Contemporary Peace Research and Practice リサ・シャーク博士 | 2023年10月17日
イスラエルとパレスチナ――悲しみの壁を乗り越える
Image: Generated by Midjourney AI
預言者たちは私たちにこう言った。「ブドウの木の下とイチジクの木の下では、誰もが平和で恐れることなく暮らしなさい」
彼らは「全ての人にブドウの木やイチジクの木がないとき、平和は訪れず、恐怖が訪れるだろう」と暗示した。預言者たちは暴力を正当化していたわけではない。彼らはそれを説明していたのだ。
ガンジーは「『目には目を』では、全世界を盲目にするだけだ」と語った。多くの目が泣き、涙で見えなくなっている。トラウマが私たちを盲目にする。両陣営のトラウマが悲しみの壁を築く。私たちはその壁の向こうの相手の人間性を見ることができない。
先週、最初は、私のフェイスブックのフィードは、ハマスに殺害された友人や、虐殺され、誘拐され、行方不明になっている母親、娘、子供のユダヤ人家族全員の写真を投稿するイスラエルの友人たちで埋め尽くされた。その後、私のフィードは、イスラエルの攻撃によって殺されたパレスチナ人の写真で埋め尽くされた。家族全員。アパートの建物全体。狙われた小児病院とモスク。トラウマはどんどん壁を高くし、その向こう側の人間性や可能な解決策を見ることをますます難しくしている。
物語は手がかり
悲しみの壁を乗り越えるには、歴史を理解する必要がある。しかし、一方だけの物語ではない。欧州のキリスト教徒、ユダヤ教徒、パレスチナのイスラム教徒とキリスト教徒の絡み合った歴史の物語は、私たちがこの壁を乗り越え始めるのに役立つ手がかりとなる。
フェイスブックで見かけたある投稿は、2017年に訪れたキブツ・ヤド・モルデハイからのものだった。この村のことはよく覚えている。キブツ(ユダヤ人協同農場)の名前は、ワルシャワ・ゲットー蜂起におけるユダヤ人戦闘組織の初代司令官の名前にちなんでいる。ナチスはポーランドでユダヤ人の家族や隣人たちを殺害した。彼らはパレスチナに逃れ、1930年代に村を建てた。
パレスチナ国家とイスラエル国家の両方を創設しようとした1947年の国連分割決議の後、アラブ5カ国はパレスチナの土地の喪失を制止し、イスラエル国家の創設を阻止するためにこの地域に侵攻した。1948年の戦争では、エジプトの戦車がキブツ・ヤド・モルデハイを攻撃し、ナチスのポーランドから逃れてきたばかりのユダヤ人を恐怖に陥れた。
しかし同時に、ヤド・モルデハイ近郊のパレスチナ人の村々は1948年に「抹殺」された。大きな果樹園のある村や農場に住んでいたパレスチナ人は、現在ガザとして知られている強制収容所に住むために送られた。75年後も、ガザに住む200万人のパレスチナ人は、両親や祖父母の村の名前と場所を覚えている。ハマスの武装勢力は、今週末に攻撃したキブツ・ヤド・モルデハイ近郊の同じ村や農場から追い出された家族の子供たちである。
ヤド・モルデハイは私に強い印象を与えた。キリスト教の反ユダヤ主義がナチスとホロコーストに拍車をかけ、ワルシャワでユダヤ人の両親や隣人たちを殺害した。2023年の今、ヤド・モルデハイのコミュニティーは、ハマスのミサイルや、周辺のキブツや町で多くのイスラエル人が殺害・誘拐されたために避難している。
欧州のキリスト教徒もこの物語の一部である。私たちは単なる部外者ではない。ヤド・モルデハイの人々は、ホロコーストと同じような残忍な虐殺を恐れる必要のないコミュニティーに住む資格がある。
この悲劇の物語は2023年に始まったものではない。また、50年前の1973年の第4次中東戦争(ヨム・キプール戦争)や、1948年のナクバ(パレスチナ人にとっての大惨事)から始まるものでもない。まず、この絡み合った苦難の歴史を解き明かし、苦難から抜け出す方法を理解しなければならない。
この絡み合った苦難の物語は、復讐の分かりにくい論理を把握する方法を私たちに与えてくれる。
復讐と集団的懲罰の分かりにくい盲目的な論理
フェイスブックは現在、旗の写真を投稿する人々であふれている:イスラエルの旗とパレスチナの旗が、あたかも二つの側面しかなく、紛争は「彼ら対われわれ」であるかのように。どちらの側でも、人々は人間性を奪い、さらなる暴力の舞台を用意する。これらの旗は壁をどんどん高くし、この地域の全ての人々がブドウの木やイチジクの木を育てることをより難しくしている。
パレスチナ人は1948年以降、反ユダヤ主義から逃れユダヤ人を保護するユダヤ人国家に最終的に住みたいと願うユダヤ人によって、家や農場から追い出されてきた状況に直面している。パレスチナ人は、現在もこの暴力の連鎖に加担し続けている欧州のキリスト教徒の犯罪に苦しんできた。
過去100年間で、約10万人のパレスチナ人が暴力によって死亡し、さらに多くのパレスチナ人が貧困、また医療や仕事へのアクセス不足によって死亡している。ヨルダン川西岸におけるイスラエル入植地の拡大、占領の拡大、そして日々の屈辱と抑圧の中で、パレスチナ人の中には暴力以外の選択肢がないと感じている者もいる。全ての人のために平和を望むのであれば、パレスチナ人にとって、彼らに対する現在進行中の暴力を終わらせるための選択肢が必要である。
