Cooperative Security, Arms Control and Disarmament アミン・サイカル  |  2023年04月19日

中東で米国を押しのけるロシアと中国

Image: Russian jet fighter Sukhoi Su-35 JetKat/Shutterstock

 この記事は、2023年4月12日に「The Strategist」に初出掲載されたものです。

 中東の戦略的情勢は急速に変化しているが、それは伝統的にこの地域で大きな影響力を発揮してきた米国にとって不利な変化である。米国とイランの敵対関係が続き、同盟国としてのワシントンの信頼性に対するアラブ諸国の懸念が増大しており、その結果、ロシアと中国がこの地域で戦略的足掛かりを拡大する機会が広がっている。

 いくつかの状況が重なり、米国の立場を揺るがすものとなっている。最も重要なものとして、ロシアとイラン、そして中国とイランの戦略的パートナーシップの飛躍的な進展がある。イランとロシアの2国間貿易と軍事協力は、かつてないほど強化されている。両国の貿易高は2021年に40億米ドルだったが、翌年には400億米ドルに跳ね上がった。この背景には、2021年3月に両国が調印した20年間に及ぶ協力協定がある。

 それと同時に、さらに重要なことは、ロシアとイランの軍事パートナーシップが新たな高みに達していることである。ロシアは長年にわたりイランにとって最大の武器供給国だったが、2022年は転換点となった。イランがスホーイSu-35フランカーEジェット戦闘機24機を発注したのである。コストは20年間で100億米ドルと伝えられる。この戦闘機はロシア製兵器の中で最も先進的なもので、ウクライナへの爆撃に大々的に使用されている。これは、イランがロシアに何百機ものドローンを提供した取り引きの一環と見られ、それらのドローンはウクライナで致命的効果を挙げている。両国はまた、双方の人員に戦闘機とドローンの訓練を行っており、イランは占領下のクリミアでドローン製造の合弁事業を設立したと報じられている。

 同時に、中国とイランの貿易関係と戦略的関係も大幅に強化されている。2国間の経済・貿易関係は着実に拡大する一方、軍事・情報協力は比較的控えめだったが、2021年に両国は25年間の協力協定に調印し、技術的、経済的、戦略的協力関係をかつてないレベルに引き上げた。協定は、イランの産業およびインフラ開発における中国の参加と投資を拡大する道を開いた。また、イランの中国製品市場を拡大し、軍事・情報協力のさらなる強化をもたらした。

 その過程で、中国は米国が主導するイランへの制裁を無視している。イラン産原油の輸入を継続し、近頃ではイランとサウジアラビアが6年間断絶した国交を回復するために結んだ和平合意を仲介することによって、外交的影響力のさらなる拡大を図った。

 中国はまた、ますます好意的になっているサウジアラビアとの関係を拡大している。その背景には特に、物議をかもす事実上の支配者ムハンマド・ビン・サルマンが、人権侵害の疑いとイエメンにおける軍事行動について過去にジョー・バイデン大統領から批判されたことで、米国に幻滅感を抱いているという事情がある。

 イランは、中国とロシアが主導する上海協力機構(SCO)に参加しようとしており、すでに中国の一帯一路構想の西に向かう流れにの重要なリンクとなっている。興味深いことに、これまで米国の同盟国だったサウジアラビアは、SCOにも対話パートナー国として参加することを決定している。これは、地域における北京の影響を強化するものにほかならない。

 同時に、米国とその最も信頼できる同盟国であるはずのイスラエルとの関係は悪化している。イスラエルの有権者の分極化と国内の政治的不安定の増大は、主にベンジャミン・ネタニヤフ首相による、イスラエル史上最も右翼的な政権の樹立と司法の権限を覆そうとする動きがもたらしたものであり、バイデン政権はイスラエルの指導者に対して危惧を抱くほかないのである。

 ワシントンは、ネタニヤフの行動は「イスラエルの民主主義」を脅かすものと見なす民主主義国の一団に加わっている。これに対し、ネタニヤフ(詐欺の罪で起訴もされている)は、イスラエルは主権国家であり、独自の決定を下すと主張している。ロシアと中国がイランと、そして憂慮すべきレベルまでサウジアラビアと結びつきを深めていることに腹を立てつつも、イスラエルは都合よくロシアと中国にすり寄ることをやめず、また、ユダヤ人国家にとっての「実存的脅威」があればいつでもイランの核施設を攻撃する権利を手放そうとしない。

 中東において、米国は紛れもなくロシアと中国に場所を奪われている。この地域は戦略的転換の真っただ中にあるが、どの方向を取るかを予測することは困難である。より平和的な方向か、より対立的な方向か? いずれにせよ、米国の最大の関心事は、ロシアによるウクライナ侵攻や中国の南シナ海および台湾に対する野心ではあるものの、当面の間、石油が豊富な中東は米国にとって外交上の頭痛の種であり続ける可能性が最も高い。

アミン・サイカルは、西オーストラリア大学で社会学の非常勤教授を務めている。著作に “Iran Rising: The Survival and Future of the Islamic Republic”があり、“Iran and the Arab world: a turbulent region in transition”の編者である。