Climate Change and Conflict ジェームズ・バグワン  |  2023年11月01日

COP28におけるPCC: 化石燃料の段階的廃止、損失と損害への資金提供、平和を提唱

Image: Michele Ursi/shutterstock.com

 太平洋地域のキリスト教会の連合である太平洋教会協議会(PCC)にとって、ドバイで開催された2023年のCOPに参加することは非常に難しい決定だった。世界の化石燃料業界の重要人物であるドバイの国営石油会社のCEOが議長を務め、主要産油国の一つで開催される会議である。PCCは、常に気候正義に焦点を当ててきた。気候正義を目指すさまざまな協力に従事する仲間たちは、COP28に参加するか否かに長いこと頭を悩ませていた。パートナーの一つがボイコットを決定し、それをきっかけに、気候変動交渉に関与するわれわれの目的は何かという非常に重要な議論が交わされた。PCCは2022年のCOP27に参加しなかったが、2009年のコペンハーゲン(COP15)から2021年のグラスゴー(COP26)まで、多くのCOPに参加してきた。太平洋以外の他のパートナーとも幅広い議論を行った後、われわれは2023年のドバイ会議への参加を決定した。われわれには果たすべき役割がある。なさなければならない提唱活動がある。

 2023年はまた、締約国が出展するCOPブルーゾーンに信仰のパビリオンが初めて設置される。それは、この分野で活動する他の宗教界との協力を強化する機会をもたらす。また、各国の交渉担当者だけでなく、この場で非常に重要な役割を果たす活動家や他の人々の活動を、宗教家として大いに支える機会ともなる。気候正義という共通目的のために太平洋諸国の権利を擁護し、市民社会活動を行う一環として、筆者はフィジー政府代表団の一員、また、同僚のベディ・ラスゥレ氏はマーシャル諸島共和国の代表団の一員としてCOP28に出席することになった。これにより、われわれの預言的宗教活動と実践的活動にいっそうの足掛かりと機会がもたらされる。

 COP28におけるPCCの焦点の一つは、化石燃料の速やかな段階的廃止という喫緊の必要性であり、太平洋の教会が常に訴えてきたことである。これは、気候変動緩和の決定的要素であるが、最近では適応策に焦点がシフトしているために脇に追いやられてしまっている。それでもなお、緩和は取り組むべき分野でなければならない。このように巨大な世界の化石燃料業界がもたらす二酸化炭素排出量を削減しない限り、1.5℃目標を維持することはできない。それなのに、われわれがやっていることは、気候変動の原因に取り組むのではなく、基本的にその影響に対応することでしかない。これから世界に広がろうとしている新たな化石燃料プロジェクトの数は膨大であり、気候変動という状況から考えると法外である。世界教会協議会が2022年9月に発表した「生きている地球」文書は、このような新規プロジェクトを「炭素爆弾」と呼んでいる。現行の排出量と現行の化石燃料プラントだけでも、われわれはすでに限界点に達している。それでもなお一部の国々は、ある程度の努力は行い、これらのCOPに参加する一方で、化石燃料業界を拡大し続けている。

 この問題に取り組む次なるステップは、化石燃料不拡散条約に向けたイニシアチブである。バヌアツやツバルを先頭に、多くの太平洋島嶼国(PICs)が、速やかな排出量削減と公正な移行への手段として化石燃料不拡散条約を締結し、公正な移行とは単に雇用や就業だけの話ではなく化石燃料業界の話でもあると認めることを求めている。われわれは海洋国家であり、海上輸送と化石燃料に依存していることを自覚しなければならない。われわれの多くは、海洋・海上輸送産業の脱炭素化を訴えてきた。それをどのように実現し得るか、また、それは諸島間の輸送を化石燃料に大きく依存するPICsのコミュニティーにどのような影響を及ぼすか? しかし、PICsが目指して努力してきた1.5℃を維持するためには、それが唯一の道である。多くのPICsに加え、市民社会団体や学術団体、教会、その他の宗教グループ、さらには国家や先進国の都市なども、この条約の支持に立ち上がっている。この条約を支持する運動がCOP28でどのような前進を果たすかを見るのは、興味深いことだろう。

