Cooperative Security, Arms Control and Disarmament ハルバート・ウルフ  |  2022年11月10日

のけ者国家を承認するべきか?

北朝鮮は事実上の核保有国: 今こそ現実に向き合うべき

 ここ数カ月、朝鮮半島の緊張は高まる一方である。その主な責任は、紛れもなく北朝鮮政府にある。北朝鮮は、国連による長年の禁止を無視し、今年はこれまでに40回を超えるミサイル発射実験を行っている。最近では日本上空を通過する長距離弾道ミサイルを発射し、自ら課した長距離弾道ミサイル発射実験の一時停止を破棄した。さらに別のミサイルが、挑発するように韓国のすぐ近くに打ち込まれた。専門家らは、北朝鮮が7回目となる次の核実験を行うかもしれないと考えている。核実験場での活動を見る限り、確かにこれを示している。金正恩政権は、戦場で戦術核兵器を使用することができると誇り、軍事演習でその訓練を行っている。2022年9月、北朝鮮政府は自らを核兵器国として宣言し、非核化に関する交渉を一切排除する法令を採択した。

 今こそ現実に向き合い、北朝鮮が運用可能な核兵器を保有していることを認識するべき時だ。国際社会(あるいは少なくとも韓国とその密接な同盟国である米国)は、北朝鮮を核保有国と認めるべきだろうか? これまで30年以上にわたり、国連、米国、さらには中国、ロシア、日本、EU、韓国が、北朝鮮の核計画を共同で阻止する政策を追求してきた。しかし、過去の試みは全て失敗している。30年前、北朝鮮の核武装は理論上の可能性に過ぎなかった。それが今や現実となっている。同国が備蓄する核弾頭は40~50発と推定されている。

 今や、地政学的および地域的な環境は変化した。ウクライナにおける戦争には必然的に多くの注目が集まり、朝鮮半島の緊張は、特に欧州の視点で見ると影が薄くなっている。ウラジーミル・プーチンが繰り返す核兵器使用への言及は、金政権にとって、核兵器を用いたパワーポリティクスの価値を如実に示すものとなっている。米中関係も今日緊迫しており、2000年代にロシアも参加し中国が音頭を取って行われた北朝鮮の軍備管理に関する六カ国協議のようなイニシアティブは、今日では全く非現実的である。2022年6月の国連安全保障理事会で、北朝鮮の弾道ミサイル発射実験を受けた制裁強化決議案に対しロシアと中国が拒否権を行使したことは、共通の土台がかつてよりはるかに乏しくなっていることを示している。

 地域的には、北朝鮮と韓国がレトリックと軍事の両面で軍拡競争を繰り広げている。2022年5月の就任以来、韓国の尹錫悦新大統領は北朝鮮に協力を申し出ているが、金政権はこれを信用ならないとして拒絶している。尹はその一方で軍事的抑止を重視し、米国に対してさらなる軍事的関与を求めている。金正恩は、韓国から先制攻撃されることを恐れている。それは北朝鮮の支配層を失墜させる恐れがある。だからこそ、核による先制攻撃を除外しない新たな核兵器法が近頃採択されたのである。

 今やわれわれは、一部の専門家が求めるように、新たな、これまでと抜本的に異なるアプローチを必要としているのだろうか? 2022年10月半ば、「ニューヨーク・タイムズ」紙はミドルベリー国際大学院モントレー校の核問題専門家、ジェフリー・ルイスの記事とインタビューを掲載した。その中で彼は、北朝鮮の核兵器開発を止めようとしたこれまでの政策に疑問を呈し、「この30年間でも十分説得できなかったというなら、もっかの危機は新たなアプローチが切実に必要であることを示している」と述べた。また、ベルリンのドイツ国際安全保障問題研究所がやはり10月に発表した研究は、国際社会が「同国に核兵器を放棄するよう説得する、あるいは強制するという幻の目標」に固執していることを前提としている。

