Climate Change and Conflict フォルカー・ベーゲ  |  2022年09月29日

太平洋の首脳らが気候危機への再注目を促す

Image: Ankor Light/Shutterstock

 2022年9月の第77回国連総会において、太平洋の小さな島国(あるいは「大洋」の国々)の首脳らは、地球規模の気候危機への再注目を促した。これらの国々は気候危機の原因に殆ど関与していないにもかかわらず、その影響を最も受けるという事実に基づく倫理的権威を用いて、太平洋のリーダーたちは、もっと思い切った気候アクションを要求し、新しい提案や取り組みを提唱した。

 第77回総会のハイレベル・ウィーク(9月20日~23日) の間、12の太平洋島嶼国および地域(PICs)の政府首脳らが総会で演説し、その全員が自国の直面する気候危機を最優先の問題としていた。最初に演説したのはマーシャル諸島のデイビッド・カブア大統領で、今年7月の太平洋諸島フォーラム(PIF)の宣言から「気候変動はブルーパシフィック地域に迫る唯一最大の存続上の脅威であり続けている」という文言を引用しつつ、PICsにとって「最大の課題であり脅威が気候変動である」と主張した。他のPICs首脳らもこの立場を繰り返し、主要先進国、特にアメリカと中国に対し意見の違いを脇に置いて気候危機に対処するため力を合わせるよう要請した。パプア・ニューギニアのジェームス・マラぺ首相は気候危機への対応を「人類の最優先事項とすべき」と述べた。

 先週ニューヨークでPICs首脳らにより宣言された三つの主要な取り組みが際立っている。気候変動の人権への影響について国際司法裁判所(ICJ)の勧告的意見を求める取り組み、化石燃料不拡散条約の推進、 そして、PICsの遺産を保全する計画「Rising Nations Initiative」である。

 このうち最初の二つの取り組みを主導しているのは、太平洋の小さな島国であるバヌアツ共和国だ。9月23日の国連総会演説において、同国のニケニケ・ヴロバラヴ大統領は、「基本的人権が侵害されており、我々は気候変動を気温やカーボン排出量の尺度ではなく人間の命の数で計り始めている。もう時間切れだ。いま行動が必要だ」と述べ、気候変動問題のICJへの提起の取り組みを紹介した。その計画は「気候変動の悪影響に対して現在および将来の世代が有する権利を守るための、既に存在する義務について国際法に基づくICJの勧告的意見を求める」というものだ。司法ルートを追求するというアイディアは、5年間で二つのカテゴリー5のサイクロン(パムおよびハロルド)がバヌアツを直撃した後、バヌアツの南太平洋大学で環境法を学ぶ学生らが考案した。学生らは外務省に働きかけ、2021年9月、バヌアツ政府はICJの勧告的意見を求める運動を始めると決定した。過去1年間、バヌアツはこうした運動の先頭に立ち、太平洋にとどまらない市民社会、さらには他の国連加盟国からの支持が高まった。2022年3月には、カリブ共同体の政府首脳らがこの案に賛同し、7月にはPIFがこれに続いた。9月までに、80を超える国々が支持を表明した。ICJが勧告的意見を発するには、国連加盟国の過半数(加盟193カ国のうち97カ国以上)の賛成が必要となる。

 ヴロバラヴとこの取り組みの支持者たちは、「世界の最高裁判所が法的側面を明確にすることは、さらに大きな気候アクションに拍車をかけ、パリ協定を強化することに繋がると確信している」とする一方、「国連総会を通じてICJに気候変動問題を提起することは、気候アクションを加速させるための銀の弾丸(特効薬)ではなく、人類にとって安全な地球という最終目標に近づくための一つのツールに過ぎない」と認めてもいる。