 2023年のCOPにおけるPCCの第2の焦点は、損失と損害への資金提供である。適応のための資金提供において、現時点では2国間の資金提供ばかりにあまりにも重点が置かれている。資金は基本的に、地政学的状況の観点から開発の手段として使われている。つまり、かたや中国、かたや米国とその同盟国との間で展開される太平洋冷戦である。このような資金は、適応資金という触れ込みで提供されるが、実際のところ、より政治的な動機に基づく開発資金である。それに対しわれわれは、損失と損害に対する補助金としての資金提供に、脆弱な国家が直接アクセスできるようにする必要があると考えている。さらに、資金が国レベルに留まるのではなく、現地のコミュニティーに到達するようにしなければならない。また、資金は、困窮の深刻度に応じて配分する必要がある。先進国が、最も深刻な影響を受けている小島嶼国に資金を供与するのではなく、損失と損害という枠組みを利用して、自国内の気候変動影響に対処するために使うのではないかという懸念もある。さらに、「損失と損害」基金の当初資金は、先進国が拠出する必要がある。しかし、残念ながら、資金がどこから拠出されるかは現段階では不明である。

 もう一つの大きな問題は、非経済的な損失と損害をどのように扱うかである。これは、インフラ、産業、農業の破壊といった、気候変動による物質的な影響の話ではない。むしろ、人々の福利、つまり気候変動の影響を受けたコミュニティーが経験している文化的、精神的、心理的トラウマの話である。こういった側面に対処するには、状況に即した持続的なアプローチが必要である。問題は、非常に大きい物理的な損失と損害を経験し、それによって深い心理的トラウマを受けたコミュニティーの人々に対してどのように取り組むかということである。それは、特に太平洋の人々にとって、文化的、精神的トラウマとして表現されるものであり、非宗教的、心理社会的なトラウマカウンセリングでは対処できないものである。

 つまり、文化的に適切な対応を策定し、それらの継続的実施を確保するという問題である。これは、1日や1週間コミュニティーを訪れ、カウンセリングのワークショップを実施するだけでなし遂げられるものではない。問題は、悲嘆のプロセスにある人々をどのように支援し、彼らの嘆き方を承認するか、西洋的なやり方でもなく、非宗教的なやり方でもなく、彼らの文化に基づく嘆き方、彼らのスピリチュアルな嘆き方をどのように尊重するか、また、その領域においていかにレジリエンスを構築するかということだ。こういった問題に対処するための文化的作法を策定・考案し、これらのプロセスについて牧師、コミュニティーリーダー、伝統的リーダーを訓練することが、何よりも重要である。

 その場合の問題は、こういったこと全ての費用を誰が支払うかである。というのも、影響を受けたコミュニティーに支払いを期待することはできないからだ。われわれは、その部分を損失と損害の議論に含めたいと考えている。従って、非経済的な損失と損害については、補償はそれほど重要な問題ではない。なぜなら、このような非経済的な損失はそれよりはるかに深い意味があり、恐らく値段を付けられないもので、これらを本当に補償することはできないからである。むしろ問題は、非経済的な損失と損害に対応するために必要なプロセスや支援のコストを決定することである。

最後に、PCCは、COP28で初めて「平和」が特別な課題として取り上げられることを歓迎する。太平洋地域にとって、これは非常に意義深いことである。気候変動と平和の間には重要な接点がある。紛争は、気候変動の影響に起因して発生する可能性がある。われわれは、その交差点を認識している。太平洋のリーダーたちが、「気候変動は、太平洋地域の人々の生計、安全保障、福祉を脅かす最大の単独要因となっている」と、声を大にして訴えてきたことに留意することが重要である。太平洋地域では、これは伝統的な国家安全保障や国際安全保障の観点、特に上記のような地政学的問題という観点では捉えられていない。むしろ、それよりはるかに包括的で全体的な捉え方における平和である。われわれは、気候変動に起因するトラウマが紛争をもたらすこと、気候変動に起因する移転や強制移住が紛争をもたらすこと、資源の欠乏も紛争をもたらすこと、そして、特に深刻な影響を受けるのはいつも女性たちであることを認識している。われわれは、紛争解決と平和構築が気候変動の議論で取り上げるべき重要な側面であると理解している。それをどこにはめ込むか、それに対してどこから支援を提供するかが、非常に重要である。そのため、COP28でこの問題がどのように扱われるかを、注意深く見守っていく。

こういった全ての課題は、PCCがCOP28に参加をする理由となる。

ジェームズ・バグワンは、太平洋教会協議会の事務局長である。