Peace and Security in Northeast Asia 文正仁(ムン・ジョンイン)  |  2022年07月28日

中国が北朝鮮の非核化を妨げているというポンペオの主張

Image: Ringo Chiu/Shutterstock

 この記事は、2022年7月25日に「ハンギョレ」に初出掲載され、許可を得て再掲載したものです。


 北朝鮮の核問題は、米国と北京の協力なくして解決することはできない。しかし、ポンペオのレトリックでは、それはほぼ不可能に近い。

 北朝鮮は、核兵器・ミサイル計画を急速に進展させている。今年すでに18回の弾道ミサイル発射実験を行っているほか、7回目の核実験を実施する可能性も非常に高い。

 特に懸念されるのは、北朝鮮の核ドクトリンに決定的な変化が見られ、核弾頭の小型化、軽量化、多様化を狙っていることである。

 核兵器を報復と抑止の手段とする長年の立場に加え、ピョンヤンは今や、戦術核兵器の先制使用を公式に採用しようとしている。このことを強く示唆したのが、6月21日に北朝鮮指導者金正恩(キム・ジョンウン)が主宰した朝鮮労働党中央軍事委員会第8期第3回拡大会議における「前線部隊の作戦任務の追加および作戦計画の修正」である。

 簡単に言えば、北朝鮮の核問題を解決しようとする30年間の努力が全て水の泡となったのである。

 国際原子力機関のラファエル・グロッシ事務局長は最近、「2006年まで、北朝鮮は核兵器を持っていなかった」と語り、国際社会は、数回にわたる交渉にもかかわらず、北朝鮮の核兵器保有を防げなかったと嘆いた。彼はこれを、「集団的大失敗」と呼んだ。

 グロッシは、関係した全ての国に責任があるとした。にもかかわらず、片や米国、片や中国とロシアは、双方が失敗を相手のせいにする不毛な非難合戦を続けている。

 トランプ政権で国務長官を務めたマイク・ポンペオは、この問題で中国の責任を訴える急先鋒だった。彼は、7月7日、韓国の日刊紙「朝鮮日報」のインタビューで、習近平中国国家主席と中国共産党が北朝鮮の非核化を妨げたと主張した。

 「金委員長自身は、進むべき正しい道は私たちが示した道であることを信じていると、私は何度も確信を抱いたが、実際には、彼を操作しているのは習近平だった」と、インタビューでポンペオは述べた。

 ポンペオによれば、中国の実際の目的は北朝鮮を「緩衝国」として維持する一方で、北朝鮮の核計画を利用して米国のリソースを使わせ、対米対抗政策の一環として米朝間の不和を維持することだった。

 ポンペオから見れば、中国の最終目標は朝鮮半島を従順な属国に変え、中国共産党の支配下に置くことである。ポンペオは、厳しい制裁が金正恩に本物の圧力となり、彼を真剣な非核化の議論に引っ張り出すことができたのだと、付け加えた。

 ポンペオの挑発的な中国妨害説を、中国の関係者はナンセンスであるとして全面的に退けた。北朝鮮の核兵器保有は中国の国益に反するものであり、中国はピョンヤンの非核化を目指して六者会合やその他の手段を通して積極的に米国と協力してきたと、中国側は反論する。

 また、北朝鮮独自の独立外交政策を考えると、北朝鮮に対する北京の影響には明確な限界があるということも事実である。習近平は電話1本で金正恩の態度を変えさせることができるという西側の思い込みには、中朝関係の歴史的特徴を分かっていないことが露呈している。

 常軌を逸した行動に走りがちな傾向を考えると、ピョンヤンは、ワシントンだけでなく北京にとっても扱いが難しい相手である。ポンペオの主張は、北朝鮮に対する中国の影響力を誇張するというトランプ政権の過ちを繰り返すものだ。

 また、中国が米国に対抗するために北朝鮮の核のカードを利用しているという主張は、米国が中国に対抗するために北朝鮮の核問題を大袈裟に扱っているという主張と鏡合わせである。しかし、核武装した北朝鮮が米国にとって安全保障上の深刻なリスクであるのと同様に、それは中国にとっても紛れもない不安定化要因である。

 中国側関係者は、そのような考慮があるからこそ、北京は朝鮮半島の平和、安定、非核化を支持し、対話と交渉を通して北朝鮮の核問題を外交的に解決することを支持してきたのだと言う。米国との協力も、中国の国益に基づく外交政策目標から導き出されたものだと、彼らは言う。

 北朝鮮を緩衝地帯と見なすポンペオの見解は時代遅れの発想を反映しており、北京が米朝関係の正常化を常に支持してきたことを考えれば、米朝間に不和の種をまく理由は中国にはないと、中国側関係者は付け加える。

 中国はすでに14億人の国民を統治する責任を背負っており、北朝鮮を属国にする理由などないと、彼らは言う。以上の根拠から、彼らは、ポンペオの主張は中国共産党を悪者扱いしようとする典型的な試みだと一蹴する。

 実際のところ、ポンペオが制裁を万能薬と信じていることこそ、北朝鮮の核問題に解決が見いだされていない主な理由だと、中国側は言う。彼らの見解では、金正恩が2018年にトランプとの会談に応じたのは、制裁による圧力を受けたからではなく、トランプが金を認め、対話と交渉によって問題を解決しようという意欲を示したからである。

 中国側関係者によると、それでもなお唯一の解決策がある。北朝鮮の核兵器・ミサイル発射実験と米韓軍事演習の「二重凍結」、平和体制と朝鮮半島の非核化に向けた「並行推進」、そして、段階的な相互の同時譲歩という原則に基づいて、外交協議を行うことである。中国側関係者は、米国が制裁に完全に頼り、北朝鮮が核を放棄するまで制裁解除しないという方法では、この問題は解決できないと断固主張する。

 それが示唆する通り、ポンペオと中国の視点は全くの正反対である。とはいえ、一つ明らかなことは、北京との協力なしに北朝鮮の核問題は解決できないという点である。ポンペオのような大統領を狙う大物政治家が、その事実を無視し、ほとんど陰謀論のような中国責任論にしがみつくのであれば、北朝鮮の核問題を打開するために米国と中国が協力することはできないだろう。

文正仁(ムン・ジョンイン)は、世宗研究所理事長。戸田記念国際平和研究所の国際研究諮問委員会メンバーでもある。