 事実、これまでのところ軍備管理の試みはことごとく失敗している。誘因も制裁も、脅しも孤立も、北朝鮮を軟化させることはできていない。北朝鮮は、核兵器を持たずに国際社会の一員となるより、核計画を持って孤立するほうを好んできた。そしてロシアが北朝鮮からの武器輸入に踏み切った今、孤立の効果は薄くなっているようだ。今日、北朝鮮は核の野心を捨てなければならないと繰り返し強調する以上のことは、国際的にほとんどなされていない。

 さまざまな構想が失敗に終わった。1990年代、クリントン政権はEU、日本、韓国とともに、「あめとムチ」政策、経済的誘因、制裁によって、北朝鮮に国際社会への復帰と核計画の放棄を説得しようとした。ブッシュ政権はさらに厳しい制裁を課し、軍縮交渉における中国のいっそうの関与を引き出した。しかし、当時締結された協定でさえ失敗に終わり、北朝鮮は核不拡散条約から脱退した。オバマ政権は、その政策を「戦略的安定性」と呼んだ。すなわち、脆いバランスを維持するということだ。注目を集めたドナルド・トランプと金正恩の会談も、結局不首尾に終わった。そして、ジョー・バイデンの対話の申し出に対し、北朝鮮は軍事能力の継続的拡大によって応えている。

 北朝鮮が核兵器を体制の生命保険と考えているなら、非核化という目標は非現実的である。では今後どうなるのか? 問題を無視することは賢明な政治的選択肢ではない。北朝鮮は核・ミサイル能力を拡大し続けるだろう。インド、パキスタン、イスラエルが核兵器プログラムを進めた際、北朝鮮の場合とは異なり、国連は制裁を科すのを控えた。これらの国々が核不拡散条約に加盟しないままでいることを、国連は黙認したのである。北朝鮮の場合も、これが選択肢となるのか? ウクライナ戦争により、核兵器は戦略的考慮の中心に返り咲いた。経済協力を通した政治的変化という考えは、ロシアの行動によって完全に信用を失った。北朝鮮の場合、経済的刺激が狙い通りの効果を発揮したことは一度もない。そして現在、西側は中国との協力に疑念を強めており、むしろ体制の競争に重点を置きつつある。ますます多くの国々が、防衛と抑止のために軍事能力の増強に依存しつつある。

 現実的な分析の結果は、冷徹なものだ。北朝鮮は、運用可能な核兵器を保有している。この事実を認めることは、北朝鮮の国際法違反を合法化するものではない。インド、パキスタン、イスラエルと同様に事実上の承認を与えることの利点は、国際原子力機関による検証措置を受け入れるよう交渉する好機となり、また、北朝鮮の軍備管理プロセスにおける中国のより密接な関与を再び引き出す可能性が生まれることである。なぜなら、核武装した北朝鮮が隣国であることに中国はいまだに関心がないからである。

 しかし、事実上の承認にはある程度の代償も伴う。例えばイランに対して、違法行為は割に合うというシグナルを送ることになるだろう。また、核不拡散条約のさらなる浸食にもなるだろう。最後に、韓国と日本の核武装を長年提唱してきた人々の立場が強化されるだろう。こういったことは、ジェフリー・ルイスが「ニューヨーク・タイムズ」紙のインタビューで指摘するように、「とても理想的とはいえないが、北朝鮮が核兵器を備蓄する状況よりはるかに望ましい」といえる。

ハルバート・ウルフは、国際関係学教授でボン国際紛争研究センター(BICC)元所長。現在は、BICCのシニアフェロー、ドイツのデュースブルグ・エッセン大学の開発平和研究所(INEF:Institut für Entwicklung und Frieden)非常勤上級研究員、ニュージーランドのオタゴ大学・国立平和紛争研究所(NCPACS)研究員を兼務している。SIPRI(ストックホルム国際平和研究所)の科学評議会およびドイツ・マールブルク大学の紛争研究センターでも勤務している。