Cooperative Security, Arms Control and Disarmament 樹下智  |  2022年07月11日

〈特別インタビュー〉 核兵器禁止条約 第1回締約国会議 アレクサンダー・クメント議長

Image: UNIS Vienna/Flickr

 このインタビューは、2022年7月6日に聖教新聞に掲載されたものを、許可を得て再掲載しています。(聞き手=樹下 智)

 ――歴史的な第1回締約国会議には、49カ国・地域の締約国が参加しました。まず、その成果についてお聞かせください。

 

 最大の成果は、最終日に、核なき世界を目指す「ウィーン宣言」と、50項目からなる「行動計画」を採択できたことです。
 多国間で合意された核軍縮に関する文書で、これ以上に強力なものは今までなかったと思います。これほど多くの国が、核兵器の脅威を訴え、(保有国による核兵器の維持・近代化・改良・増産など)現在の誤った方向性を批判し、核兵器を全面禁止することを強く支持したわけですから。
 「行動計画」では、締約国が今後どう行動していくのか、核禁条約がどう運用されていくのか、具体的に合意することができました。核禁条約に懐疑的な国は、会議がこれほど「実質的」になるとは思っていなかったでしょう。締約国がいかに真剣なのかを示すことが、極めて重要でした。
 また、核兵器がもたらす人道的影響とリスクに、もう一度、焦点を戻せたことも大きな成果でした。2017年に核禁条約が採択された後、懐疑的な国々は、条約そのものへの批判を強めました。その結果、条約に効果があるのかどうかという議論になり、核兵器の非人道性という重要な問題から、焦点が外れてしまったのです。
 こうした状況を踏まえて、オーストリア政府は、締約国会議の前日に、第4回「核兵器の人道的影響に関する国際会議」(非人道性会議)を主催しました。核兵器が保有国だけの問題ではなく、人類全体が直面する人道的な問題であることを、再度、示したかったからです。
 核兵器の非人道性という根拠をもとに、これまで議論に加われなかった国々が、強い意思を表明できたのは、締約国会議の成果といえるでしょう。

 ――「ウィーン宣言」には、核の使用、または核による威嚇は、国連憲章を含む国際法に違反するものであり、「あらゆる核の脅威を明確に非難する」と記されています。核保有国とともに、核抑止力に頼る国々にも懸念を示していますが、こうした核禁条約に加わろうとしない国々を、締約国はどう説得していくつもりなのでしょうか。

 

 時間はかかるかもしれませんが、「議論の力」に依拠するしかありません。私たちの議論には、核兵器がもたらす人道的影響とリスクという否定しがたい事実、つまり強い根拠があります。これは、(対立する国々が核兵器を保有することで、互いに核の使用を思いとどまるという)核抑止論の有効性と正当性に疑問を呈するものです。多くの人々が共感するこの点を、強く訴えていきたい。
 今後、核兵器をさらに拡散させるのか、それとも人々の心が変わり、安全保障のパラダイム(枠組み)を変化させ、人類の生存に対する脅威である核兵器を廃絶するために真剣に努力するのか――。どちらの未来を選択するか、激しい論争が起こることでしょう。
 核戦力は増加傾向にあり、核による威嚇が現実となるなど、核軍縮は全く逆方向に進んでいます。ゆえに、各国の条約への関心は高まるはずです。もちろん批准を強要することはできませんが、議論を重ねていくならば、より多くの国が核禁条約を批准することになると私は信じています。

 

 ――今回、核禁条約を批准していない30カ国以上がオブザーバーとして締約国会議に参加。その中には、核抑止力に依存するNATO(北大西洋条約機構)加盟国の姿もありました。

 

 核禁条約に〝懐疑的〟な国が参加したことは、一つの成果でした。参加することが容易な国、難しい国、さまざまな状況があったと思います。政治的に複雑な状況があることも理解しています。
 しかし、多国間システムが危機的状況に陥り、全てが間違った方向に進んでいる今、国際法の順守を促し、多国間システムを強化するために議論することは、悪いことなのでしょうか。「核なき世界」を標榜するなら、せめて議論には参加するべきではないでしょうか。
 姿を現さなかった国々は、第1回締約国会議が終わった今、第2回会議(明年11月27日から12月1日に開催予定)に向けて、なぜ参加しないのかを説明する責任がさらに増したと考えます。
 核保有国、そして核抑止に依存する国々が、核禁条約を批准する見通しは今のところありません。こうした国々が条約に加わることが私たちの最終目標ですが、今、優先すべきなのは、より多くの国が条約を批准し、核軍縮を一歩でも前進させるための、国際的な圧力を強めていくことです。
 例えば、核兵器は違法であると大多数の国で認識されれば、核兵器関連企業への投資も減ります。核保有国である国連安保理常任理事国も、国際社会の大多数が違法と見なす行動を取りづらくなるはずです。