ヨム・キプールの聖なる日、1973年にアラブ諸国がイスラエルに対して奇襲攻撃を行ったこの記念日に、ハマスによる今回の攻撃を経験したイスラエル人にとって、ハマスの虐殺は、イスラエル軍の絶大な能力にもかかわらず、ブドウの木の下やイチジクの木の下で平和で安全に暮らすことはできないということを改めて思い起こさせるものである。
集団的懲罰の論理は盲目的である。ハマスがユダヤ市民を標的にしたのは、パレスチナ人の家や命が失われたのは全てのユダヤ人に責任があると見なしたからである。そして今、イスラエル軍はパレスチナ人の家を爆撃し、ユダヤ系イスラエル人の家族を失った責任は全てのパレスチナ人にあると見なしている。600万人以上の人間が犠牲になったホロコースト以来、いまだに人口が回復していないユダヤ人にとって、先週末に1,200人のイスラエル人が犠牲になったことは悲劇的であるばかりではない。ホロコーストの続きのように感じるのだ。
どちらの側による集団的懲罰も、罪のないイスラエル人と罪のないパレスチナ人の命を奪う。ハマスが1,000人以上のイスラエル人を殺したのは間違っていた。そして、イスラエルが報復のために、ガザの罪のないパレスチナ人をさらに殺害するのは間違っている。どちらの過激派も、容認できないという「メッセージを送る」ために、相手を殺すことが「必要」だと正当化する。
両陣営の集団的懲罰という戦略は、両陣営にさらなる怒り、トラウマ、そして戦いへの決意を生み出すだけである。ホロコーストとジェノサイド研究の教授であるラズ・シーガルは、イスラエルによるガザへの絨毯爆撃が、法的には「ジェノサイドの教科書的事例」である理由を説明している。ユダヤ人のホロコーストの悲しみやトラウマを武器にすることで、また別のホロコーストを引き起こすことはあってはならない。私たち全員が共に「二度と繰り返してはならない」と言ったのは、世界がジェノサイドに反対する声を上げずに傍観することは二度とないという意味だった。
悲しみの海に「場」を切り開く
私たちに何ができるだろうか? ほとんどのメディアと米国政府は、現在ガザで起こっている大量虐殺的復讐を、二元論的かつ非歴史的に正当化している。米国政府は、イスラエルの極右政権の味方をするよう私たちに促している。
10月13日に国務省が出したとされるメモは、外交官に対して、一般市民や国連からの和平や停戦の呼びかけに抵抗するよう求めている。一般市民の多くは同じような二元論を唱えている。旗を持って一方の側に立ち、悲しんでいる全ての人々や平和の側に立たない。
私たちは悲しみの海を割り、人々を憎しみの荒れ地から導き出さなければならない。私たちはこの荒野に声を聞ける場を作ることで、これを実現する。
トラウマ、悲しみ、人命の喪失について、人々が関心と懸念を表明する「場を守る」ことができる。
あまりにも心に傷を負ったために平和を主張することができない人々のために、悲嘆する「場を確保する」ことができる。
一部の欧州人によるユダヤ人への、そして一部のイスラエル人によるパレスチナ人への暴力と抑圧の歴史が絡み合い、苦しんでいる全ての人々の人間としての尊厳を守るための「場を築く」ことができる。
両陣営の戦争犯罪に対して道徳的な怒りを表明できる人たちのために、「場を作り出す」ことができる。
進むべき道を明確に示すことができる人たちのために「場を設ける」ことができる。もっと良い方法がある。今のところ、全ての側の利益に対処する唯一の政治的解決は、「二つの国家、一つの祖国」、すなわち「万人のための土地」と呼ばれるものである。これは、革新的なイスラエル人とパレスチナ人によって考案された型破りな提案である。
この図の中央にある二つの大きな円が、私たちが焦点を置くべき場所である。これらの二つのグループは団結し、両過激派グループが国内の他の部分の人々を戦争に引きずり込むことに終止符を打つことで、より多くのものを得ることができる。
ハマスは民主的に選ばれたわけではない。ハマスは多くのパレスチナ人を抑圧しており、憎まれているので、全てのパレスチナ人を代表しているわけではない。この1年間、私たちはまた、何十万人ものイスラエル人が極右イスラエル政府に抗議する姿を目にした。選挙で選ばれたが、過半数がネタニヤフ首相に反対している。
暴力は、占領が終わり、正義と民主主義と万人のための土地ができたとき、そして世界がパレスチナの人権に反対することなく反ユダヤ主義に反対することができたときに終わるだろう。
預言者たちは正しかった。誰もがブドウの木とイチジクの木を必要としている。
リサ・シャーク博士は、戸田記念国際平和研究所の上級研究員であり、米国ノートルダム大学の教員としてKeough School of Global Affairs およびクロック国際平和研究所に所属している。同氏は、リチャード・G・スターマン シニア・チェアであり、Peacetech and Polarization Labを運営している。フルブライト研究員として東西アフリカに滞在した経験を有し、The Ecology of Violent Extremism: Perspectives on Peacebuilding and Human Securityおよび Social Media Impacts on Conflict and Democracy: The Tech-tonic Shiftなど11冊の著作がある。同氏の研究は、国家と社会の関係や、社会的結束を向上させるための、テクノロジーに支えられた対話や意思決定に焦点を当てている。