に2013年から政治支部を設けているドーハへの滞在を経験し、裕福なカタール政府の厚意によって贅沢な生活を覚えたため、多少は世知に長けているのである。しかし、これはタリバン司令官や戦闘員の大部分には当てはまらない。彼らは、パキスタンの神学校(マドラサ)で非常に偏狭なイスラム教育を受けており、都市生活や都会的な社会・文化的環境も経験したことがない。

 現状では、アフガニスタンの人々も国際社会も、閣僚がアルカイダやパキスタンのISIと密接な協力関係にある元テロリストとして広く指名されている者ばかりというグループに正当性を認めるなど、到底できるはずがない。アフガニスタンの人々がタリバンによる支配という悪夢から自由の身になるための抵抗活動に、いまこそあらゆる支援を行わなければならない。その点で国連は、「保護する責任」の原則に基づいて特別な役割を果たすべきである。そのうえで初めて、平和、安全保障、人権を回復するために必要な条件の整備に不可欠なプロセスをアフガニスタンで始めることができ、世界はアフガニスタン発のテロ行為にこれ以上脅かされることがなくなる。

アミン・サイカルは、西オーストラリア大学で社会学の非常勤教授を務めている。著作に“Modern Afghanistan: A History of Struggle and Survival”、“Iran Rising: The Survival and Future of the Islamic Republic”、共著に“Islam Beyond Borders: The Umma in World Politics”がある。