Global Challenges to Democracy ジョーダン・ライアン | 2025年08月19日
及び腰に真実を語る人々と制度の脆弱性
圧迫下にある民主主義において、最も重要な真実は、もっと早く発言しているべきだった人々によって、あまりにも遅く、ためらいがちに発せられることが多い。その顕著な例が2025年7月5日に起こった。ホワイトハウスの元特別法律顧問タイ・コブが、プライベートのつもりだったFacebookコメントで、ドナルド・トランプは「米国史上最悪」だと図らずも明かしてしまったのだ。
投稿は拡散され、外部の批評家では不可能なほどの内部告発となった。コブは、トランプが「国を心底舐め切っていて、全く不適格な人物を要職に任命している」、さらには「エボラなどのパンデミックを引き起こす疾病を監視する世界中の保健対策を潰した」とまで書いた。彼はまた、トランプが「1,200万人をメディケイドから排除し、子どもへの食糧支援を打ち切った」と書き加え、一方で個人純資産は30億ドル以上増加したと指摘し、それを「完全に個人的で、腐敗しており、政策的根拠はゼロだ」と述べている。
これらは党派的な主張ではなく、以前から報告され、今では確かな裏付けがある厳然たる事実である。しかし、これらの真実は偶発的に表面化するのみである。自分の言葉は「広く読まれることを意図していなかった」というコブの主張も、それを示している。その言い回しは、より根深い疲弊を象徴するものとなった。すなわち、偶然言葉が漏れてしまうまで、インサイダーが率直に発言しようとしないことである。そのような及び腰は、近頃の米国の政治により幅広く見られるパターンである。つまり、内部の批判はまれで、先延ばしされ、あるいは政治的リスクが少なくなって初めて表明されるということだ。その結果は危険な沈黙であり、そのせいで国民は情報を知らされず、制度は弱体化してしまう。
このような動きは米国に限ったことではない。ブラジルでは、ジャイル・ボルソナーロ(Jair Bolsonaro)の独裁的傾向を個人的に疑問視していた軍当局者らが、彼の敗北までおおやけには忠誠を守っていた。ハンガリーでは、オルバーン・ヴィクトルによる司法独立の侵害を目撃していたEU職員が、匿名の報告しか行わず、公然の対立を避けていた。それがあれば、国際的圧力がいっそう高まっていたかもしれない。どちらの事例でも、早い段階で内部の異議がなかったことが、リーダーによる権力の強化と乱用の常態化を許した。
内部の関係者が声を上げるのを遅らせれば、独裁者はチェック体制を解体して反対を無効化する貴重な時間を得ることができる。真実が浮上した頃には、制度の状況が変わってしまっている。民主主義が脆弱な、国家や紛争後の状況でこのパターンが生じれば、被害を防止できるかもしれない早期警告は無視されることが多い。
このような情報開示には決まって共通の構図がある(share a familiar anatomy)。後出し的で、漏洩や目に見える崩壊が起こった後に初めて明らかになる。公式の文書記録がない。信頼性が鍵となる人物によって発信されるが、開示のタイミングが遅すぎる。人々が沈黙を守るのは、さまざまな動機による。内部から抑えることができるという信念、党派的だとレッテルを貼られることへの恐怖、あるいは、個人的犠牲を払わなくても制度を通した自己修正が可能だろうという希望。
しかし、このような戦略は失敗することが多い。「わきまえた大人」の姿勢は、むしろ不正を助長する。独裁者は、沈黙を承諾と解釈するようになる。国民は、内部の抵抗を目にすることができないために、声を上げることに苦戦する。
反対に、国際的な経験が示すのは、早期に真実を語るほうが、どれほど居心地が悪くてもより有効だということである。これは世界中でこれまでに経験されてきたことである。ミャンマーでは、2021年のクーデターが起こった翌日、公務員らが沈黙を守るのではなく、職場を放棄して抗議デモに参加し、地域でも最大規模の市民的不服従を展開した。彼らの果敢な姿勢は民衆の抵抗を鼓舞し、決然とした集団行動がクーデターを覆すことはできなくても、政治の流れを変えることはできると立証した。韓国では、検察官らが政治介入を暴露し、それが市民社会の反応を引き起こして、大統領弾劾訴追をもたらした。グアテマラでは、裁判官と検察官が政府内部に根付いた汚職ネットワークを駆逐し、国際的対策を可能にした。
従って、民主主義の回復力を強化するためには、内部通報の誘因となる条件を設定し直す必要がある。信憑性の高い通報があった場合に独立機関が迅速に対応できるよう、内部通報者の保護を強化しなければならない。市民社会やメディアネットワークは、内部通報が封殺される前にその声を広めるべきである。われわれは、早期に真実を語ることを裏切りではなく市民としての義務と捉える制度的文化を構築しなければならない。
国際機関は、重要な通報を保護し、広めるための迅速対応メカニズムを策定することによって、この取り組みの一助となることができる。セキュリティーの高い通報手段を用いて情報源の匿名性を守るとともに、世界規模の協調対応を可能にするべきである。システムが揺らいだ場合は、制度が介入できるようにしなければならない。
一方、市民社会は、法的支援のための資金提供、セキュリティーの高いコミュニケーション手段、迅速なメディア対応戦略を構築し、告発の個人的負担を軽減しなければならない。勇気の代償を軽くし、先延ばししたいとの誘惑を減らすことが目標である。
タイ・コブの意図せざる投稿は、単なる失言ではない。制度の脆弱性と先延ばしにした正直さが持つ危険を映し出す鏡であった。彼が書いたように、「もちろん私は風車に槍で立ち向かっているだけかもしれないが、目にしている危機的な状況を考えると、夜に安眠したいのであれば選択の余地はあまりない」のだ。インサイダーは声を上げる最適のタイミングを待っているかもしれないが、その機会が到来することはほぼなく、声を上げなかった代償は国民が払うことになる。
民主主義社会において、制度の欠陥を明らかにする機会を偶然の開示のみに頼るわけにはいかない。国際社会は、慎重さよりも勇気に報いることができるシステムを構築すべきである。また独裁的な行動に対して制度的に沈黙を守ることは、共犯と変わらないと認識しなければならない。
ジョーダン・ライアンは戸田記念国際平和研究所の国際研究諮問委員会(TIRAC)メンバーおよびフォルケ・ベルナドッテ・アカデミー(Folke Bernadotte Academy)のシニア・コンサルタント。過去には国連事務次長補を務め、国際的な平和構築、人権、開発政策分野で幅広い経験を持つ。専門分野は平和と安全に寄与する民主的機関と国際協力の強化である。これまでに、アフリカ、アジアおよび中東で市民社会団体を支援し、持続可能な開発を推進する数多くのプログラムを率いてきた。国際機関や各国政府に危機予防や民主的統治に関する助言を定期的に行っている。