Contemporary Peace Research and Practice ジョージ・へイン  |  2021年09月27日

アフガン・パラドックス:カブール陥落後の 中国、インド、そしてユーラシアの未来

Image: Jeanne Menjoulet/Flickr

 近頃カブールの外交関係者の間でささやかれている一つのジョークがある。カブールにおけるガニ政権からタリバン政権への権力移行は、今年のより早い時期にワシントンで行われた政権移行より円滑だったというものだ。それは(いささか)言い過ぎかもしれないが、タリバンがアフガニスタンの首都に入った迅速さに、事態を見守っていたほとんどの人が驚いたのは間違いないだろう。

 20年を経て、米国の最も長い戦争を終わらせる決定が当然であったという見解には、議論の余地がない。しかし、問題は、アフガニスタンだけなく中央アジアに次は何が起こるのか、現地の安全保障の欠如に対していかなる措置が取られるかである。“帝国の墓場”からの米国撤退により、誰が勝利し、誰が敗北するのか? 二つの“アジアの巨人”であり、2国関係が近頃悪化の一途をたどっている中国とインドに、どのような影響があるのか?

 米国のアフガニスタン撤退の根拠として一般的に言われることは、「副次的戦域」における戦争の「散漫化」を終わらせ、米国政府がその主な関心事、すなわち中国に集中できるようにするために撤退したというものだ。これは、米国の重点がNATOから日米豪印戦略対話(「クアッド」)に移行していることと符合する。2021年3月に開催されたクアッドの初回サミットは、バイデン大統領が就任後初めて主催した国際会議となった。また、近頃のAUKUS協定で原子力潜水艦をオーストラリアに提供し、フランスとの深刻な外交的亀裂をもたらしたことも同じ路線といえる。

 アフガニスタンが国際テロの温床となり、中国からの新疆分離を目指すウイグルの民兵組織である東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)の基地を再び提供することになれば、中国にとっては頭痛のタネとなる。1996年から2001年までアフガニスタンを支配した前タリバン政権を中国が承認しなかったのも、それが一つの理由であった。しかし、すべての人が示唆するように、中国がタリバンとの合意に達した場合は、両サイドにとって得るものが大きい。アフガニスタンは鉱物資源が豊富である(その価値は最大1兆米ドル)。そのほとんどが銅とリチウムで(“リチウムのサウジアラビア”と言う人もいる)、いずれも中国の電気自動車産業の大きな需要がある。また、中国はアフガニスタンのインフラ建設の多くを受注することも可能になる。もしタリバン政権が安全と法と秩序を保証することができるなら(大きな「もし」だが)、中国の鉱業や建設の企業が続々と進出し、アフガニスタン経済を活性化する大きな役割を果たすことが想像できる。それはまさに、カブールの新体制が必要としていることである。

 また、中国とパキスタンが長年にわたる協力関係にあることも、中国政府にとっては一定の利点となっている。パキスタンには、「一帯一路」関連の単一プロジェクトとしては最大となる460億米ドル規模の中国・パキスタン経済回廊(CPEC)が存在しており、そもそもタリバンを結成したのはパキスタンの諜報機関だからである。一方、インドは貧乏くじを引いたと思っているかもしれない。まずハーミド・カルザイ政権に、次いでアシュラフ・ガニ政権にテコ入れしてきたインドは、タリバンとは最初から険悪な関係にあった。インドは、アフガニスタンの将来をめぐって近頃行われている多数当事者交渉の多くから外されており、インド政府が再び現地で外交の足掛かりを築くのは容易ではないだろう。

 しかし、より大きな問題は、ケント・カルダーが「スーパー大陸」と呼ぶユーラシアが超高速鉄道や携帯電話通信といった新世紀の技術によって再連結され、構造が変化しつつあることである。タリバンの復活は、過去数十年間にわたって構造を作り変えようとしてきた二つの勢力、すなわちロシアと中国に新たな門戸を開くものである。不穏な前兆を読み取っていたロシア政府は、何年も前からタリバンと連絡を取り続けてきた。カブールのロシア大使館は業務を継続している。元ソ連構成共和国で、新たに独立した「中央アジア5カ国」(カザフスタン、キルギスタン、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン)が陽の当たる居場所を求めてもがくなか、ロシアと中国の政府は、アフガニスタンがまさに中心に位置するこの地域において自国の優位性を確立しようと競っている。中国の一帯一路は当初、世界で最も急速に成長する地域である東アジアと世界最大の市場であるEUを結び、その一方で、これらの天然資源が豊富な、今まで周縁化されていた新興国を取り込み、それによってシルクロードを再現するという構想だった。

 ロシアは当初、一帯一路が自国の縄張りを侵害しているのを見て神経を尖らせていた。しかし、伝統的に世界の地政学的中心と見なされてきた地域において、中国とともに一種の共同統治を確立する手段として、最終的には協力するようになった。ロシアは中央アジアを「近い外国」と見なし、中国は新シルクロードに不可欠と考えているが、上海協力機構(SCO)、集団安全保障条約(CSTO)、ユーラシア経済連合(EAEU)といった多種多様な地域組織がこの地域を再定義しようとしている。

 米国のアフガニスタン撤退と、それに先立つキルギスタンおよびウズベキスタンの米軍基地閉鎖は、いまや中国とロシアがより自由に事を進められるようになったということを意味する。インドは、アフガニスタンにすべての卵を入れ、一帯一路を早くから拒絶した結果、中央アジアにおける新たな地域安全保障と経済構造を形成するうえで、立場が弱くなってしまった。とはいえ、インドはSCO加盟国であり、ロシア政府とは昔からのつながりがあるため、完全に蚊帳の外に締め出されたわけではない。

 人類の歴史の大部分において、ハルフォード・マッキンダーが「世界島」と呼んだユーラシアは、地政学的紛争や闘争の真ん中にあった。20世紀にはユーラシアという言葉はわれわれの語彙から消えていたが、いまや華々しい凱旋を遂げた。キショール・マブバニが「アジアの世紀」になると予想した未来に備えつつも、ユーラシアが視界から遠のくと考えるべき理由はない。その点で、カブール陥落は歴史の些細な事柄以上の出来事といえるだろう。

 アフガニスタンの首都がかつて、マルコポーロが旅したシルクロードの主要なキャラバン停泊地であったことを思い出そう。とはいえ、現代のカブールは、中央アジアの広大な土地と険しい山々を越えてもっか構築されつつある新シルクロードのキャラバン停泊地としては、まだ復活していないようだ。

ジョージ・ヘインは元駐中国チリ大使(2014~2017年)および元駐印チリ大使(2003~2007年)であり、現在はボストン大学パーディー国際研究大学院(Pardee School of Global Studies)の研究教授および、ウィルソンセンターのグローバルフェローを務めている。