 ――核禁条約・締約国会議の初代議長として、一番苦労したことは何でしょうか。

 

 生まれたばかりの条約ですから、入念な準備が必要でした。会議のやり方を最初に間違えると、後で修正するのが難しくなります。
 核禁条約に懐疑的な国も多いため、細心の配慮で準備に当たり、どう会議を運営し、どういったメッセージを発信すれば、批判に対処できるのかに心を砕きました。非人道性会議を前日に開催したのも、こうした検討の結果でした。第1回会議を終えて、前例を作ることができましたので、これから続く締約国会議も、同じようなアプローチを取ることになるでしょう。
 具体的な行動を伴う実質的な議論を行い、核兵器の非人道性とリスクに焦点を当て、懐疑的な国にも配慮と開放性を示し、核禁条約が核不拡散条約(NPT=注1)を補完するものであるという点を強調する。これらを通して、国際社会に強いメッセージを発信するため、準備を重ねました。
 「ウィーン宣言」と「行動計画」を採択できたことも大きな成果ですが、そこに至るまでの作業文書など、全てが充実した内容でした。市民社会の諸団体も積極的に参画してくれ、非常に感謝しています。

 

 ――SGI(創価学会インタナショナル)も市民社会の一員として出席し、平和・軍縮教育に関する作業文書を提出し、宗教間共同声明を発表しました。また、第3回締約国会議の議長国に決まったカザフスタン共和国等と、核禁条約の第6条と第7条に定められた、「被害者への援助」「環境の修復」「国際協力・援助」に関する関連行事を共催しました。

 

 核禁条約を推進した有志国は、「人道イニシアチブ」(注2)を開始した時から一貫して、市民社会にパートナーとしての協力を要請してきました。核兵器を巡る議論が、より大きな観点からなされない限り、核軍縮は進まないという認識が、有志国にはあったからです。
 核兵器が軍事専門家の間だけで語られれば、核抑止の考えから抜け出すのは、ほぼ不可能です。国際法や倫理の観点を取り入れ、被爆者や核被害者、核兵器の人道的影響に懸念を示すコミュニティーや医学界、また、さまざまな世代を巻き込んで、あらゆる視点で議論を進めなければ、核兵器の廃絶は困難です。
 倫理の問題として核廃絶を進める、FBO(信仰を基盤とする団体)の存在も極めて重要です。普段は核軍縮に興味がない人々に、倫理的な観点から、考える機会を提供できるわけですから。
 対話を通して核廃絶を目指すアプローチは、長い時間がかかるものかもしれません。しかし、全ては対話によってしか達成されないのです。一回一回の対話を通し、「核なき世界」への道を、一歩一歩、前へと進んでいく。これこそが、核廃絶への直道です。
 核禁条約は、「核兵器の人道的影響への懸念」という道徳的・倫理的な観点からも、そして安全保障の観点からも、核心を突いた議論に裏付けられたものだと、私は固く信じています。

(注1)米露英仏中の5カ国を「核兵器国」と定め、それ以外への核兵器の拡散を防止する条約。1970年に発効し、現在、191カ国・地域が加盟。第6条では、締約国が誠実に核軍縮交渉を行う義務を規定している。核禁条約の第1回締約国会議で採択された「ウィーン宣言」では、NPTとの補完性が再確認され、同条約の発効がNPT第6条の実施を前進させるものだと強調している。
(注2)人道的な観点から核兵器が人々に与える影響を考慮し、核兵器の廃絶を推進する運動、またはアプローチ。核兵器の使用は国境を越えた甚大な被害を及ぼすものであり、いかなる国や国際機関も人道支援が不可能なこと、そして、核兵器の使用はいかなる意味でも国際人道法に合致しないという、「人道イニシアチブ」の認識に基づき、核兵器禁止条約の交渉会議が行われ、採択に至った。

アレクサンダー・クメント(Alexander Kmentt) オーストリア外務省軍縮局長。同国の欧州連合(EU)大使等を歴任し、現職。長年、核軍縮・不拡散の問題に取り組み、核禁条約採択への道を開いた「人道イニシアチブ」の主導者の一人とされる。第3回「核兵器の人道的影響に関する国際会議」(2014年、ウィーン)で中心的役割を担った。著書に『核兵器を禁止する条約』がある。

樹下 智(きのした さとし)は、聖教新聞外信部の記者。