Cooperative Security, Arms Control and Disarmament トビアス・デビール  |  2022年08月17日

プーチンの戦争はいずれ終わる―備えるべき5つのポイント

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 この記事は、FOCUS誌のニュースを掲載したドイツ語のウェブサイトFOCUS onlineで2022年8月16日に発表された元記事を若干編集して翻訳したものです。許可を得て再掲載しています。

 行き詰まりを迎えているのはウクライナの戦争だけではない。政治外交面でもほとんど動きがない。とはいえ、交渉の礎となるものはいくつか挙げることができる。公の議論はこれらにより注意を払うべきだろう。

 状況は救いがないように見える。 2月24日のロシアによる侵攻開始当初、ウクライナは多くの人が不可能だと思っていたことを成し遂げた。すなわち、複数の前線からの挟み撃ちでウクライナを征服した後、傀儡政権を樹立しようというクレムリンの試みは失敗した。同時に、クレムリンは事実上、戦争戦略を再定義し、今では以下の三つの目標に集中している。プーチンが承認したドネツク、ルハンスクの両「人民共和国」を支援すること、クリミア半島への回廊の確保、そして、海からのアクセスを遮断してウクライナを残存国家に縮小することである。それ以来、ウクライナでは犠牲にまみれた消耗戦が続き、両軍で何万人もの命が失われている。

 行き詰まっているのは戦況だけではない。外交面でも報告すべきニュースが少ない。しかし、どのような見方があるのだろうか? 大まかに述べると、三つの立場がある。一つは、ロイド・J・オースティン米国防長官が明確にしているように、ウクライナが軍事的勝利を収めると信じる考えである。ロシアを以前の状態、すなわち2月24日より前の状態に後退させるか、可能なら永久に弱体化させたいというものだ。こうした「タカ派」に対抗するのが「ハト派」である。「ハト派」は、クレムリンが考えるロシアの安全保障上の利益に対する譲歩、すなわち領土の喪失(少なくともクリミア半島に関する)を認める寛容、ウクライナの軍備の制限、西側制裁の緩和への見込みなどを通じて、戦争の早期終結を望んでいる。その狙いは、交渉の道筋を付けること、もしくは少なくとも紛争を「凍結」させること、すなわち、解決に向けた予測可能な政治的見通しがなくても停戦を達成することである。

 この二つの立場のあいだに第3の立場がある。それは、いずれの側の軍事的勝利もほぼ無いだろうと考える。この醒めた見方に与する人は多い。ただ、具体的な行動の見通しが伴わなければ、容易に無力感に繋がってしまうものでもある。

 行き詰まりを打開する道はあるのだろうか? アメリカの紛争研究者I・ウィリアム・ザートマンは、交渉および調停の取り組みのタイミングの重要性を一貫して指摘している。同氏の理論によれば、戦争は、両軍が互いに痛みをもたらす膠着状態に直面していて、出口が見える時になって初めて、和解を試みる「機が熟した」と言えるという。ザートマンが正しければ、見通しは暗い。クレムリンは、自国側の重大な犠牲にもかかわらず、戦争を継続する可能性を強調している。また、ウクライナ政府は、クリミア半島の奪還を含む遠大な戦争の目標を国民に誓っている。

 この膠着状態を打開するには、プーチン政権への制裁とウクライナへの武器支援は、真剣な交渉が行われ、かつロシアの軍隊が一部でも撤退する場合にのみ終了するということを、ロシア側に明確にしなければならないだろう。また、ウクライナも非現実的な戦争目標へと駆り立てられるべきではない。

 紛争には「唯一の」解決法があるわけではない。しかし同時に、現時点で備えることができる交渉の礎となるものは、いくつか特定することが可能である。

 第1に、多くのあからさまな嘘が発覚した後となっては、モスクワの誠実さへの信頼は大いに揺らいでいる。実質的な和平交渉に向けた最低限の信頼性を得るためには、捕虜交換、兵士の遺体の移送、人道的合意といった慎重なステップを踏むことが必要だ。トルコの仲介により成立し現在実施されている穀物輸出の合意は、当初はオデッサ港への攻撃によるロシアの妨害があったとはいえ、慎重ながらも前向きな兆候と言える。 第2に、停戦には、監視と検証の仕組みだけでなく保証人となる国々が必要だ。この点は、今のところ目立たない姿勢を保っている中国やインドといった影響力のある国々が役割を果たすことができるだろう。また、この戦争ではほぼ無視されている国連も、安全保障理事会または欧州安全保障協力機構(OSCE)を通じて、本来の役割を担わなければならないだろう。

 第3に、今後は十中八九、ウクライナの武装中立に落ち着くことだろう。それには、将来のEU加盟の見込みと信頼できる安全保障上の確約が必要だ。ただし、それはNATO条約第5条の敵意用レベルを下回るものとなるだろう。

 第4に、クリミア半島及びドンバス地域の二つの自称「人民共和国」の地位に関して短期間で合意に至ることはないだろう。このような背景に基づき、例えばアブハジア(ジョージア)やトランスニストリア(モルドバ)などの旧ソ連地域でそうだったように、われわれは、これらの紛争が「凍結」状態になることに備えなければならない。しかし、今後10年もしくは15年にわたる計画と管理された手続きが必要だ。南オセチア(ジョージア)やナゴルノ-カラバフ(アゼルバイジャン)のケースは、「凍結された紛争」が再び急速に過熱しうることを示している。

 第5に、最後になるが、膠着状態を打開するようなインセンティブを提供するために、「交渉のパイ」を大きくしなければならない。これにはウクライナの復興支援も含まれる。しかし、何にも増して、この冷え切った状況においてさえも、NATOとロシアの間で、軍隊と兵器システムの展開を含めた相互安全保障協定が必要だろう。

 混乱を脱し冷静な見地を支えるため、この消耗戦を抜け出す選択肢についての公的な場での議論が望まれる。恐らく現時点では交渉には早すぎるが、より細分化された議論を行うには、「機が熟した」と言えるだろう。

トビアス・デビールは、デュースブルク・エッセン大学(University of Essen/Duisburg)開発平和研究所(Institute for Peace and Development)副所長を務めている。主な研究テーマは、紛争予防、暴力的紛争、紛争後の社会再建。