 バヌアツ大統領の見方では、化石燃料不拡散条約がもう一つのツールとなりうる。ヴロバラヴはその演説において、 「気温上昇を1.5℃に抑える目標に合わせて石炭、石油および天然ガスの生産を段階的に減らし、化石燃料に依存している全ての労働者、地域社会及び国家にとって公正な、地球規模の移行を可能にする」ためとして、そのような条約の策定を呼び掛けた。化石燃料不拡散条約を求める取り組みは、国際的な市民社会運動によって担われている。バヌアツが国連総会でおこなった提案は、国際外交のレベルでこの問題をめぐる協議のきっかけとなることが期待されている。そのような条約を求める提案は、既にロンドン、パリ、ロサンゼルスを含む世界の65を超える都市および地方レベルの行政機関の賛同を受けており、最近ではバチカンとWHOも支持を表明した

 条約制定運動はまだ早期段階にあるが、バヌアツは、気候変動についてICJの勧告的意見を求める決議を国連総会で可決するにあたり、必要な数の加盟国の賛同の獲得に自信を見せており、予定では10月末に決議案を提起し、年末または2023年初めに採決に臨みたいとしている。

最後に、ツバルおよびマーシャル諸島の首脳ら(カウセア・ナタノ首相およびデイビッド・カブア大統領)が9月21日、国連総会に合わせて「Rising Nations Initiative」を立ち上げた。そのねらいは、気候変動の影響で存在そのものが脅かされている太平洋環礁諸国の主権、遺産および権利の保全のため、地球規模のパートナーシップを創設することである。喫緊の課題の中には、太平洋環礁諸国の文化および遺産のリビング・リポジトリを創設すること、それらがユネスコ世界遺産指定を受けること、および、環礁の各コミュニティの適応とレジリエンスを支援するプロジェクトの構築と資金調達のためのプログラムがある。同時に、ナタノとカブアは、温室ガスの主要な排出国である先進国に対し、もっと思い切った削減策を講じるよう要求した。

 PICsの頼れるサポーターがアントニオ・グテーレス国連事務総長だ。国連総会の開会演説で、グテーレスは、グローバル・ノースの先進国が化石燃料企業の超過利潤に課税し、その資金を世界中で生活費(特に食料およびエネルギーにかかる費用)の高騰に苦しむ人々や、 「気候危機によって引き起こされる損失や損害を被っている国々」 に配分することを要求した。この対象にはもちろんPICsが含まれる。国連総会に合わせて9月23日にPIF首脳らと会合を持った際、グテーレスは、 「この危機をもたらすようなことを何もしていない人々が最も大きな代償を払わされている」と述べ、また、「我々はパリ協定の目標から道を外れつつある」との懸念をPICs首脳らと共有しているとして、全面的な支援を約束した。彼は、「化石燃料の段階的な廃止」と「今まさに起き、炎上している損失と損害の問題に対処する資金の増額」を要求した。会合の共同声明は、気候危機への対処に関してPIF首脳らと国連事務総長の見解が一致していることを示している。

 世界の政治においてPICsの力は大きくなく、グローバルレベルで政策に影響を及ぼす選択肢は限られている。したがって、これらの国々が国連加盟国としての立場を活用し、気候危機に関連する窮状への注目を集めたことは、いっそう称賛に値する。先週、PICsは再度、国連という舞台を賢く用いた。総会におけるインターベンション(公式会議中の発言)で、今年後半にエジプトで開催されるCOP27に期待する内容を明確にしたのである。彼らは、硬質な議論の場を作り、自分たちは溺れるつもりはない、戦うのだと再度はっきりと示したのだ。

フォルカー・ベーゲは、戸田記念国際平和研究所の「気候変動と紛争」プログラムを担当する上級研究員である。ベーゲ博士は太平洋地域の平和構築とレジリエンス(回復力)について幅広く研究を行ってきた。彼の研究は、紛争後の平和構築、ハイブリッドな政治秩序と国家形成、非西洋型の紛争転換に向けたアプローチ、オセアニア地域における環境劣化と紛争に焦点を当てている。