Peace and Security in Northeast Asia 文正仁(ムン・ジョンイン)  |  2020年12月09日

韓国は米国との同盟について国益を慎重に検討すべき

Photo credit: Hankyoreh

 この記事は、2020年11月2日に「ハンギョレ」に最初に掲載されたものです。

 我が国の利益にかなうよう同盟関係を再評価するのは外交担当者の仕事であり、彼らはそのせいで批判されるべきではない。

 韓国の保守派は、文政権の韓米関係に対する姿勢を激しく批判してきた。直近の論争は、康京和(カン・ギョンファ)外相と李秀赫(イ・スヒョク)駐米韓国大使の近頃の発言に関するものである。

 9月25日にアジア・ソサエティが開催したテレビ会議で、康外相は、米国との同盟を韓国にとって重要な頼みの綱と表現したが、「クアッド・プラス(the Quad Plus)」構想については、それが自動的に他国の利益を排除することになるのであれば、韓国はおそらく参加しないだろうと述べた。

 李大使の物議をかもす発言は、10月12日の国政監査で飛び出した。「70年前に韓国が米国を選んだからといって、もう70年米国を選ばなければならないということはない。今後は、国益に適う場合のみ米国を選べばよい」と述べたのである。

 保守系野党と一部の新聞は、このような発言は韓米同盟を著しく損ない、国益に甚大な被害をもたらすものだと反発している。このような発言は、韓国政府が米国を裏切って中国側につくつもりであることを露呈するものだと、彼らは主張する。

 たとえ国益を脇に置いても韓米同盟をいっそう強化するべきである、と批判者たちは断言する。なぜなら、民主主義、人権、自由、市場経済など、共通の価値観や理想があるからだ、と。

 この主張は、一見、理にかなっているようにみえる。しかし、子細に検分すると、その欠陥が見えてくる。

 最初の問題は、康外相と李大使の発言がゆがめて伝えられたことである。康外相も李大使も、韓米同盟が現状のまま維持されることを前提として話をしたのである。ただし、彼らは、韓米同盟の将来的な性格や方向性を決定する際に、韓国は国益を慎重に検討すべきだと主張した。正直なところ、それがなぜこれほど物議をかもすのか理解できない。

 具体的に言えば、中国との戦略提携を放棄して米国の同盟国に仲間入りする前に、以下の主要な問いに答えることができなければならない。

 第一の問いは、現在トランプ政権が追求している対中政策が十分に正当で論理的なものであるかどうかである。ハーバード大学のスティーヴン・ウォルト教授が見解を示したように、同盟とは、勢力の均衡だけでなく脅威の均衡によっても大きく影響を受ける。つまり、韓国が米国の対中戦線に加わるためには、中国に強い脅威を感じる必要があるということになる。

 しかし、大多数の韓国人は、中国に“明白かつ現存する”脅威を感じていない。むしろ、封じ込め、包囲、強制など、中国との対立に向かおうとする米国の姿勢は、大統領選を控えた国内政治の要因ではないかという疑いすらある。いずれにせよ、米国は中国よりはるかに力が強く、中国自身も外交的解決を望んでいる。

 45年間に及ぶ冷戦時代、韓国人は、半島の分断とそれに続く戦争、慢性的な軍事的膠着、分裂国家の限界に苦しんできた。そのため、またさらなる冷戦をとても歓迎する気にはなれないのである。

 第二の問いは、我々が米国人とともに行進すれば、韓国の国家安全保障が向上するのかどうかである。これについて、私は懐疑的である。

 米国が主導する対中戦線にもろ手を挙げて加わるとしたら、韓国は、朝鮮半島におけるもう1基のTHAAD(終末高高度防衛)砲台の設置と中距離弾道ミサイルの前方展開を認めなければならない。また、米国政府は韓国政府に対し、台湾海峡、南シナ海、東シナ海における積極的な軍事行動も期待するだろう。

 それは必然的に、中国との敵対関係を意味し、朝鮮半島を新たな冷戦の最前線に変えるものである。中国は、東風(ドンフェン)ミサイルを韓国に向けて配備するだろうし、黄海およびKADIZと呼ばれる韓国防空識別圏で攻撃的な軍事行動を取るだろう。

 そのような状況を、本当に我が国の安全保障の向上と表現することができるだろうか? 最も分別のある韓国人であれば、米中間の鋭い軍事対立に韓国が巻き込まれることを望まないだろう。

 第三に、米国側につくことは、朝鮮半島の地政学的整合をいっそう複雑化させる恐れがある。中国は、1958年に北朝鮮から軍隊を撤退して以来、北朝鮮には極めて限定的な軍事支援しか行っていない。

 しかし、新たな冷戦下では、中国は、北朝鮮およびロシアとの3国同盟を強化するだろう。中国は北朝鮮に対し、兵器だけでなく石油やその他の兵站支援も豊富に提供するだろう。

 そのような展開になれば、北朝鮮の核問題の平和的解決は、いっそう見込みが薄くなるだけだろう。それどころか、北朝鮮の通常兵器の脅威も悪化することは間違いない。

 米国との同盟を拡大することによって、我が国の安全保障のジレンマがいっそう深刻化するという事実から目を背けてはならない。

 最後の検討事項は、韓国経済である。言うまでもなく、経済は国益の一部である。2019年末の時点で、中国は我が国の輸出の25%、輸入の21.3%を占めていた。どちらも、米国が占める割合の2倍である。もし韓国が、人為的に中国市場と断絶する、あるいは中国から経済報復を受けるとしたら、韓国が深刻な打撃を受けることは明らかである。

 さらに、中小企業や観光業界の零細事業者が受ける打撃は、コングロマリットが受ける打撃よりはるかに大きいだろう。このような中小企業や零細事業者の生活を脅かすおそれがある反中行動を、韓国政府が取るかどうかは疑わしい。

 康京和外相と李秀赫大使の発言に話を戻そう。彼らは、韓国が米国との同盟を維持すべきではないと示唆しようとしたわけではない。そうではなく、韓国が米国と話し合い韓米同盟の今後の性格や方向性を決定する際には、その国益を慎重に検討すべきだと言っていたのである。

 韓国の外交担当者が直面している課題は、共通の価値観と歴史的継続性は重要ではあるが、国益より優先され得ないという点である。その課題に取り組もうとしている我が国の外交担当者を、やみくもに攻撃することは有益ではない。

文正仁(ムン・ジョンイン)は、核不拡散・核軍縮アジア太平洋リーダーシップ・ネットワーク共同議長。延世大学名誉特任教授として、韓国大統領統一・外交・安全保障特別補佐官、「グローバル・アジア」誌編集長、カリフォルニア大学サンディエゴ校国際政策・戦略研究大学院クラウス特別研究員を務める。戸田国際研究諮問委員会(TIRAC)のメンバー。