Climate Change and Conflict バーノン・リーブ  |  2024年02月14日

ニュージーランドで最も議論呼ぶ気候訴訟が進展――世界も注視

Image: Martynas Cerniauskas/shutterstock

 この記事は、2024年2月13日に「The Conversation」に初出掲載され、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下で再掲載されたものです。

 2024年2月、ニュージーランド最高裁判所は、同国で最大の温室効果ガス(GHG)排出企業グループを相手取り、マオリの長老マイク・スミスが起こした訴訟に対する画期的な判決を下した。

 最高裁は、これらの排出者に気候変動への民事上の(不法行為)責任を確立することを求めるスミスの野心的な請求を却下した下級審の判決を覆したのである。スミスは、これら企業が彼の家族や部族の土地、水、文化的価値に悪影響を及ぼしたと主張していた。

 最高裁の判決により、スミスは訴訟全体を高等法院に提起する権利を勝ち取った。

 長丁場になるとみられる裁判の始まりには過ぎないが、最高裁判決は「気候変動法における新たな道を切り開く可能性がある」として国内外の注目を集めている。

 2019年、スミスは、ンガプヒ(Ngāpuhi)およびンガティ・カフ(Ngāti Kahu)族の長老であり、部族指導者からなる全国フォーラムの気候変動スポークスマンの立場で、ニュージーランドの企業7社に対する訴訟を起こした。

 被告には、ニュージーランド最大の企業であるフォンテラ(世界の乳製品輸出の約30%を占める)のほか、GHGを直接排出する、あるいは石油、天然ガス、石炭などの化石燃料を供給する産業に従事する企業が含まれる。

 スミスは、被告企業の活動および影響は、3通りの「不法行為」、すなわち民事上の不法行為に相当すると主張した。公共の迷惑、過失、そして「気候システムへの損害行為(案)」と呼ばれる新しい形の民事不法行為である。

 最初の二つの訴因、公共の迷惑と過失は、慣習法において長い歴史を持つ。

 最高裁の判決で触れられているように、公共の迷惑という主張は、19世紀の産業革命期に多様な汚染やその他の害によって被害を受けた原告が用いたものである。

 慣習法上の不法行為に関する主要な判例の多くは、気候変動に関する現代の科学的理解やコンセンサスが出現するよりはるか前に下された。

 最高裁判所(そして、現在はこの主張の審理が行われる高等法院)における主な争点は、不法行為責任に関する長年の規則や原則は、気候変動がもたらしている現代の存亡にかかわる課題を考慮して修正されるべきか否かという点である。

 そのためには、公共の迷惑と過失という確立された不法行為のカテゴリーを適応させる必要があるかもしれない。また、「気候システムへの損害行為」という全く新しい不法行為を作り出す必要もあるかもしれない。

 排出企業が主張する主な論点は、裁判所は「あらゆる複雑性を伴うこの種の全体系的な問題を扱うには適していない」というものだった。彼らは、このような本質的に政治的な問題は政治家に任せるべきだと主張した。

 最高裁はこの主張を退けた。議会が制定法を通して明確に民事上の義務に取って代わらない限り(そして、そのようにはなっていないと裁判所は判断した)、裁判による道筋は「慣習法が力を発揮し、発展し、進化するために開かれている」のである。

 因果関係とその近接性の問題は、スミスと同様の不法行為を問う主張を提起しようとする海外の訴訟当事者にとって足かせとなっている。

 被告は一般的に、たとえ比較的大規模でも少数の企業による世界の排出量への影響を、証拠に基づいて、原告が経験した気候関連の被害に結び付けることができると証明するのは不可能だと主張する。今回の事件において、排出企業7社は、ニュージーランド全体の排出量の約30%に関連している。

 しかし、ニュージーランドは世界の排出量のわずか0.2%を占めるに過ぎない。高等法院の判事が示したように、「世界の排出量[……]に対する被告の影響は極めてわずかである」。スミスの主張を受け入れることは、「世界の温室効果ガス排出悪化への影響度を大きく超える過度の法的責任を(彼らに)負わせることといえる」。

 最高裁は、因果関係または近接性の問題ゆえにスミスの訴訟が必ずしも失敗に終わるとは考えなかった。気候変動のような現代の環境問題の特性をよりよく反映するために、因果の規則を修正する余地があるかもしれないと裁判所は示唆した。

 スミスの立場は(ある程度)、原告の土地や資源への損害が1社またはそれ以上の排出企業の活動に直接起因することの証明を原告に求めるのではなく、被告が世界規模の問題に重大な影響を及ぼしているのであれば民事責任を確立できるよう、法的基準を修正するべきであるというものだ。

 しかし、裁判所は、このような難しい問題は、完全な公判を経ずに解決することはできないだろうと考えた。

 海外の同様の訴訟と今回の事件の違いを示す重要な側面は、「ティカンガ・マオリ」として知られる先住民の慣習、法、実践が持つ妥当性である。

 最近の最高裁判決は、環境保護との関連も含め、ティカンガを「ニュージーランドの最初の法律」として受け入れ、適用している。

 今回の事件でも、裁判所はそのアプローチに従っており、スミスの論拠の重要な部分がティカンガの原則に基づくものであることを受け入れている。

 スミスは、自分のためだけではなく「それら自体の権利で確かな存在であるウェヌア(土地)、ワイ(淡水)、モアナ(海)のために行為するカイティアキ(守る人)として」、訴訟を起こしている。裁判所は、「ティカンガという問題への取り組みと評価を避けて通ることは、断じてできない」と宣言した。

 スミスの訴訟が復活したのを受けて、今後、両当事者は高等法院に戻ることになる。立法府による介入がない限り、通常の証拠開示、証拠交換、弁論準備手続きが行われる。それは、ニュージーランドで最も激しく戦われ、最も注目される私法上の気候訴訟となることは間違いない。

バーノン・リーブは、オークランド大学ロースクールの准教授である。常勤のアカデミック・キャリアを開始する前は、オークランドで環境法、計画法、公法分野の弁護士として開業し、その後、ニュージーランドの全国規模の法律事務所であるChapman Trippのパートナーを務めた。教育・研究活動は、四つの(関連する)関心分野である公法、気候変動法、国際環境法、ニュージーランドの環境法に重点を置いている。